↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/52

22

「……このデブ、何者なのよ?」


九条アリスは、目の前の太った中年男性を見つめていた。


金髪のツインテールを揺らしながら、両手に雷の魔力を集める。


目の前には巨大なトロール。


そして、その後ろには脇腹を押さえて息を切らしている謎のおっさん。


状況だけ見れば、どう考えてもおっさんの方が助けを必要としている。


「はぁ……はぁ……」


「ちょっと! 大丈夫なの!?」


「大丈夫、大丈夫……たぶん」


「全然大丈夫そうに見えないんだけど!」


腹をさすりながら、ゆっくりと姿勢を整えた。


「いやあ、少し動いただけでこれとは……運動不足は恐ろしいね」


「感心してる場合じゃないでしょ!」


トロールが唸り声を上げた。


「グオオオオオッ!」


巨大な腕を振り上げ、二人に向かって突進してくる。


「来るわよ!」


「右だ。右に避けて」


「分かってる!」


アリスは素早く右側へ跳んだ。


トロールの拳が地面を砕く。


その瞬間、声を上げた。


「今だ! 左足!」


「雷撃!」


バチバチバチッ!!


アリスの放った雷撃がトロールの左足に直撃した。


「グオッ!?」


トロールの身体が大きく傾く。


「効いた!」


「いいぞ。今のは悪くない」


「……あんた、何でそんなに詳しいのよ?」


「昔、似たようなのを見たことがあってね」


「似たようなのって……」


答えなかった。


異世界で何度もトロールと戦ったことがある、などと言えるはずもない。


「次はどうすればいいの!?」


「無理に倒そうとするな。相手が体勢を立て直す前に距離を取れ」


「逃げるの?」


「勝てない相手から逃げるのも立派な戦術だよ」


「……悔しいけど、分かったわ」


アリスは後退する。


トロールは怒り狂ったように二人を追いかけようとしたが、負傷した左足が思うように動かない。


その隙に、周囲を見渡した。


「出口はあっちだな」


「分かるの?」


「来た道を覚えてるからね」


「当たり前でしょ!」


「いや、意外と迷う人もいるんだよ」


ゆっくり歩き出した。


アリスも続く。


しかし、数歩進んだところで健太の足が止まった。


「……ふう」


「また何?」


「いや、ちょっと休憩」


「こんなときに!?」


「脇腹がね……」


「もう! あんた本当に何なのよ!」


苦笑しながら、腹をさすった。


「おっさんだよ」


「は?」


「おっさん。まあ、デブでもいいけど」


少しだけ胸を張った。


そして、妙に格好をつけた声で言った。


「好きに呼ぶと良いよ」


決まった。


本人の中では、かなり格好よく決まった。


……はずだった。


アリスは数秒間見つめた。


「…………」


「…………」


「いや、普通にデブって呼ぶわ」


「そこはおっさんじゃないのかよ!」


『デブ呼び確定www』\

『謎のおっさん面白すぎる』\

『ちょっと格好つけたのにw』\

『アリスちゃん容赦なくて草』\

『でも弱点を見抜いたのはすごい』


配信のコメント欄は大盛り上がりだった。


アリスは画面をちらりと見て、顔をしかめる。


「ちょっと! みんな好き勝手言わないでよ!」


「人気者は大変だねえ」


「誰のせいだと思ってるのよ!」


「俺?」


「そうよ!」


肩をすくめた。


「まあ、無事ならいいじゃないか」


そのとき、遠くから探索者たちの声が聞こえてきた。


「九条さん! 大丈夫ですか!」


「こちらにいます!」


アリスが手を振る。


やってきたのは、ダンジョン管理局の救援要請を受けた探索者たちだった。


「トロールが低層に出たって本当か!?」


「ええ。でも、今は足を負傷して動きが鈍っています」


「誰がやったんだ?」


アリスはを指差した。


「このデブ!」


「いや、俺じゃなくてアリスちゃんの雷魔法だろ」


「アリスちゃん!?」


呼び方に、アリスは眉を吊り上げた。


「ちょっと! 勝手にちゃん付けしないで!」


「じゃあ、アリスさん?」


「最初からそう呼びなさいよ!」


適当に頷いた。


救援の探索者たちはトロールを警戒しながら、アリスに状況を確認する。


その間、目立たないように少しずつ後ろへ下がっていた。


「……さて、帰るか」


「待ちなさい!」


アリスが振り返った。


「まだ話は終わってないわよ!」


「ええ……」


「あなた、どうしてトロールの弱点が分かったの?」


「たまたま」


「嘘!」


「本当だよ」


「絶対に嘘!」


アリスはじっと見つめた。


その目には、好奇心が宿っていた。


「ねえ、あんた。名前は?」


「田中」


「田中……」


「そう」


「私は九条アリス。人気配信者なんだから、覚えておきなさいよ!」


「はいはい」


「はいは一回!」


小さく息を吐いた。


面倒な子に捕まってしまった。


そんなことを考えながら、彼はもう一度腹をさすった。


「……帰りラーメン大盛りマシマシでも食べるか」


「聞こえてるわよ!」


「独り言だよ」


こうして田中健太と九条アリスの奇妙な出会いは、配信を通じて多くの人に知られることになる。


そしてアリスは、まだ知らない。


目の前の太ったおっさんが、自分の探索者人生を大きく変える存在になることを。

あぁラメーンにんにく激マシ最高です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。