紙1
「ちょっと!」
恒例のにらみ合いが始まった。雲ひとつない青空の下、容赦ない強風が髪を激しくなびかせる。
「……」
「チ゛ュゥ゛……」
フィンは腰の剣に手をかけ、今にも引き抜かんばかりの構えだ。対するチュースケは、頭に乗せていたチビネジャミをすり落とし、その耳をくわえたままフィンを睨み返している。
この場所は——塀の上、今日の集合場所だ。
今日は新しいペットを捕まえに行く約束だった……はずなんだけど、なぜかそこには、前回とまったく同じようにフィンが待ち構えていた。おかげで、連れてきたチュースケとは一触即発の危機真っ只中。まぁ、顔を合わせるたびにこうなるし、重要な問題はそこじゃない。
「ちょっとフィン! ギアさんは?」
毎回毎回ギアさんじゃなくてフィンが来る。絶対に、こいつが犯人だ。
「ふん!」
フィンはギロリと私を睨みつけると、チュースケにローキックを入れ――られず、空振った足をそのままに、塀に向かってまっすぐに歩いて行ってしまった。
「え!? ちょっと待って! フィン?」
呼び止めても、フィンは振り返る様子もなく梯子を下りて行く。
――なんなんだ、一体。
全く、意味がわからないぞ。何で怒ってるんだ? そもそも怒るのは私だよね?
私が呆然とフィンの背中を見送っていると、それを見ていたランさんがフィンを庇うように割って入ってきた。
「ハーレちゃん。ギアはお腹を壊していまして。……そうですね、フィンは、あくまで善意で来てくれたんですよ」
見上げた先、ランさんは眩しいほどの爽やかな笑顔を浮かべていた。澄み渡った青空を背負った、その笑顔が最高に――うさん臭い。嘘だね。これ、絶対に嘘だ。
「ふーん……」
――納得いかない。
なんでランさんまで、フィンの味方をするんだ? ってかギアさんは?
色んな疑問が頭を駆け巡ったけれど、こんなところで時間を潰している暇はなかった。ギアさんが来てないなら、なおさら早く行かないと。パパがいるしモンスターに負けるとは思わないけど、倒すのに時間がかかって今日捕まえられないかもしれない。
私は、ぴったりと背中に張り付いているパパを仰ぎ仰ぎ見た。
「私たちも行こうよ、パパ」
「ハーレちゃん。本当にチュースケを連れて行くのか? パパはチュースケまで守れないぞ? 今日はギアも来てないし、もう止めて帰ろう」
風で乱れた私の髪を優しく押さえ、心配そうな顔で覗き込んでくるパパ。——けど、一体何言ってるんだろ、この人。
「パパ、チュースケ守る気ないよね?」
だって、家を出るとき「僕はハーレちゃんだけを抱っこしてたいの!」って、居間の床でゴロゴロ寝っ転がって駄々をこねていたじゃないか。「ネジャミなんて絶対に抱っこしない!」って全力で拒否していたのを私は忘れてない。
ふいっと目を逸らし、聞こえないふりを決め込むパパをジト目で睨みつける。とはいえ――困った。このままだと、チュースケは塀から下りられない。
足元にいたチュースケも不穏な空気を察したらしく、私の体を素早く駆け上がってきた。……と思ったら、そのまま頭のてっぺんにがっしり張り付く。これじゃあ置いていくこともできない。本当にどうしよう。
「チュゥウ!?」
――あれ?
不意に、頭の上の重みが消えた。驚いて正面を見ると、いつの間にかランさんがチュースケをひょいと抱き上げている。
「私はチュースケとは仲良くやっていますからね。こちらに任せてください」
「ランさん……ありがと!」
ランさんは爽やかに微笑んだまま、チュースケを自分の頭の上へと乗せた。風にベストをはためかせながら、そのまま先行して梯子を下りていく。
――感動だ。
パパもフィンもまったく頼りにならない中、ランさんだけが後光の差す救世主に見えた。
――そうだ。
ランさんはいつも私を助けてくれる。今回だって、新しいペットの相談をしたら二つ返事で付いてきてくれたじゃないか!
……ものすごく顔を引きつらせながら。
――ん?
そういえば、あのとき相談した瞬間のランさん、「え!? もう次の騒動ですか!?」って顔をしてたな。いや、なんなら普通に口からも漏れ出てた気がする。
……ちょっと待て。 私の感動を返せ。
まだ塀から下りる前だというのに、すでに精神的な疲れを感じつつも、私は自分に気合を入れた。今日の狙いは『木のモンスター』。目標はとりあえず一本だ。
独り立ちした後に、せっかくの知識や薬の作り方を忘れたら目も当てられない。あともっと薬の種類を増やしてみたいし、それを書き留める物がどうしても欲しかった。……石板以外で! そこで思いついたのが、前世の記憶にある『紙』だ。パパいわく、あのモンスターは枯れた枝が自然に落ちるらしい。つまり、ペットにしてしまえば、狩りゼロで無限に紙の原料が手に入る。完璧な計画だ。
「ハーレ、今日は風が強いからな、梯子で降りる。パパに良くつかまっておくんだぞ」
しっかり私を自分に固定すると塀の上に立つパパ。その顔はいつものデレてるパパじゃない。真剣そのものだ。
「うん!……うん?」
――やっぱりか!
あの飛んで落ちる下り方が、正式な梯子の使い方だとはどうしても思えなかったけど、やっぱりそうか! 前回もちゃんと梯子を使ってくれれば、私の心臓は縮まずに済んだのに!
そんな私の理不尽な怒りに気づきもせず、パパはキリッとした顔で滑り止めの革を手に巻き付け、慎重に梯子へと足を掛けた。
――よし。
いいぞ、そうだ。それでいい!
安堵の胸をなでおろした、次の瞬間だった。パパはロープを掴んだまま……ただの自由落下へと移行した。
「ぎぃゃゃゃ………」
前回は、まだ足が梯子に触れていた。でも、今回は違う。梯子はただの目印だ。たまに握り込むときだけ速度が落ちる。どうやらパパはロープを握って速度調節をしているらしい。……梯子の足置き場って何のためにあるんだ?
ドサリ、と地面に着地するなり、私は胃の中の朝ごはんをそのまま大地へと返した。
「ハーレ!? どうしたんだハーレ! おいラン、大変だ、ハーレちゃんが死んじゃう! もう中止だ、家に帰るぞ!」
「……ガーデは、本当に残念な人ですね」
やれやれと溜息をつきながら、ランさんは冷ややかな視線をパパに突き刺してる。
「ハーレちゃんを抱っこして下りるときは、ちゃんと梯子のステップを踏むようにと、あれほど言ったはずですが?」
ありがと、ランさん。的確な注意だ。でもね……もっとちゃんと言い聞かせてほしかったよ。オェェ……。
胃の中のものを全て出し切ると、最悪だった気分が少しだけすっきりした。私はふらつく足取りのまま、近くにいたフィンにがっしりとしがみつき、どうにか立ち上がる。
「なっ、なんでフィンなんだ!? パパの腕なら、いつでも、いくらでも空いてるぞハーレちゃん!?」
背後で若干一名がうるさく騒ぎ立てているが、完全無視だ。知らん。今日一日は『塩対応の刑』だからね。身をもって反省して、パパ!
「さぁ、行くぞ」
気を取り直して、私たちは歩き出す。今回の先頭はランさんだ。そしてパパはというと、しつこく私の斜め後ろに張り付き、呪詛のようにブツブツと呟き続けていた。
「ハーレちゃん……。ねぇ、ハーレちゃんってば……」
哀れみを誘うような声を無視し続けていると、森の入り口に差し掛かったところで、ついに先頭のランさんが振り返った。
「ガーデ。ジャマですね。一人で帰りますか?」
向けられたランさんの瞳は、文字通り凍てつくような冷たさだった。横で聞いていた私まで、思わず身震いしてしまうほどのドスが利いている。
「ダメだ!」
「では、静かに。これ以上騒ぐなら、マリに言いつけますよ」
「っ……!」
その名前が出た瞬間、パパはビクッと肩を跳ね上がらせた。そしてタレ目にみるみる涙を浮かべると悔しそうに口をギュッと結び、それきり黙り込んだ。……ママ、最高! ありがと!
森に一歩足を踏み入れば、喉の奥がヒンヤリとして、鼻を刺すような爽やかさが、ただよっている。太陽の光を浴びて緑色を綺麗に輝かせている木が何本も生えていた。同種がかたまって眠り、一本起きると同じ種族の木が連鎖して起きていくのがこのモンスターの特徴だから、前回同様に静かに進む。
狙っているモンスターは、少し離れて寝てる木だ。はぐれならランク2、子供でも倒せると言われている……まぁ若干、一部の子供が討伐レベルを下げてると思ってるがな! 時おりフィンの背中を睨みながら、キョロキョロと木を物色しながら進んでいく。
足元のチュースケは鉄針を咥えて、耳をクルクル回してる。目つきも鋭くなっていて、なんなら、ギアさんを見るどこぞの輩と同じようなガラの悪さを感じる。フィンも鞘に手をかけていつでも抜けるように構えながら歩いてた。その様子を見ていると、この森が危険ってよくわかる。でもねぇ、村のあの果実園より危険なんて、ほんと、森って見た目じゃ、わからないね。
少し歩くと景色が一変した。木の群生地みたいだ。
目の前には背の高い茂みがあり、その横や後ろに木が密集したように何本も生えている。そこだけが別の森のようにみえた。
「おぉ……」
感動の声も中途半端に、いきなり足元に風を感じた。その瞬間、白い塊が目の前の茂みに突っ込んで行くのが見えた。
――チュースケ!?
慌てて茂みの奥をよく見ると、一本の木と目が合った。胴体辺りに目が二つ、続いて口が裂ける。木とは思えないぐらいの尖った歯がズラリと並び、ニッタリ笑った顔は不気味だ。
「あ……」
起きている木のモンスターだ。
チュースケはこっちに寄って来る木に駆け上がると、目に咥えてた針をぶっ刺し、そのまま下に落ちる。目が裂け、生々しい青色の血が飛び散った。
黒色の青だった。
飛び散るその血は時に透き通り、生臭い匂いと目の前のモンスターがいなければ、美しいとさえ思えるほどだ。
「ぐぎぁぁぁあ!」
目から血を撒き散らかしながら口を大きく開け、枝を振り回している。
「危ない!」
木のモンスターの根っこがチュースケを踏みそうになった。チュースケはそれを掻い潜り、またモンスターに駆け上がると今度は眉間にある変な窪みに針を突き立てる。
「グガァァァァァ!」
断末魔みたいなものが上がり、そのまま目と口が閉じていく。地面に着地したチュースケはそのまま、次の木に走り込んだ。
同じころ、ランさんは細身の身体に似合わない大きさの骨斧を片手で振り回し、木のモンスター達を切り刻んでいる。今三体目だ。振り返るとパパの周りに三体もの木が倒れていて、パパは四体目を倒し終わるところだった。
私の隣で警戒してるフィンが参戦しなくても、木のモンスター集団が瞬殺された。――これが村のトップクラスの狩人の実力なんだ。圧倒的な実力を前に気持ちがドキドキする。何より凄いのは……走り帰ってきたチュースケを抱きしめると高く掲げて抱きしめる。
「チュースケ!! ありがと!」
「チュウ!」
「木のモンスターを倒すなんて強くなったんだね! チュースケ! 凄いよ!」
――修行に出してよかった。
やっぱり、パンチより剣の方が合ってたんだ。んーかわいい! 飛び散った血もついてないなんて凄すぎるよ。そのまま頬を擦り付け、チュースケの毛皮を楽しんでいると、横から、ギリギリギリギリと歯ぎしりの音が聞こえ始めた。
――またか。
もちろん、私は振り返らない。絶対に、だ。
そんな、まったり?とした空気を楽しんでいると、ランさんの警戒音が含まれた声がかかった。
「それで……このモンスターはどうしますか?」
ランさんがそう言って指差したのは、茂みだ。見回すと木は全部倒し終わっている。
「この……って?」
私の目には茂みしか見えない。茂みのモンスターなんて聞いたことないし。小さい木がいる? たくさん枝が欲しいから大きい木が欲しかったけど……倒せる気がしないからいいか。
「まだ木がいるならペットにしたいけど……」
「わかりました。では――こないなら、こちらから行きますよ」
そうランさんが茂みに向かって言い放ち、骨斧をブンッと振った。
――茂みが、ビクってゆれた!?
何かいる!
自分の身体が警戒モードになったのがわかる。チュースケを地面に置き、無意識に中腰になると同時に、ガサガサっと音がして目の前の茂みが持ち上がった……って、茂みじゃない! 木のモンスターが寝っ転がってたんだ!
「はぁ!?」
思わず唖然としたのは、立ち上がったモンスターがタレ目だったからだ。顔からして戦う気が失せてくる。何ならこの子、カタカタ震えて葉を散らしながら涙も流してた。哀れ……と言っても過言じゃない気がする。
「このモンスターは有名なんですよ。大きな身体なんですがね、戦わずああやって隠れているんです」
確かに他の木の三倍はありそう。
「隠れてたんだ……」
見上げても大きすぎて首が痛いぐらいだし、普通には隠れようがないのかもしれない。
「ねぇ、モンスターさん。私のペットになるなら戦わなくてもいいよ。枯れ木くれるなら、塀の中にずっといるといいし」
ザワザワッ……。
枝? 髪の毛? 頭? に見える部分を大きく縦に揺らしてる。わかりやすい返事だなぁ。もしかして頭が良いのかもしれない。泣き止んだ目をこっちに向けて何かを待っているようにも見えた。
「ランさん、この調子なら殴らなくていいよね?」
「そうですね、力を見せつけなくても餌を食べそうです。ですが、すぐに餌をあげてください。このモンスターがこれまで生き延びたのは、この哀れそうな顔と逃げ足の速さです」
――まぁ、そうだろうね。
「じゃあ……」
ゴソゴソと服の間に入れておいた餌を取り出すと、待っているモンスターに向かって声を掛ける。
「餌を投げるから食べてね」
言い終わると同意に餌を投げる……けど、届かない。木がでかすぎた。後ろにいたパパが「小さいなぁ、かわいいなぁ」と呟きながら持ち上げてくれたので、再トライというか、パパが私を振り回し、その力で投げる。私は投擲か!って、小さいは余計だよ、パパ!
「名前はね、チャッピー1号だよ! わかるかな?」
モンスターは口の部分をモゴモゴさせながら、頷くと、タレ目を少し見開いて声をあげた。
「チァピ!」
「は!?」
ランさんが驚いて、チャッピーをガン見してる。
「話しましたよね。このモンスター……」
「チャッピーだよ、ランさん」
「ハーレちゃん、モンスターはしゃべらない。唯一話すのは、深森のトレントだけだ」
パパも背中に私を隠しながら教えてくれる。全員、戦う体制を整えてる? え? なんで?
「うーん……。ねぇ、チャッピー! あなたってトレントってモンスターなの?」
横に頭を振ってる。……そうだよね。トレントって深森にいるモンスターだし。
「パパ、違うって。ランさんも。問題ないよ。暴力なんて振るわないいい子だよ」
「……そうですね。確かに前からそうでした」
「うん! じゃあ帰ろう! チャッピー1号も行くよ」
帰りはパパが先頭。チャッピーは殿だ。カサカサカサと後ろからついてくる。たくさんある根っこ型の足は何と、ワザワザ動くキモい仕様だった。うへっ。
いくも達がいる資材置き場まで来ると、村側から入ったパパが内側から扉を開けてくれた。これは、いくも達が住むようになってからつけた、村初めての開閉式の扉だ。
「あ……」
「……入りませんね」
扉を全開にしても、チャッピー1号の頭の両端が塀に引っかかっていた。まぁまぁ太い枝だし、あれはちょっと切れないよね。うーん。
「外で飼うしかないのかな……」
入れないんじゃ、しょうがないけど……この辺もたまにモンスター来るんだよね。どうしようかな。
「イィィアァ!」
いきなりチャッピーが雄たけびを上げる。こっちを見てワッサワッサ頭を横に振ると、無理やり頭をねじ込んで中に入っていく。……おい? バキバキ、ボキボキって音がしてるよ。チャッピー!?
「フゥ」
人間臭い息をつきながら、こっちを見たチャッピーは満足げにタレ目をさらに垂らしていた。その姿はなんとも……ボロボロ。枝はあっちこっち折れて垂れ下がってる。青い血は見えないから、器官は傷つけてない様子だけど、あまりに痛々しい姿だ。
「だ……大丈夫?」
チャッピーが縦に頭を振るたびに、折れた枝が、ドサッと音を立てながら落ちてくる。
「とりあえず、扉も塀も壊れてないので良しとしましょう」
「チャッピー、こんなにボロボロになって……。どうしても入りたかったんだね……」
「それはそうと、ハーレちゃん、この枝ですが、これは役場ギルドにいただけるのでしょうか?」
「ランさん? チャッピーの心配は? ……まぁ、いいか。ランさん、付いて来てくれたからあげるよ」
「ありがとうございます。ハーレちゃんは優しいですね。チャッピー、これからも仲良くしましょうね」
一瞬にして晴れやかな笑顔になったランさんは、チャッピーの幹をナデナデしながら褒めている。なんか腑に落ちないがいいか。私は、奥のほうにある薪置き場に声をかけた
「いくも、にくも、さくも。仲間だよぉぉ」
――あれ?
いつもなら声を上げる前に寄って来るのに、今日は何度声を上げても、寄ってこないし目だけが薪の間から見える。
――どうしたんだ?
困った。いくも達が全く姿も見せない。
腕を組んで悩んでると、足元に擦りついていたチュースケが唸り声をあげた。それと同時に、いくも達が凄いスピードで這い出てくる。わぉ、ボスはチュースケなんだね。
「えーと、チャッピーが仲間になったよ。仲良くしてね」
太い幹をペシペシ叩きながら、いくも達に紹介すると、いくも達がチャッピーに寄っていった。髪の毛なのか、枝の中って言えばいいのかわからないけど、いくも達が入って行くとチャッピーがまた黒汁を垂らし始めた。よく泣くなぁ。
「ハーレちゃん。チャッピーの涙、回収しないとな」
「涙?」
「そうだ。木のモンスターの涙は貴重だ。黒汁になるんだ」
「え!? わかった」
黒汁はドロっとした液体で、岩を削る時に印をつけるんだけど、そのときに使う。道を造る時とか、石板を掘る時とか、岩とともに生きてる私たちには、メチャクチャ必需品。チャッピーは顔を下げて、取りやすくしてくれた。とはいえ、木は固いからそこまで曲がらず、パパに抱っこしてもらったけどね。
黒汁を指ですくっては革袋に入れる。身体が大きいからか、流した涙も大量だった。小さい革袋一つ取れた。
「これは凄いですね。そうですね! 決めました。ハーレちゃん。ここは狭すぎます。ペットの小屋を作りましょう」
私の手にある革袋を凝視して決意を語るランさん。だよね。岩の管理も役場ギルドの仕事だもんね。これ、欲しいよね。
「ランさん、じゃあ、交渉は……」
「大丈夫です! マリがしてくれることになりました!」
「え!? ママ!?」
アンズおばあちゃんには勝てないと悟ったランさんは、今日の狩りの前にママにお願いしたらしい。私に説明中のランさんの顔は、思いっきりひきつっていた。
こうやって木のモンスターが増えた。
皆、新設された『資材置き場の隣の小屋』――という名の大広場で仲良く共同生活を満喫中だ。チャッピーは、私が持って行く特製エサと水と土さえあれば満足らしい。小屋から一歩も出ない引きこもりと化している。しかも、いくも達がチャッピーの頭を自分の家認定した。エサを持って行くと、茂みぐらいに密集した葉っぱからゴソゴソ這い出てくるのだ。……あ、初遭遇時のいくもを思い出してちょっと懐かしいかも。
当のチャッピーは、同居人が増えて大はしゃぎ! 小屋も安全地帯と理解したのか、のびのび育ちすぎて捕獲時から一回り大きく、更に巨大化した。これ以上デカくなるなら広場の増築確定だけど……まあ、いっか。たまに極上の美声で鼻歌を歌いながら、幸せそうに頭をフリフリしている姿が、死ぬほど可愛いから許す!
最近、小屋の入り口にやたらと枯れ木が積まれている。たまに小袋まで積んであるのだ。実はこれ、いくも達が全員でご飯に出かけると、寂しがり屋のチャッピーは号泣してしまう。なんと、その涙をいくも達が袋に詰め、お土産?として置いておいてくれるんだ。――天才すぎだろ! うちのペット達。
ということで。
よし! これで紙が作れる!
……と思ったけど、違う種類の木を欲しがったランさんが狩りに誘ってきた。
「ハーレちゃん。木のモンスターは他にもいますよ。今までは、涙を採取できるのがチャッピーだけでしたが、他の木も泣くはずです。いくも達みたいに、もしかしたら涙の種類が違うかもしれません」
「うーん」
「北と崖側に違う種類の木がいます」
「え!? 二本? そんなに捕まえたら、小屋に入らないよ、ランさん」
「その時は拡張しましょう!」
「う……うーん」
「……ギアも行くそうです」
「え? ギアさん? ほんとに?」
「はい。ギアと約束してあります」
「……わかった。パパにお願いしてくる」
――ほんとかな?
ギアさんが来るとか、どう考えても無理な気がするけど。
案の定、来たのはフィンだった。そんなことだろうと思ったよ! フィンめぇぇ!
???
狩りに行くときは、俺の傍から離れないと言ったのに。
なぜだ、なぜだ、なぜだ。
なぜ、置いて行こうとする。
俺が弱いからか?
だから約束を破るのか?
だが、もう俺は、置き去りだけは……絶対にごめんだ。
■ギアが来なかった理由(答え)
本当にお腹を壊して臭地に籠もってる。ランはフィンが何かしたと思ってるが、手口がわからないで追及できないでいる。




