夢と、酔っぱらいと、うるせー奴
「ああ、本当においしいお酒……」
校長先生は吐息を吐くようにそう言った。
「楽しく飲めたら何よりでしたのにね」
「すみません」
俺は校長先生に謝った。
「モリーさんのせいではありませんわ。わたくしのせいです」
「まさか。俺のせいですよ。俺がもっと立派な大人ならこんなことにはならなかったでしょう?」
「そう……かもしれませんわね」
「だから、あなたが俺のところに来たんでしょうからね」
「すみません……本当に……そんなつもりでは……」
「ははは……いや、謝るのはやっぱり俺の方ですよ。すみません。嫌味ったらしいですよね」
俺はそう言うと、グラスに入ったワインを飲み干した。
「ちょっと、酔っちゃって。愚痴っぽくなってしまったようです」
「いいえ……気にしておりませんわ」
「はは……ああ、ちょっと本当に変に酔ってしまったようです」
「そのようですわね。顔色が悪いですわ。せっかく良き日ですのに……」
「いえいえ。これは心配もあるからだと思います。面倒な連れが向こうにいるのでね」
「ああ、イヅナさんね?さきほど挨拶されましたわ。相変わらず元気でかわいらしい子でしたわ」
「あいつ……失礼はありませんでしたか?」
「ええ、すごくお行儀よくしておりましたよ?でも……ふふふ、ほっぺにソースがついていて思わず笑ってしまいました」
「食い意地だけはすごいんですよ、あいつら」
「いっぱい食べれるのは素晴らしいことですわ」
「あいつらは食いすぎですがね」
「ふふふ、ねぇ?モリーさん?」
「なんです?」
「あなたとのおしゃべりは楽しいです。だから……あの、よろしければ、またお話しませんか?」
「え?俺とですか?ええ、まぁ、俺でよければいくらでも」
「まぁ!本当ですか?とてもうれしいです。ねぇ、モリーさん。あなたはとてもいい人ですよ。だから、あなたは悪くないのです」
「そんな……。いえ、はい。ありがとうございます」
俺がそう言うと、先生はグラスを置いた。
「本当ですのよ?わたくし嘘はつきませんから」
「わかってますよ。どうです?もう一杯」
「残念ですが、わたくし、そろそろ学校に戻らねばなりません」
「そうですか」
「また、お逢いしましょう?お酒はその時までの楽しみにしておきますわ」
「ええ、はい。今日は楽しかったです。あなたとお話しできてよかった」
「ええ、わたくしもです。モリーさん。ほんとうに……今日は楽しかったです」
「そうですか。なら、よかった」
「ええ……では、さようならモリーさん。またお逢いする時まで……」
「ええ、また……夢の中で」
「ふふ。ええ、そうですわね。また夢の中でお逢いしましょう」
校長先生はそういうと、ぺこりとお辞儀をして、去って行った。
残された俺は、同じく残された瓶を持った。
そして、そのままグラスに注ぐこともせず、俺はワインを喉奥に流し込んだ。
瓶に残ったワインを飲み干して、俺はため息を吐いた。
けっこう残ってたな。
半分くらい残ってたか。
すきっ腹だから、だいぶ効くな。
俺はため息を吐く。
うっすらと、思っていた。
イナホが解散になったとして、仲間であるのは変わらないのだけども……。
でも、関係は希薄になるだろうと、そう思っていた。
いや、そうじゃないといけないって思ってた。
心のどこかでは、そう、思ってたんだ。
だけども、こう、周囲のきちんとした大人からまっすぐに関わるなと言われると……やっぱりちょっと辛いな。
ああ、駄目だ。
マジで悪酔いしてしまったようだ。
今のこの気分……久しぶりだな。
少し前まではよくこんな気分になっていた。
まだアルガートンたちと会う前の話だが……。
将来に対する不安で打ちのめされた夜は何度もあった。
最近は無かったけども……ついに来たか。
仕方ない。
いつかこうなるとは思っていた。
俺の根本は変わってない。
イナホは長い夢だったんだ。
夢から覚めればまた現実がやってくる。
これが俺の現実なんだ。
いや、でも……いいことじゃないか。
ドクダミちゃんにとっても、現実が戻って来たんだ。
才能のある女の子が、才能を認められて、伸ばせる環境に行く。
それ以上いいことは無いじゃないか。
「ま、一生会えないってわけじゃない」
そうだ。
時々会ってお茶するくらいでいいじゃないか。
なんか、近所に住んでるお兄さんって感じになれればそれが一番なんだ。
俺にとっても、あの子にとっても……そうなんだ。
「だいたい歳も離れすぎてるし、身分も違うし、もとより話すような子じゃなかったんだ」
俺はワインの瓶に手を伸ばす。
「だから、まぁ……あれだこれでいいんだこれで……」
俺はそんなことをぶつぶつ言いながらワインの瓶を傾けた。
瓶から滴るしずくを見て、俺は、はっとした。
「あー」
何やってんだ俺は。
さっき自分が飲み干したってことも、もう頭の中から抜けていた。
「効いてるな……これは……」
俺は頭を抱えて、ため息を吐いた。
「悪酔いですか?」
頭を抱えていると女の声がした。
え?と思った瞬間、女はどん!と音を立ててテーブルにワインの瓶を置いた。
「悪酔いした時は潰れてしまえば楽だそうですよ?」
「ステラ……お前、普段そんな飲み方してるの?」
「まさか。伝聞です。酔った人にはたくさん会ってきましたから」
「はは……裏通りには、俺みたいな酔っ払いはさぞ多いだろうな」
「毎晩ですよ。ええ、毎晩。あなたみたいなしみったれを見ます。ええ、それはもう、うんざりするほどですよ」
「もしかして、酔ってる?」
「少し飲みました。しかも、酔っ払いっていうのは無駄におしゃべりなのです。辟易しますよ」
そのようだなって思ったけども、口にはしなかった。
「はは……酔って、遊んだ後だろ?そりゃ面倒くさいだろうな」
「ですね。今のあなたなら仲良くなれると思いますよ?紹介しましょうか?」
「や、それは勘弁願うかな」
「そう、残念。せっかくお友達が増える機会でしたのに」
「友達って……もしかして聞いてた?」
「はぁ?何をです?」
「あっいやそれならいいんだ」
「ん~?あなたまたなにかしましたか?」
「やっちゃったかもな」
「なにを……」
「おい!お嬢ちゃん!」
ステラが何かを言いかけた時、背後から、今度は男の声がした。
誰の声かなんて、振り返って見るまでもない。
また、やかましい奴がやってきた。
「急にいなく……って!おい!旦那じゃねーか!おい!モリーの旦那!」
そう言って肩を叩いてきたのはウーティだった。
相変わらず騒がしい奴だ。
「よぉ」
「おいおい!でかい図体してどこに隠れてたんだよ!探したんだぜ?!やっと見つけたよ!」
「俺をか?」
「そうだよ!話を聞かせてもらうぜ?!いろいろよ!」
「いろいろって……」
「それは良いですわね」
ウーティに絡まれて困惑していたら、ステラがこくりと頷いた。
「お?!お嬢ちゃんもそう思う?!」
「思います」
「マジかよ!おい、どうしたの?今日はなんか話が分かるじゃん」
「今日は良き日ですから」
「確かにな!いい日だもんな!とくればだ。俺にも飲ませろよ」
ウーティはそう言うと、ステラが持ってきたワインをあけた。
「ていうか何?なんか二人仲良くない?え?どういうこと?」
「別に、仲良くなんてありませんわ」
ステラはそう言って微笑んだ。
「え?なに?え?マジでいい雰囲気じゃん」
「そんなことより、飲まないんですか?」
ステラはそう言うと、ウーティに空のグラスを渡した。
「おっ、悪いね」
「いえいえ。どうぞどうぞ」
ステラはウーティのグラスに並々とワインを注ぐ。
「おっとと、そんぐらいで大丈夫よ」
「あらそうですか?では、わたくしも」
ステラはそう言うと自分と、ついでに俺のグラスにもワインを注いだ。
「では、我々の再会に乾杯といきましょう」
「お!いいね!お嬢ちゃん今日はご機嫌じゃん!」
「ええ、良き日ですから。それでは、再会に」
「おう、かんぱーい!」
「かんぱい……」
俺は苦笑いしながら乾杯をした。
乾杯して、ワインを一口飲む。
「くぅ~!うまいね!こりゃ」
「そうですね。良いお酒です」
「いやぁ~、それにしてもこんなにいい酒をタダで飲めるなんて、女王様は太っ腹だ」
「そうですね。お酒だけじゃありませんよ?料理も一級品です」
「お?そうなの?大将探したり、お嬢ちゃん探したり、旦那探してたりしてたから、俺、まだなんも食えてないんだよな」
「あら?そうなのですか?では、何か取ってきますよ?何もなしで飲むのもさみしいでしょうからね」
「え?いいの?」
「ええ、いいですよ?探させてしまったお詫びも兼ねてね。今日の私はご機嫌なのでそれくらいしましょう」
「マジ?じゃあ、お言葉に甘えて、お願いしちゃおうかな?」
「承知いたしました。何か好き嫌いなどはありますか?」
「好き嫌いって……こんな場だぜ?そりゃ食いもんつったら肉一択でしょ?」
「なるほど。モリーさんは?」
「え?おれ?俺は……サンドイッチがあれば……」
「おい、旦那!こんなとこに来てもそれかぁ?!」
「いつも通りが一番落ち着くんだよ」
「はぁ~欲がないというか……向上心がねぇっていうのか……」
ウーティはそう言ってあきれていた。
「ふふふ、良いではありませんか。変わらないというのも素敵なことですよ?」
ステラはそう言うと、席から離れた。
「ま、適当に取ってきますよ。それでは……」
ステラはそう言って、つかつかと歩いて行った。
「お~う!お嬢ちゃん悪いね!できれば早く帰って来てよ!お腹ぺこぺこだからさ~!」
ウーティは笑いながらそう言った。
ステラは笑顔でひらひらと手を振って、去って行った。
俺は去って行くその背中を見て気が付いた。
あっそういうこと?
なんか、妙にやさしいと思ったら……そういうことね?
俺はステラの真意に気が付いて深くため息を吐いた。
「お?旦那、どうしたの?ま~た、ため息なんか吐いちゃってさ」
「いや?何でもないよ」
「なんだよ!あれ?そういえば……旦那、なんか雰囲気変わった?」
「俺が?そう見える?」
「おう。なんか……でかくなったじゃん」
「ははは……そうかな?」
「そうだよ。なに?ここに来てもしかしてかなり鍛えたりしてる?」
「いや、別にそんなことは無いよ」
「なにぃ?なんか怪しいぜ?おいおい、隠し事は無しで行こうぜ。なぁ、鍛えてんだろ?」
「鍛えてないよ。試しに、腕相撲でもしてみるか?」
「それは勘弁だ。あんたとはもう二度とやらねぇって決めてんだよ」
「国一番の腕相撲チャンピオンにそう言われるなんてな」
「あんたはしつこいからな。にしても……お嬢ちゃん遅いな」
「あいつは多分帰って来ないよ」
「ええ?!まじ?!」
「お前捨てられたんだよ」
「うそ?!ええ?!あんなに和やかだったのに?!」
「あからさまだと絡まれるから、演技するようになったんだな」
「巧妙すぎるだろ!おいおいなんだよ!せっかく、久しぶりに全員揃いそうなのによ」
「全員って……俺も含まれてんの?」
俺がそう言うと、ウーティは少しだけ真剣な顔をした。
「う~ん、そうだな。ま、少しだけマジメな話をするとだな。俺はさ……今の旦那ならいいって思うぜ?」
「昔だとダメだったか?」
「ああ。話にならなかったからな」
「そんな弱かったかな?」
「いや、そのまんまの意味だよ。話ができなかったっていうか……話す気無かったろ?」
「そうだったかな?」
「そう見えたね。興味なさそうな感じ。俺たちにも仕事にも……さ」
「そうか……それはすまなかった」
「謝んなくていいさ。て、いうか戻ってきてくれないとちょいと厳しい」
「ん?そうなの?」
「そうだよ!もうバイトはこりごりなんだよ!俺は冒険に出たいんだ!そのためならあんたでもなんでももういいんだよ!」
「ああ、そういうことか……それならわかるけども……。だけどさ、ウーティなら一人でも行けるだろ?」
「何?ひとりで冒険?それは嫌だ」
「え?どうして?」
「はぁ?危険だろ?」
「そ、そりゃ、そうだけど……お前の能力最強じゃん。一人でも十分行けるだろう?」
「おい、旦那。過信はいけねぇよ。俺も漁師の端くれだったんだ。それくらいはわかる。過信はダメだ」
ウーティは真剣な表情でそう言った。
思えば……こいつは確かに憶病なとこがある。
氷のソリに乗るのもビビってたしな。
でも……。
「過信ね……でも、ゲッコー行きは乗り気じゃなかった?」
「そりゃみんないたしな。昇格目前だし、行けるって思ったんだよ。だが、ひとりはダメだ。どんなに強い力を持っていようと所詮は人間だ。人一人の持つ力なんて大したことないんだよ」
「地上最強の男がそんなことを言うとはね」
「地上最強だから分かるんだよ。人間は脆い。俺から見たら大将なんて命知らずにしか見えねぇよ」
「そうなのか?」
「当たり前じゃん!あんな細い体で、風なんていうハズレ能力で魔物と戦うんだぞ?俺なら頼まれてもごめんだね」
「そうだな。いや……確かに、言われてみればそうだよな」
「そうだよ。なのに、一番向こう見ずだしさ。あんなん何個も命があっても足りねーぜ?」
「確かにその通りだ。あいつのあれはなんなんだろうな?頭のネジが取れちまってるのかな?」
「いや、恐らく大将も俺といっしょなんだ」
「あいつも仲間に頼ってたってことかな?」
「絶対それも目算には入ってただろうな。まぁ、俺から見たら正しいと思うよ。俺たちつえーからな。だけどさ、困ったことに、一番図体でかい奴が一番後ろにいるんだもんな~」
「悪かったよ……」
「へ!そう思うなら……なんかとって来てくれよ。腹減った」
「そのまま逃げちまっていい?」
「遅かったら魔術使ってでも連れ戻すぜ」
「俺にはどうしてそんなに強行派なんだよ」
「大将には勝てねぇ、お嬢ちゃんにも勝てねぇ、旦那は別だ」
「そんな分かりやすい理由なのかよ」
「あたりめーだろ!さ、取って来てくれよ。肉で頼むぜ!」
「はいはい、分かったよ」
俺は深くため息を吐いて、料理を取りに行った。
皿を三つもって、そこにありったけの肉料理とサンドイッチを乗せて戻った。
一抹の希望を抱いていたけども、席にはやっぱりウーティだけしかいなかった。
ステラは華麗に逃げ去ったようだ。
俺は肩を落とし、席に皿を置いて言った。
「やっぱ逃げられてたか」
「さすが、お嬢ちゃんは一筋縄じゃいかねーみてーだ。だが、次は逃がさねぇ」
「その執念はなんなんだ?」
「だって気になるじゃねーか!今日まで何してたとかさ」
「そうか。そんなもんか?」
「旦那は気になんねーの?」
「まぁ、ぶっちゃけいうと、ステラは最近よく話してるんだ」
「え?!なに?!マジで!?」
「いや、そういうんじゃなくて、魔法を教えてもらってるんだよ」
「あい?!なにそれ?!ちょい、おい旦那。とりあえず全部話してくれる?」
「全部って?」
「全部だよ。お嬢ちゃんの件もそうだけど、なんで手配されたのかとか!ニンフモクの話も!全部!」
「全部か……時間がそんなにあるわけじゃないからなぁ……」
「なに?忙しいの?」
「忙しくはないけどさ。爆弾を抱えてるんだよ。いろんな意味で」
「なぁ、そういう思わせぶりみたいな話し方やめてくんねー?バシッと結論を言ってくれ!」
「いや、ほらイヅナたちが向こうにいるからさ」
「あーそういうことか。でも、あんたんとこのお嬢ちゃんたちも少しは大人しくなったんじゃないのか?」
「いや、逆にどんどん活発になってる」
「おおう、それが若さか」
「いや、ほんと羨ましい限りだよ」
俺はそう言って、ため息を吐いた。
「とりあえずだな。俺たちはニンフモクに向けて旅立った」
俺はバシッとまとめて話をした。
まず結論から言うと、ウーティはうんうん頷いていた。
「ニンフモクに行こうとしたら、どこからかそれを聞きつけた女王様に呼ばれた」
「女王様の命令でニンフモクの霊薬を持ってくることになった」
「で、旅立ったけども、その馬車に女王様がこっそり乗りこんでて……」
「いろいろ事情があるから、俺が誘拐犯にされたってわけ」
俺の話をウーティはぽかんと口を開けて聞いていた。
で、ミハイルが来たこととか、でかい熊を倒した話とかをした。
「それマジ?」
「マジ」
俺はそう言うと、そのまま話をすべてした。
ステラのことも、ニンフモクで起こったことも、全部まとめて話した。
話を聞いて、ウーティは完全に固まってしまった。
「て、ことだ。そう言うことで、俺は一級手配されて、今日の式典に招待されて、ステラにも魔法を教えてもらってる」
「……何から行く?」
「できれば何もいかないでほしいな」
「そうもいかんな。なぁ、旦那。ほんとなのかよ?」
「どれが?まぁ、全部ほんとだけどもさ」
「じゃあ、ほんとにあんた、もう冒険に出れないのか?」
「それかよ。まぁ、そうだよ」
「どうすんの?これから」
「さぁ、なんかいい仕事ない?」
「いいのか?それで。諦めんのか?」
「え?」
「あんた、上位冒険者になりたかったんだろ?つーか、なれたじゃん。なのにさ、それでいいの?」
「それは……どうなんだろうな」
「どうって自分の事だろ?」
「そっちの方が分からん場合もあるだろ?ないか?」
「無いだろ。自分の事なんだから」
「あんたは迷ったりとかしないのか?」
「そりゃ俺にだって、悩みのひとつやふたつあるけどもだな。そんな重要な事を悩んだことはねぇよ」
「そうか……」
「旦那。その霊薬持ってんだろ?飲めよ」
「え?」
「大将には言っとくよ。飲んでさ、また冒険行こうぜ」
「いや、そんな簡単に言うけどもだな……」
「簡単だろ?何が難しいんだよ?水飲むだけだぜ?」
「いや、アルガートンがなんて言うか分からんし、それにステラもさ……」
「お嬢ちゃんなら大丈夫だよ。大将もな。俺にはわかるんだ」
「そう言われてもな」
「じゃあさ、仮にでいいけどさ。戻れるならそうするか?」
「リカオンに戻れる?」
「ああ、それなら飲むか?」
「……戻れるなら?」
リカオンに戻る?
俺が?
また四人で冒険に?
ウーティはいいって言ってる。
ステラはどうだろう?
許してくれるだろうか?
今の関係なら許してくれる可能性もあるか。
じゃあ、いけるのか?
でも、結局はリーダーの一存だ。
アルガートンがどういうかだけど……どういうんだ?
嫌だっていうのかな?それとも……いいっていうのかな?
もしも、アルガートンがまた一緒に冒険に出ようと言ったならば……俺は……。
「おい、旦那。仮の話だぜ?」
「え?わ、分かってるよ」
「なら、パッと答えろよ」
「いや、そんな……簡単じゃないだろ」
「簡単だろ。一番初めに浮かんだ言葉を言えよ」
「一番初めって……」
「どう思ったんだ?戻れるって聞いて」
「いや、そんな……現実的じゃないっていうか……急にそんなこと言われてもさ」
「急に?そんじゃあ、あんたさ、戻れるって今まで一度も考えなかったのか?イナホで一生いるって思ってたのかよ?」
「いや、それは無いし……まぁ、戻ることを考えなかったわけじゃないけども……」
「だろ?じゃあ、戻りたいってことじゃんか」
「え?」
「戻ること、考えたんだろ?じゃあ、そういうことじゃん」
「けど……ステラとか嫌な顔するぞ?絶対にさ。アルガートンも俺なんか……」
「おい。そんなの関係ねぇって!あんたがどうしたいかだ。言えよ」
「それは……それはぁ……」
「どうすんだよ?」
「戻れるなら……そりゃあ、戻りたいよ」
俺がそう言うと、ウーティはにやりと笑った。
「だろ?じゃあ、大将にも言っとくよ」
「いや、でも……無駄だよ。あいつはきっと……」
「言ってみねーと分かんねーだろ?だから、大将にも聞いてみるよ。それでいいだろ?」
「え?う~ん……まぁ、無理だとは思うけども……」
「よし!決まりな!もしも、大将がいいって言ったら飲めよ、霊薬」
「で、でも……俺、ライセンス剥奪されてるからさ」
「そんなもんどうとでもなるよ。分かったな!飲めよ!」
「うっ……あっ……とぉ…………マジで?」
「マジ!言ったからにはそうしろ!男だろ?二言はねぇよなぁ?」
「あ、ああ……う~ん……」
ま、マジか……。
マジでそうなったか。
なんかすごい力技で流された気がするが……。
でも、そうなっちまったようだ。
強引だけども……しかし、相手はウーティだ。
アルガートンはが「うん」と言えば、力づくでも飲まされるんだろうな。
「じゃ!そういうことで!」
ウーティはそう言って、上機嫌でワインを飲んだ。
どうやら……そう言うことになってしまったようだ。
とりあえず……飲もう。
先のことを考えてもしょうがない。
こういうときは、酔っぱらうのが一番だ。
ていうか、酔わせればこいつもこんなバカな約束を忘れるかもしれない。
そう思って俺はワインを飲んだ。
そして、持ってきた料理をつまみながら、俺とウーティはワインの瓶を一本開けた。
「もう一本行こうぜ」
ウーティはそう言ってもう一本ワインを持ってきた。
「いや、流石にきついだろ」
「あ?俺の酒が飲めねーのかよ。お嬢ちゃんのは飲めたのによ」
「なぁ、なんか俺たち会うたびにさ、こういう馬鹿な意地の張り合いしてない?」
「奇遇だな。俺も同じこと思ってた」
「でさ、いつも共倒れになるじゃん?」
「旦那とはそういう運命だな」
「いや、お前が巻き込んでるんだよ。やめてくれ」
「やめれねぇ。俺はどっちかっていうと負けてる気がしてるんでな」
「船ではそっちが勝ったろ?」
「その後の腕相撲が衝撃的すぎて覚えてねぇよ」
「なぁ、やめないか?いい大人じゃないか」
「あんたからそんな台詞は聞きたくねぇな」
ドクダミちゃん……。
俺は心の中で祈った。
後は頼んだ。
俺は……ダメになるから……後は君に託す。
さぁ、覚悟するか。前後不覚を。
記憶が飛ぶまで行くしかない。
あとは俺の善性を信じる。
どうにか、不敬罪にだけはならないことを祈ろう。
「覚悟は決まったか?」
「ああ、とことん行こう」
「そうこなくっちゃな。そんじゃ、旦那の復帰の前祝いだ」
「そうなることを祈るよ」
俺はそう言って、再びウーティと乾杯をした。
ワインを飲む。
もうふらふらしてきた。
黙ってたら意識を失いそうだ。
「なぁ、お前の方はどうなんだ?」
俺は首をふらつかせながらそう言った。
「あ?俺?」
ウーティも首がふらついていた。
「そうだよ。俺の話ばっかりしたけども、そっちはどうなんだよ」
「俺は変われねぇよ。バイトしたり、筋トレしたりだ」
「なんかさ、ポッポがリカオン復活するって聞いたって言ってたぞ」
「なにそれ?そんな話あんの?」
「ステラも聞いてないって言ってたけど、ポッポはアルガートンから聞いたとか言ってたぞ?」
「俺も聞いてねぇ。なんで、ポッポ屋さんに言ってんだ?あの放浪大将はよぉ」
「分からん。てか、あいつは今どこにいるんだ?」
「ここに来るまでは一緒だったけども、いつの間にかいなくなてった」
「そうなのか。まぁ、いつも通りだな」
「そうなんだよ。なんか、でも、最近怪しいんだよな」
「怪しい?」
「なんかやってんだよ、あいつ。こそこそなんかさ」
「なんかってなんだ?」
「あ~多分、俺の読みなら、あれはコソ練だな」
「コソ連?」
「修行だよ。大将って白鳥タイプだから。努力とか見せないようにするじゃん」
「それは分かる。けど、修業って……あいつあれ以上強くなろうとしてんのか?」
「だよなぁ。十分強いよな。ま、なにか考えがあるんだろうぜ」
「そうなのかな?」
「考えてるって。そう思わないと付き合い切れんからな」
「願望込みか。そう言うのも分かる」
「だろ?だからさ、戻って来てくれ、旦那。俺一人では、もう相手しきれねぇよ」
「ステラがいるだろ」
「わかって言ってるだろ。お嬢ちゃんが助け船出してくれるわけねぇって」
「まぁ、分かって言った。けどさ、俺も頼られても困る」
「いてくれるだけでいいんだよ~」
「ごつい男が泣きつくなよ。気持ちわりぃな」
「優しくしてくれよ~俺も大変なんだよ~」
「どう大変なんだよ」
「バイト生活も飽きてきたんだよ。だいたい雑用ばっかだしさぁ。俺は魔界に行きたいんだよ」
「あー南部魔界みたいなやつないのか?」
「あんないい仕事、そうそうないって」
「ドルビレイ先生に頼んでみたらいいじゃん」
「先生なぁ~。マジで帰ってきてほしいよ。いい人だったのにさ」
「帰ってって?先生どっか行ってんの?」
「あ?先生はもうテンに帰ったよ」
「テンニ?ってどこ?」
「天だよ、天。雲の上」
「は?」
「ん?なんだ聞いてねぇの?ドルビレイ先生は死んじまったよ」
その一言で、俺の悪酔いが一気に醒めていった。




