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-6-

 リャーナは自分の部屋で、ぼんやりと外を見ていた。

 部屋の前には常時兵士が数人待機し、一歩たりとも外に出られない。本人が知らぬところでいつの間にか決まっていた婚約者との婚礼が行われる数年後まで、ずっとこうなのだという。


 これが、リャーナに与えられた新しい日々だった。


 シオンとの別れから、一ヶ月ほど。暗殺騒ぎも落ち着いたが、リャーナの世界は暗い沼のそこに沈んでいくばかりだった。煩わしい舞踏会だったけれど、今はそれさえ恋しいほどに。

 起きている時間の大半を費やして思い出すのは、シオンのことばかりだ。出会いから別れまでを何度も何度も繰り返す。すべて終わればまた最初から、何度も何度も繰り返している。


 あの時、彼が殺してくれたらよかったのに。

 知らない誰かのモノになんて、なりたくないのに。


 そんなことばかり考えて、彼女は日々を過ごしていた。

 殺されそうになったのに恐怖は無い。ガラスが砕けた瞬間、抱きしめられて、リャーナは確かに『嬉しかった』。嬉しくて『幸せ』だったから、殺されてもいいと改めて思った。

 彼の背中に、自分は何を言いたかったのか。言おうとしたのか。

 それを言えていたなら、今は違うモノになっていたのか。

 ――そんな、後悔ばかりを重ねていった。




 椅子に座ってぼんやりするだけの彼女を、アリスは悲しげに見ている。元気が無いのを殺されかかったせいだと周囲は言うが、アリスだけはそうじゃないと直感していた。


 きっと、あの時一緒にいた誰かのことを、彼女は好きなのだと。

 そして彼とは、もう二度と会えないと思っているのだと。


 確かに今後、リャーナは誰とも会わない日々を送る。

 一部の来賓とさえ、会わない。

 有力な貴族の子と結婚するまでとなっているけど、きっと周囲が満足するだけの子供を産み終わるまで、だとアリスは見ている。それまでリャーナは、絶対に死なれては困る存在だ。

 もちろん十歳の彼女に、そんなことを言う者などいるはずがない。

 けれど、彼女はとても聡明だ。幼いが、賢い。だからわかっているのだと思う。己の未来がどういう道であるのかを。その賢さゆえに、痛いほどに、理解し、覚悟してしまっている。

 そんな彼女を支えられる人間は少ない。

 自分は、その一人だとアリスは自負している。


 けれども……自負する自分自身こそが、真っ先に彼女から離れなければいけなかった。


「姫さま」

 最後の仕事を終えて普段着に着替えてきたアリスが、リャーナの前に立った。彼女は数日後に許婚との婚礼が控えている。よりにもよって、こんなタイミングでの退職になった。

 リャーナはアリスを悲しそうに見ていたが、必死に笑顔を作る。

 ――どうかお幸せに。

 引きつった笑顔で必死に祝福してくれる。

「もう、いいんですよ……」

 そんな王女の強がりが悲しくて、アリスは駆け寄って抱きしめていた。

 ダメだ、こんな場所に彼女を一人にするなんてできない。

 アリスは外に聞こえない声で、腕の中にいるリャーナの耳元にささやく。


「姫さま……舞踏会で一緒にいた、黒髪の方が好きですか? あの人と、結婚したい。ずっと一緒にいたいと思いましたか? 本当のことを言っていいんです。どうか本当のことを」

「……でも、だけど」

 声と身体を震わせるリャーナ。かすかに首が横に振られる。

 それが何よりの答えだと、アリスは思った。

 そして決意する。


「もし逢いたいなら、逢いに行けばいいと思いますよ」


 私が必ず送り届けます。

 そういって、小さな王女を力いっぱい抱きしめた。

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