食べたのは竜帝、黒き獣が身構えた
次の日は南側の森に川沿いに歩いていったんだ。
この川は僕の家のほん手前で西からの川と合流してる。
こちらの森のほうが、針葉樹が多くて猪の餌が少ないんだけど、魔獣と出合うことを思えばなんてことはないんだ。
でもいた!あの真っ黒な獣が。
鳥の声も聞こえていたし、そいつが声をかけてくるまで、全く気が付かなかった。
直接頭に響く声で、
『止まれ。』
そしてまったく身動きが出来なくなった僕の前に音も無く降り立った。
『人間よ、金色の蛇を見なかったか?』
僕が金色の蛇を見たのは一回だけ、去年おじいちゃんに噛み付いたやつだけ。
「去年一回見た。それ以外は見てない。」
その狼のような黒い獣は赤い眼でしばらくじっと僕を見つめていた。
『お前、その蛇をどうした?殺したのか?』
「おじいちゃんに噛み付いたから僕が殺した。」
獣がたてがみを立てて尻尾を振り回して笑った。
『これは愉快だ。歴史のはじめから生きている竜帝がこんなちっぽけな子供に殺されるなんて。これは愉快だ。』
「竜帝ってなに?」
獣は上機嫌で教えてくれた。
『竜の帝王ゴウコウは数千年に一度、夏至の前後2週間だけ全ての力を失って金色の蛇になるんだ。我はその蛇を探していたところだ。死んだ蛇から光る石が出てきたはずだがそれを出せ。』
「そんな石知らない。蛇はそのまま僕が食べた。お母さん達と住めるようになるからっておじいちゃんが言ったから食べた。」
『これはますます愉快だ。ふつう死ぬぞ、あれを食べたら。』
あの時ぼくはおじいちゃんに飛び掛った蛇を矢で射抜いた。
でも蛇は矢を突き刺したまま、おじいちゃんの左手に噛み付いたんだ。
おじいちゃんは鉈で自分の左手を切り落としてぼくに言った。
「その蛇を殺してすぐ食べろ。お母さん達と暮らしたかったらすぐ全部食べろ!早く!!」
食べた後、ぼくはいきなり目の前が真っ暗になって、気が付いたら鍛冶屋のハンスさんの家のベッドに寝ていた。
おじいちゃんの葬式はもう村の人たちでしてくれたあとだった。
『竜帝を食べてやろうと思ったんだが、お前で我慢するか。』
獣が身構えた。




