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26 9月6日 ジュディスよりアルヴァへ【1】

 第二十信

     ジュディス・ガードナーよりアルヴァ・ガードナーへ

                        九月六日


 お義兄様へ。


 今日は震える手を抑えつつ何とかこの手紙を認めています。

 本当はもっと早くにこの手紙を書く予定でした、でも、書こうと思い筆を手に取ると途端に手が震えはじめるのです。

 あの事件以来、我が家は完全に変わってしまいましたね。

 元々ドナルドお義兄様が帰還されてから少しづつ我が家の様子が変わって行ったのですが、それでもお義姉様やお祖母様がいる事でなんとかなってきました。

 あの、痛ましい事件でドナルドお義兄様とお義姉様はお亡くなりになって以来、お祖母様はベッドから起き上がれない身体になり一日の大半を寝て過ごしています。

 元々ご高齢により体調が良いとは言えなかったお祖母様ですが、あの事件は相当心身とも悪い影響を与えたようです。

 そして私も……、私も、あの事件以降はベッドから起き上がるのもやっとになってしまいました。

 唯一の救いとしては、あの事件が発生して程なく、お義兄様がこうしてまた、我が家に戻ってきた事です。

 そんな一緒に住むようになったお義兄様に対して、療養所にいらしてた時のように手紙を書くのはおかしい、とお思いかもしれません。

 でも私は、今の心境を全部口に出してお伝えする事は出来ないと思ったのです。


 お義兄様にお伝えしたい事があります。

 新聞によるとウェイン・ベケット氏がドナルドお義兄様とお義姉様を殺害したとの事ですが、それにはおかしいことがあるのです。

 まず、新聞では七月三十一日未明に我が家に忍び込んだのもウェイン氏で、その時、私に見付かって逃走した際に広間にて飾られていたグルカナイフを持ち去った、そう書いてありました。

 でも、それはおかしいのです、本当にウェイン氏がそうおっしゃっているのであれば、それは嘘をついています。

 だって、私はその翌日に持ち去ったといわれているナイフが飾られているのをハッキリと覚えているのですから。

 つまり、ウェイン氏はナイフを盗んだりしてはいないのです。

 では、なぜ、そのような嘘をついているのでしょうか?

 私は、事件が発生してから沢山の新聞を何度も何度も読み込みました。

 そして、一つの結論に達したのです、ウェイン氏は『誰か』を庇っているのだと。

 では誰を庇っているのでしょうか?

 もし、ウェイン氏が犯人で無かった場合、一体誰が犯人なのでしょうか?


 新聞によると、最初、警察はお義兄様を疑っていると書いてありました。

 理由はドナルドお義兄様が亡くなる事によって、お義兄様は最大の利益を得る人物だからです。

 でも、その疑惑はスグに晴れたようでした。

 その理由は、お義兄様は療養所にいて、この家にはいなかったからです。

 家から療養所までは十二~十三マイルは離れていますから。

 馬車でも往復で数時間はかかる距離です。

 療養所では夜でも定期的に看護婦による見回りが有る為、お義兄様のお姿は複数の看護婦によって確認されていて、抜け出すのは不可能、そう判断されたのが疑いの晴れた最大の理由だと新聞には書いてありました。


 ……でも、本当にそうなのでしょうか?

 確かに、お義兄様が看護婦に見付からぬように療養所を抜けだし、そして巡回前にまたコッソリと個室に戻ってくる、それは確かに無理があります。

 ましてはお義兄様のお身体は病んでおり、無理をすればスグ、咳に赤い物が混じってしまうようなお身体なのですから。

 でも、ここで考え方を変えてみたらどうでしょうか?

 お義兄様が抜け出すのでは無く、誰かがお義兄様にコッソリ会いに来た、そう考えた時、私の身体には大きな電流が流れた様に感じました。

 たしかにドナルドお義兄様は介助が無ければ外出もままならない身体です。

 でもそれは逆に考えれば介助があれば外出出来るという事です。

 外出するとしても、自分で歩く必要はありません。

 一度馬車に乗ってしまえば――、そうです、後は座っているだけで目的の場所へはたどり着くのですから。

 そして、帰りはどうしたのでしょうか?

 生きて馬車に乗れたのでしょうか?

 そうです、帰りは遺体となって戻って来て、あの古井戸に投げ込まれる、そう考えるのは少なくとも時系列的には可能なのです。


 ……これは私のまた悪い妄想なのでしょうか?

 でも、そう考えたのには理由があるのです。

 あの痛ましい事件が起こったあの日、使用人と共に私はすでに亡くなっているお姉様を発見しました。

 そしてその使用人にはスグお祖母様にお知らせするように命令し、私は警察に連絡するために御者のステイシーを呼びに行きました。

 そして、その時私は見てしまったのです。

 壁に掛けられていたステイシーの外套がぐっしょりと濡れていたのを。

 つまりステイシーはあの夜、風雨が吹き荒れる中を出かけていた事になります。

 そして、そのまま馬車に乗って警察に向かうステイシーを見送るがてらに同じく馬車が泥だらけになっていたのも確認したのです。

 これはつまり、夜中に何者かが馬車に乗り込んだ事の証明ではないでしょうか?

 ……でも、私はこの事は警察には言いませんでした。

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