桃花の観察
次の日の放課後、昨晩の校門での会計と書記の態度が記憶に新しく、ビクビクと怯えながら生徒会室のドアをノックする。
「どうぞ」
中から奈月の声が返ってきた。
「失礼します」
恭一がドアを閉めて中の様子を見る。
すでに生徒会役員は作業を始めている
しかし、よく見ると昨日いたはずの切れ長の目のメガネの少女の姿がない。
「あれ?書記さんはどちらに?」
「ああ、千絵は体調を崩したらしくてね。今日は早退した」
恭一が千絵の座っていた席を見ながら尋ねると、奈月が答えた。
「そうなんですか」
「まあここしばらく忙しかったからな。疲れが溜まっているのかもしれない」
奈月が千絵の席を心配そうに見つめる。
「今日ゆっくり休めば。またあした元気な姿を見せてくれるわよ」
風香が奈月の肩に手を乗せて慰めた。
「そうですね、それじゃあ鳥居さんの分も俺が頑張りますよ。それで? 今日は何をすればいいですか?」
恭一が両手で自分の頬を叩いて気合を入れながら質問した。
「フフフ、頼もしいな。それならそこにある机の上に紙やダンボールが積んであるだろう」
奈月の指差した先に視線を向けると、大量の紙の束やダンボール箱が所狭しと積んである。
「あそこの机の上のスペースを確保しておかないと、交流会が終わった後、生徒総会に向けて予算の申請書とか色々書類が溜まってていくから、すぐに置く場所が無くなってしまうんだ。その机の上にある紙束とダンボールを捨ててきてほしい」
「わかりました」
「すまない、私と風香は会議に出ないといけないから、この場は二人に任せてしまうことになるけど、よろしく頼むよ」
「早く切り上げて戻ってこれたら、私たちも手伝いますから」
奈月と風香が生徒会室を出て行く。
「……」
「……」
恭一と桃花の間にしばらくの沈黙が訪れた。
「神楽屋君、私は書類のチェックと作成をしないといけないので、そちらの机の方はお任せします」
桃花は恭一の方に見向きもせず、書類に目を通したまままそう告げた。
「ああ、了解。俺には書類の作成とか言われてもよくわからないからな、力仕事なら本領を発揮できそうだし任せてくれ」
恭一は机の上に大量に積んである荷物の量を改めて確認した。
(これは……ちょっと気合入れないと今日中に終わらないぞ)
恭一は軽くストレッチした後、ダンボール箱を運び出した。
明涼高校には、不要になった紙類を一箇所に集めて月に一回リサイクル業者が回収しに来るプレハブの集積場がある。
恭一は生徒会室と集積場を何度も行ったり来たりして、机の上の紙束とダンボール箱を片付けていった。
あと二往復で終わろうという時、
「すごいですね」
突然桃花から声をかけられ、恭一が振り向いた。
「何が?」
「私だったら一人で一度にそんなに持てません。もし神楽屋君がいなかったら、私一人で神楽屋君の倍は往復しないといけないでしょうから今日中には終わらなかったでしょう。ふん、少しはやるようですね」
「え? それって褒めてくれてるのか?」
「何でもありません。それより早く残りを終わらせて下さい」
「おう、そうだな」
恭一は作業を再開した。
最後の往復を終えて戻ると奈月と風香が生徒会室に戻ってきていた。
「あ、会議終わったんですね」
「ああ、私たちも手伝わないと今日中には終わらないだろうと思って早めにきりあげてきたんだが、もう片付いてしまっていて驚いたよ。流石だな」
「ええ、こういう時、男手があると助かりますわね」
「いえ、そんな」
奈月と風香に褒められ、恭一は顔を赤らめた。
奈月と風香が合流して残りの作業が再開され、程なくしてその日の活動が終わった。
その日の帰り道は、桃花は何も言ってこなかった。
「ふう……少しは会計さんに認められたのかな?」
「よかったですね。恭一さんこの調子で頑張りましょう」
ルキエナがガッツポーズをとって恭一を応援した。
「ああ、ありがとう、でも書記さんが早退したっていうのが気になるな」
「そうですね……宝玉の影響かもしれません」
「うーん……単に疲れてるだけかもしれないけど、回収、急いだ方がいいのかな?」
「そうですね、でも強引に回収できませんし」
「そうだな、書記さん明日には調子良くなってるといいけど」
恭一とルキエナは千絵のことを気にかけながら家路についた。
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