27 9月6日 ジュディスよりアルヴァへ【2】
他にもあります、新聞だとお義姉様のお亡くなりになった時間は夜中の一時前後だろうとの事ですが、私は明け方にも物音と共に馬の嘶くような音を聞いています。
今から考えれば、あれはきっと御者のステイシーが雨の中、戻って来た物音では無かったでしょうか?
そして事件の疑問点として私がまず不思議に思ったのはなぜドナルドお義兄様の遺体だけ古井戸に投げ込まれていたのか、という事でした。
ウェイン氏は夫婦のもつれによる無理心中に見せかけるため、と仰っているみたいですが、そんな物はドナルドお義兄様の遺体が見付かってしまえば簡単に違うと分かってしまいますよね、だってドナルドお義兄様の遺体には刃物の傷があるのですから。
刃物で自害するのであれば目の不自由なドナルドお義兄様が外に出て古井戸に飛び込まなくても良いと思えますし、凶器のナイフは古井戸の外で見付かってます。
その疑問に対して、私は一つの解答を思いつきました。
それはドナルドお義兄様のお身体が、すでに雨によって濡れていたからではないでしょうか?
それを誤魔化すために、やむなく古井戸へと放りこんだのではないでしょうか?
そうすればドナルドお義兄様の身体が元々濡れていたのか、それとも古井戸に投げ込まれた事によって濡れてしまったのか誰にも分からなくなるのですから。
事件について私は、こう考えました。
一部の新聞には、お義姉様とお義兄様の不貞を疑ったドナルドお義兄様がついに精神を病んで事件に及んだ、などと書いてある記事がありました。
それは勿論大手の一流紙とはいえない……良くゴシップなどを扱っている新聞なのは分かっています。
でもその記事を読んで、私も色々と思いだしました。
ドナルドお義兄様がまだ異国の戦地にいらしたころからお祖母様がお義姉様とお義兄様の歳の差を気にしたり、二人はお似合いだといったりした事です。
その時は深く意味を考えたりしなかったのだけれど、今ではハッキリとお祖母様の意図が良くわかります。
もし、ドナルドお義兄様が戦地で亡くなるような事があったとしたら、きっとお義兄様とお義姉様を結婚させようとしていたのです。
お祖母様はお義姉様を気に入られていましたし、事実、ドナルドお義兄様が戦地にいらして不在の間は、我が家の女主人として良く切り盛りされていたと思います。
そして、お義兄様はお身体を悪くされており、簡単に治る病ではありません。
ですので、きっとお二人をくっ付けてしまって、お義姉様にはそのまま家の采配を任せたかったのではないでしょうか?
親戚のレオ様が兄嫁だったサビナ様とご婚約したのも、そのお考えの後押しをしたのかもしれません。
そしてこのお祖母様のお考えを聞いた方はきっと私以外にもいたのでしょうね。
ですからそれを聞いたどなたかが新聞に漏らしてしまったのでしょう。
でもそのお祖母様のお考えもあくまでドナルドお義兄様が異国の戦場でお亡くなりになった場合の事であって、ドナルドお義兄様が五体満足とはいえないにせよ、我が家に戻ってきたことでお祖母様はそのお考えを失くしたと思います。
ですが、もし、ドナルドお義兄様がこの事を誰かから聞いてしまったら――
そして、もし、そのような話が有った事が事実だと分かったらどうなってしまうのでしょうか?
元々戦傷によって精神が弱っていたドナルドお兄様が、この事が原因となってついに人としての一線を越えてしまわれたとしたら――。
そう考えると、全ての事に納得がいったのです。
あの夜、何らかの事情でついに感情が爆発したドナルドお義兄様はお義姉様をあのナイフで突き殺し、御者のステイシーを脅して療養所まで馬車を走らせると、お義兄様も殺そうとしたのではないのですか?
でも、それは失敗し、逆にドナルドお義兄様はお義兄様の手によって殺害されてしまわれたのではないでしょうか?
ドナルドお義兄様が五体満足であればきっとお義兄様は殺されてしまったかも知れません。
ですが知っての通りドナルドお義兄様は両眼とも失明しており、ナイフを奪って逆に殺害するのは病にかかっているお義兄様でも容易いことに思えます。
きっとお義兄様は刺すつもりなどなく、ナイフを取り上げようとしてもみ合っているうちに偶然刺してしまわれたのでしょう。
私はそう信じています。
そして、ステイシーはドナルドお義兄様の遺体を乗せて我が家へと帰って来ると、そのまま古井戸に放り込まれたのではないでしょうか?
思い返せばステイシーはお義兄様と大層仲が宜しかったですよね。
小さな頃は一緒になって良く遊んでいたと聞いた事もあります。
そんなステイシーはお義兄様を庇って何も言わなくても不思議な事は無いと思えます。
ただ、一つだけ疑問点もあります。
それはなぜウェイン氏が自ら犯人だと名乗り出たのでしょうか?
もしかして、お義兄様のご学友だった事となにか関係があるのでしょうか?
私はステイシーが自らの意思で黙っているのであれば、特に問いただして真実を聞き出そうとは思いません。
ただ、私は心が弱い女です。
このような事を心にずっと抱えては多分居られないでしょう。
だから、手紙という形でお義兄様にだけ私の考えを打ち明けたのです。
貴方の心が弱い妹 ジュディス・ガードナー。




