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02 4月15日 アルヴァ・ガードナーよりジュディス・ガードナーへ

 第三信

     アルヴァ・ガードナーよりジュディス・ガードナーへ

                        四月十五日






 義妹へ


 療養所は兎に角、退屈な所なんだ。

 出来る事といったら、天気の良い日に短時間の散歩に出たり、本を読んだりする事だけ。

 その本も、大方の本はすでに読み終えたり、内容をしっている物ばかり。

 だからジュディスの手紙はとてもとても待ち遠しく、また楽しみに思っています。


 ベケット男爵が我が家にきた件は大変驚きました。

 ベケット男爵夫人の噂は以前から社交界で囁かれていましたが、その浪費癖にはいよいよ男爵も進退窮まった感じがします。

 私が以前、ラングフォードで聞いた噂話によると、男爵夫人は様々な社交場で色々と浮名を流しているとの話を耳にしました。

 どうも男爵夫人は男性を手玉に取るのが大変上手いらしく、すでに自分自身が既婚者でありながら、複数の家庭を壊す、若しくは壊しかけている、という話があるのです。

 一例では具体的な名前を出すのは避けておきますが、ある青年に対して気のある素振りを見せつけて、当時、自他ともに恋人と認められた女性から、奪い取ってしまったとか。


 また、物をねだるのも大変うまく、破産、まではいかないものの、金銭面でかなりの出費を強いられた男性もいるとか。

 いったいどんな女性なんでしょうか?

 一度、ご尊顔を拝見したいものです。

 噂通りならば――男爵夫人は同時期に複数の男性から愛情と共に金銭を引き出し、そのどちらか――大抵は金銭の方が先に尽きるらしいのですが――が無くなると身を引いていると聞きました。

 こうした行為を、若さという魅力無しでやっているのですから。

 実際にベケット男爵夫人に会った事のあるクリント氏(初めて出す名前かも知れないけれど、彼はラングフォードで親しくなった人物です)によると、男爵夫人は非常に高慢で人に好意を抱かせるような人物では無さそうなんだけど、どうなっているのだろう?

 そんな女性が幾人もの男性から愛情と共に、多額の金銭を引き出せる物なのだろうか?

 人により態度をコロコロと変える女性なのだろうか?

 それともクリント氏がその持ち合わせた鋭い洞察力によって、うわべだけでは看破できない男爵夫人の本性を見抜いただけなのだろうか?

 何にせよ、幾人もの男性が男爵夫人の毒牙に掛かり、餌食になってしまったのは事実のようだ。


 おっと、私も随分と筆が本題からそれてしまいました。

 これではジュディスの手紙を笑ったり、注意する事ができなってなってしまったね。

 ジュディスもこの手紙をみて、決して笑ったりしないで欲しい。

 兄というものは妹のそう言った行為に結構傷つくものなのだから。


 セメレーの絵画については残念だけど私も見た事がありません。

 ただ、そう言った絵画が存在している事は知っていました。

 誰に聞いたんだろう?

 確かドナルド兄さんだった気がする。

 ドナルド兄さんならその絵画を見た事があるかも知れないけど……、いや憶測で物をいうのはやめておこう。

 ドナルド兄さんはいずれ帰ってくるのだし、その時に一緒に尋ねてみようか。


 ただ、私は存在するのを知っていただけで、それが元々はベケット男爵が所有していた、というのは初めてしりました。

 考えてみれば、亡き父上は美術品に造詣の深い人では無かったから当然かも知れない。

 ベケット男爵に対するジュディスの憤りはもっともだと思う。

 本来ならこの国にいないドナルド兄さんの代わりに私がヒラリー義姉さんを支えなければならない立場だけど、今はこうして療養所で悔しい思いをする事しか出来ない。

 ジュディスのいう通り、お祖母様にはいつまでも頼る事はできないから、なんとかジュディスがヒラリー義姉さんを支えてあげて欲しい。


 私も本当はスグに帰る、と言いたいところだけど、この病気は完治に時間がかかるものらしく、いつ帰れるか断言はできません。

 ジュディスやヒラリー義姉さん、お祖母様には本当にすまないと思っています。


 絵はそんなに恐ろしさを感じさせるものだったのですか?

 一級の美術品から、そんな恐ろしさを感じさせるというのは中々に信じ難い事だけど、ジュディスが言うならその通りなのでしょう。

 ……そう言えば古い絵には何らかの意思が宿る事がある、と聞いた事があります。

 ベケット男爵家に伝わる家宝という話ならきっと古い絵のでしょう。

 もし、比較的新しい絵でも、画家の魂がやどった絵もあるとか。

 その絵もそんな絵の一つかもしれない。


 おっと、ジュディスを怖がらす気は無いんだ、今の話は忘れてください。

 でも、もし、もしもの話だけど、そのセメレーの絵画がそんな絵だったら、決して一人きりでは見ないほうが良いのかも知れないね。

 客間に飾ってあるって事は、私達家族が一人で踏み入れる事は無いと思うけど、一応、用心しておいた方が良いかもしれない。


 私が家に戻る日が来たら、一緒に見よう。

 私も呪いは怖いけれど、ジュディスと二人でなら呪われる事はないだろうから。






 愛をこめて。

 貴女の義兄 アルヴァ・ガードナー。

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