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12 7月18日 アルヴァ・ガードナーよりジュディス・ガードナーへ

 第十三信

     アルヴァ・ガードナーよりジュディス・ガードナーへ

                        七月十八日






 義妹へ


 先日、ジュディスの助けを求めるような手紙を受け取りました。

 まず、ジュディスには良く隠さず打ち明けてくれた、と感謝しなければいけないね。

 始めのうちは、ジュディスがどうして私を含む家族を不安に陥れようとしているのか、理解に苦しむ所でした。

 でも、ジュディスからの手紙を何度も読み返すうちに、是が是非にでもこの不安を解消してやらなければならないと思う事が出来た。


 まず、ドナルド兄さんについてだが、たしかにドナルド兄さんは変わってしまわれたと、私の短い滞在時間でも感じられたのは事実だ。

 それについて私も様々な方に意見を求めた所、ある助言を得ることが出来たよ。


 話してくれたのは療養所に通って来てくれる神父様だ。

 療養所にはね、小さいながらも礼拝堂が有り、私達はそこで礼拝をしている。

 私達の身体では、教会まで出向くのは困難だ。

 ……それに、私達のような病人は、大勢の人がいる場所に行くべきでは無いのも分かっている。

 他人に病をうつしてしまうかもしれないからね。


 おっと、少し話がそれたようだ。

 その神父様に相談をしてみたんだ。

 内容は、戦場帰りの兄の様子が変わってしまい、それに対して家族が不安に駆られているとね。

 すると、神父様は一般論と前置きした上で、様々な話をしてくれたのだが、その内の一つに興味深い話があったんだよ。


 戦場では毎日沢山の人が亡くなったり、怪我をしたりしているだろ?

 そう言う場所では、良くない霊が発生しやすいそうだ。

 そして、戦場という場所は、人の心が弱くなりやすいらしい。

 例えば想像してみて欲しい、昨日まで親しく付き合い酷い環境ながら心を許せる立場にいた戦友が、ある日を境にいなくなったりする。

 ……そう、戦死するという意味だ。

 そういう身近な死が、毎日の様に起こっているのが戦場だよ。

 すると、戦友の死に心にポッカリと穴が空いてしまう人も多いらしいんだ。

 するとどうなると思う?

 そう、そこに死者の霊が入ってしまう時が時折有る、という話なんだ。


 普通であれば、そんな心の穴も一時的なものであり、仮に入り込まれたとしてもスグに追い出せるらしいのだけれど、稀にそのまま心に霊が入り込んだままになってしまい、人が変わったようになる者も存在するらしい。

 そうなるとどうなると思う?

 そう、記憶や姿かたちは間違いなく同じ人で有りながら、心だけ別人になってしまう、と言う話なんだよ。


 ……この話を聞いてどう思う?

 ジュディスも、もしかしてドナルド兄さんも、って思わないかい?


 もちろん、ドナルド兄さんの変わり様は別の原因かも知れない。

 最初にジュディスが考えた様に、戦場で受けた心の傷が癒えてないだけ、なのかも知れない。

 でも、私はこれ以上ジュディスが疑心暗鬼によって心を、そしてその影響で身体をも乱される事が無いように、何らかの方法を試した方が良いと思うんだ。

 これ以上ジュディスが思いつめてしまったら、ジュディスだけでなく、ヒラリー義姉さんやお祖母様達にも悪い影響を与えてしまうかもしれないからね。


 神父様によると、そのように心の中に入り込んだ霊を追い出す方法があるようだ。

 ジュディスも、悪霊払いの儀式とか聞いた事があるだろう?

 勿論、ドナルド兄さんに悪霊が憑いている、と今の段階では断言する事は出来ない。

 だけど、それを確かめる方法は有るようなんだ。

 聖水だよ。

 ただし、普通の聖水ではダメらしい。

 聖職者の中でも祓魔士と呼ばれる人達が使うような特別な聖水が必要なんだ。

 神父様によると、少し離れているがサウサンプトンにある教会ではその特別な聖水が有ると言っていた。

 ジュディスにはまず、その聖水をどうにかして手に入れて欲しい。


 ただ、ドナルド兄さんには勿論の事、ヒラリー義姉さんやお祖母様には黙っていた方が良いと思う。

 恐らく耳に入れば反対されるだろうから。

 もし、一族から悪霊が憑いた人間出た、なんて話は不名誉な事だし、それがドナルド兄さん、ガードーナー伯爵だった、なんて大変な醜聞になってしまうからね。

 だから、コッソリと使用人に頼んで取りにいかせるんだ。


 そして、その特別な聖水を手に入れる事が出来たのなら、それをドナルド兄さんに飲ませなければならない。

 でもこれは一緒に住んでいるジュディスであれば、難しい事では無いだろうと思う。

 多分、飲み物にでも混ぜるのが一番手っ取り早いんじゃないだろうか。


 そして首尾よく飲ませることができた場合の話をしよう。

 その聖水を飲んでも、ドナルド兄さんが平然としているようなら、何も問題は無かった、という事だ。

 ドナルド兄さんに悪霊がついて性格が変わってしまった、なんていうのは私達の酷い妄想だし、反省しなければならないだろうね。

 そうなる事を私は願っている。


 でも、もし、もしドナルド兄さんが聖水を飲んで苦しみ始めたとしたら……。

 あまり考えたくは無いが、これはもう私達の手には負えないだろう。

 そこから先は教会の役割だと思う。


 この手紙を出す時には、こちらの神父様の紹介状を同封する予定です。

 ジュディスは同封されている紹介状を使用人に持たせて、サウサンプトンの教会まで聖水を取りに行かせれば良いだろう。



 神父様から首尾よく紹介状が手に入ったので、同封した事を余白に書いておきます。



 貴女の義兄 アルヴァ・ガードナー。

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