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16 7月31日 ジュディス・ガードナーよりアルヴァ・ガードナーへ

 第十七信

     ジュディス・ガードナーよりアルヴァ・ガードナーへ

                        七月三十一日






 お義兄様へ。


 また、恐ろしい事件が起きてしまいました。

 思い返す度に、今でも手紙を書いている手が震えてしまいます。

 なので少し文字乱れてしまうかもしれませんがご容赦くださいませ。


 昨日の夜の事です。

 我が家に泥棒が入ったと思われる事件が起きました。

 そして、それに真っ先に気が付いたのは私だったのです。


 昨日にお義兄様へ手紙を出してからと言うもの、私の頭の中はエリックの事件を考える事で一杯でした。

 その為、ベッドに潜り込んだ後も、なかなか寝付く事ができなかったのです。

 それでも真夜中になってどうにかウトウトとし始めた時、何か小さな物音が聞こえた、ような気がしました。

 私は、ハッと目を覚まして耳を澄ませました。

 それでも、最初は風の音かなにかだろうと思っていたのです。

 でも、違いました。

 また物音がしたのです、それも確実に風の音ではない音がです。

 私はベッドから降りると、灯かりを片手に恐る恐るドアを開け、再び耳を澄ませました。

 すると、先程と比べ小さいながらもまた奇妙な音が聞こえました。

 そして、私は灯かりを片手に廊下へと足を踏み出したのです。


 今から考えると、なんでそのような恐ろしい事をしたのだろう、と不思議に思えます。

 しかし、その時は不思議と恐怖よりもこの音の正体を突き止めてやろう、という好奇心の方が勝っていたのです。

 私は、足音を立てないように気を付けながら音のする方向に歩いて行きました。

 そして、その音がどこから発せられているか分かったのです。

 お義兄様、どこだと思いますか?

 なんと、音の発生源は客間からだったのです。


 私は光が漏れないようにとっさに肩にかけてあったケープで灯かりを覆うと、半開きになっていた客間のドアからそっと中の様子を伺いました。

 部屋の中は小さな灯かりが灯っていました。

 その為、私の灯かりを用いなくても部屋の中の様子をおぼろげながら分かってきます。

 その灯かりでは部屋全体を照らすには到底無理な光量でしたが、ある人影を映し出すには十分でした。

 客間にはセメレーの絵画が飾ってある事は以前の手紙でも何度も書きましたのでお義兄様もご存知だと思います。

 そう言えば、お義兄様が家にお戻りになったら、一緒に拝見しましょう、とか書いた気もしましたが、ドタバタしていてそれどころではありませんでしたね。

 なので、お義兄様は客間に飾られたセメレーの絵画はまだ見てないかもしれません。


 いけない、また筆が少しそれてしまいました。

 そのセメレーの絵画の前で、誰かがボンヤリとたっている姿を見てしまったのです。

 そうです、その様子はまるで絵に魅入られたかのようでした。

 絵の前にいる人物はシルエットからして男の人に思えました。

 その時です、私は、これはきっとドナルドお義兄様だ、と直感しました。

 なぜかは私にも分かりません。

 常識的に考えれば目の見えないドナルドお義兄様が絵など見るはずも無い、と分かっているのに、その時はなぜかそう感じてしまったのです。


 湧き上がる恐怖に耐え切れなくなった私は、思わず大きな叫び声をあげてしまいました。

 すると、その男性が驚いた様子で振りかえり、私を突き飛ばして部屋を出ると、大きな物音を出しながら逃げて行ったのです。


 この出来事で、屋敷の皆が駆けつけてきました。

 最初に駆けつけてきた使用人が、


「ジュディス様、今の叫び声は一体どうされたのですか?」


 と、私に尋ねて来ました。

 私は男性が逃げていた方向に指をさして、


「お、男の人があっちの方角に……」


 と、言うのが精いっぱいでした。

 すると、口々に「賊が」、「逃げる」、「この窓が開いて」などという声が聞こえてきます。

 そのうちにお義姉様やお祖母様も駆けつけて来るのが見えました。


「こんな真夜中に一体なんの騒ぎなのですか?」


「ジュディス様のお話しによると、どうやら賊がこの屋敷に侵入してジュディス様と鉢合わせしてしまったようです」


「まぁ!それで、ジュディスさんは無事なのですか?」


「幸い、大きな怪我はなさらなかったようですが……」


「はい、お祖母様、お義姉様、突き飛ばされて転んでしまっただけです」


「そう、それは良かったわ。でもジュディスさん、どうしてこんな時間にここに?」


「なにか物音がしたのを聞いたんです。それで気になってしまって……」


「そうなのね、私は全然気付かなかったわ。それで、何か取られた物はあるのかしら?」


「まだなんとも……。スグに調べさせますので」


「そうですか、じゃお願いね。私達は部屋に戻りましょうか」


 そして私は侍女に介助されるようにして部屋に戻り、ベッドに横たわると疲労の為かスグ眠りに落ちてしまったのです。


 翌朝はこの事件の事で屋敷は持ちきりでした。

 結局の所、無くなった物は数点の小物のみ、というお話しでした。

 どうも一階のある窓から侵入した形跡が有ったようです。

 昨夜、あの場所で姿を見せなかったドナルドお義兄様の様子も、使用人から聞く事ができました。

 なんでも、あの事件の後、使用人が念のためドナルドお義兄様の部屋を確認に訪れた所、ドナルドお義兄様はベッドで起き上がりじっと聞き耳を立てていた様子だったとか。


 果たして、あの私の突き飛ばした客間の男性は、本当にただの泥棒だったのでしょうか?

 それとも、私があの時直感した通り、アレはドナルドお義兄様であって、その正体がバレる前に逃げ出したのでしょうか?






 貴方の義妹、ジュディス・ガードナー。

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