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「……このデブ、何者なのよ?」
九条アリスは、目の前の太った中年男性を見つめていた。
金髪のツインテールを揺らしながら、両手に雷の魔力を集める。
目の前には巨大なトロール。
そして、その後ろには脇腹を押さえて息を切らしている謎のおっさん。
状況だけ見れば、どう考えてもおっさんの方が助けを必要としている。
「はぁ……はぁ……」
「ちょっと! 大丈夫なの!?」
「大丈夫、大丈夫……たぶん」
「全然大丈夫そうに見えないんだけど!」
腹をさすりながら、ゆっくりと姿勢を整えた。
「いやあ、少し動いただけでこれとは……運動不足は恐ろしいね」
「感心してる場合じゃないでしょ!」
トロールが唸り声を上げた。
「グオオオオオッ!」
巨大な腕を振り上げ、二人に向かって突進してくる。
「来るわよ!」
「右だ。右に避けて」
「分かってる!」
アリスは素早く右側へ跳んだ。
トロールの拳が地面を砕く。
その瞬間、声を上げた。
「今だ! 左足!」
「雷撃!」
バチバチバチッ!!
アリスの放った雷撃がトロールの左足に直撃した。
「グオッ!?」
トロールの身体が大きく傾く。
「効いた!」
「いいぞ。今のは悪くない」
「……あんた、何でそんなに詳しいのよ?」
「昔、似たようなのを見たことがあってね」
「似たようなのって……」
答えなかった。
異世界で何度もトロールと戦ったことがある、などと言えるはずもない。
「次はどうすればいいの!?」
「無理に倒そうとするな。相手が体勢を立て直す前に距離を取れ」
「逃げるの?」
「勝てない相手から逃げるのも立派な戦術だよ」
「……悔しいけど、分かったわ」
アリスは後退する。
トロールは怒り狂ったように二人を追いかけようとしたが、負傷した左足が思うように動かない。
その隙に、周囲を見渡した。
「出口はあっちだな」
「分かるの?」
「来た道を覚えてるからね」
「当たり前でしょ!」
「いや、意外と迷う人もいるんだよ」
ゆっくり歩き出した。
アリスも続く。
しかし、数歩進んだところで健太の足が止まった。
「……ふう」
「また何?」
「いや、ちょっと休憩」
「こんなときに!?」
「脇腹がね……」
「もう! あんた本当に何なのよ!」
苦笑しながら、腹をさすった。
「おっさんだよ」
「は?」
「おっさん。まあ、デブでもいいけど」
少しだけ胸を張った。
そして、妙に格好をつけた声で言った。
「好きに呼ぶと良いよ」
決まった。
本人の中では、かなり格好よく決まった。
……はずだった。
アリスは数秒間見つめた。
「…………」
「…………」
「いや、普通にデブって呼ぶわ」
「そこはおっさんじゃないのかよ!」
『デブ呼び確定www』\
『謎のおっさん面白すぎる』\
『ちょっと格好つけたのにw』\
『アリスちゃん容赦なくて草』\
『でも弱点を見抜いたのはすごい』
配信のコメント欄は大盛り上がりだった。
アリスは画面をちらりと見て、顔をしかめる。
「ちょっと! みんな好き勝手言わないでよ!」
「人気者は大変だねえ」
「誰のせいだと思ってるのよ!」
「俺?」
「そうよ!」
肩をすくめた。
「まあ、無事ならいいじゃないか」
そのとき、遠くから探索者たちの声が聞こえてきた。
「九条さん! 大丈夫ですか!」
「こちらにいます!」
アリスが手を振る。
やってきたのは、ダンジョン管理局の救援要請を受けた探索者たちだった。
「トロールが低層に出たって本当か!?」
「ええ。でも、今は足を負傷して動きが鈍っています」
「誰がやったんだ?」
アリスはを指差した。
「このデブ!」
「いや、俺じゃなくてアリスちゃんの雷魔法だろ」
「アリスちゃん!?」
呼び方に、アリスは眉を吊り上げた。
「ちょっと! 勝手にちゃん付けしないで!」
「じゃあ、アリスさん?」
「最初からそう呼びなさいよ!」
適当に頷いた。
救援の探索者たちはトロールを警戒しながら、アリスに状況を確認する。
その間、目立たないように少しずつ後ろへ下がっていた。
「……さて、帰るか」
「待ちなさい!」
アリスが振り返った。
「まだ話は終わってないわよ!」
「ええ……」
「あなた、どうしてトロールの弱点が分かったの?」
「たまたま」
「嘘!」
「本当だよ」
「絶対に嘘!」
アリスはじっと見つめた。
その目には、好奇心が宿っていた。
「ねえ、あんた。名前は?」
「田中」
「田中……」
「そう」
「私は九条アリス。人気配信者なんだから、覚えておきなさいよ!」
「はいはい」
「はいは一回!」
小さく息を吐いた。
面倒な子に捕まってしまった。
そんなことを考えながら、彼はもう一度腹をさすった。
「……帰りラーメン大盛りマシマシでも食べるか」
「聞こえてるわよ!」
「独り言だよ」
こうして田中健太と九条アリスの奇妙な出会いは、配信を通じて多くの人に知られることになる。
そしてアリスは、まだ知らない。
目の前の太ったおっさんが、自分の探索者人生を大きく変える存在になることを。
あぁラメーンにんにく激マシ最高です




