噴水広場の美少女
探索を再開して歩き出し、右手を顎に当てて考え込みながら恭一が言い出す。
「んー、ルキエナと会話してると独り言にしか見えないってのはなんとか出来ないかな? このままじゃ俺、不審人物だし、通報とかされそう」
「そうですねえ……ああ、キューブで交信しているフリをするのはどうでしょう?」
「いや、それ使ってるの君らだけだから」
すかさずツッコまれて落ち込んでいるルキエナを見ながら恭一が考える。
「ああ、そうか! これなら!」
恭一はケータイを取り出して耳にあてる。
「ケータイで通話してるように見せればいいんじゃね?」
「ああ、遠くの人と会話できるこちらの世界の道具ですね?」
「そうそう、これなら独り言を言ってるようには見えないだろ?」
「そうですね! いいアイディアだと思います」
恭一はケータイを耳にあててルキエナと話しながら歩いていると噴水のある広場に出た。
恭一が広場を見回すと見知った人が居るのがわかった。
「ん? あれは……」
恭一の視線の先に、毛先の切り揃えられた長い黒髪を背中の真ん中あたりまで伸ばした、雪のように白い肌の少女が、据え付けられたベンチに座っている。
恭一と同じ明涼高校の女子の制服を着ており、その容貌はとても美しく、まっすぐな長い黒髪と相まってまるで時代劇に出てくるお姫様を思わせる。
少女の向かい側のベンチに座っていた若い男性の二人組はその美しさに会話も忘れて少女に見とれており、通りがかったカップルの男性の方が少女に目を奪われ、それを見咎めた女性の方が男性の耳をひっぱって連れて行った。
「副会長?」
「お知り合いですか?」
「ああ、うちの高校の生徒会の副会長の涼原風香さんだ。グループ企業<涼原グループ>総帥の御令嬢でもある。ちなみにウチの高校に出資してるのは涼原グループだ」
「えっと、大金持ちのおうちの娘さんってことですか?」
「そういうことさ、しかも成績は学年トップで運動神経も抜群。完璧なお嬢様だな」
「でも、なんか元気なさそうですよ?」
「ん? そうか?」
ルキエナに言われて恭一が風香を見てみると、彼女は噴水をぼーっと見つめていて、気だるげな雰囲気をまとっている。
「うん、言われてみると確かになんか疲れてる感じだな」
恭一は一瞬とまどったが、
「少し話しかけてみる」
と風香に近寄った。
「こんにちは、副会長」
「え?」
突然話しかけられて風香は周囲を見回し、恭一の姿を確認すると、訝しげに見つめながら、
「あの、あなたは?」
と誰何した。
「ああ、俺は二年四組の神楽屋恭一だ」
「まあ、そういえば廊下ですれ違って何度か拝見したような気がしますわ」
風香の態度が少しだけ軟化した。
「噴水を見てたみたいだけど」
「ええ、これから高校に行って用事を済ませたら、生け花のお稽古に行く予定なのですがちょっと気晴らしにこちらに立ち寄ったのです。」
「ここにはよく来るの?」
「ええ、ちょっとお気に入りの場所で、気分転換したいときにはよく来るんです」
「そっか開放感あるものなこの広場」
広場を見渡しながら恭一が返事する。
「ええ……あっいけない私ったら、なんだか神楽屋君って話しやすいからつい余計なことまで話してしまって。恥ずかしいので内緒にしてくださいね」
風香が左手で口を抑えながら言う。
「ああ、うんわかった」
左手で頭を掻きつつ恭一は了承した。
それを見てうなずいた風香は白い細腕にはめている腕時計を見た。
「ああ、そろそろ行かないといけないみたいです。それでは神楽屋君、ごきげんよう」
風香はおじぎをするとベンチから立ち上がり、去っていった。
「フフ、『ごきげんよう』なんて挨拶、本当にするんだな。さすがお嬢様」
そう軽口を叩いて恭一がルキエナの方を向くと、ルキエナは真剣な顔をしていた。
「恭一さん……宝玉はあの人が持っているようです。反応からして間違いありません」
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