千絵の口撃
助っ人をはじめて三日目、恭一が生徒会室に行くと、昨日いなかった千絵は来ていたが、今度は桃花の姿が見えない。
「ああ、神楽屋君、今日は桃花の方が欠席だ。朝から寝込んでいるらしく、学校にも来ていない」
「え! そうなんですか? それは心配ですね」
奈月から桃花の容態の説明を受けた後、恭一は部屋の隅に移動して、小声でルキエナに話しかける。
「なあ、これってやっぱり」
「はい、おそらく宝玉の影響ですね。千絵さんの方は宝玉から離れて一晩休んだので気力が回復したんだと思います」
「でもそれだと、副会長のクラスでも欠席者がたくさん出て騒ぎになってないとおかしくないか?」
「何人かは影響を受けて欠席している人も居るかもしれませんが、生徒会役員のみなさんは、特に忙しかったみたいですから、精神的な負担がかかって、より影響を受けやすい状態なんでしょう」
「それはまずいな、それなら俺が助っ人しっかり頑張らないと」
「そうですね、恭一さんの加護も強化して強化しておきますから、生徒会のみなさんを支えてあげてください」
「おう、任せとけ」
恭一はルキエナの言葉を受けて両手を握りしめて気合を入れた。
「神楽屋君?そんな所で壁に向かって何してるんだ? こっちにきてくれ」
「あっ、はい、すみません」
「気持ち悪い、独り言が趣味?」
千絵がゴミを見るかのような目つきで恭一を見る。
「いや、あの、元気になってよかったね。鳥居さん」
「……」
千絵は恭一の言葉を無視して会長の方に顔を向けた。
「今日は昨日の会議でまとめた予算修正案に基づいて、申請された予算の額から修正が必要とされる部活動のところに修正案を渡してきてほしいんだ。本来これは桃花の仕事なんだがあいにくと今日はいないから、代わりに千絵と神楽屋君で行ってきて欲しい」
「コイツと?」
千絵が不満そうな顔になる。
「予算の修正案、はっきり言えば『そんなにお金は出せません』と言いに行くようなものだからな。トラブルを未然に防ぐためにも、女生徒一人で行かせるわけには行かない」
「……わかった」
「すまないな、いつもなら私か風香のどちらかが代わりについていくんだが、桃花が休みの分、その業務を代わりにやっておかないといけないんだ。神楽屋君、千絵をよろしく頼むよ」
「はい、わかりました」
「……さっさと終わらせる」
「あっ、待って鳥居さん!」
不機嫌そうに生徒会室を出て行く千絵を恭一は慌てて追いかけた。
果たして奈月の危惧していたトラブルは発生した。
最後に立ち寄ったサッカー部で、部員が修正案にケチをつけてきたのだ。
「だから納得いかないって! なんでこんなに減らされてんだよ」
「去年と比較して要求している額が急激に増えてる。こんなの通るわけがない」
「野球部だってあんなに予算出るじゃねえか! あっちが全国大会出たからって贔屓してんじゃねえのか?!」
「そんなことはない、野球部の予算は去年とほとんど変わってない。この修正案なら去年のサッカー部と同じくらいだから問題ないはず」
「だから! それじゃあ足りねえって言ってんだろうが! 喧嘩売ってんのか!?」
サッカー部員が千絵に掴みかかろうとした。
「あの!」
恭一が千絵とサッカー部員の間に割って入る。
「アン? なんだてめえ」
サッカー部員が恭一を睨みつける。
「生徒会の助っ人です」
恭一が右腕の腕章を見せつけるようにサッカー部員に向ける。
「チッ」
サッカー部員が舌打ちした。
「その修正案、会議で決まったことなんで、ここで彼女に怒鳴り散らしても意味がありません。その修正案に不満があるならもう一度申請し直して下さい。それから、これ以上彼女に突っかかるようなら会長に報告させてもらいます」
恭一はサッカー部員に毅然とした態度で立ち向かった。
「ケッ、わかったよ面倒くせえ」
サッカー部員は悪態をついて立ち去った。
「フウ」
立ち去るサッカー部員の後ろで恭一がため息をつく。
「あの……」
「ん?どうかした?鳥居さん」
恭一が千絵に顔を向ける。
「神楽屋が居なかったらもっと面倒な事になっていた。一応礼を言っておく」
そう言うと千絵はスタスタと歩き出した。
「いいよ、気にしないで」
恭一が千絵の背中に声をかける。
「かっこよかったですよ。恭一さん」
ルキエナが笑顔で恭一を褒める。
「んーでも、会長か副会長ならもっとうまくやってたはずだ」
「そうですか……」
「やっぱり一人減ってるのが痛いところだよな。これでもし明日あたり会長か副会長が休んだりすると大変な事になりそうだ」
「そんなことにならないといいですね」
不吉な予感を振り払うように頭を左右に振って恭一は千絵の後を走って追いかけた。
お読みいただきありがとうございます。




