Ⅱ「恋してる 我が名はまだき たちにけり」
「あぁもう………どうしよう………!」
わたしは今、この上なく追い詰められている。この状況を打開できる術があったら、誰でもいいから教えて欲しい。
わたしがキミのことを初めて知ったのは、高校に入学してしばらくしてから。集団宿泊合宿のキャンプファイヤーの時だった。
各クラスの出し物の前に、学級委員の男子が応援団のエールを披露したんだけど、その中の一人にキミがいた。
最初は「ふーん…あんな人が隣のクラスにいたんだ」って、そんな感じだったんだよ。そしたらたまたま隣にいたカオリが「あー、彼あんなこともするんだー」って言っていたから、なんとなく「カオリ、知り合い?」って聞いてみたんだ。
「あー、うん。中学一緒じゃないけどね。友達のカレシだったんだよ。それで知ってるんだ」
「……なーんだぁ彼女持ちかぁ……て?「だった」??」
「なんかGW過ぎてから別れたって聞いたよ?」
「ふ~ん……そうなんだ。」
で、この時はそれで終わりだった。クラスも違うから特に一緒に行動することもないしね。
それでさ。
だいたいこーいうイベントが終わったときってスナップ写真とか販売するじゃない?で、見て回ってたら。
(あ。ここにもいる)
(ここにもいた)
(へ~ こんな顔もするんだ…)
結構写ってるなあ……って、アレ?
なんだって私この人の写真ばっか見つけるんだろう?まぁこの前カオリから聞いたから、ちょっと印象に残ってるだけだよね?
って、その時はそう思ってたんだよ。
◇
でもね。
わたし、ソフトボール部だからグラウンドで練習していると、そこにいるんだよ、サッカー部が。それでキミがボールを追って走ってる姿が目に入るんだよ。目で追っちゃうんだよ。
時々キミがうちのクラスに入ってきて、キミの友達と話している姿をつい見ちゃったり、キミのクラスの前を通る時にドアや窓の隙間からちょっと中を見ちゃったりしちゃうようになっちゃったんだよ。
それでたまたま廊下ですれ違ったり、登校中のバスが同じだったりすると、自分がどんな顔してるか心配になって目を背けたり下を向いたりしちゃうんだよ。
「ねえカナ?どうしたの?」
「ん?んーん。何でもないョ?」
「そう?なんだか耳、赤いけど?」
うぐ。やっぱりか。
あー…これは多分、やっぱり、そういうことなのかもしれないなぁ。
でもキミはわたしのことを多分知らない。わたしはキミと知り合いになる方法が分からない。この前カオリと一緒にいたときに、キミとカオリが話してた時も、わたしはただ横にいるだけだった。ちょっと複雑な気持ちになってしまったのは、カオリには内緒だ。ちょっと近くにいて嬉しいけど恥ずかしいって気持ちと、カオリいいなぁって気持ちと……
それから、キミは他の女の子と付き合ってるって噂もあったしね。だから、私はその気持ちをみないようにしたんだよ。ちょっと部活の事で大変だったしね。
◇◇
夏休みにセンパイが引退したから、ソフト部に残っているのはわたしとミサの2人だけになってしまった。
2人で「来年後輩が入るまで頑張ろう!」って約束したけど、それでも2人でできることなんて、そう多くないから時間を持て余すし、精神的にも正直……辛い。それでも夏休みは週3回位にして頑張った。でも二学期に入ると、練習は夕方スタートで、お日様が沈むころには気持ちもなんだかすごく寂しくなってくる。グラウンドを見渡せば、陸上部やサッカー部、フェンスの向こうではテニス部が目一杯活動している。
「……うらやましいな……」
ついポツリと言ってしまった途端、目から涙があふれて止まらなくなって。ミサも一緒にグラウンドで座って泣いてしまった。
くやしい。
負けたくないよ。
それから部活は顧問の先生と話し合って、週2回だけ短時間するようになった。とにかく来年までソフト部をつなぐ。つぶさない。それが今のわたし達の目標になった。
(あ、走ってる……)
道具の後片付けをしていると、サッカーボールを追いかけているキミの姿が目に入ってきた。グラウンドには他にもいっぱい人がいるはずなのに、そこだけ夕陽のスポットが当たっている感じがして、わたしは小さな声で「頑張って」とつぶやいてみたんだ。
◇◇◇
朝、カオリとバス停でバスを待っていたら、キミが来た。つい「やったラッキー!」って思ったら、思いっきり顔に出てしまってたらしくて。
「……なになに?誰見てそんな顔してんのー?」
ヤバ!
そのまま「えー?何でもないよ?」って言ってはみたものの、視線の先にはキミがいる。カオリに視線を追われて……
「え?ちょっとまさか?」
結局バレた。
バス降りて教室に入るなり「ちょっと詳しく話を聞こうじゃない」って言われ、「いつから」とか「どこが」とか、根掘り葉掘り聞かれて言わされて……ちょっと?ニマニマしてめっちゃ楽しそうだね?もー!
「仕方ない。カオリさんが一肌脱ごうかー。おーいみんなー!」
「な~に?」
「どうした?」
「!!?」
/// /// ちょっとやめてぇー!
「おーい、教科書貸してくれー」
「あ。ウワサをすれば」
あああああ!
なんでこんなタイミングでキミもウチのクラスに入って来るのよー!
◇◇◇◇
「ところでなー。お前、最近うちのクラスによく来ねえ?なんで?」
「ん?そうだったっけ?」
そんな会話もしっかり聞こえて来る辺り、わたしの耳の感度は多分MAXになっている。ようこそわがクラスへ!ってか。
いやまあ嬉しいデス。
けどね。どんな顔していいか分かんなくなるし、来たら周りから突かれまくるから本当にバレないかヒヤヒヤするのよ!
「で、さ。隣のクラスでカレを狙ってたコ、あの話、ダメになったみたいよ?」
「ふ…ふ~ん?そうなんだ?」
「何言ってんの!チャンスだよ!」
「チャンスだなんて……」
だってまだ話したこともないんだよ?
そうだよ。
まだ見てるだけでいいよ。
だって断られたら悲しいもの。
わたしはキミを見てるだけでも嬉しいんだから。
そう思ってたある日。バスに乗ったらなんと隣にキミが!いやまあその、乗る時間を合わせてみたり並ぶところをちょっと近くにしてみたりさりげなーく乗り込むタイミング合わせてみたりしたんだけど、まさか肩が当たるくらい近いとは思わないじゃない!
それで心の中でキャーキャー言っていたら、さ。
「あ、えっと……席、座る?」
って!って!!!
「え、えと、大丈夫です」
咄嗟に答えたわよだって隣にいたかったしでもその後は揺れるバスの中で肩が肩が肩が当たって体温が近くて近くで見て顔チラッと見たらやっぱり近くて恥ずかしくて見れなくてどんな顔していいか分かんなくて早くバス着いてよでもちょっとかなりもったいないからもう少しこのままで……!
「……カ、カオリ~」
「どしたの?」
「あのね!あのね……!」
「そうかそうか。それじゃあそろそろ『プロジェクト』を立ち上げましょうかね」
「へ………プロジェクト?」
「いいから私達に任せときなって!」
「調査は既に進んでいるのよ!」
「協力者の根回し、オッケー!」
「え、ちょっとー!?」
わたしは知らなかったんだ。
いつの間にか周りがもっとニマニマしたいがために、超おせっかいをやこうとしていたことを。
………で、なんだかんだで今、「明日決行ね!」って言われてるんだよね。
どーすんのよこれ!
わたしの心の準備は?
眠れないよ〜!




