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10 7月10日 アルヴァ・ガードナーよりジュディス・ガードナーへ

 第十一信

     アルヴァ・ガードナーよりジュディス・ガードナーへ

                        七月十日






 義妹へ


 先頃届いた手紙は思いがけないことが書いてありましたが、ジュディスの不安について、とてもとても良く分かる内容でした。

 幾ら家族でも証ずらい心の内を、良く手紙に書いてくれましたね。

 その事については、私を信頼している証だと思い、とてもとても喜んでいます。

 でも、その不安はジュディスの言う通り妄想や強迫観念から着ているのだろうと思う。

 だから、ドナルド兄さんの事をそんな風に思うのはジュディスの為にも辞めて欲しい。


 ドナルド兄さんの心境について、私には計り知れない。

 しかし、一般的に心の中の問題については、例え身近な家族でも、完全には推し量る事は出来ないと言われている。

 そして、本人が口に出さない限り、その心の中の問題に立ち入られる事は、返って物事を悪化させかねないんだ。

 だから、ドナルド兄さんについては、近くで暖かく見守っていてあげて欲しい。

 それがきっとドナルド兄さんについても癒しになるだろうからね。


 それに妹のジュディスには相談し辛くとも、ヒラリー義姉さんには心の胸の内を明かしているのかもしれないだろ?

 なんと言っても二人は夫婦なのだし、私達家族とは、別の絆があってもおかしくは無いと思う。

 家族とは言え、妹や弟には打ち明けられない事はあるのだから。

 でもそれは信頼関係が無い、というわけでは無いのです。

 本当の事を言えば、私もドナルド兄さんにだけ打ち明けて、ジュディスには打ち明けて無い事もあります。

 兄弟姉妹の関係というのは、そう言うものなのだから、あまり気にしてはいけないよ。


 しかし、それは別として、ドナルド兄さんには早く元のような朗らかな性格に戻ってもらいたいものだ。

 父上がお亡くなりになり、今のドナルド兄さんはガードーナー伯爵なのだから。

 その行いは一族のみならず、貴族社会でも非常な関心ごとになってくるからね。

 そう言った意味で、私はジュディスの優しさが、異国の戦場で傷ついたドナルド兄さんの心を癒してくれると信じています。


 と、偉そうな事を言ったものの、具体的にどうすればドナルド兄さんの心を癒せるのか?と言った具体的なアドバイスは出来そうもない。

 一般論でいうのであれば、常にドナルド兄さんの事を気遣い、愛情を注ぎながら出来るだけ会話する、という事なのだけれど……。

 これはあくまで『一般論』であり、万人に、特に今のドナルド兄さんに通じる方法なのか、という事は残念ながら私には分からない。

 会話の内容によっては、心に更なる悪影響を与えることがあるのも事実だからね。

 役に立たない義兄でジュディスには本当にすまない、と思っている。


 お祖母様の話については驚きました。

 まさか、お祖母様がジュディスにそんな話を聞かせるなんて思っても見なかった。

 私から見ても、本来はジュディスにそんな話を聞かせるべきでは無いと思ったよ。

 ただ、お祖母様も歳の為、身体の自由が年々奪われていると言うのは理解していますが、それが精神の方にも影響を与えているのかも知れないね。

 ドナルド兄さんの事で、さらに追い打ちをかけられて、さすがのお祖母様もその不安を誰かに打ち明けたかったのでは無いのかな?

 夫婦の問題は直接、本人達には言いずらいだろうし、これからはジュディスに相談する機会が増えるかも知れないね。

 その時はジュディスも何とか相談に乗ってやって欲しい。

 少なくとも今は、お祖母様にまで倒られては大変な事になってしまうのだから。


 教会に告解室という小さな小部屋があるのはジュディスも知っているだろう?

 あれは話すべき相手がいない、胸の内の出来事を神父様に話して、心の重石を取るのが役割なんだ。

 それと同じような事を、お祖母様はジュディスに求めていたんじゃないのかな?

 そう言った意味ではお祖母様はジュディスに相談を持ちかけても、ジュディスが何らかの解決方法を示すのを期待はしていないんじゃないかと思う。

 話を聞いて貰う事で、心の重石を取るのが目的なんだ。

 神父様とは言えあくまで他人に話すより、同じ家族であるジュディスに話す方が心理的負担も少ないからね。


 だから、ジュディスがお祖母様から相談されて、その話題に解決方法を示せなくても、なんら落ち込むことはないんだよ。

 きっとお祖母様の精神的な負担は、ジュディスに話すことによって和らいだのだからね。


 と、こんな書き方をしたらジュディスは自分には期待されていない、と勘違いしてしまうかもしれないね。

 私はジュディスは同年代の娘より、賢く利発だと思っているし、それはきっとお祖母様も同じだと思う。

 でもね、人には出来る事と出来ない事が有るのも事実なんだ。

 家から離れた療養所にいる私が、今のドナルド兄さんの心の内を推し量れないように、今のジュディスにも出来ない事があって当然だよ。

 特に夫婦の問題は複雑なものだと聞くし、もし私がその場にいても、ちゃんとした解決策を示せたかと言うと……。

 正直な所、難しいだろうね。






 ドナルド兄さんの事を宜しく。

 貴女の義兄 アルヴァ・ガードナー。

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