ガラクタまみれの部屋
「ポートマルリンカーさん!冒険のお話を聞かせて!」
そう言った、ポールスティンさんの顔は期待に満ちたものだった。
三人には広すぎる部屋の真ん中。
小さなテーブルを囲んで私たちは座っている。
部屋には大きな机が二つ置いていて、その上にはガラクタや工具が散乱している。
部屋の隅には小さなストーブが置かれていて、燃えるような色の魔石が部屋を暖めていた。
私の右隣りには同級生のポールスティンさんがいる。
スラっと伸びた長身で、明るい茶髪の三つ編みを二つ結びにしている、少しふくよかな女の子。
左隣にはミクスィールさん。
ひとつ下の学年で、整えられた黒髪のショートヘアが、まじめな顔によく似合っている。
前髪は綺麗に切りそろえられていて、そのまっすぐさと同じくらい、まっすぐに背筋を伸ばして座っている。
姿勢のきれいさから、彼女の性格の真摯さを感じた。
そんなふたりから期待の眼差しを向けられて、私は少し怖気づいていた。
求められている期待に応えられるのかな?って、こういうとき少し気後れする。
できなくて……がっかりされたらどうしようって思う。
けど、今回は不安もあるけども、自信の割合の方が多かった。
だって、きっと……求めてたものじゃないかもしれないけども、驚くべき話だと思うから。
「ポ、ポールスティンさん……」
「やめて!ポルンでいいよ!ポンちゃんでもいいし、ポルちゃんでもいい!なんでもいいよ!」
「じゃ、じゃあ……ポーちゃん」
「うん!それもいいねぇ!」
「あ、ありがとう。あ、あのポーちゃんはど、どうして冒険のお話が聞きたいの?」
私がそう訊ねると、ポールスティンさんが言った。
「それはね!」
ポールスティンさんが目を輝かせて前のめりになった。
その瞬間、ミクさんがポールスティンさんを止めた。
「ステイ!ポル先輩ステイです!」
ポールスティンさんの顔に手のひらを突き出して、ミクさんが言った。
「ポートマルリンカー先輩、気をつけてください。ポル先輩は舌を出した犬です」
「え?い、いぬ?」
「そうです。この人は、舌を出した子犬だと思ってください。エサを与えたら懐かれますよ?」
「そ、そうなんだ……」
「ちょっと!ミクちゃん!誰が犬だって?!」
「ポル先輩ですよ。いつも尻尾振って、かまってくれる人捜してるんですから」
「それは……そうだけども!」
「そうでしょう?」
ミクさんは私に耳打ちするように言った。
「この人に餌を上げるのは要注意です。本当に面倒なことになりますからね」
ミクさんがそう言うと、ポールスティンさんは頬を膨らませていた。
私はそれを見て、苦笑いした。
ポールスティンさんは、かわいい人だなって思った。
「どうしてそんなこと言うの?!面倒はいいすぎだよ!」
「いいえ。面倒です。だって、ポル先輩……お喋り始めたら終わらないじゃないですか」
「なんで?!そんなことないよ!」
「いつもそうじゃないですか。ナオ先輩が止めてくれないとずっとしゃべりっぱなしでしょう?」
「そんなことないよ!」
「先日もそれで先生に怒られたんでしょう?」
「うっ……あ、あれは始業の鐘が聞こえなかっただけで……」
「普通はそんなにおしゃべりに夢中にならないんですよ」
「ええ~?どうして~?!」
「それですよ。ポル先輩すぐになんで?なんで?攻撃してくるじゃないですか」
「だって気になるじゃん!なんでいけないの~?!」
「それが面倒なんですって!」
「ええ~?!なんで~!?」
二人はすっごく息の合った掛け合いをしていた。
仲がいいんだなぁって思った。
「と、言うことでして!ポートマルリンカー先輩!」
「は、はい!」
「突然、お話しに割って入ってすみませんでした」
「あ、い、いえいえ……」
「失礼なことをしたと思いますが!しかしながら、今日は放課後までに、部活動の説明もしないといけません。あのまま何も言わずに、ポル先輩に付き合っわせてたらおしゃべりだけで今日が終わってしまっていたでしょうから!」
「は、はい……そういうことだったのですね」
「そうです!しかしながら、冒険のことは自分も興味はあります。なので……今日は魔界で見た魔物の話を聞かせてくださいませんか?」
「ま、魔物?」
「はい。今、開発中の魔具の参考にもなると思いますので……どんな魔物と出会ったのかお伺いしたいです」
「な、なるほど……」
「ポル先輩もそれでいいですね?」
「は~い。いいですよ~」
「と、いうことです。お願いします。ポートマルリンカー先輩!」
「は、はい。それじゃあ……私の出会った魔物のお話を……します。といっても、ほとんど分からないことばかりでしたが……」
私はそう前置きをして、話を始めた。
私はこの夏からの出来事を思い出していた。
思えば、いろんなことがあったなぁ……。
でも、その全部を話せるわけじゃないし、話せないこともある。
私は、出会った魔物の特徴だけを話すことにした。
初めは試験の時のこと、そして北部魔界で出会った魔物のこと……。
続いて、南部魔界、東部魔界……。
もちろん、悪魔やマンダリアンさんのことは伏せた。
あとは、ゴーレムのこと、そして一応熊と透明な魔物のことも話さなかった。
お話が進むにつれて二人の表情はどんどん険しくなっていった。
そして、最後はぽかんとした表情のまま二人は固まってしまった。
「い、以上です……ご清聴ありがとうございました」
私がそう言うと、二人は呆然としたまま拍手をしていた。
「えっと……それってホントの話ですか?」
ミクさんがそう言った。
「し、信じられないとおもうけども……本当の出来事です。私も……夢だったんじゃないかって思う」
「本当だとしたら……良く生きて戻れましたね……」
「そ、それは……運がよかったんだと思う。それにモリー様がいてくれたのがとても大きいかなって思うかも……」
「その……モリー様って人はそんなにやり手の冒険者なのですか?私、冒険者については詳しいつもりでしたが……その人のことは……」
「も、モリー様は補助魔術師で、臨時雇いの活動が多かったそうだから……」
「なるほど。固定のPTを持っていなかったのですね」
「う、うん。で、でも……リカオンで活躍していたから……それで私たちも知った感じで……」
「リカオン!そう言えば、四人いましたね。その最後の一人がモリー様なのですね」
「そ、そうなの」
「言われてみれば、そうですよね。リカオンは、他のお三方の経歴が目立ちすぎているので……それで見逃してしまっていたのかもしれません。お話の通りなら、そのモリー様は相当の実力者ですね」
「う、うん……モリー様はすごい人だよ」
「その火の魔術……気になりますね……あの、先輩……」
「ちょーっとまって!」
ミクさんの言葉を、今度はポールスティンさんが遮った。
「ポートマルリンカーさん?気をつけてね?なんだかんだ言ってるけども、ミクちゃんも相当な犬だからね?付き合っていたら日が暮れるよ?」
「んな?!い、意趣返しもつもりですか?!ポル先輩!」
「まぁね~?やられた以上は、ミクちゃんも他人のこと言えないんだぞって言っとかないとね~」
「む……これは一本取られた、と言うことにしておきましょうか」
「そうしましょ~!で、どうする?」
「ううむ……そうですね。先ほどのお話は……気になることも、疑問も、多すぎて……正直まだ頭の整理がついていません」
「私も!想像以上の以上だった!」
「ええ、同感です。これは少々時間がかかりますね……」
ミクさんはそう言うと、ううむと考えこんでしまった。
そうして、少し悩んだ後に、ミクさんは言った。
「ポル先輩、ここは先に、ポートマルリンカー先輩に見てもらいませんか?」
「うん!それがいいかもね!」
「ですね!そうしましょう!」
二人はそう言うとこっちを見て言った。
「ポートマルリンカー先輩、私たちは今、コンペンションに向けて魔具の作成をしているんです」
「こ、コンペンション?」
「そう!二年に一度開催される魔具のお祭り。アルボリクラフトワークス!」
「魔具の祭典は3つあります。その中で我々のような学生でも出展できる可能性があるのがこのお祭りなんです」
「そこにど~んとすごい魔具を出展して、一気に目立っちゃおうってことなんだよね!」
「ナオ先輩はそこで自分の技術を売り込んで、魔具職人との人脈を築こうとしているのです」
「でも、そのためにはまずは出展資格を得ないといけないんだよね~」
「しゅ、出展資格って?」
「はい。必要なものが5つあります」
「こ~れが結構大変なんだよ~」
「まずは出展の許可です。これは今ナオ先輩が先生を説得しています」
「ついでに二つ目の推薦人のお願いもしてるんだよね~。未成年だけでは、出せないからね」
「三つ目はもちろん出展物です。これは審査もあり、認められた物でないといけません」
「中途半端なものは出せないんだよね~」
「この審査がかなり厳しいです。出展物の9割はここで落とされます」
「それに合格できたら、やっと出展資格証がもらえて~」
「出展のコンペンションの代表者を一名選出しないといけません」
「その代表者も大変なんだよね~。ま、ナオちゃんなんだけど」
「代表者になるには条件があって、コンペンションの事前会議に参加できて、前日の会場準備と、当日の接客と実演もしないといけません。それに数名の人員を配置する義務もあります」
「大変なんだよね~」
二人の話を聞いて、私は頷いた。
「許可と推薦と成果物と出展資格証と代表者……が必要なんだね?」
「そう!もう嫌になっちゃうよね!出すだけでどれだけ条件があるの?!って感じ!」
「しかし、結局のところ重要なのは一つです」
「う、うん……成果物だね」
「そのと~り!」
「先生たちも唸るような物を作れさえすれば……許可も推薦もついでに審査にも合格できます」
「そうなれば、あとは人がいればOKだからね!」
「というわけで、今、我々は冒険に使える魔具の開発を目指しています。もちろん実用化が最終目標です」
「な、なるほど……」
「そして、今!コンペンション用の試作品が3つあります。それをポートマルリンカー先輩に見て貰いたいんです。そして、本物の魔物を見て来た、ポートマルリンカー先輩の率直な意見をお伺いしたいです」
「う、うん……わたしでよければ……」
私がそう言うと、二人はすごく喜んでいた。
そして、いそいそと準備がはじめられた。
テーブルと椅子が片付けられる。
私も立ち上がろうとしたら、制止された。
「ポートマルリンカー先輩はそのままでお願いします」
ミクさんはそう言うと、私の目の前に、うすい鉄板を置き、その四隅に台座のような正方形の塊を置いた。
その正方形の塊の上に、ミクさんは厚みのある木の板を置いた。
「さて、今お見せできる試作品は三つあります。まずはこれです!」
ミクさんはそう言うと、筒状の魔具を取り出した。
両掌に乗るくらいの大きさで、筒の上部には魔石が埋め込まれている。
見た目は万華鏡に似ているけども、お尻の方にはボタンが付いていて、先端は少し広いラッパ口のようになっていた。
「では、ご覧ください」
ミクさんはそう言うと、魔具に魔力を込め始めた。
筒の上部の魔石が輝き始めたかと思うと、ミクさんは筒のボタンを押した。
すると、ぽんという破裂音と共に、筒から黒い塊が放出された。
黒い塊は敷かれた合板の上まで飛ぶと、ぱちりと白い閃光を放った。
その瞬間、吸い込まれるように黒い塊は落下し、木の板に突き刺さった。
「うわ……すごい!」
私は板に刺さった物を見た。
それは網だった。
漁師の投げ網のような網。
「成功だね!」
ポールスティンさんが嬉しそうにそう言った。
「はい。うまくいきました!」
ミクさんはそう言って、私の方を見た。
「ポートマルリンカー先輩……どうですか?」
「すごい……こ、これはどういうものなの?」
「はい。これは魔物の捕獲を目的とした魔具です」
「捕獲?」
「そうです。この筒の中にこの網が入っています。筒についた魔石に魔力を込めると、風の魔力に変換され、ボタンを押すことで圧縮された風を破裂させて網を飛ばします」
「網の端っこには矢じりみたいなものが付いていてね~それはなんと魔石を加工したものなんだよ」
「筒に魔力を込めると、矢じりの方にも魔力が行きます。矢じりは魔力を雷に変換させます。そこから発せられる磁力により地面に突き刺さり、その後、抜けないようにかえしのような形状に変化するようになっています」
「す、すごい!そんな仕掛けができるの?!」
「はい!これを実現するのはかなり苦労しました」
私は……正直言うとかなり驚いていた。
かなり複雑なことを実現している。
技術力は予想以上に高いって思った。
「ぜ、全部……三人で作ったの?」
「網以外は作りました」
「す、すごい……よく見てもいい?」
「ええ、どうぞ!」
私は近くに寄って網を観察した。
網は金属製で強度はあるように見えた。
イヅナちゃんでも切れるかどうか。
保持力はどれほどだろうか?と思って、網を引っ張ってみる。
もちろん私の力ではびくともしなかった。
「刺さってるところも見せて差し上げましょ~う」
ポールスティンさんはそう言うと、軽々しく木の板を持ち上げてくれた。
木の板に矢じりのようなものが刺さっているのが良く見えた。
その矢じりの両端には、駆動する部分が有り、すこし広がっているのが見えた。
「どうですか?」
ミクさんが伺うようにそう言った。
少し心配そうだった。
「そ、そうだね……すごくよく出来てると思う」
「ですよね!やっぱり!」
ミクさんは嬉しそうにしていた。
でも、ポールスティンさんは首をかしげていた。
「ポートマルリンカーさん?」
「え?は、はい……」
「率直な意見を聞きたいな~なんて、思うんだけども……」
「そ、率直な意見?」
「そう。どう思う?魔物を見て来たポートマルリンカーさんから見て……さ」
「そ、それは……どういう意味?」
「う~ん……ナオちゃんから聞いてると思うけども、私たちの目標は実用化なんだ」
「ポ……ポールスティンさんは……」
「ポーちゃんだよ?」
「ぽ、ポーちゃんは……どうしてそんな質問をするの?」
「実験だけでは意味がない。実践して初めて意味がある……てね、私のお爺ちゃんの言葉なの」
「ポーちゃんのお爺さんは……研究者なの?」
「そう!科学者だったんだよ。研究所で起こることは自然でも起きるんだー!って色々んなところに行ってたよ。それで実験中に死んじゃったんだけどね」
「そ、そうなんだ……すごいね」
「そうでしょう?面白いお爺ちゃんで大好きだったよ。だからね、お爺ちゃんに倣って私も同じ考えをしているのです。だけどね……」
「こ、これは実践はできないね」
「そうなの!」
「待ってください。実践はしたじゃないですか」
ミクさんがそう言った。
「ん~……まぁねぇ?」
ポールスティンさんは首を傾げた。
「え?!実践したの?」
「うん。研究課程の先生に手伝ってもらってね~」
「研究……大学部ってこと?それってもしかしてドルビレイ先生?」
「あ~いやぁ……実はわたくしお兄ちゃんがいまして」
「お、お兄ちゃん?」
「そう!アルコル校のほうにいるのですが……そこでね、ちょっと……ね?」
「そ、それって……学校の先生は知ってるの?」
「ん~?まぁ、そこはねぇ?だからね?まぁ……実験結果としては報告などはできないのですのですよねぇ……」
「か、勝手にやっちゃったんだね……」
「そんなことはいいんです!重要なのは!捕えれたってことですよ!」
ミクさんがそう言った。
「つ、捕まえれたの?」
「デスウサギを捕まえました。と、言っても眠っているものでしたが……」
「眠っている……そ、それはどこで実験したの?」
「アルコル校のグランドでやりました。この魔具の懸念点は地面に含まれる鉄分で吸着できるのか?というところでしたけども……」
「そこはうまくいったね。ちょっと、遅かったけどもね~」
「鉄板に比べれば……それはそうですしたけども……でも、想定内ではありました。正常に作動もしましたし、そこは問題無いかと思います」
「そうだね~。でもね~」
「捕獲の後、起こして検証した時も強度的には問題なかったですよね?」
「ん~それもそうなんだけどね~なんにせよね~大丈夫かなっておもってね~」
ポールスティンさんは言った。
「だからね、本物を見たポートマルリンカーさんに意見が欲しいの。これ、使えると思う?」
「そ、そういう視点で見るなら……一度、それを見せて貰ってもいいかな?」
「も、もちろんです!」
ミクさんは持っている筒を私に手渡した。
私は筒を持って、魔力を込めてみる。
「これは……」
私は思案した。
そして、言った。
「網を打った後はどうするの?」
私がそう訊ねると、ミクさんがポールスティンさんに目くばせした。
「ポル先輩!お願いします!」
「はいはい~」
ミクさんに言われて、ポールスティンさんは木の板から網を引き抜いた。
かなり力技に見えた。
「そ、それって力で抜くの?」
「そうだね!それしかないね~」
「そこは懸念点ではあります。しかし、冒険者なら問題は無いかと思います。私たちの中で抜けるのは馬鹿力のポル先輩だけということですから……」
「ちょっと?いま馬鹿力って言った?!乙女力って言ってくれる?!」
「それってなんですか?変な言葉使わないでください」
「言葉は作れるの!それが美しいところなんだから!」
「よく分かりませんが、早く再装填してください」
ミクさんはそう言って、ポールスティンさんを急かした。
ポールスティンさんは不服そうに網を器用に丸めて、筒に入れなおした。
「はい、これで大丈夫。もう一発行けるよ?ポートマルリンカーさん」
「あ、ありがとう……でも、その必要はないかも……」
「え?!もう、何かわかったんですか?!」
ミクさんは驚いていた。
「う、うん……残念だけど、これは実用性は無いかも」
私がそう言うと、ミクさんは少しだけむっとした。
「改良の余地があるのはわかります。でも、使いもせずに……分かるんですか?」
「え、えっと……そのぉ……」
「ポートマルリンカーさん!遠慮は無しで!」
ポールスティンさんが力強くそう言った。
「え……」
「ポートマルリンカー先輩!大丈夫です。お願いします」
ミクさんもそう言ってくれた。
私も腹をくくって、思ったことを言うことにした。
「え、えっと……本当に申し訳ないけども、これの実用性はあんまりないかもしれない……」
「再使用に改善点があるのは分かっています。しかし、機能的には……」
「あ、あのね?えっと……多分機能の方もあんまりかもしれないんだ」
「どうしてですか?!」
「魔界に出て驚いたことはいっぱいあるけども……一番は驚いたのは魔物の力なんだ」
「力?」
「う、うん……試験の時もそうだけど、本物の魔物の力は想像を超えていたんだ」
「魔界の魔物は……そんなに違うんですか?」
「うん。全く違うよ。これはモリー様も言っていたんだけども、ギルドの試験で戦った魔物と実物は全然違ったって言ってた」
「そうなんですか……」
「ドルビレイ先生も言ってたけども、人間界に魔物を入れるのは、条件がとても厳しいの。まず万全の状態の魔物は連れてこれないんだって。弱らせたり、それこそ死にかけている個体だったり、老齢か子供の個体以外は人間界に連れてこれないって言ってた」
「それは……そうかもですが……そんなに違うものですか?」
「私も実習とかでデスウサギなら何度か見たことがあったけども……魔界にいるそれは全く違う生き物だったよ」
「ど、どう違うのですか?!」
「まず大きさが違うよ。デスウサギは成体のウサギより一回りは大きいの。だから、まずこの網の大きさでは入らないかな」
「そ、そんなに大きいんですか?!」
「うん。それに素早さも違う。デスウサギが後ろ足を蹴ったら目で追うこともできない速度になる。だから、射出されてから……ううん、網が落下を始めてからでも悠々と躱されると思う」
私がそう言うと、ミクさんは目を伏せた。
あっ……しまった、って思った。
その時、ポールスティンさんが私の肩に手を置いた。
「それで?他には?」
「え?う、うん……あ、あのね……」
「遠慮なしでいいよ」
「う、うん……あ、あとは力も違う。ポーちゃんが力持ちとはいえ、人間の力で抜けるくらいなら……魔物なら簡単に抜け出せると思う」
「そんなに強いの?」
「う、うん!だって、一瞬で木よりも高く跳ぶんだもん!モリー様もデスウサギの前には無防備で立ってはいけないって言ってた」
「ふぅん?そうなんだ。他には?」
「そ、そうだね……構造的にも問題があると思う」
「構造?」
「こ、この魔具って……射出するのにちょっとコツがいるんじゃないかな?」
「え?どういうこと?」
「さっきね、少しだけ魔力を入れてみたの。そしたらね、ここの魔石の色が青くなったんだ」
「ポートマルリンカーさんは水属性だっけ?」
「う、うん。そうなんだ。さっきの説明だと、射出は風の魔力って言ってたよね?ということは……この魔具には色のついてない魔力を入れないといけないってことだよね?」
「そうだね」
「そ、それはね。この学校の生徒なら簡単にできるけども、冒険者には難しいことだと思う」
「そうなの?!」
「う、うん。魔力の制御はあまり関心ない人が多いかな」
「そうなんだ……」
「う、うん。だから、まず、これを使用すること自体が、大抵の冒険者には難しいことだと思う」
私がそう言うと、ミクさんはうぐぐと悔しそうにした。
そして、すぐにミクさんはため息を吐いた。
「あ、あの……ご、ごめんなさい。で、でも、これを作れる技術はすごいと思うし……」
「大丈夫です。お気になさらず」
ミクさんはそう言って、んん~と思いっきり伸びをした。
そして、自分の両頬を叩いた。
「よし!切り替えました!大丈夫です」
ミクさんはそう言うと、私に詰め寄り、両手で私の両肩を掴んだ。
「申し訳ございません、ポートマルリンカー先輩!私はあなたを侮っていました」
ミクさんは目を見開いて、怖い顔でそう言った。
「あ、う、す、すみません……」
「謝らないでください。あなたが本物だと言うことが分かりました。それが一番重要です」
「あ、えっと……」
「今回の件は……確かに、ショックではあります。正直、完成度が高いと思っていましたし、製品化もできる自信がありました。それをここまでコテンパンとは……恐れ入りました」
「うっ……あ、あの……す、すみま……」
「謝らないでください!逆に言えば!ですよ?!あなたの経験は他にはない武器です。あなたの知識と経験があれば……より実用的で素晴らしいものができるということ!数多いるライバルを、我々は確実に出し抜けるということです!」
「そ、そうでしょうか……?」
「そうです!そうじゃないと困ります!頑張ってくださらないと困るんです!」
「うっ……が、がんばります……」
「はい!では……一応他のも見てください!そのうえでまたご意見いただければと思います!」
ミクさんは目を血走らせながらそう言った。
その迫力は……デスウサギ以上だった。
「わ、わかりました……が、頑張ります……」
私は苦笑いしながらそう言った。




