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スマートフォンの画面を見つめていた。


「……え?」


 画面に表示されているのは、探索者管理協会から届いた採取素材の査定結果だった。


 昨日、高橋たちと一緒に採取した植物の一部について、通常の査定とは別に品質検査が行われていたらしい。


 そして、その結果が今朝届いた。


『選別・採取した薬草について、品質評価が通常品より高い結果となりました。詳細につきましては、管理施設の素材査定窓口までお越しください』


「品質評価が高い?」


 眉を寄せた。


 昨日の作業を思い返す。


 特別なことをした覚えはない。


 ただ、状態の良い植物を選び、傷つけないように採取しただけだ。


「……まあ、行ってみるか」


 もしかしたら、何か問題があったのかもしれない。


 そう思いながら、管理施設へ向かった。


     ◇


 多摩ダンジョン第十二号、素材査定窓口。


「田中さん、お待ちしていました」


 窓口の女性職員が笑顔で迎えてくれた。


「昨日の採取素材について、少しお話があります」


「何か問題でもありましたか?」


「いえ、問題というより、良いお知らせです」


 職員は端末を操作し、査定結果を表示した。


「こちらをご覧ください」


 画面には、昨日採取した薬草の写真と品質評価が並んでいた。


 健太はじっと画面を見つめる。


「……これ、そんなに良かったんですか?」


「はい。通常の薬草よりも有効成分の含有量が高く、傷みも少ない状態でした」


「そうですか」


「特に、根を傷つけずに採取したものは品質が安定していました。採取方法が非常に丁寧だったようですね」


 頭をかいた。


「昔から、そういう採り方をしていたので」


「採取経験が豊富なのですね」


「まあ、それなりに」


 職員は少し興味深そうに尋ねた。


「ちなみに、植物の採取について専門的な知識をお持ちなのですか?」


「専門家というほどではないですよ。実際に使ったり、採ったりしていただけです」


 異世界での経験を思い出す。


 薬草は命をつなぐ重要な資源だった。


 回復薬を作るための素材がなければ、怪我をしたときに困る。


 毒草を間違えて採れば、仲間を危険にさらす。


 だからこそ、自然と知識が身についた。


 とっては当たり前のことだった。


 しかし、現代日本のダンジョンでは、その当たり前が必ずしも共有されているわけではない。


「実は、今回の薬草は通常の買取価格よりも高い評価になっています」


「どのくらいですか?」


「今回の採取分については、品質加算がつきます。通常の報酬に加えて、追加で一万八千円をお支払いできます」


「一万八千円?」


 目が少し大きくなった。


 日当とは別の追加報酬。


 これは大きい。


「もちろん、採取班全体の報酬とは別に、田中さんの選別・採取技術への評価として計上します」


「……ありがたいです」


 思わず頭を下げた。


 心の中では、すでに計算が始まっていた。


(一万八千円か。スマホ代の足しにもなるし、食費にもなる。いや、まずは生活費を優先だな)


 もっとも、その後にラーメンを食べる予定があることは、本人も忘れていない。


     ◇


 その日の午後。


 健太は高橋たちと合流していた。


「田中さん、査定結果が出たって聞きましたよ」


 高橋が声をかける。


「ええ。昨日の薬草に品質加算がついたそうです」


「本当ですか?」


「追加で一万八千円いただけるそうです」


「一万八千円!?」


「そんなに?」


「通常の採取報酬とは別です。選別と採取方法が評価されたみたいですね」


 井上が感心したように頷く。


「なるほどなあ。確かに昨日の採取は丁寧だったもんな」


 斎藤も笑顔を見せた。


「田中さん、すごいですね」


「いや、俺は普通に採っただけですよ」


「その普通ができる人が少ないんですよ」


 高橋は腕を組んだ。


「実は、俺たちも採取した素材を持ち帰って査定してもらったんですが、品質にかなり差があったんです」


「そうなんですか?」


「はい。田中さんが選んだものは高評価でした。俺たちが採ったものは普通評価です」


 少し考えた。


「採取するとき、葉や茎を強く握りませんでしたか?」


「え?」


「薬草は種類によって、圧迫すると成分が変質するものがあります。根元を持って、なるべく傷つけないようにした方がいいですね」


 高橋たちは顔を見合わせた。


「……なるほど」


 続けた。


「それと、採取した後の保管方法も重要です。種類によっては、湿気を嫌うものもあります。逆に乾燥させると駄目なものもあります」


「そこまで違うんですか」


「ええ。素材ごとに扱い方が違いますから」


 高橋は真剣な表情で話を聞いていた。


 これまでは、モンスターを倒して魔石を集めることが探索者の主な収入源だと考えていた。


 採取素材も売れるが、効率が悪い。


 しかし、採取方法を工夫すれば、収入を増やせる可能性がある。


「田中さん、今後もいろいろ教えてもらえませんか?」


「俺が知っている範囲でよければ」


「ありがとうございます!」


 高橋は嬉しそうに笑った。


 その様子を見て、井上が小さく呟く。


「なんか、先生と生徒みたいだな」


「やめてくださいよ。俺はただのおっさんですよ」


 苦笑した。


     ◇


 その夜。


 健太は安宿のベッドに寝転がっていた。


「……なんか、少しずつ仕事が増えてきたな」


 日本に帰ってきた当初は、所持金ゼロ。


 身分証もなく、住む場所もなく、家族もいない。


 自分の居場所など、どこにもないと思っていた。


 それが今では、採取補助の仕事をもらい、仲間と一緒にダンジョンへ入り、少しずつ収入も得られるようになった。


 まだまだ生活は不安定だ。


 探索者としても新人。


 体力不足は深刻。


 身分証の手続きも完全には終わっていない。


 それでも、少しだけ前に進めている。


「……悪くないな」


 天井を見た


 久しぶりに、冒険者らしい好奇心が湧いてきた。


 ただし、次の日の朝。


 起き上がろうとして、腰を押さえた。


「いっ……!」


 昨日の採取作業で、少し腰を痛めていたらしい。


「やっぱり、体力と筋力をどうにかしないとな……」


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