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「田中健太さん、どうぞ」
病院の診察室から声が聞こえた。
「はい」
俺は椅子から立ち上がり、診察室へ入った。
今日は健康診断だ。
探索者登録をする前に、現在の健康状態を確認しておいたほうがいいと佐々木さんに勧められたのだ。
正直、病院はあまり好きじゃない。
異世界にいた頃は、怪我をしたら薬草を塗って包帯を巻く。熱が出たら薬を飲んで寝る。
それで何とかなっていた。
もちろん、何とかならなかったこともある。
「では、まず体重を測りましょう」
看護師に案内され、体重計に乗る。
ピッ。
体重:115.2kg
「……増えてます?」
「前回の記録がありませんので、比較はできませんね」
「ですよね」
身長は百七十センチ。
血圧も測定された。
「少し高いですね。もう一度測ります」
「はい」
二度目も、結果はほとんど変わらなかった。
その後、採血や簡単な検査を済ませ、診察室へ戻る。
「田中さん、結果ですが」
医師は検査結果を見ながら説明を始めた。
「肥満の状態ですね。それから血圧も高めです。今後、生活習慣の改善が必要になります」
「やっぱりですか」
「食事の量や内容、運動習慣を見直してください。特に塩分や脂質の摂りすぎには注意が必要です」
「分かりました」
「急に激しい運動を始めるのではなく、まずは無理のないウォーキングなどから始めるといいでしょう」
「はい」
俺は真面目に頷いた。
医師は穏やかな口調で説明を続ける。
だが、その内心では。
(百十五キロか……)
(血圧も高いし、典型的な生活習慣の問題だな)
(食事と運動の改善が必要だけど……)
(まあ、どうせ最初だけだろうなぁ)
(こういう人は診察室では素直に頷くんだけど、帰ったら普通に食べちゃうんだよな)
(唐揚げとかラーメンとか好きそうな体型だし)
医師は田中の腹部を一瞬だけ見て、再び検査結果に視線を戻した。
「何か質問はありますか?」
「いえ、大丈夫です。運動も始めようと思います」
「それはいいですね。無理せず続けてください」
「ありがとうございます」
(本当に続くといいんだけどなぁ……)
医師は最後まで穏やかな笑顔を崩さなかった。
病院を出た俺は、探索者管理機構へ向かった。
今日の目的は探索者登録だ。
建物は駅から少し離れた場所にあった。
ガラス張りの大きな施設で、入口には武器を持った探索者の姿が描かれた看板が設置されている。
『日本探索者管理機構 東京支部』
「ここか」
中に入ると、広い受付ホールがあった。
受付カウンターには数人の職員。
待合スペースには、若い男女が何人も座っている。
みんな体格がいい。
鍛えられた身体。
使い込まれた装備。
自信に満ちた表情。
その中で俺だけが、明らかに浮いていた。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付の女性が笑顔で尋ねてきた。
「あの、探索者登録をしたいんですが」
「新規登録ですね。こちらの用紙にご記入をお願いします」
「分かりました」
渡された書類に名前や年齢などを記入していく。
田中健太。
三十三歳。
身長百七十センチ。
体重百十五キロ。
職業欄は空白。
「以前の探索経験などはありますか?」
「異世界で冒険者をやっていました」
「……異世界?」
受付の女性の手が止まった。
「あ、いえ。海外で似たような仕事をしていたというか」
「海外で、ですか?」
「まあ、そんな感じです」
俺は適当にごまかした。
ここで異世界の話をしても、余計に面倒になるだけだ。
受付の女性は書類を確認した。
そして、田中の体格を見た。
(えっ……この人が探索者登録?)
(百十五キロ……?)
(いや、もちろん体格だけで判断してはいけないけど)
(どう見ても運動経験が豊富には見えない……)
(しかも、探索経験は海外で冒険者?)
(本当に大丈夫なのかな……)
彼女は笑顔を維持した。
「探索者登録には、本人確認と健康状態の確認、基礎講習の受講が必要になります」
「健康診断は今日受けてきました」
「そうですか。診断結果を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい」
俺は病院でもらった書類を差し出した。
受付の女性は目を通した。
そして、ほんの少しだけ眉を動かす。
(肥満、高血圧……)
(ええっ!?)
(この状態でダンジョンに入るつもりなの!?)
(無理だろぉぉぉ!)
(いや、落ち着いて。まだ登録できないと決まったわけじゃない)
(でも、いきなりダンジョンに入られたら危ないよ……)
女性は笑顔のまま書類を返した。
「健康状態については確認いたしました。医師から運動を制限する指示などは出ていますか?」
「激しい運動は避けて、まずはウォーキングから始めるように言われました」
「そうですか」
「無理はしません。少しずつ体力を戻すつもりです」
その言葉に、受付の女性は少しだけ安心した。
「それでしたら、まずは初心者向けの基礎講習から受けていただくことになります。講習ではダンジョンの基本知識や安全管理、装備の扱いなどを学びます」
「お願いします」
「では、こちらの書類にも記入をお願いします」
俺は説明を受けながら、必要な項目を埋めていった。
「登録手続きは以上になります」
受付の女性が一枚のカードを差し出した。
「こちらが仮登録証です。基礎講習を修了し、適性確認を受けたあと、正式な探索者証が発行されます」
「ありがとうございます」
俺はカードを受け取った。
そこには自分の名前と登録番号が記載されている。
まだ仮登録だが、探索者への第一歩だ。
「講習は来週の月曜日になります。時間に余裕を持ってお越しください」
「分かりました」
「それから、田中さん」
「はい?」
「ダンジョンは危険な場所です。決して一人で入らないでくださいね」
「もちろんです」
俺は頷いた。
受付の女性は最後まで心配そうな顔をしていた。
(本当に大丈夫かな……)
(お願いだから、無茶だけはしないでね)
建物を出た俺は、手元の仮登録証を眺めた。
「探索者か……」
少しだけ胸が躍る。
異世界で冒険者をしていた頃を思い出す。
あの頃は、依頼を受けて森へ行き、魔物を探し、薬草を採取していた。
もちろん、楽しいことばかりではなかった。
何度も死にかけたし、仲間を失ったこともある。
だからこそ、今度は無理をしない。
日本でのダンジョン探索は、慎重に始めよう。
「まずは体力作りだな」
俺は歩き始めた。
五分後。
「はぁ……はぁ……」
息が切れた。
「……先は長いな」
仮登録証をポケットにしまう。
探索者への道は、思っていたより険しそうだ。
そして、その日の夕方。
区役所の生活支援課では、佐々木が机に向かっていた。
同僚から田中の話を聞かされる。
「佐々木さん、田中さん、今日探索者管理機構に行ったそうですよ」
「…………え?」
「登録したみたいです」
佐々木はゆっくり顔を上げた。
(あの人、本当に行ったのか!?)
(百十五キロで高血圧だぞ!?)
(いや、医師の診察は受けたんだよな……?)
(頼むからダンジョンで倒れないでくれよ)
(こっちに連絡が来たら、また書類が増えるじゃないか……)
佐々木は深く息を吐いた。
「……そうですか。安全には気をつけていただきたいですね」
口ではそう言った。
心の中では、別の言葉が浮かんでいた。
(頼むから、平穏に暮らしてくれえええ!)
皆さんは健康診断どうですか?僕はこの通りです
健康には気おつけましょう。
今日も、チーズ牛丼特盛を食べしまいました。
最初の2日くらいは頑張ろうと思うのです、明日から頑張ろうになってしまいます。
何かコメントいただければ嬉しいです。
つまらないとかデブなのでも構いません。




