潜入!生徒会
休み明け、恭一は支度を整えて高校へ向かう。
ルキエナは、その姿が目立つし、ましては部外者であるため、家で留守番することになると思われたが、宝玉の回収の事もあるので姿を消して恭一についていくことになった。
しばらく歩いていると、自転車に乗った見知ったショートカットの少女の背中が見えてくる。
「おはよう見晴」
「あ、おはよう、キョー」
見晴が恭一に気づいて挨拶を返し、自転車からおりて引きながら、恭一と並んで歩き始める。
「今日からまた学校だな」
「んーまあね、そろそろ部活の地区大会の時期が近づいてるから、今週あたりから練習がきつくなるんじゃないかな? アンタの方はどうなのよ? どうせグータラやってんでしょ?」
見晴がニヤついた顔でからかってくる。
「どうせってなんだよ、失礼な。ウチは交流会の出し物の準備があるからな。今のところはそれなりに忙しいっての」
「ああ、アンタのトコそんな行事やるらしいわね。キョーのクラスとかは何やるの?」
「演劇だ。まあ俺は役もないし、裏方ちょっと手伝うくらいだけど」
それを聞いた見晴が呆れた顔になる。
「なによ? 結局大して忙しくもないんじゃないの」
「まあ、そうとも言うな」
恭一が苦笑混じりにそう返事した。
その後、恭一と見晴がとりとめのない話をしていると大通りに出た。
「じゃあ、アタシこっちだから」
「おう、気をつけて行けよ」
「アンタもね」
そう言うと見晴は再び自転車に跨り、恭一とは逆方向に去っていった。
恭一がその姿を見送っていると、ルキエナが不思議そうな顔をしながら恭一に質問した。
「あれ? 一緒に行かないんですか?」
「ああ、見晴と俺は別々の高校なんだ。中学までは一緒の学校だったんだけど、見晴はバスケが得意で今の学校にスポーツ入試で入ったんだ」
「ああ、そういえば制服の色が違いますね」
「そういう事、まあ、学校に行ってる間は見晴に会うことはないよ」
「そうですね」
休日中、行く先々で見晴に出会い、あまりの遭遇率に戦慄していた恭一とルキエナは、見つめ合って安堵した表情をつくると、学校に向けて歩き出した。
高校に到着して、恭一は自分の教室に入り、カバンを机に置いて席に着く。
「おはよう、神楽屋」
声をかけられその方を見ると、恭一より少し背の高い、角刈りの少年の姿が目に入る。
「おはよう、多田」
「なんだ相変わらずシケた面して、どうせカノジョとデートするわけでもなく、一人寂しい休日を過ごしていたんだろう?」
恭一の友人である多田克也が腕を組んで見下した態度で言う。
「そういうお前はどうなんだよ?」
恭一が憮然とした顔で反論する。
「ふっ何を言う。オレは誰もが羨む超絶美少女、美咲ちゃんと遊園地デートしてたんだぞ」
「どうせ、ギャルゲーの中での話だろうが」
「甘いな。おれは二次元だろうと三次元だろうと、美しき女であれば等しく愛することが出来る博愛の男だぞ」
「あーはいはい、その割には三次元の女性とはまるっきり縁がなさそうなんだが?」
「ぐっ、それはお前だってそうだろう?神楽屋」
「まあそうなんだけど、こちらだけを一方的に蔑むのはやめてもらおうか多田君。馬鹿なこと言ってないで席につけ、もうすぐ授業が始まるぞ」
「ああ、そうだな」
多田が自分の席に戻る。
「ふふっ楽しい方ですね」
多田に入れ替わるようにルキエナが話しかけてきた。
「ああ、高校に入ってからの付き合いだ。女の子の事ばかり追いかけてるのとちょっとウザい事を除けば悪い奴じゃないんだけどな」
恭一がそう言い終わると丁度チャイムが鳴り、恭一のクラスの担任が入ってきて、朝のホームルームが始まった。
「頼むから授業の邪魔はしないでくれよ」
恭一が姿勢を正して前を向きながら小声でルキエナに言う。
「ええ、わかってます。勉強頑張ってくださいね」
ルキエナはそう言って恭一の席から離れ、教室の後ろに下がって恭一を見守った。
特にルキエナから邪魔されることもなく、恭一はいつも通りに授業を受け、やがて放課後になった。
「よし、それじゃあ、生徒会の助っ人募集の応募に行くか」
「ええ、行きましょう」
恭一とルキエナが生徒会室に行こうとすると多田が近づいてくる。
「ん?どうした神楽屋、どこか行くのか?これから交流会の演劇の準備するみたいだぞ。お前、サボるんじゃないだろうな?」
「いや、別にサボるつもりはないけど、生徒会の助っ人の応募に行こうかと」
「マジか! くっ、生徒会役員は美少女揃いだからな。特に会長と副会長は明涼の二大美人との呼び声も高いしな。お近づきになろうって魂胆か! 俺も役がなきえらば応募していたのに!!」
多田は演劇の悪役に抜擢されていた。その練習をしなければならないので助っ人募集の応募できる条件からはじかれてしまう。
「でも、そうやってお近づきになりたいってやつがたくさん応募してくるだろうし、ライバルは多いぞ? それから今年は生徒会の意向で募集人数自体少ないらしい」
「まあ、行くだけ行ってみるよ」
「そうか、選ばれるといいな」
「ああ、ありがとう。それじゃ行ってくる」
「おう」
恭一とルキエナは再び生徒会室を目指して歩き始めた。
「やっぱ狭き門なのかなあ、自信なくなってきたぞ」
「きっと大丈夫ですよ」
「また根拠のない事を、まあ気休めでもそう言ってくれて嬉しいけどな。ってあれは?」
恭一の視線の先に、栗色の髪を後ろで縛った背の高い少女が大量の紙の束を持って歩いているのが見えた。
「会長!」
恭一に呼び止められた少女が、恭一の方に振り返る。
その姿は惹きつけられて目が離せなくなるような色香と不思議な魅力をもっていた。
「ん? どうかしたのか?」
思わずその容姿に見とれていた恭一に、生徒会長が怪訝そうな顔で声をかける。
恭一は正気に戻って僅かに左右に頭を振ってから、彼女の持っている紙の束を見ながら、
「よかったら半分持ちますよ。どこへ持っていけばいいんですか?」
そう言って生徒会長のそばに近寄る。
「ああ、それは助かるな。それじゃあ悪いけどこれを生徒会室まで一緒に運んでくれるか?」
「はい、わかりました」
恭一は、生徒会長の持っている紙の束を半分より多めに受け取って手に持った。
それを見た生徒会長が少し微笑む。
「フフフ、ありがとう」
改めて恭一に向かって感謝の言葉を告げた。
「い、いえ……それじゃあ行きましょうか。生徒会室ですよね」
恭一は照れるのをごまかしながら生徒会室に急いだ。
生徒会室の前まで来ると、生徒会長が先立って、ノックしてからドアを開けて中に入っていく。
「失礼します」
恭一は、生徒会長の後に続いて入った。
生徒会長は部屋に入ってすぐの机の上に紙の束を置いた。
「それじゃあ私の置いた束の上にそれを重ねてくれるか?」
「はい、わかりました」
恭一は会長が置いた紙の束に重ねるように自分の持っていた紙の束をそっと置いた。
「本当に助かったよ」
生徒会長が恭一に微笑みかける。
生徒会長の笑顔に恭一は見とれそうになり、顔赤くしてうつむき、
「いえ、お役にたてて何よりです」
とだけどうにか答えた後、今度は生徒会長のグラマラスな胸が目に入ってきて、耳まで赤くして視線を横に向けた。
「お礼にお茶でもいれるよ。その辺に適当に座って待っててくれ」
「いえ、お構いなく」
恭一が遠慮するが、生徒会長は片手を上げて気にするなと言わんばかりに手を振って、てきぱきとお茶を入れ始める。
恭一は、生徒会室の入口付近にあった椅子に所在なさそうに腰掛けた。
椅子に座った後、生徒会室を見回すと、生徒会長の他に三人の少女が居て、恭一のことを見ているのに気がついた。
一人は副会長の風香だ。先日公園で会ったことを憶えているらしく、恭一に向かっておじぎをしてくる。釣られて恭一もおじぎした。
風香の隣には、ショートボブの髪に白いカチューシャをつけた小柄な少女が座っている。顔立ちは可愛らしいが、警戒した表情で恭一を睨んでいる。目が「何しに来たのよコイツ」と言っているかのようだ。
風香の正面には肩にかかるくらいで髪を切り揃えた、メガネをかけた少女が座っている。
切れ長の目が特徴的な整った顔をしているが、その切れ長の目が恭一を射抜くように睨んでいて、恭一のことを歓迎していない気配を発している。
「どうぞ」
恭一の前に湯呑に入った緑茶が差し出される。
「ありがとうございます。いただきます」
恭一はお礼を言って、湯呑に口をつけて一口、緑茶を飲む。
一部から向けられていた敵意にも似た警戒の視線に、居心地の悪さを感じて正直帰りたいと思っていた気持ちが少し安らいだ気がした。
「ゆっくりしていってくれ」
生徒会長は恭一にそう言うと彼女の所定の席に戻ろうとする。
「あの!」
恭一が生徒会長を呼び止めた。
「ん?どうかしたのか?」
生徒会長が恭一の方に振り向いた。
恭一は緊張している自分を奮い立たせるために両手の拳を強く握った。
「頑張って下さい恭一さん」
ルキエナが恭一を応援する。
「あの、俺、生徒会の助っ人の応募に来たんですけど」
「おお、そうだったのか。ふむ、それなら申請書を出すからこちらに来て書いてくれるか?」
「はい、わかりました」
恭一は生徒会長に近寄って申請書にクラス、名前など必要事項を記入し始めた。
その様子を見ていた生徒会長が大きくうなずいている。
「書けました」
恭一がその声と共にペンを置いて申請書を生徒会長に差し出す。
「どれどれ、二年四組の神楽屋恭一君か。よし神楽屋君、明日からよろしく頼むぞ」
「「「「え?」」」」
生徒会長の発言に、恭一と彼女以外の生徒会役員との声が重なり、生徒会長に視線が集まる。
生徒会長は特にそれを気にすることなく話を続けた。
「ああ、助っ人は君に決めたから。明日の放課後から生徒会室に来てくれ」
「えっと、俺でいいんですか?」
「何言ってるんだ。助っ人をやるつもりだったから応募しに来てくれたんだろう?」
「そうですけど、なんかあっさりと決まったもので……俺以外にも大勢応募してるものだとおもってましたし」
そう言いながら生徒会長以外の生徒会役員を見る。
三人とも驚きの表情で生徒会長を見つめている。
「君が良いんだ。頼んだぞ」
「わかりました。ではまた明日伺いますので、今日はこの辺で失礼します」
ただならぬ空気を感じてこれ以上長居するとまずい気がした恭一は、そそくさと生徒会室を退室した。
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