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世界は愛で回ってるって転生して気づいた。ついでに 新しい日常も始まるらしい  作者: 青井空


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15/19

新しいペットたち

実験当日。

暴れたけどチュースケは置いてきた。危なくなったら困るからね。


パパと塀の上で待ってたら、到着したのはランさんとフィン。


「え? フィン?」

「ん」


当然とばかりに頷いてるけどさ、なんでフィンが? と思っていたら苦笑したランさんが教えてくれた。


「フィンが参加になりました。代わりにギアはなしです」

「どうして?」


チラってフィンを見たランさんは、忙しいので。と言葉を濁してた。


――間違えない。

フィンが何かしたな。


この頃、フィンの独占欲がちょっと強めなんじゃないかと疑ってる。まだ六歳だから、と思ってたけど、結婚も申し込まれたし、恋愛感情でこの独占欲なら要注意だ。気がついたら家から出れないとかしそうで怖い。


ジロジロとフィンを見ていたら、「行きますか」とランさんの合図がかかり、梯子が降ろされ始めた。





塀の上から見る空の景色は変わらない。今日は、風もほとんどなくいい天気だ。


――でも。


空気に混じる緑と土の匂い。眼下に広がる視界いっぱいの緑は、何度も見た光景なのに、今日は何処か不気味で恐ろしい世界に感じた。


――怖い。


カタカタカタ。


初めて塀の外に行くと実感をしたのかもしれない。身体が震え、意味不明な涙が滲んできた。


「ハーレちゃん。今日は辞めよう」


私を抱き上げて優しい声をかけてくれるパパ。その言葉に縋りたくなる。でも――


「う、ううん。行、く。今日は、乗り越える、日、だから」


見たことないものは誰だって怖いもんだ。正しく怖がるには、あの緑の中に行く必要がある。


「無理しないように」


ランさんは、私の頭をポンポンと叩くと、簡単に塀の柵を乗り越えて梯子を下りて行った。


――え。

柵の上に立つの!? 無理だ。


そもそも柵の上まで一人じゃ上がれない。ついでによく考えたら、梯子の一段一段にも足が届かない。これって……物理的に、積んでるじゃないか!


唖然としながら、ランさんの姿を目で追ってると、パパが舌打ちしながら、柔らかい革で私を自分に巻き付け始めた。


「あいつ、〆ないとな……。あのまま行けば、ハーレちゃんは帰るって言ったはずなのに……」


ブツブツとランさんへの文句を言いながら、せっせと私と自分を固定していく。色々と突っ込みたいがまぁ後でいい。それより――


「パパ、前に私を抱っこするの?」

「ああ、後ろだと落としたら拾えないからな。前ならどうにかなるだろ」


――んー。

どうにもならないと思うから落とさないでほしい。


「じゃまじゃない?」

「問題ないぞ。どうせ腕の力なんて使わないからな」


よくわからないけど、十二階ぐらいの高さを梯子で降りるとしたら絶対にすごく揺れるよね? 梯子、押さえないのかな? まぁパパだからいいか。


巻き付け終わった私を左腕で抱っこすると、サッと柵の上に立った。フィンももう降りていてパパが最後。


「行くぞ、ハーレ」

「うん」


……。


「ぎゃぁ……………」


シャカシャカ。

ピョーン。


この言葉が合ってる。


パパは揺れる梯子を押さえつけるなんてしなかった。梯子はパパの敵にすらなってない。


風が吹いて梯子が横に動けば、動いたところをジャンプで飛ばして、まっすぐ下に落ちる。落ちている最中、梯子があればそれに捕まり、梯子があるうちはシャカシャカ下りる。そのシャカシャカもまるで足が八本ぐらいあるみたいに流れるように下りていく。


シャカシャカ。

ピョーン。


私は、そのスピードで、下から突き上げる猛烈な風に息の根を止められ、内臓が浮き上がった感を感じ、その先の叫び声すら上げられなかった。




地面に着くまでの時間は、落ちたって同じじゃないかと思うほど一瞬だった。体感では長かったけどね。パパのバカ!


パパは腕の中でぐったりしてる私を見て「ハーレちゃんが体調を崩した! 帰ろう!」って騒いでるけど、私は今の体験で固く誓った。


パパを喜ばせな(・)い(・)ためにも、絶対に帰らない!




「ハーレちゃん。狙ってるモンスターはありますか?」


フラフラしながらパパの腕から下りたら、ランさんが可哀そうな子を見るような目で聞いてきた。


「うん、スパイラーに、しようと、思う」


糸はいくらあってもいいしね! ペットにできたらだけど。


「わかりました。では、あちらですね」


ギアさんが先頭で森のほうに歩いて行く。


周りを見渡すと土ばかりの土地はどす黒い灰紫色になってた。


ここは塀と森との間にある緩衝地帯で東広場ぐらいの広さがある。昔ここで、焚き木をしてモンスターを食い止めたんだって。今はこの場所で解体もする。解体が終わったら要らない部位と血が付いた土を良く焼き、土に埋める。だからこんな色の土地になってるってパパが教えてくれた。


でこぼこした土の土地を抜けると、森に入った。


村の森……じゃなくて果樹園より、陽が差し込む綺麗な森だった。土もフカフカで葉っぱも緑色でキラキラしてる。音は葉が擦れる音だけだった。


――すごい。

果樹園より安心する。


太くてそびえ立つ木。登れそうな横に広がった木。色々あってほんとに面白い。


けど、警戒していないのは私だけで、ランさんは骨斧を片手で軽々ともち、足音も立てずに少し身をかがめながら歩いて行く。次に続くのはフィンだ。私のすぐ前にいて、左右を確認しながら耳を研ぎ澄ましてるみたい。持ってるのは……。


――え!?

刀? どういうこと?


材料は確かに骨。鋼を使ってないから刀とは言えない。でも……片刃だ。しかも先端近くが少し反ってる。……あれは間違えなく刀の形してる。


私は、フィンが持っている武器から目を離すことができなかった。




「ハーレちゃん!」

「ん!」


いきなり後ろで警戒をしていたパパが叫び、私を担ぎ上げると、その場から脱兎のごとく逃げだした。


「は!?」


パパの背中越しに見えたのは、フィンがスパイラーの胴を低く鋭い軌道で薙ぎ払い、倒しているところだ。


「ちょ……」


――はや! 

フィン強くなったね。倒すところ見えなかったよ。でもね……フィン。それ、倒しちゃダメだよね?



緩衝地帯まで戻るとパパはゆっくり私を下した。安全地帯なはずなのに、それでもパパとフィンは辺りを警戒してる。


「……」


ドンドン私の目が据わっていく。


「ペットの検証じゃなかったのですか?」


呆れたランさんの声。私も同じことを聞きたい。けど、チラってこっちを見た二人の顔には「危険」の二文字がしっかり書かれていた。


「うーん……」


これじゃらちが明かない。このままだとこの布陣は絶対に壊れないって確信した私は——。


「パパ、帰ろう?」

「そうだな! それがいい!」


パパは、シュッと私を抱き上げると、言い終わる前に梯子の下に戻り始める。


「ランさん、ごめんなさい。次はママと来るよ」


ぴたっと私を運ぶ足が止まる。


「なんで……ママ?」

「パパだと倒しちゃうから」

「ママを危険にさらすのはダメだ!」

「え!? ママ、浅森ぐらいなら戦えるって言ってたよ?」

「ダメだ! もしママに傷がついたらどうするんだ! ダメだ!」


私は知ってる。


パパは昔、ギルドランク9だった。ランク10なんていなかったから、実質、過去最高の戦士だったんだ。それもこれも、ママに狩りをさせないため。ママの税分まで狩りをしまくってたら、ランク9になったんだって。どんだけ大事にしてるんだ。


「うーん、でも、ママが『狩りができなかったら、すぐに帰ってきていいわよ。ママと行きましょ』っていってたし」


こうなるってわかってたママが出かける直前に教えてくれた。


ランさんの面白そうな顔が見える。でもパパの顔は真っ青だ。ママが針で指を汚しても騒ぐパパだもんね。ママが狩りなんて不安でしょうがないんだろうなぁ。


「……ハーレ、絶対に油断するな」


パパの身体から一気にオーラが出始め、私を下ろすと獲物を探す雰囲気に変わった。


「ガーデの過保護は変わりませんねぇ。マリを守らなきゃいけないって思っているのはあなただけですよ」


くすくす笑いながら、ランさんがついてくる。パパが先頭になった。その後に続くフィンは、パパの背中に「ふん!」と鼻息をかけると、さも「使えねぇ」と言わんばかり、パパを睨みつけていた。


――いや。

その顔をするのは私だ、フィン。邪魔したことは忘れないよ。


それより、謎がある。後ろで警戒っしてるランさんに聞いてみた。


「ランさん、ママって、そんなに強いの?」

「くくく。マリは、強さに疑問を持つレベルじゃありません。武力ギルドに所属してたら普通にギルドランク7にはなったんじゃないですかね?」

「ダメだ」


パパはランさんを獲物を見つけたみたいな目で見てる。でも、ランさんは鼻で笑った。


「あなたは我儘すぎます。武力ギルドのマスターだってギアに押し付けて。ギアは未だに愚痴っていますよ」

「あいつにマスターはあってるから問題ない」

「まぁ、それは否定できません。ああ見えて、面倒見いいですからね」


――パパ……。


村の子供たちはパパがどれだけ強いか、皆、自慢しあう。その点、うちのパパは強さでいうなら、ピカイチだ。自慢しまくりの誇らしいパパのはずなんだけど、なんか……残念パパランキングで一番を取る姿がはっきり見えた。


フィンはもう私の前を歩くことを止め、私にぴったり張り付いている。いつでも私を抱えて逃げられるように、両手をすぐ横に構えていた。マジで邪魔だな……。


疲れた目でフィンを見ていたら、いきなり皆の空気が変わった。


「……ハーレ」


パパの背中が怖い。一気に緊張を最高まで上げてる。フィンもだ。何? 何がいるの? もしかしてヤバいの奴に遭遇した!?


「……はぁ」


そんな中、ランさんの呆れたようなため息だけ響く。


――え!?

なんか温度違くない? と思ってたら、目の前にある不思議な木の上から、何かが覗いてた。


その木は、ずんぐりとした茶色の幹から、むき出しの根のような枝が横に広がってる巨木だった。幹の太さから、てっぺんは私が三人は寝れるぐらいの広さがありそう。そこには明らかに違う木の葉っぱ付きの枝がたくさん置いてあった。


葉がカサカサと音を立てて揺れてる。たまにその葉の隙間からチラチラとこっちを見てる目が見える。


――スパイラーだ!

スパイラーは一匹で、糸に巻き付かれなければ、そこまで強くない。よしやるぞ!


ママから貰ったナイフを出して構える。


パパが削ってくれるって言ってたけど動かないってことは、それだけママ直伝の私のナイフを信じてくれてるってことだ。イケる!


四人の目が自分に向いてるってことがわかったのか、ゴソゴソと木の裏から音がした。


――ビビったか!


ぐるっと木を回り、糸を使って降りてきていたスパイラーに向かってナイフを突き立てる!


――あ……。

間違って幹に刺さったナイフが抜けない。なんてやつだ!


「このスパイラー……強い!」

「「う゛ーん」」


パパもフィンも惜しがって、武器をクネクネさせながら唸ってた。わかる! 今倒すから!……まずはこのナイフを抜いてからだけど。


うーん、うーんとナイフを引っ張っていたら、ランさんがため息と共に、持っていた斧でコンッとスパイラーの頭を叩いていた。


「ぅぎゅ」


潰れたような声がして、スパイラーを見ると口が開いている。今だ!


餌を口に投げ入れると、目を回しながらモグモグ食べる。八個の目が同じようにぐるぐる回っていて、食べ終わった瞬間、目をさまし円な瞳でこっちを見始めた。……目が八個あるからか、全く可愛くないけど。


「キィィ」


私のほうに来ようとしてるスパイラーの前にフィンとパパが立ちふさがる。


「シャァァァ」


怒った様子のスパイラーは、明らかに威嚇の声を出して、パパに薄茶色の糸を吐き出した。


「お! ママが喜ぶぞ」


パパは、大喜びで腰に下げていた棒を取り出し、糸を巻き付けていく。


――そうやって取るのか! 

へー……。あの手首のグルグルっていう動きで、綺麗に巻き付けていくのか……なるほど。


って、感心してる場合じゃない。このままだとパパに倒されちゃう!


「うーん、いちくも……いくも! いくもにする。いくも、私の言うことがわかる? 攻撃を止めて」


糸の攻撃がピタって止まり、背伸びしてパパ越しにこっちを覗いてる。これはまちがえない。 


「はぁ……。ネジャミの時と一緒じゃないですか。それにしても、こんな小さいスパイラー、初めてみましたよ」

「そんなに小さい?」

「ああ、半分以下だな。でも、ハーレちゃん、一人で戦えて可愛かったよ。さすがパパの自慢の娘だ」


――ふふふ。

がんばったからね! ちょっと、ナイフはそれちゃったけど、次はもっと頑張れる!




とりあえず、ノルマ達成ってことで村に帰ることになった。先頭はランさん。一番後ろはなぜかフィンだ。


いくもも、しっかり私たちの後ろをついて来てる。


円らな八個の目。スキップしているようにリズミカルに揺れる私より大きな身体、小さくもっさり生えてる黒い毛が陽の光を浴びて黒光りしてる。よく見ると脚も交互にふんでるから、もしかしたらスキップしているのかもしれない……八本の足で。


私には、ただのでかい蜘蛛に見えて、気を抜くと鳥肌が立ちそうだけど……言える空気じゃない。フィンがいつ殺そうかって目をして、いくもを監視してるから。


きっと、見慣れたらかわいい……ハズだ。





塀の外まで来て見上げて初めて気がついた――スパイラーって連れて塀の中に入れないよね? どうしよう! さすがに塀の外に一匹で置いておいたら他のモンスターに襲われちゃうよ!


と焦っていたけど、目の前にある背中で大事なことを思い出した。


――そうだった。

私には、岩の頭脳が味方にいるじゃないか。


縋るような声でランさんの背中に相談すると「そうでしたね。とりあえず、こちらに入れますか……」と南側の塀外に作ってある資材置き場を、いくもの仮の住まいとして開放してくれることになった。


資材置き場は、この間、祭りを開いたばかりだからか、木材はほとんど溜まってなく地面だけだった。


「ここは土の地面なんだ。森みたい……」

「そうですよ。ここは後から塀を立てて付け足した場所ですからね、森と続いてる土地です」

「不思議……」

「スパイラーは、まだ切っていないこの枝を……こうやって組み合わせれば、ほら、さっき、そのスパイラーいた木の上と同じかんじになりましたよ」


ランさんが、枝が複数絡み合った葉が落ちていない大きな木の一部を三つ、無造作に組み立てて隠れやすい場所を作ってくれた。


「さっきのは家だったのか」

「ああ、そうかもな。このスパイラーは小さいから隠れて暮らしてたんだろ。群れもいなかったしな」


パパが木をちょっと移動させて、中にいくもが入れるぐらいの空間ができると、恐る恐る近寄ってきたいくもは、私の顔をチラッと見上げ来た。


――うん。

目が八個あると、チラッという動作も、全然チラ見に見えないよ。


「いくも、入ってみたら?」

「キィィ……」


ゴソゴソと音が聞こえたと思ったら、捕まえた時と同じように枝の隙間からこっちを覗いてきた。


「気に行ったみたいですね」

「だな。かえろうか、ハーレちゃん」

「はぁい」


フィンと手を繋ぎ、入口に向かう。ここの地面って、なんかフカフカして面白い。


「ギィィ」


いくもを置いて外に出ようとすると、寂しそうな真ん丸の目が八個、こっちを見てた。


――うっ。

さすがに可哀想かもしれない。


「ランさん、スパイラー、もう少し増やしていい?」

「そうですね、今後の様子次第……というところでしょうか」




それから数日。


様子を観察していたけど、いくもは凄く大人しい子だった。何なら、チュースケより楽。餌を置いておけば勝手に食べる。足りない分は外に出してやると自分で食事をして帰ってくる。枝を置いておくと、糸を出して巻き付けておいてくれる。


これにはランさんも、めちゃくちゃびっくりしてた。


あと、慣れたらすごく可愛い。私が来ると大喜びでスキップして寄ってくる。……リズム感はないけど。


村人に狩られないように、頭の触角に白いリボンを付けてあげた。染めるの凄く頑張ったよ! 黒には白が映えるからね!


「仲間増やしますか」


一緒に確認しにきたランさんも「問題なしですね」といってくれた。


それで、この際、せっかくだから、種類別にペットにしてみることになった。


糸はいつも、一番近くに繁殖してるスパイラーの群れから勝手に殴ってもらっていたが、今日は少し遠出をして、崖そばと、北側近くのスパイラーも捕まえに行く。崖は危ないし、北側は臭いらしく、いつもは行かないらしい。


捕まえた蜘蛛は見た目だけじゃなくて、吐き出す糸まで違った。手触りも見た目も違うけど鑑定結果がまったく違う。


いくもの糸は、いつも使ってる糸で、鑑定結果は『コットン』。


――ん……。

ひと言だけっていう説明もあるんだね。なんとなく意味がわかる私も凄いけど。


つぎに、北側で捕まえた子。このスパイラーは「にくも」って名前にした。見た目は、シュッとした体で少し濃いめの茶色。見た目は一番苦手かも……。でも、吐く糸はすごかった。滑らかな光沢の糸。汗をかいても一瞬で乾くんだ。鑑定結果は『ポリエステル』。何か違和感があるけど、まぁいいか。リボンの色はピンクかかった赤にしたよ。


最後に、崖で捕まえた子。名前を「さくも」にした。見た目は虫っぽい皮で薄茶の全身。糸は空気を含んでふっくらと膨らんだ、弾力のある太い糸。鑑定結果は『ウール』。ここまで来ると完全におかしいって思ったけど、違和感を突き詰めると青い葉っぱのように、疑問が頭から離れなくなるから止めた。リボンはね、水色。凄く似合ってた。


とりあえずね、色んな糸が手に入って、ママ、喜ぶだろうなぁ。




外見は違うけど、三匹のスパイラーは仲良く一緒に住んでる。いくもも寂しくなくなってよかった!







そういえば、糸のことで話があると言われてランさんのところに行くと――グッタリとした様子で歓迎してくれた。


今回の新しい糸は女性の話題を根こそぎ攫ったらしい。それに目をつけた商売ギルドが、餌の作り方を管理することになり、ペットを捕まえて糸をとる予定なんだって。


「商業ギルドと交渉が終わりました。レシピと交換に、蜘蛛たちの糸を毎年七巻きで手を打ちましたが、それでいいですか?」

「そんなに!? ありがと、ランさん! ママが喜ぶよ! でも……なんで商売ギルド? いつもランさんが……」

「ハーレちゃん」


綺麗なあぐら姿になると、ランさんは目をカッと開いた。そして、役場ギルドがどんな困難を乗り越えたのかを、訥々と語り始める。


「あれは何の変哲もない朝のことでした。ギルドを開けるために革暖簾を掛けようと外に出ると……」


そこには筋肉の海が……。


筋肉・既婚バージョン、筋肉・未婚バージョンが、大量に役場ギルドに押しかけ、部屋からはみ出るぐらいに占領し「糸よこせ」と騒ぐ。私がが止めようとしても、筋肉の大波は大きく打ち寄せるばかり。職員も押しつぶされ――役場ギルドに絶体絶命の危機に……。


「まぁ、ギアが出勤してきて治まりましたが、お礼として、武力ギルドに『ぽぉしょん』二十個、渡すことになってしまいました」


最期は、悔しそうな様子を隠しもせずに手で胡坐を叩いている。


「これは、まさしく役場ギルドの名折れです!」


――ちょっとまて?

うーん……? なんか……?


「ランさん、一つ疑問がある。武力ギルドとレシピ交換した時に、『手間物』取らなかった?」


そう、取引の間を取り持った人の物、それが流通だとかかるはずなんだ。ママが商売ギルドにいるから私、知ってる。


「あぁ。そうですね、それはもちろん頂いていますよ」

「どのぐらい?」

「……ぽぉしょん百個ですね」

「……だよね」


――そうだと思った。


これから、ペットを狩りに行く人が増えるなら『ぽぉしょん』は嫌でも必要になる。作れる量が限られてるから価値は上がるはずだ。商売ギルドのマスターも百個とかよく払ったな。と、いうか、商売ギルドから百も貰っておいて、二十個取られたぐらいで、そこまで悔しがるか?


「まぁ、……そういうわけです。――それでですね、今回思い切って、次のために職員を増やし、サブマスターって役職も作りました。ハーレちゃんが絡むと、毎回ギルドがパンクしますからね。これで大丈夫です。今後は好きなだけどうぞ」


――えー!

なんか不満! どうぞと言いながら、ジト目でこっちを見ないでほしい。今回はさ、新しいものを作ろうと思って、出来上がったわけじゃないし。私はまったく悪くない!


……とりあえず、下唇を出して、ランさんから顔を背けてみた。


「あと、スパイラ―たちの倉庫使用についての交換ですが……」

「あ! それね! アンズおばあちゃんが糸欲しがってて、代わりにランさんとの交渉代わってくれるって。だから、おばあちゃんとお願いします!」


――あ! それ!

おばあちゃんから、言いつかってる。


ランさんが倉庫の使用についてなんか言ってきたら、「絶対に話始めちゃダメよ。こういうのはね、コツがあるのよ。おばあちゃんに任せておきなさい」って言われてる……そりゃもぉ、念入りに。


話終わると同時にランさんからは、悲壮な空気が出し始めた気がする。なんなら顔も歪んできてる。――なんかごめんなさい。でも、やる気になったおばあちゃんは、私にも止められないんだ。





当然ながらだけど、第三ラウンドも、おばあちゃんの勝ち。


倉庫代は、糸一巻きを季節ごとに渡すだけになり、いくも達の吐き出した糸は私の総取りになった。おばあちゃん、ヤバすぎる? 



おばあちゃんに、いくも達の糸を十巻き、お礼に持って行ったよ。

















???


妻の周りは危険が多いな――命も貞操もだ。

全部、俺のものだ。今度こそ誰にもやらない。


そのためにも俺は誰よりも強くなってみせる。

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