Ⅰ「夏が過ぎ 君の姿が 気になりて」
高校に入学して、初めての夏。空は快晴、白い入道雲は不気味な位高く立ち昇り、蝉はところ構わず大合唱をしている。
「あ~~~!暑ッチィ!クソったれ!」
サッカー部の俺は、毎日クソ暑い日差しの下でボールを追いかけて走り回っている。それにしてもなんだってこう、毎日毎日雲一つない晴天が続くんだよ!グランドもカラッカラに乾いてヒビが入っているし!
休憩時間になったので頭から水をかぶり、テントの下でクールダウンしていると、他の部活動の様子が見えてくる。うちの学校は野球部がない。おかげでグランドはサッカー部と陸上部とソフトボール部しか使わないので、我がサッカー部は広々としたスペースで練習できる。
……できるんだけど、それは「=走らされる量が多い」にも直結するため、サッカー狂の初代校長に呪いの言葉の一つでも投げつけたくなったりもする。「練習して強くなりたい!」という気持ちと「少しでも楽してぇ!」って気持ちは、ちっとも矛盾しないのだ。
陸上部は種目別練習なのか、あちこちに分散している。そしてソフトボール部は、内野程度のほんのわずかなスペースを使って守備練習をしているみたいだ。ギリギリの人数で活動しているとは聞いていたけど、今日はその9人も揃ってないんじゃないのか?少ない人数で頑張ってるなぁ。
え?休憩時間終わり?
もうっスカ?
マジかよぶっ倒れるぞ?
◇
「やーっと終わった……!」
「おーい、スイカ差し入れ貰ったぞー」
「あざーっす!」
ぺぺぺぺ。
「どーよ!連弾数!」
「ふん、距離は俺の勝ちだな」
「よっしゃ次オレな」
差し入れで貰ったスイカを食べ、その種をグラウンドにチームメイトと一緒に口からまき散らして遊んでいると、ソフトボール部も練習を終え、トンボをかけ始めていた。それにしてもこのクソ暑い中、野球やソフトの連中はなんであんな服を着て練習できるんだろ?
「そーいや、うちの学年のソフト部って何人いんの?」
「あ?確か2人だったような気がするけど」
「は……?たった2人?」
「んでもって1コ上は0だな」
「マジか」
いや、それってセンパイたちもうすぐ引退じゃん?そしたら2人だけになるってことかよ?
うーわ大変だぁ。
「それにしてもその1年生って誰と誰よ?」
「あー、あのコとあのコだな」
「ふーん。そうか」
遠くでよく見えないけど、頑張ってんだな、アイツら。
「おーい、帰ろうや」
「おー、すまんすまん。今から着替えるわ」
◇◇
夏休みも終わり、部活動も放課後スタートに戻った。練習が終わるころには夕日も沈み始め、オレンジに染まったグランドを長い木の影が横切る。
そんな夕暮れ時に、グラウンドの隅でソフト部の2人が座っていた。ランニングをしながら横目で見ていると、ただ座っているだけじゃなく、顔を膝にうずめていた。
多分あれは疲れてるというより、泣いてるんだろうな。先輩たちが引退してからは、いつも2人で一生懸命やっていたけど、やっぱりしんどかったんだろう。
「……なぁ」
「ん?」
「あいつら何組?」
「あー、確か3組だろ?お前の隣じゃね?」
マジか気付かなかったな。
隣、となりのクラス……か。
ん~。
……よし。
「お~い。教科書忘れたから貸してくれー」
「お前が来るの珍しいな?ホレ」
「おーサンキュー」
スマン友よ。教科書忘れちゃないけど、きっかけ作らせてもらったわ。え~と……あ。確かにいたわ。でもなんだってこんな事してまで知ろうとしてんだ俺は?
あ、名前分からんわ。
なんて名前なんだろう?
◇◇◇
「カナ、ほら急ぎなよ!」
「ちょっと?待ってカオリ!」
まさか毎朝同じバスだったとは……知らなかった!でもおかげで名前分かったし。
ん?「おかげ」って、いやいやいやいや。
別にそれがどーしたって言うんだよ?
「おーい、今日部活無いってよ」
「そうか。ところでなー。お前、最近うちのクラスによく来ねえ?なんで?」
「ん?そうだったっけ?」
そー言われれば、そうなのか?確かに「視界に入れば気付く」から「視界にいるか探す」に変わっちゃいるような気はするけど、いやいやそんな。
………いや待て。
ちょっと待て。
えーと?
これどーいうことだ?
「なぁ、お前さーもしかして?」
「なんだよ」
「このクラスに気になるヤツでもいんの?」
「は?」
………?
あ……え?
俺一回も話した事ないんだけど?
なのに……そう、なのか?
「う〜ん?どうなんだ?」
やっぱよく分からんな。
「じゃあ話してみれば?どいつよ?」
バッカ、余計な事言ってんじゃねーよ!
「待て待て待て待て待て待て待て!」
「どうした?」
「せめて自分のタイミングで行かせろ……って、あれ?」
「ほれみろ。お前、そーいうことなんだよ」
ああ、そうか。 グラウンドで見てた時には、もう、多分………
◇◇◇◇
「あ、えっと……席、座る?」
「えと、大丈夫、です」
初めて彼女と言葉を交わしたのは、帰りの混雑したバスの中だった。
たまたま混雑してる中で隣になっちゃって、これまたたまたま空いてた席が目の前にあったんで「座る?」の一言だけだったけどな。
結局、彼女は座ろうとしないで隣でじっと立っていた。いやー、肩が触れてて緊張するする!正直言って座ってもらった方が良かった。
一緒に乗ってた友達ズは、そんな俺を見て声を殺して笑っていた。テメーら楽しんじゃねーよ!悪かったなテンパってよ!
「こらそこ!マネしてんじゃねーよ!」
「悪い悪い」
「でもよ、そんなに気になってんのか?」
「………分かるか?」
「分かりやすいな」
ああそうだよ。
俺はあのコが気になってる。
多分、惚れちまったんだろう。
なんにも知らないうちに。
どこにだって?
そうだな。
あのひたむきな姿に、かな。




