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ふぅ……疲れた」
自宅の古びたアパートに戻ってきた。
ダンジョンから帰ってきた後、近くのラーメン屋でラーメン大盛りマシマシを食べ、コンビニで飲み物とプリンを買ってきた。
「やっぱり日本のラーメンはうまいなあ……」
異世界にも肉料理はあったが、醤油と砂糖で味付けされた牛丼は別格だ。
椅子に腰を下ろし、スマホを手に取った。
「さて、今日は何か面白い動画でも……」
そのとき、スマホの画面に通知が表示された。
メッセージ
新着
送信者:九条アリス
『田中健太!』
『ちょっと聞きたいことがあるんだけど!』
『見てる?』
『無視しないでよ!』
「…………」
画面を見つめた。
「なんで俺の連絡先を知ってるんだ?」
そういえば、ダンジョンで会ったときに連絡先を交換した覚えはない。
そもそも、こちらから教えた記憶もない。
「配信者って怖いな……」
スマホをテーブルに置いた。
そして、プリンの蓋を開ける。
「まあ、無視でいいか」
スプーンですくって一口。
「うん、うまい」
再びスマホが震えた。
メッセージ
新着
『ちょっと!!』
『聞いてるの!?』
『あんた、トロールのこと詳しかったでしょ!』
『どうやって弱点を見抜いたのよ!』
「うーん……」
健太は少し考えた。
返信するべきだろうか。
いや、しない方がいい。
面倒なことになりそうだ。
「俺は静かに暮らしたいんだよ」
そう呟いて、スマホを伏せた。
一方、その頃。
「なによ! 既読もつかないじゃない!」
九条アリスは、自宅のソファーでスマホを握りしめていた。
配信はすでに終了している。
しかし、彼女の頭の中はデブのおっさんのことでいっぱいだった。
「普通、あんなことがあったら連絡くらい返すでしょ!」
アリスはもう一度メッセージを送る。
『デブ、おっさん! 返事しなさい!』
当然、返事はない。
「むきーっ!」
クッションを抱きしめる。
「絶対に何か隠してる……」
トロールの動きを見ただけで弱点を見抜いたこと。
魔物の行動を先読みしていたこと。
そして、戦闘中に見せた妙に落ち着いた態度。
あの太ったおっさんは、ただの一般人ではない。
た
「……このデブ、何者なのよ」
アリスはそう呟いた。
その頃、はというと。
「さて、風呂でも入るか」
スマホを確認すると、また通知が来ていた。
メッセージ
新着
『明日、時間ある?』
『話したいことがあるの』
『逃げないでよね!』
「……明日?」
首を傾げた。
しかし、すぐに気づいた。
「そういえば俺、まだ身分証明書がないんだよな」
現代日本に戻ってきたとはいえ、十二年も経過している。
戸籍や住民票などの問題もあり、普通の生活を送るための手続きがまだ残っている。
スマホは手元にあるものの、契約も通話も自由にできる状態ではない。
現在使っているのは、最低限の通信手段だけだった。
「電話もできないし、連絡先もまともに登録できない。面倒だなあ……」
頭をかいた。
「まずは身分証明書をどうにかしないと」
アリスへの返信は後回し。
今は、彼女よりも身分証明書の方が重要だった。
「よし、明日は役所に行こう」
そう決めて、スマホを充電器に差し込んだ。
その直後、また通知が光る。
『絶対に逃げるなデブ!!』
「……怖い怖い」
スマホの画面を消した。
今夜はもう寝よう。
そう思いながら、彼は風呂場へ向かった。
まだ知らない。
この無視されたメッセージが、今後の生活を大きく変えるきっかけになることを。




