28 9月6日 アルヴァの日誌【1】
九月六日 日誌
本日、ジュディスより手紙が届いた。
いや、届いたというのもおかしいかもしれない、今、私はジュディスと一つ屋根の下に住んでいるのだから。
しかし、便宜上は届いた、という事にしておこう。
そこに書かれていたのは、とてもとても興味深い出来事だった。
ジュディスが口に出しては言えない、とわざわざ手紙という体で私に送ったのは当然といえるだろう。
ジュディスの例に倣って、私も事件についてここに記そうと思う。
私はドナルド兄さんがあのように精神を病むぐらい深刻に悩んでいるとは思いもよらなかった。
勿論、戦場で酷い傷をを負って九死に一生を得て、命こそ助かったもののあのような身体になったのだから、今までと同じ精神状態でいるというのは難しかったのかも知れない。
それでも私は、今すぐは無理でも、いずれ時が癒してくれると本気で信じていたのだ。
でもそれは違った。
ドナルド兄さんを悩ませていたのは己の身体の事ではなく、ヒラリー義理姉さんと私の不貞への疑いだったのだから。
それはきっと時が経つにつれ、猜疑心がドンドンと大きくなっていったのだろうと想像出来る。
つまりドナルド兄さんの精神は時が癒してくれるどころか、時が経つにつれますます病んでいったのだろう。
……あの夜、そう、あの痛ましい事件が起きた深夜の事だ。
私は、自身の個室にて眠っていた所、人の気配がして目を覚ましたのだ。
私は突然の事で驚き恐怖したものの、その声を聞いて相手が誰か誰か分かった事で心は落ち着きを取り戻した。
声の主は御者のステイシーだったのだ。
私の病室は他の病室から離れて奥まった所にある。
それはきっと私がガードナー伯爵家の者だという事もきっと関係しているのだろう。
そして、その近くには普段は使われていない出入口がある。
ステイシーは私の見まいに来てくれたことがあるので、それを知っていたんだね。
兎も角、私はステイシーによって起こされると、その出口から療養所を抜けだした。
そして、裏口に止めてあった馬車の近くで、雨の中立ちすくんでいるドナルド兄さんと対面する事になった。
私が来たのがわかるとドナルド兄さんはステイシーに離れるように指示し、ステイシーが遠ざかると開口一番、怒鳴りだした。
勿論、ヒラリー義理姉さんと私との関係の事だ。
私は必死になって誤解だと抗弁したが、その必死さが却っていけなかったのかもしれない。
ドナルド兄さんは私の言葉を遮ると――、そう、刃物を振るってきた。
その後の事は――言葉はおろか正直文字にだってしたくないが、それではここまで記した意味がないので書く事にする。
私は、必死でドナルド兄さんの腕を掴んでもみ合った。
そしてドナルド兄さんを正気に戻そうと必死に語り掛けた。
だが、私が語り掛けるたびにドナルド兄さんの腕に力がこもっていくのを感じた。
そして私達はもみ合ったまま地面に倒れ込み――そして、ドナルド兄さんはそれっきり動かなくなってしまった。
私は恐る恐るドナルド兄さんを見た、すると胸にナイフが突き刺さっていたんだ。
私は暫く放心したようにドナルド兄さんを眺めていたが、正気に戻ると慌ててステイシーを呼びにいった。
ステイシーはドナルド兄さんの変わり果てた姿に驚きを隠せずにいたが、身体を触って本当にドナルド兄さんが亡くなっているのを確認すると、呟くように言った。
「……アルヴァ様、これからどうなさるおつもりですか?」
「……こうなった以上、警察を呼んで――」
「いけません!ドナルド様がこうなった上に、アルヴァ様まで居なくなったらガードナー伯爵家はどうなってしまうのですか?」
「そ、それは――」
「……私に考えがあります、幸い、ドナルド様がここへ来たことは私以外にしっている人はいないと思います。なので、ドナルド様のご遺体は一旦お屋敷へ持って帰りましょう。ここに来たことを知られてはなりません。後は私に全てお任せください」
その言葉に私は無言で頷くと、二人でドナルド兄さんの遺体を馬車まで運んだ。
そしてステイシーは馬車に乘って療養所を後にし、私は病室に戻るとずぶぬれになった衣服を着替えベッドに潜り込んだ。
そして祈りながら運を天に任せたのだ。
ドナルド兄さんの遺体が古井戸に投げ込まれていたのは私も新聞によって知った。
ステイシーがドナルド兄さんの遺体を古井戸に投げ込んだのは、きっとジュディスの予想通りなのだろう。
なにせドナルド兄さんの身体はスッカリ濡れて、泥にもまみれていたのだからね。
きっと、ステイシーもドナルド兄さんの遺体を何処に置くか悩んだに違いない。
そしてジュディスが考えたのと同じような理由で、古井戸に放り込んだのだと思う。
正直、ステイシーが警察に言っても私は恨むつもりは全くなかったし、そうなったら潔く自分の罪を認める気でいた。
でも結果的にステイシーは警察には何も言わなかったし、ステイシーがドナルド兄さんと共に馬車で出かけた事も誰にも見られていないようだった。
そしてもっと以外だったのは――ウェインの事だ。




