表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/42

風香の哄笑

 次の日の朝、校門の近くで車を降りた風香は薄笑いを浮かべて登校する。


 「うふふ、誰の気力から奪ってあげようかしら」


 登校してくる他の生徒達の顔を見ながら標的を定めようとする。


 「おはよう、涼原さん」


 ピンクのリボンで縛ったサイドテールの髪の女性とが挨拶してきた。


 「ごきげんよう、白木さん」


 笑顔で返すと、風香はクラスメイトの白木の顔をじっと見つめる。


 (このタイミングで声をかけてくるなんて運のない子)


 風香は手始めに、白木を標的に選ぶことにした。

 ポケットから宝玉を取り出し、白木に向ける。

 光を浴びた白木は、心ここにあらずという表情に変わり、その場に立ち尽くした。


 「あら、白木さん? どうかしたのかしら?」


 風香が白木に心配そうな顔で近寄る。


 「体調が優れないようだったら保健室までお連れしましょうか?」


 「ううん……大丈夫、一人で行くから」


 白木は足元をふらつかせながら校舎に入っていった。


 「ウフフ、成功ね。次は誰にしようかしら」


 風香は手を顎にあてて考え込む。

 風香の脳裏に生徒会役員の顔が浮かんだ。


 「そうね、あの子達にしましょう」


 風香はニヤっと笑ってうなずくと。自分のクラスへと歩き出した。


 

 教室に入り、自分の席にカバンを置いた後、風香は宝玉を手に奈月のクラスへと向かう。

 奈月のクラスの前まで来ると、丁度登校してきた奈月と出会う。


 「おはよう、風香」


 「ええ、ごきげんよう、奈月」


 風香は挨拶を返しながら奈月に近づく。


 「どうした? 何か用か?」


 奈月は軽く首を傾けながら、風香に用件を尋ねた。


 「ええ、これを見て欲しいの」


 風香は、手に持っていた宝玉を奈月に突き出す。

 光を向けられた奈月は気力を奪われ、虚ろな顔つきになり、フラフラと体がよろけだす。


 「……」


 どんよりとした瞳で一点を見つめている奈月に風香がそっと囁きかける。


 「あなたはこれまで生徒会長にふさわしい振る舞いをしてきたけれど、どうせその裏で私のをアテにしてたんでしょう?『困った事があったら風香が何とかしてくれる』って。だから交流会の直前の大事な時に休んだりするんだわ」


 「……そうだな。風香の言うとおりだ」


 奈月が力なく返事をする。


 「これからは、あまり私を頼らないようにね。私だってたまには休みたいしサボることがあるかもしれないけれど」


 「ああ……わかった。気をつける」


 奈月はそう答えると、足をひきずるようにして教室に入っていった。

 風香はそれを嘲笑して見送る。


 「フン、これで生徒会の仕事も楽になるでしょう。今度は私が寝付きに仕事を押し付けてあげる」


 風香は奈月の教室から移動した。



 「さて、次は桃花達のクラスね」


 桃花と千絵は同じクラスである。彼女たちのクラスにいけば一気に二人共気力を奪えそうだ。風香はそれを想像して心躍らせながら桃花と千絵のクラスに向かう。

 桃花達の教室の前の廊下で、後ろから声をかけられる。


 「あれ? 副会長、どうかしたんですか?」


 桃花が駆け寄ってきた。


 「ごきげんよう、風香」 


 風香は桃花を笑顔で迎え、挨拶をした。


 「おはようございます。副会長」


 桃花が満面の笑みで返す。


 「朝から副会長にお会いできるなんてラッキーです! それで? 何か御用ですか?」


 「ええ、これを見て」


 風香が桃花に宝玉をかざして気力を奪う。

 風香に向けて微笑みを見せていた桃花の顔つきが、生気のない虚ろなものになっていく。

 まともに立っていられないのか、桃花は壁に寄りかかった。 

 風香は桃花の肩に手をかけて、ゆっくりと語りかける。


 「あなたは私の事を気にかけてくれていたみたいだけど、時々ベタベタと擦り寄ってきて鬱陶しいと思うこともあったし、少し負担に感じていたの。それから私のこと風香お姉さま呼んでたみたいね。わたしはあなたの姉でもなんでもないだから甘えてこないでもらえる?」


 「はい……わかりました。風香お姉様」


 「誰がお姉様ですって?」


 風香が桃花を半眼で睨む。


 「はい、すみません副会長。気をつけます」


 桃花が力のこもってない声で謝罪し、頭を下げた。


 「まあいいわ、わかればいいのよ。行きなさい」


 「はい、それでは」


 風香が桃花の肩から手をどけると桃花は壁に手をつきながらヨロヨロと教室へ入っていった。


 「はあ、気力を奪ってからも私の事をお姉様と呼ぶなんて、あの子も相当なものね」


 風香が呆れた顔で桃花を見送る。

 桃花が教室に入っていくのと入れ替わるように教室から千絵が出てきた。


 「ごきげんよう千絵」


 風香が千絵に声をかけると千絵は風香の姿を見つけ、近づいてきた。


 「おはよう、副会長。何か用?」


 「ええ、これを見せてあげる」


 千絵に向かって宝玉の光を当てる。


 「……」


 千絵は無言でその場に立っている。

 元々普段から気力を感じられない言動をすることが多い千絵だけに、気力を奪われたのかわかりづらかった。


 「……千絵?」


 風香が千絵に声をかける。


 「……」


 千絵の反応がない。


 「千絵?」


 風香が千絵の右腕を軽く掴んで体をゆする。


 「……何?」


 千絵が床を見つめたまま答える。


 千絵の目をよく見てみると、その瞳はうつろで濁っている。

 どうやら気力を奪うことに成功したようだ。風香は千絵の様子を見てほくそ笑んだ。

 風香は千絵に囁きかける。


 「千絵、貴方は奈月に憧れているようね。それは構わないのだけど、貴方は奈月の仕事ばかり手伝うから、その分、私と桃花に負担がかかることも少なくないわ。私の手を煩わせないで」


 「……わかった。気をつける」


 千絵はこくんと頷いた。


 「わかればいいの。それじゃあもう行っていいわ」


 「……わかった」


 千絵は足音を立てることなく、まるで幽霊が移動しているかのようにすーっと教室に入っていった。

 風香は千絵の姿を見送ると踵を返し、自分の教室へと戻る。


 「フフフ、三人とも気力を奪ってあげたわ。これで私に頼ろうなんて思わなくなるでしょう」


 風香は嬉しさと達成感で笑みを隠すことができない。


 「あ、涼原さん」 


 風香が自分の教室に入る直前、呼び止める声がする。

 風香のクラスの担任が近づいてきた。


 「あら、先生、ごきげんよう。どうかしましたか?」


 「涼原さん、悪いんだけどこのプリント、クラスのみんなに配っておいてくれない?」


 担任がプリントの束を渡そうとしてきた。


 「……」


 風香はプリントの束を受け取ることなく、しばらく担任の顔を見て考える。


 (生徒会の子達だけじゃない! 先生だって、クラスのみんなだって、学校中の人たちが私に勝手に期待して、しかも私を利用しようとする!)


 「どうかしたの? 涼原さん」


 じっと黙り込む風香に、担任が声をかける。

 風香はその言葉を無視して担任に向かって宝玉の光を当てる。

 光を浴びた担任は萎れた花のようにうつむいている。

 風香が担任に向かって囁く。


 「先生、そうやってすぐに私に頼ろうとするのやめて下さいね。面倒なので私その仕事やりたくありません。ご自分でおやりになったら?」


 「そうよね……そうします」


 担任が人形のようにカクンとうなずいて答える。

 担任はプリントを持って、教室に入っていった。

 それを見て風香が哄笑する。


 「アハハハハ、そうよ、昨日私が言ったんじゃないの。『みんなの気力を奪ってあげる』って。先生も生徒もみんなみーんな気力を奪ってあげるわ。アハハハハ」


 ひとしきり笑って、宝玉を見る。

 この宝玉があれば自分の思い通りになる。何も怖くない。


 「さて、それじゃ始めましょうか」


 「ククク、ソウダ。ドンドン我ノ力ヲ使ガイイ」 


 風香が目に付く生徒の気力を手当たり次第奪い始める。


お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ