17 8月1日 ジュディス・ガードナーよりアルヴァ・ガードナーへ
第十八信
ジュディス・ガードナーよりアルヴァ・ガードナーへ
八月一日
お義兄様へ。
あぁ、ついに我が家は呪われてしまったようです。
昨日、事件が起きてお義兄様に顛末を書いた手紙を出したばかりだと言うのに、日も開けずまた恐ろしい事件が起きてしまいました。
一体、一体我が家はどうなってしまうのでしょうか?
この手紙を書く手も、昨日以上に手が震えてなりません。
なので、文字が読みづらくなっているのはご容赦くださいませ。
夜の事です。
昨日はあんな事件が有った為か、私は目が冴えていて中々寝付けることが出来ませんでした。
その為、ベッドで何度も寝返りをうったりしながら色々な事を考えていたのですが……。
そのうちに、あのセレメーの絵画の事が頭から離れなくなってしまったのです。
あの絵画、私は今まで明るい内にしか見た事がありません。
お客様がいらっしゃるのは主に昼間のうちですし、夜にあの部屋に入る理由が無いためです。
ですが、昨日の人物は、夜中に僅かな灯かりであの絵をじっとみつめていながら、何かに捕らわれているように思えました。
それを思い返すうちに、私も夜にあの絵を見たらどうなってしまうのだろう、そんな事を考えるようになってしまったのです。
おかしいですよね?
昨日はあのような恐ろしい目にあったばかりだというのに……。
でも昨日と同じように、湧き上がる好奇心はその時感じている恐怖より遥かに大きかったのです。
私はベッドを起きると灯かりを片手にそっと部屋を出ました。
そして、客間に向かって歩き出したその時です。
微かに何かの物音が聞こえた、ような気がしました。
脳裏に浮かんだのは勿論、昨日事です。
私はハッとして歩みを止めると、耳を澄ませます。
すると、確かに何か聞こえるのです。
それは、昨日聞こえたような物と物とがぶつかるような音ではなく、人の声でした。
その声は、笑い声にも苦痛に喘いでいるようにも聞こえました。
それに気が付いた私は湧き上がって来た恐怖を押さえつけるように、一歩、また一歩とその声の方角に向かって行ったのです。
そしてそのまま足を進めた結果、ある部屋の前にたどり着きました。
そこはかつての客間であり、今はお義姉様が一時的にご自分の寝室として使っていらっしゃる部屋です。
その押し殺したような笑い声とも苦痛に喘いているとも取れる声は確かにこの部屋の中から漏れ出てきているのでした。
私は、暫くためらった後、音が響かないように軽くノックして静かに声をかけます。
「ジュディスです。お義姉様、どうかされたのでしょうか?」
しかし、中から返事はありません。
でも、中からは相変わらずの声が聞こえ、微かに「助けて」とかすれたような声がまじった、ような気がしました。
私は少し躊躇したものの、思い切ってドアを開けました。
正確に言うと、少しだけドアを開け、隙間から覗いてみたのです。
そのとたん、恐ろしい光景が目に飛び込んで来たのです。
部屋の中では一つの灯かりがベッドを薄暗く照らしておりました。
そして、そのベッドには一組の男女の姿がありました。
女性は勿論、お義姉様です。
では、男性はどなただったと思いますか?
……その男性は、そう、ドナルドお義兄様だったのです。
ベッドの上で、お義姉様は霰も無い姿で横たわり、その上に同じく裸になっているドナルドお義兄様が馬乗りになっていました。
それだけ聞くと、その、ドナルドお義兄様とお義姉様が夫婦の営み事をしていただけ。
と、お義兄様は思われるかもしれません。
正直な所、私も書いていて、少し顔が火照るのを感じます。
でも、事の顛末は、決してそんなものでは無かったのです。
ドナルドお義兄様はお義姉様の首に片手をかけていました。
そして空いているもう片方の手ではお姉様の身体をまさぐっている、ように思えました。
それに対し、お姉様は抵抗するように両手でその腕を抑えています。
その時、私は見てしまったのです、仄かな灯かりに照らされるドナルドお義兄様の顔を。
その顔は、もはやドナルドお義兄様の顔ではありませんでした。
地獄にいるという悪鬼や悪魔もかくやというとてもとても恐ろしい顔をしてたのです。
「ど、ドナルドお義兄様!お義姉様に一体何をなさっているのですか!?」
私はドアを大きく開け部屋の中に入ると、思わず声をあげました。
その声で、やっとドナルドお義兄様は私に気が付いたようでした。
ドナルドお義兄様は驚いたような顔をして私の方を振り向くと、お義姉様の首から片手を離しました。
それと共に、ドナルドお義兄様の手に絡みついていたお姉様の手もパタリ、と糸が切れたようにベッドへ落ちました。
そしてお義姉様はまるで亡くなった人のように動かなくなってしまったのです。
でも、安心してください、お義兄様。
お義姉様は本当に亡くなったわけではありません。
その身体はピクリとも動かないのに、お義姉様が発する嗚咽だけは漏れ聞こえるのですから……。
私は暫く、そのまま立ちすくんでいましたが、ドナルドお義兄様は、「出て行け」、短く一言だけそう言いました。
私はそれでも立ちすくんでいました。
自分の発した言葉を全部覚えているわけではありませんが、「でも」とか「だって」とか言っていたと思います。
そうしているうちに、今までベッドで動かなかったお義姉様の顔がゆっくりと私の方に向きました。
そして言ったのです。
「……ジュディスさん、部屋にお戻りなさい」
その声はかすれてはいましたが、抗いがたい力強い意思を感じました。
「はい……失礼しました」
その言葉の通り、私は部屋を出て、自室へと戻りベッドへ寝ころびました。
でも、そのまま一睡も出来なかったのです。
悪夢のような一夜が明けました。
私が、朝食を取っていると、丁度お義姉様もやってきました。
その顔は酷く青ざめ、そして首筋には赤黒い痣が出来ていました。
私達は義務的な挨拶だけ済ませると、そのまま会話はしませんでした。
私は、朝食が終わると自室へと戻り、そして今、この手紙を書いています。
お義兄様、これは一体どういうことなのでしょうか?
我が家は一体どうなってしまうのでしょうか?
これ以上恐ろしいことが起こる事があるのか、と考えると、不安と恐怖で胸が張り裂けそうになります。
貴方の義妹、ジュディス・ガードナー




