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「配信に出てよ!」


九条アリスから届いたメッセージ。


自宅の古びた布団に座りながらスマホを眺めていた。


「配信ねえ……」


正直、あまり気乗りしない。


顔をネットに晒すことになるし、知らない人間から好き勝手言われる可能性もある。


何より目立ちたくない。


「俺は静かに暮らしたいんだけどな」


そう呟きながら、返信を打つ。


『配信に出るのはちょっと……』


送信。


すぐに返事が来た。


『なんでよ!』


『あんた、トロールのこと詳しかったじゃない!』


『視聴者も気になってるのよ!』


「いや、気になるのは分かるけどさ……」


さらにメッセージが届く。


『それに、出演料も払うわよ!』


「…………」


止まった。


出演料。


お金。


その二文字が頭の中で輝いた。


現在の健太には、生活費が必要だ。


家賃、食費、光熱費、通信費。


今のアパートも古く、できればもう少しまともな部屋に引っ越したい。


しかし、そのためにはお金がいる。


「出演料って、いくらだ?」


即座に返信した。


『出ます』


送信。


数秒後。


『…………は?』


『ちょっと! 返事早すぎない!?』


真顔でスマホを操作した。


『ちなみに出演料はいくらですか?』


一方、アリスの自宅。


「…………」


アリスはスマホを見つめていた。


先ほどまで断られると思っていた。


ところが、出演料の話を出した瞬間、態度が一変した。


「お金に弱すぎでしょ……」


思わず呟く。


しかし、これは好都合だ。


アリスはすぐに返信した。


『一回の出演で三万円!』


『配信時間は二時間くらい!』


『交通費も出すわ!』


すると、即座に返事が来た。


『よろしくお願いします』


『日時はいつでしょうか?』


『内容は事前に教えてください』


「……切り替え早すぎ!」


アリスは笑ってしまった。


その夜。


健太はテーブルにスマホを置き、電卓アプリを開いていた。


「三万円か……」


二時間の出演で三万円。


時給にすれば一万五千円。


普通のアルバイトよりずっといい。


「これは悪くないな」


健太は満足そうに頷いた。


さらにアリスから連絡が届く。


『今週末、ダンジョンで配信するから!』


『場所は前回と同じ第12号ダンジョン!』


『低層で安全にやる予定よ』


『詳しい内容は当日説明するわ』


『分かりました。よろしくお願いします』


すると、またメッセージが来た。


『あと、配信中に変なこと言わないでよね!』


『私のチャンネルなんだから!』


少し考えてから返信した。


『俺は普通にしてるだけだよ』


『それが心配なのよ!』


「……失礼な」


スマホを置いた。


そして冷蔵庫を開ける。


中には卵、納豆、野菜、そしてプリンが入っている。


「三万円か。少し余裕ができるな」


プリンを一つ取り出し、テーブルに置く。


「いや、まだお金をもらったわけじゃない。使うのは早いな」


そう言いながら、蓋を開けた。


「……まあ、これは別腹だ」


翌日。


アリスは配信スタッフとの打ち合わせをしていた。


「今度の配信、田中さんをゲストに呼ぶことにしたから」


「例の太った男性ですか?」


「そう。トロールの動きを見抜いた人」


スタッフは資料を確認する。


「確かに、あの方の説明は興味深かったですね。視聴者からも質問がかなり来ています」


「でしょ?」


アリスは少し得意げに頷いた。


「ただ、戦闘能力はどうなんでしょう?」


「それは分からないわ。本人は大したことないって言ってたけど」


「では、解説役として?」


「そうね。魔物の知識や危険な行動について、いろいろ聞きたいの」


アリスは少しだけ笑った。


「あのデブ、絶対何か隠してるわよ」


その頃、健太は自宅で週末の準備をしていた。


「配信か……」


カメラに映るのは少し抵抗がある。


しかし、三万円は魅力的だ。


「まあ、余計なことを言わなければいいか」


この配信出演が、彼の異世界での知識を多くの人に知られる最初のきっかけになることを。


そして、アリスが彼の正体に興味を持ち始めていることも。


「……さて、週末までに少し運動でもするか」


立ち上がった。


三分後。


「はぁ……はぁ……」


「……今日はここまででいいか」


まだまだ先は長そうだった。



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