勇者の力
仕掛け扉をクリアしてさらに進むと、また開けた場所に出る。ただ今までと違い周囲が大きな騎士の石像に囲まれており、いかにもボスがいるような重々しい雰囲気がただよっていた。
そしてその中心部にはいかにも手強そうな敵の姿が。あれはスピリチュアルナイトの上位存在。体長三メートルほどある巨体の鎧がひとりでに動いている、スピリチュアルアーマーと呼ばれる相手が。
「ウォ~~~~!」
スピリチュアルアーマ―は雄たけびを上げ、ユウたちを迎え撃とうと。武器は持っておらず、剛腕で戦うタイプのようだ。
「へ~、もしかしてあれがボスみたいな感じ~? 少しは楽しめそうね!」
「ははは、いっちょやるか」
ユウとアリアは剣を抜き不敵に笑う。
「二人とも、油断は禁物ですよ」
「わかってるって~! アリアちゃんが華麗にキメてあげる~!」
アリアは持ち前の俊敏力で、一気に間合いを詰めた。そして敵の懐に入り込み、華麗に斬撃を放つ。
「固い!?」
スピリチュアルアーマーの胴体を見事に斬ったアリアの斬撃であったが、その想像以上の防御力のせいか傷が浅かった。
「ウォ~~~!」
スピリチュアルアーマーは、アリア目掛けて剛腕の拳を振り下ろそうと。
「させるか」
ユウはアリアの前へ出て、迫りくる拳へ剣を振りかざした。
そして剛腕の拳と斬撃が真っ向からぶつかり合い、はじき合う。
「フレイムブラスト!」
次の瞬間、のけぞったスピリチュアルアーマーの顔面に、燃え盛る炎の砲弾が着弾。爆発を巻き起こす。
後方へ視線を移すと、デューナが魔法で援護してくれていた。
「やぁ!」
アリアは跳躍しながら、体勢を崩している敵の首元をすれ違いざまに切り裂く。
「はっ!」
ユウもまた大振りで斬撃を胴体へ叩き込んだ。
両者の斬撃はもろにはいるが、深々と傷を付けられず致命傷にはならない様子。
「二人とも離れてください!」
ユウとアリアはデューナの指示で、即座に飛び引いた。
「フレイムブロウ!」
「~~~~!?」
その直後、スピリチュアルアーマーは湧き上がる炎の奔流に呑まれ、焼き尽くされていく。
しかし。
「ふむ、かなりタフな相手ですね」
一瞬倒れそうになるスピリチュアルアーマーであったが、力強く踏みとどまり戦闘続行の意を示した。
「さすがボス級ね~。そこらのザコみたいに軽くやれないか~」
「並みの攻撃じゃ、たいしたダメージを与えられなさそうだな」
「簡単に倒せたら試練じゃないし、そうこなくっちゃね~! 光栄に思いなさい! アリアちゃんが本気を出してあげる!」
アリアは剣を器用にクルクル回し、得意げに笑う。
「はっ、アリア!?」
「うん?」
しかしそこへスピリチュアルアーマーが、油断しているアリアへ向かって飛びかかった。でかい図体のわりにその動きは俊敏であり、一気に間合いを詰め拳で殴りかかる。
そして敵は大きな破壊音とともに、拳を地面にめりこませた。敵の渾身の一撃。完全に気を抜いていたのと、突然の強襲。あそこまできれいな流れだと、やられていてもおかしくはないだろう。そう、相手がアリアでなければの話だが。
「ちょっと~、今かっこよくキメてる最中なんだから、空気読んでよ~」
アリアは優雅にスピリチュアルアーマーの肩に着地して、文句を口に。
敵はすぐさま振り払おうとするが、すでに彼女はいない。アリアは悠々と地面に着地していた。
「これがアリアのとっておき、瞬光よ♪」
アリアは敵へかわいらしくウィンクを。
その挑発行為にスピリチュアルアーマーは怒り殴りかかるが。
「遅すぎだって」
気付けばアリアはスピリチュアルアーマーの後方へ。その速度は目にも止まらぬレベルであり、しかもただ移動しただけではない。敵の腕、胴体、数か所に深々と斬撃の跡が刻まれていたのだ。速度、放つ斬撃の威力は、先程の彼女とは比べられないほど上がっていたといっていい。それもそのはずアリアはとっておきの技を使ったのだから。
「冥途の土産に教えてあげる♪ この技はマナじゃなく、聖光そのもので身体強化しまくってるの。だからこの状態のアリアは瞬間速度と筋力が跳ね上がり、めちゃつよモードになるんだよね~! どう? すごいでしょ♪」
ふふんと胸を張り、どや顔で解説するアリア。
聖光。これこそこの勇者の隠れ里に伝わる秘伝の力。女神の加護を得ることで、マナを使い聖光という特殊な魔を払う力を生み出せるようになるのだ。聖光は魔を払うだけでなく上質な高純度のマナでもあるため、普通のマナとしてでも使える。しかしその場合、生み出す効力は通常よりも格段に上がるというのだから驚きだ。この里で勇者を目指す者はまず聖光を習得する修行から始め、それから自身のバトルスタイルに組み込みウデを磨いていくのである。ただこの聖光は取得するだけでも難易度が高く、扱いも非常に難しいといっていい。なので各々の技に組み込めるのは、ほんの一握りの人間しかいないという。
しかしユウ、フェイ、アリア、デューナはその高い難易度にも関わらず、見事ものにして使いこなせていた。これこそユウたちが勇者候補としてみなから期待されていた、理由なのである。
そしてアリアが聖光を使い編み出した技こそ、今披露している瞬光だ。戦える者の大半はマナを身体強化に当て、本来出せないほどの身体能力を発揮している。アリアはこの身体強化の素質がずば抜けて高く、今までの戦闘で見せていたような目にも止まらぬ俊敏性を実現していたのだ。そんな彼女だからこそ聖光をまとい身体強化するという離れ業、瞬光を生み出せた。瞬光状態のアリアは俊敏性が飛躍的に上がるだけでなく、剣を振るう腕力も強くなるため攻撃力、剣速も向上している。なのであの状態の彼女は接近戦において、無類の強さを発揮するのであった。
「おっと、このままじゃアリアに、いいところ全部持ってかれるな。オレも!」
ユウは剣を振りかぶり、スピリチュアルアーマーへ突撃する。
すると敵は迎撃しようと、持ち前の剛腕で殴りかかってきた。
こうしてユウの剣と剛腕がまた激しくぶつかる。先程は弾きあう結果となったが、今回は。
「~~~~!?」
スピリチュアルアーマーは驚愕の叫びを。
なぜなら敵の腕が真っ二つに斬り裂かれたのだから。
「ふっ、これがオレの必殺、斬光一閃!」
不敵に笑うユウの剣には、聖光のオーラがまとっていた。
斬光一閃。ユウは生み出した聖光を、剣に凝縮し鋭く研ぎ澄ましたのだ。これにより斬撃の威力が格段に上がり、いかなるものも両断する必殺剣になるのであった。
「はぁ! もう一連!」
ユウは瞬時に二撃目の斬光一閃を放つ。敵の胴体へキレのある横一閃。聖光をまとった刃はスピリチュアルアーマーの固い身体を容易く斬り裂いていき、致命傷レベルの深々とした傷を刻む。
そこへ。
「ユウ! アリアの見せ場とらないでよ!」
ユウが二撃目の斬光一閃を振るったその直後、アリアが宙から縦に一閃。瞬光状態からのあまりに速すぎるレイドアタックで、スピリチュアルアーマーを縦方向に深々と斬り裂いた。
「ふふん、これでとどめはアリアが! ――って、まだこいつ倒れないの!?」
もはや瀕死状態のスピリチュアルアーマーは後ろに倒れようとするが、あと一歩のところで踏みとどまる。
「ふふふ、ではラストアタックはワタシがいただきます。スパイラルライトニングレイ式!」
そこへデューナが手を向け、必殺の魔法を。
それはまばゆい光を帯びた雷の閃光。一直線に放たれたほとばしる聖なる雷撃は、スピリチュアルアーマーの胴体をぶち抜き大きな風穴を開けていった。
聖光をマナとして使い魔法を生成することで、その魔法に魔を払う聖属性を組み込む。これがデューナが得意とする必殺の魔法だ。聖光は高純度のマナであるため生成する魔法の威力が上がるのはもちろん、聖属性も付与できるとっておきの術なのであった。
「グォ~~~~!?」
これにはさすがのスピリチュアルアーマーも断末魔を上げ、崩れ落ちていく。
「うわっ!? デューナにとどめを横取りされた~!?」
「ふふふ、見ましたか? これでワタシこそ、勇者にふさわしいことが証明されましたね」
デューナは胸に手を当て、ニヤリと口元を緩めた。
「あとから魔法を撃ってただけで、勇者ずらしないでよね~! やっぱり勇者といったら花形の接近戦でしょ!」
「ははは、確かに。じゃあ、真っ向から勇敢に立ち向かい、敵を圧倒していたオレが勇者としてふさわしいってことか」
「なに言ってるの~! どこからどうみても派手でかっこよくキメてた、アリアが勇者にふさわしいでしょ!」
アリアがグイっと詰め寄り、猛抗議してくる。
「――はぁ……、これだから脳筋たちは困りますね。勇者たるもの、スマートさがないと」
「なによ~」
「ははは、まっ、それもこの先で選定を受ければわかることだ」
「そうですね。アリアは放っておいて奥に進みましょう」
「だな」
納得いってないアリアを放って、ユウたちは奥へと進んでいく。
「ちょっとアンタたち待ちなさいよ~!」
するとアリアも慌てて追いかけてきた。
「それにしてもやっぱり聖光は興味深いですね。元は同じなのに、ワタシたち三人のようにまったく違う力を生み出しているのですから」
「ああ、ただ聖光を使いこなすのは、マジでセンスがいるけどな」
「そうよね~。ユウの斬光一閃とか威力がすごくあるから使いたいけど、ぜんぜんものにできそうにないし~」
聖光を扱うには非常にセンスが必要なのだ。例えばユウがアリアの瞬光をやろうとしても、再現するのはまず不可能。聖光をまとわせ身体強化するという理屈は簡単だが、実際にやるとなると話は別。聖光をその方向へ持っていこうとしても制御が効かず、なんとかできたとしてもアリアの二、三割程度の効力しか生み出せないだろう。もはや不発する可能性のほうが高いため、実戦で使えるようなものではない。これはユウの斬光一閃の場合も同じ。ユウにとって聖光を圧縮し研ぎすますのはもはやお手のものだが、ほかの人だとあまりに複雑な工程が多すぎてすぐに聖光が四散してしまうとか。そしてデューナの聖光を魔法に組み込む技術は、ユウとアリアにとってあまりにちんぷんかんぷんすぎて話にならないレベル。あれはよほど魔法のことを理解していないと、不可能な芸当であった。
これらのことから聖光の行使は、その制御の難しさから一点特化型になりやすいのである。ただ例外はいるのだが。
「そう考えるとフェイはやっぱりすごすぎじゃないですか? ワタシたちの技、全部使えるんですから」
そうその例外こそフェイだ。彼女は聖光による身体強化。斬撃強化。魔法強化も実戦レベルで使いこなせているのである。ただしどれもユウたちの一点特化した技の出力には及ばず、あくまで実戦で使えるレベルではあったが。
「おい、やめろ。それだとフェイがこの中で一番、勇者にふさわしいってことになるだろ」
「そうよ! 確かにフェイは全部使えてオールマイティだけど、その一つ一つが並みレベルだし。いろいろ使い分けられるのは便利だけど、その分アリアたちは一点特化で極めまくってるから決して引きはとらない! よね?」
アリアはまるで自分に言い聞かせるように力説する。ただ最後は少し自信なさげであったが。
「――だよな。オレが勇者になることは変わらないはずだ!」
「――全部使えていかにも勇者らしいですが、さすがにワタシのはずです!」
「――いや、いくらアンタたちがすごそうな技使えても、勇者になるのはアリアだから!」
自分が勇者に選ばれることを精一杯信じながら、奥へと進むユウたちなのであった。




