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21 ツンデレ?配信者登場



1人で田中健太は、ダンジョンの入口で大きく伸びをした。


年齢は三十三歳。身長百七十センチ。体重は約百十五キロ。


見た目はどこにでもいる太った中年男性である。


もっとも、彼には普通の探索者とは違う経験があった。


異世界で十年以上、冒険者として生活してきたのだ。


「まあ、無理せず低層で薬草でも探すか」


一人でダンジョンに入っていった。


本格的な探索というより、運動不足解消と小遣い稼ぎを兼ねた散歩のようなものだ。


もちろん、本人は歩くだけで疲れるので、散歩という言葉に少々無理がある。


「はぁ……はぁ……」


入口から少し進んだだけで息が上がった。


「いや、ダンジョンに来てまで息切れするとは……情けない」


壁に手をついて呼吸を整える。


そのときだった。


前方の通路から、何かが動く音がした。


足を止める。


「……ん?」


通路の奥から現れたのは、巨大な人型の魔物だった。


緑色の肌。


大きな頭。


尖った耳。


太い腕と脚。


顔つきはゴブリンによく似ているが、その体格は比べものにならない。


身長は二メートルを超え、筋肉質な身体には傷跡がいくつも刻まれていた。


「トロールか」


小さく呟いた。


異世界でも何度か遭遇した魔物だ。


力は強いが、動きは比較的単純。知能も個体差はあるものの、それほど高くない。


ただし、低層に出現するような魔物ではない。


「なんでこんなところにいるんだよ……」


周囲を確認した。


ダンジョンの魔物は出現場所がある程度決まっている。


それなのに、ここにトロールがいる。


「嫌な予感がするな。さっさと離れるか」


戦う理由はない。


ゆっくり後退しようとした。


しかし、そのとき。


「きゃああああっ!」


女性の声が響いた。


「……え?」


通路の反対側から、一人の女性が走ってきた。


金髪のツインテール。


青い瞳。


整った顔立ち。


そして、手には配信用の小型カメラ。


九条アリスだった。


「ちょっと待って! 何でこんな低層にトロールがいるのよ!」


アリスは横を通り過ぎようとして、急停止した。


「…………」


田中もアリスを見た。


「…………」


数秒間、沈黙が流れる。


アリスの視線が顔から腹へと移動した。


そして、再び顔へ戻る。


「……え?」


彼女の頭の中で何かがつながった。


大きな身体。


丸い腹。


通路を塞ぐように立っている姿。


「ぎゃあああああっ!!」


「うおっ!?」


アリスは悲鳴を上げた。


「デ、デカいトロール!?」


「いや、俺は人間だけど!?」


「喋った!?」


「人間だからな!」


アリスは慌てて後ずさった。


その拍子に、配信カメラが健太の姿を映し出す。


画面には、困惑した中年男性の姿が大きく映っていた。


『え? 今の人間?』\

『いや、トロールにしか見えない』\

『新種の魔物か?』\

『アリスちゃん逃げて!』\

『低層にトロールとかヤバすぎるだろ!』


アリスは視聴者のコメントを確認する余裕もなかった。


「デブは逃げなさい!!」


「だから俺は人間だって!」


「いいから逃げて! あんた、死ぬわよ!」


「いや、だから……」


「配信中なのよ! こんなところで一般人を巻き込めないでしょ!」


アリスは健太の前に立ち、両手に魔力を集めた。


青白い電撃が指先を走る。


雷魔法だ。


「下がってなさい! 私が時間を稼ぐ!」


「いや、あのトロールは……」


「うるさい! 素人は黙って逃げる!」


ため息をついた。


どうやら話を聞いてもらえそうにない。


しかも、アリスはトロールを警戒している。


それも当然だ。


トロールは力が強い。低層に現れる魔物ではないし、普通の探索者なら十分に危険な相手だ。


ただ、もう一つ気になることがあった。


「お嬢ちゃん、そいつを正面から相手にするのはやめた方がいいぞ」


「誰がお嬢ちゃんよ!」


「いや、どう見ても若いだろ」


「そういう問題じゃない!」


アリスが叫んだ瞬間、トロールが動いた。


「グオオオオオッ!」


巨大な腕が振り上げられる。


「来る!」


アリスは横に跳んだ。


ドゴォン!!


トロールの拳が地面に叩きつけられ、石畳が砕け散る。


「くっ!」


アリスはすぐに雷魔法を放った。


「雷撃!」


バチィィッ!!


雷撃がトロールの肩に直撃する。


しかし、トロールは少し身体を揺らしただけだった。


「うそ……効いてない!?」


「いや、効いてはいる。ただ、魔力の使い方がもったいないな」


「はあ!?」


トロールの動きを観察していた。


「肩じゃなくて、足を狙った方がいい。あいつは身体が大きいから、片足を崩せば動きが鈍る」


「だから、何でそんなこと分かるのよ!」


「経験だよ」


「何の経験よ!」


「いろいろ」


アリスは納得できない顔をした。


その間にもトロールが迫ってくる。


「もう! あんたは逃げなさいって言ってるでしょ!」


「分かった分かった」


後ろに下がった。


そして、少し急いで移動した。


その瞬間。


「いっ……!」


脇腹に鋭い痛みが走った。


「うぐっ……!」


思わず立ち止まった。


「はぁ……はぁ……」


少し走っただけなのに。


脇腹が痛い。


息が苦しい。


「なんで……ちょっと動いただけなのに……」


『おいおい大丈夫か?』\

『アリスちゃんの後ろで苦しんでるぞ』\

『運動不足すぎるだろw』\

『あの人、本当に探索者なのか?』


アリスは振り返った。


「ちょっと! 何やってるのよ!」


「脇腹が痛い……」


「はあ!?」


「少し動いただけなのに……」


「こんなときに何を言ってるのよ!」


アリスは頭を抱えた。


目の前にはトロール。


後ろには謎の太った中年男性。


配信中なのに、状況がまったく理解できない。


「もうっ! 絶対に死なないでよ!」


「努力はする……」


「努力じゃなくて逃げなさい!」


苦笑した。


そして、トロールをもう一度観察する。


「……あの個体、右足をかばってる」


「え?」


「左肩も少し下がってる。たぶん、以前に負傷している」


「そんなことまで分かるの?」


「まあな」


アリスに声をかけた。


「次に攻撃してきたら、右側に避けろ。左足を狙って雷を集中させるんだ」


「……分かったわよ!」


アリスは悔しそうに頷いた。


その表情には、先ほどまでの恐怖とは違う感情が混ざり始めていた。


目の前の太った中年男性。


どう見ても強そうには見えない。


なのに、トロールの動きを見ただけで弱点を見抜いている。


「……このデブ、何者なのよ?」


アリスの配信画面には、そんな彼女の疑問とともに、田中の姿が映っていた。


そして視聴者たちも、同じ疑問を抱き始めていた…

走ると脇腹痛くなりますよね

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