濁った瞳の女王
渡り廊下を抜けて体育館へと駆け込む。
体育館にもここに到着するまでに見かけた生徒達と同じような状態の生徒が多く見られた。
体育館の奥にある舞台の上に風香の姿があった。
風香は舞台の中心にある演壇の上に腰掛けて足を組み、右手の上に顎を乗せて不敵な笑みを浮かべて舞台の下の生徒達を見下ろしている。
風香のすぐそばに翠色に怪しく光る宝玉が浮かんでいる。
風香に呼びかけながら恭一が近づいていく。
「あら? 神楽屋君じゃありませんの」
風香が近寄ってくる恭一を流し目で見下ろす。
その姿はまるで女王のような風格があり、流し目はゾクゾクする程の色気を感じさせた。
しかしその瞳はどんよりと濁っていて光がない。
「あらあら、神楽屋君の気力はまだ奪ってなかったわね。見かけませんでしたもの」
風香がクスリと笑う。
「もしかして遅刻ですの? 悪い方」
(仕方ないだろ。来る途中で道路に飛び出してきた子を助けて背負ってきたんだからさ)
恭一は心の中で言い訳しながら、更に風香に近寄ろうとした。
「ウフフ、悪い方にはおしおきが必要ですわね」
風香が恭一の方に右手をかざすと、浮かんでいた宝玉が右手のそばに移動し、恭一に向かって翠色の光が照射される。
「フフフ、これで神楽屋君の気力も奪ってしまったわ」
風香は楽しそうな笑顔で右手を下ろすと宝玉の光の照射がおさまった。
風香は恭一の様子を見つめる。
「あー、眩しかった。何だったんだ?今の」
「なんですって!」
風香は恭一に変化がない事に驚き演壇から立ち上がった。
「今の光を浴びると気力を奪われてしまうんですよ。恭一さんは加護があるので大丈夫です」
ルキエナが恭一に説明する。
「なるほど、そういうことか」
恭一は自分の体を見つめた。
「くっ! 気力が奪えないなんて! 貴方は一体!?」
風香は動揺しながら恭一を鋭く睨みつけた。
「ソノ気配、女神カ? 性懲リモナク追ッテキタノカ?」
宝玉から低い声が聞こえた。
「その通りです! 今度こそ逃しませんよ! 覚悟なさい!」
ルキエナが姿を消していた状態を解除し、恭一以外にも認識される状態になって宝玉に叫ぶ。
「もちろんワシも助太刀するぞ!」
キューブからウアルフェの張り切った声が上がる。
「一体これはどういうことですの!?」
突然恭一の隣に現れた少女を見て風香が激しく取り乱す。
「風香ヨ、アヤツハオマエカラ我ヲ奪オウトスル輩ダ。シカモ神力デ加護シテイルカラ我ノ力ガ効カヌ」
「そんな! それでは一体どうしたら!?」
風香がうろたえて後ずさった。
「涼原さん、その宝玉は危険なんだ早くこちらに渡してくれないかな」
恭一は風香のいる舞台に上がろうとする。
「来ないで!」
風香は大声で叫んで、恭一から遠ざかろうとした。
「案ズルナ、マダ手ハアル。今ノオマエハ気力ヲ奪ッタ者ヲ操ルコトガデキルゾ」
宝玉が光を点滅させながら風香に助言した。
「本当に? そんなことができるの?」
「アア、オマエノ思イ通リニデキル」
「フフフ、良いわねそれ」
風香は不敵に笑って落ち着きを取り戻すと、恭一達の方を指差し、
「その人達を止めなさい!」
とよく通る声で命令した。
風香の声と同時に宝玉が強く輝く。
光がおさまると、体育館に居た生徒達が、突然恭一達の方に群がってきた。
「おい、これ一体どうなってんだ?」
恭一が群がってくる生徒達を見て後ずさる。
「宝玉に気力を奪われた人は考える気力も無くなって、思考力が低下してます。宝玉を介して命令されると抵抗することなく従ってしまうんですよ」
怯えた顔で恭一に縋り付いてルキエナが説明する。
「アハハ、面白いわね。いいわ、そのままその人たちやっつけちゃって」
風香は痛快そうに笑って命令を下した。
「アイツら……倒す……」
「倒せ……神楽屋を倒せ……」
虚ろな顔をした生徒が口々に「倒せ」と繰り返して恭一達に襲いかかる。見たところ三十人以上は居るようだ。
「さすがにこの人数を相手にするのはきついだろ」
恭一は襲ってくる生徒を避けながら弱音を吐く。
「この人達は宝玉の被害者ですからなるべく傷つけたくありませんし」
ルキエナが恭一の背中に隠れながら答える。
「ぬう、仕方ない! お主ら! 一時撤退するのじゃ!」
ウアルフェから撤退命令が下る。
「全面的に賛成だ! 逃げよう」
「はい!」
恭一はルキエナをかばいつつ、襲いかかってくる生徒達をかいくぐって体育館の出入り口を目指す。
「ほらほら逃がしてはだめよ。貴方達」
必死に逃げる恭一達を面白がって見ながら、風香は操っている生徒達を煽った。
「よし! 出口だ!」
辛くも恭一たちは出入り口に到達する。
「このまま渡り廊下を渡って校舎に逃げ込もう!」
恭一達は校舎に向かって走り出した。
「フン、無様だこと……」
恭一達の様子をみた風香が蔑んだ目で見ながら呟いた。
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