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夢で逢って以来ですわね

「メイドさんに呼ばれて、女王様の前に行ったんです!」


イヅナは女王様とお話したときのことを語った。


メイドさんに呼ばれて、三人で女王様の前まで……。


階段前で順番待ちをしている時、ものすごく緊張してしまったらしい。


そして、いざ自分たちの番になり……玉座の前まで行き、女王様の前に立った。


先頭にいたイヅナは、女王様の前に立つなり……目の前にいる女王様の姿に、見惚れてしまったそうだ。


イヅナはぽかんと口を開けたまま動けなくなってしまった。


それを見て、女王様はクククと笑ったそうだ。


「流石は……唯一、我が友人として呼んだ者だ。一味違うな」


女王様はそう言って嬉しそうに笑っていたそうだ。


周囲にいた人たちも、立ち尽くすイヅナを見ていたのだが、陛下の一言で、皆もクスクスと笑ったそうだ。


「みんなに笑われて、めちゃくちゃ恥ずかしかったです!」


恥ずかしいなんて言ってるけども……イヅナはなんだか嬉しそうだった。


で、その後は……ドクダミちゃんに教わって、きちんとしたお作法で、お行儀よく、お話をしたらしい。


お話自体は大したことのない普通の会話だったそうだ。


「そういえば、モリー様に伝言を頼まれました」


「え?伝言って……女王様が?俺に?」


「ええ、そうです。完璧な余の顔に……見惚れたのならば誇ってよい。だ、そうです」


「ははは……なんだそりゃあ。褒めてるのか?それは……」


「でも、下民を褒めたのは初めてだって言ってましたよ!」


「ああ、そうか……。そりゃあ、身に余る光栄だな」



女王陛下から直接そんなお言葉を頂けるなんてな。


来てよかったよ、本当に。


俺はそう言ってため息を吐いた。


背負っていた肩の荷が……ひとつ降りたような気分だった。



茶菓子をつまみながら、三人と話をしていると、扉をノックされた。


はい、と返事すると、扉が開き、メイドが顔を出した。


会場まで案内してくれたフブールさんだ。


狐顔の美人なメイドだ。


「お待たせいたしました~。お食事の御準備ができましたので、会場までご案内いたします~」


涙声でメイドがそう言った。


フブールさんはハンカチで目元を拭きながら、鼻をたらしていた。


どうやら感極まっているご様子だ……。


まぁ……今日までいろいろ大変だったんだろうなぁ……て、そう思った。


俺たちは涙目のメイドに連れられて、待機室を後にした。



「はい。到着いたしました……」


フブールさんに連れてこられたのは長い廊下の前だった。


「通路の先が会場になっておりますぅ……」


フブールさんは鼻をすすりながら言った。


「会場は立食形式になっておりますのでぇ~。席などはご自由にお使いください」


フブールさんはそう言うと、涙をぬぐい、鼻をかんだ。


「あ……ありがとうございます……」


俺は苦笑いしながらそう言った。


「あっ、そうだ。これどうぞ」


フブールさんは俺たちに小さな鷹の形をしたバッジを渡した。


「それを付けていれば、会場に入れます。ちなみに、会場はふたつありまして……それがあれば両方行ったり来たりできますのでぇ~」


「いったり……きたり……」


「はいぃ……どうぞ、おくつろぎください~……」


フブールさんはそう言うと、ぺこりとお辞儀をして去って行った。


去り際に、思い出したかのように、ヨヨヨと泣いていた。



「……なんか大変そうだな」


「それだけ戴冠式が感動的だったのでしょうね!」


「まぁ……いい式ではあったよな。女王様……存在感すごかったし」


「ですね!ちなみに、モリー様は体感してないでしょうけども、目の前にいるともっとすごかったですよ!」


「そうだろうな。貴重な機会を逃してしまった」


「一生に一度でしたね!これに懲りたら……」


「ああ、日頃の行いを改めることにするよ」


俺はそう言って、ため息を吐いた。



長い通路を歩いて行くと、突き当りにでっかい赤い扉が見えた。


その前には黒服を着た、いかつい男が二人立っていた。


扉の前は通路になっていて、ドレスを着た人々が行き来していた。


皆、気品のある人々だった。


その人たちも俺たちと同じく胸や襟にバッジをつけていた。


来客たちは門の前の黒服にそのバッジを見せて会釈をしていた。


すると、黒服は頭を下げて扉を開いていた。


……なるほど、ああすればいいのね。


正直言えば、かなり助かるね、こりゃあ。


残念ながら、俺はこういうところの作法なんて何にも知らないからな。


ドクダミちゃんならわかるかもだろうけども……しかし、俺もいい大人。


年端もいかない少女に頼りっぱなしってのはいけない。


ここは俺が先導しなければ……年長者として……そして、立派ないち大人として!


ということで、俺は深呼吸をすると胸を張った。


そして、流れるような自然な所作で、胸元に、貰ったバッジを付けた。


顎を引いて、視線をまっすぐに保つ。


できるだけ余裕のある表情で……何も緊張などしていない風を装った。


そして、まるで、いつもの馴染みの店で、店員に挨拶するかのように俺は門の前の黒服に会釈をした。



いった……!


確かに、手ごたえがあった。


かなり自然で、そして滑らかな作法だった。


実に自然で……想像した通りだ。


ここにいるにふさわしい人物としての所作ができた。


久しぶりに自分を誇りたくなるような気分だ。


これなら何も……。


問題ないって思ったんだけども……何か変だ。


黒服たちが……俺の顔を見て動かない。


あ、あれ?


悪寒が走った。


いや、落ち着け、大丈夫だ。


俺は正式な招待客だし……バッジもある。


きちんと案内もされたし……そりゃあ、戴冠式には出れなかったけども、ここは、いてもいいってあの暗殺者みたいな爺さんも言ってたし……。


も、問題ない……よな?


俺はできるだけ、ポーカーフェイスを保った。


しかし、黒服たちは動かなかった。


俺は、試しに咳ばらいをしてみた。


そして、胸を張ってバッジを強調してみた。


しかし、黒服は動かない。


な、なんだ?!なぜ動かない?


あれか……合言葉とか……いるのか?


だけど、フブールさんはそんなこと言ってなかったしな……。


どうする?山勘でなにかを言ってみるか?


いや、でも、不審な行動は控えた方がいいよな?


なんて、いろいろ逡巡していると……黒服が俺の二の腕を叩いた。


「おい、あんた……まさかモリーか?」


黒服が小声でそう言った。


「え?は、はい。そうですけども……」


俺がそう答えると、黒服が俺をじっと見つめた。


「な、なんでしょ……」


「おい、俺だよ。覚えてないか?」


黒服はそう言うと自分の顔を指さした。


え?と、思って、黒服の方に視線を向けた。


そこにいたのはドレッドがびしっと決まった……いかつい男……。


その顔には見覚えがあった。


「あ……あんたは確か……」


「お、覚えてるかい?ジェイコブだ」


黒服がそう言った。


ジェイコブ……覚えている。


ギルドの門番だ。


俺は、はっとしてもう一人の方も見てみた。


そっちに立っていたのは長い金髪を後ろで結んだ、色男。


こっちの男も見たことがある。


ジャスティンだ。


このふたりは並んで……ギルドの管理室の門番をしていた。


俺たちがダリア・ランタァナ・ジュリエッタを倒した時、こいつらの案内であいつのところまで行った。


冒険者ギルドのレアドロップ管理官である……クロックノッカーの部屋まで……。


「あんたら……ギルドであった人だな?」


「ヨオ!そうだ。覚えててくれたのかい?嬉しいよ」


ジェイコブはそう言って、ヨォと手のひらを見せた。


俺も、手のひらを見せ、ジェイコブとタッチし、そのままジェイコブと握手を交わした。



「あんたら、やっぱタダもんじゃないな。こんなとこまでくるなんてさ。俺の見る目は間違ってなかったってわけだ」


ジェイコブは嬉しそうにそう言った。


「ああ……いや、何の因果か流れ流れてこんなとこまで来てしまった」


「運がよかったって言いたいのか?謙遜するなよ。ここにはAランクかそれに準ずる冒険者しか来れないんだぜ?そういうことだろ?」


「そ、そうかな?」


「ははぁ!隠すなよ!初冒険でダリア・ランタァナ・ジュリエッタをぶっ倒すような奴らだ。今度は何をやらかしたんだ?」


「いやぁ……それはちょっと言えないっていうか……」


「言えない?!いいねぇ……なぁ、俺の名刺、この間渡したよな?まだ持ってるかい?」


ジェイコブがそう言うと、隣に立っていたジャステインがこちらを睨んだ。


「おい。いい加減にしろ」


「お~、怖い」


ジェイコブはそう言うと、ぱっぱと手を振った。


「堅物の相方がいるからさ。ここまでにしとくよ。怒られてもヤダしな」


ジェイコブは言った。


「なぁ、何かあったらマジで連絡頼むぜ?力になるよ」


「ああ、ありがとう」


……名刺か。


荷物にぶち込んだ覚えがある。


どこかにあった……かな。


家に帰ったら探してみようか。


そんなことを考えていると、ジェイコブは扉に手をかけた。


ジャスティンも同じように手をかけ、二人は息を合わせて扉を開いた。


「ウェルカム。どうぞ楽しんでくれ」


ジェイコブはにやりと笑ってそう言った。


「なぁ……あんたら何者なんだ?」


「俺たちか?まぁ、元流れの冒険者さ。残念だが、そこのところは話すと長くなる」


「そっか……ありがとう」


俺はそう言うと、二人に会釈をして会場に入った。



「お嬢ちゃんたちも、久しぶり」


「お久しぶりです!」


「おっちゃん、おひさ~」


「ど、どうもです……」


三人もジャスティンとジェイコブに挨拶をしていた。


「おいおい、まだおっちゃんなんて歳じゃねぇよ」


「そうなんや!」


「おう、案外若いんだぜ?」


「ほえ~、見えへんなぁ!」


「ははぁ!流石は大物だ。言うねぇ~!」


ジェイコブは何か通じるものがあったようで、レイシーとハイタッチをしていた。


よく分からんけども、なんかいろんな人と仲良くなるな、この子らは。


近所のおばさんだったり、黒服だったり、女王様だったり……さ。


三人は笑顔のジェイコブと、しかめっ面のジャスティンに挨拶をすると会場に入った。


俺たちが会場に入ると、二人はすぐに扉を閉めた。


扉が閉まると、急に音が聞こえて来た。


それは会場のざわめきだった。


扉が閉まるまで……気が付かなかった。


俺は思わず会場を見回した。


会場の中央には、長テーブルが向かい合って、いくつか置かれていた。


そのテーブルを挟んで、食事をしている人たちの姿が見えた。



「うわぁ、すごい!立食会ってこんな感じなんですね!」


イヅナがそう言った。


「いや、これは……違うぞ」


「え?!違うんですか?!」


「ああ、違う」


俺がそう言うと、イヅナはドクダミちゃんの方を見た。


「そうなの?!ドクダミちゃん!」


「そ、そうだね。あんまりこういうのは見ないかな」


「じゃあ、普通はどういうのなの?!」


「そ、そうだね。普通はちいさな丸いテーブルか、何も無いかだと思う。こ、この感じは……」


「ああ、これは冒険者流だ」


俺は言った。


「覚えてないか?ほら、ガリアダンジョンでもこんな感じだっただろう?」


俺がそう言うと、イヅナは、はっとしていた。


「ああ!確かに!言われてみればガリアの時と同じですね!」


「ああ、そうだ。まるっきり同じだな」


「それは……珍しいんですか?!」


「あーどうかな?お偉い人たちのことはよく分からんけども……珍しいんじゃないか?少なくとも俺は、ガリアか冒険者が集まるような店でしかこういう形はみたことないからな」


「そうなんですね!それってつまり……わたしたちへの敬意ですよね?!」


「はぁ?何言ってんだ?」


「わたしたちが来たからこういう風にしたんですよね!きっと!」


イヅナはそう言って、にこりと笑った。


こいつはすごいな。


世界の中心が自分だと本気で思っているようだ。


いや、思ってすらないか。


世界の中心だということを疑っていないようだ。


俺はため息を吐いた。


「ま、そうかもな」


俺は呆れて、そう言うほかなかった。



会場の両脇には豪華な料理が並んでいる。


色とりどりのサラダ、こんがり焼けたステーキに、海鮮いっぱいのパエリア。


瑞瑞しい色をしたフルーツに、つやつやしたケーキに、ふっくら焼かれたパン。


他にも見たことない料理や、家庭料理から、デスウサギを使った冒険者料理まである。


そのテーブルの周辺にはコックやメイドたちがいそいそと働いている。


そこから料理をとって……席で食えってことか。


長テーブルは会場に二列で、向かい合って並んでいる


広い会場の端まで伸びているが、最奥には小さなテーブルがいくつか並べられているように見えた。


長テーブルは縦に三つ並んでいて、その間には通路のように隙間があった。


そして、会場の真ん中、右側の壁にはこれまた大きな扉が合って、そこにも黒服が立っていた。


扉は開け放たれていて……向こう側が見えた。


向こうの会場は……どうやら小さな丸いテーブルが置かれている感じの立食会場のようだった。



テーブルを挟んで……キラキラした人たちが談笑している。


身分の高い方からしたらこの形式は珍しいだろうからな。


当然ながら子供を連れているのは俺だけだった。


さて……と。


俺は思案した。


せっかくの立食パーティだ。


ご厚意に甘えて……食事をいただくことにすべきなのだろう。


だが、さっきまで茶菓子をつまんでいたからか、腹はあんまり減っていない。


それなら……先に俺のやるべきことは……。


なんて考えていると、イヅナが俺のズボンを引っ張った。



「ん?なんだ?」


「モリー様!」


イヅナは俺の名前を呼んだ。


声が弾んでいた。


ちらりとイヅナの方を見てみると、目をらんらんと輝かせて……イヅナは涎を垂らしていた。


それだけで、何を言いたいのかは分かった。



「さっき、お菓子食べて……って、これは別腹だよな?」


「はい!もちろん!」


「別腹ってさ……飯とお菓子が逆でも有効なの?」


「知りません!しかし、お腹が減って仕方ないです!」


「そ、そうか……」


相変わらず……驚異的な食欲だな。


他の二人の方を見てみる。


レイシーもドクダミちゃんも、イヅナほどでは無いけども……確かに、期待に目を輝かせていた。


まるで餌を前にした犬だなって思った。



困ったな。


俺は会場を見回してみる。


ぱっと見ただけども、会場には顔見知りが何人かいるのが見えた。


金色の服を着たお嬢様やら……ド派手な夫人を連れた社長さんやら……駅員やらだ。


いろんな人がいる中……俺はコーマさんを見つけた。


コーマさんは会場の一番隅にある、小さな丸い席でワインを飲んでいた。


その向かいにはふくよかな軍服の女性が立っているのが見えた。


……決まりだな。



「なぁ、イヅナ」


俺は言った。


「俺はやるべきことがあるんだ」


俺がそう言うと、イヅナは一瞬だけ真剣な顔をした。


「おなか減ってないんですか?」


イヅナがそう言った。


少しだけ心配そうな声だった。


「減ってる。ま、適当につまむさ。それはそうとして……先に片付けておきたいやことがある」


「……分かりました」


イヅナは頷いた。


そして、また涎を垂らして言った。


「では、私たちは料理を食べています!」


俺は苦笑いして言った。


「ああ、いい子にしてるんだぞ?問題は絶対に起こすなよ?」


俺がそう言うと、三人は、はーいと返事をした。


そして、そのまま風のように料理に向かって、走って行った。


いつも、返事は良いんだよなぁ……。


次に三人と合流した時……どうなっちまっているのかな?


もしかしたら……会場にいるみんなと仲良くなってたり……しなよな、流石に。


でも、もしかしたらありえるかも、なんて……思った。


それか、みんなが引くくらいの大喧嘩するか……だな。


どっちにしろ……悠長に構えている暇はないようだ。


心配はあるが……俺も、そそくさと会場の隅に向かった。



「あ、どうも……コーマさん」


会場の隅で、飲んでいるコーマさんに挨拶をした。


「おう」


コーマさんはこっちをちらりと見て、短くそう言った。


「おや、モリーじゃないか」


一緒にテーブルにいたバレンタインさんも俺に気が付いたようだった。


「どうも、この間は……お世話になりました」


「無事抜けれたようだね」


「危機一髪でした」


俺が苦笑いしながらそう言った。


「モリー、お前もやれ」


コーマさんはそう言うと、テーブルに置いてあった空のグラスに酒を注いだ。


「おっ、ありがとうございます」


俺はグラスを受け取ると、コーマさんたちと乾杯をした。


「それで?話ってなんだ?」


コーマさんは、俺を睨んで、静かにそう言った。


俺は一応周辺に誰かいないか確認した。


「大丈夫だよ。こいつが怖い顔で睨むからここには誰も寄り付かないんだよ」


バレンタインさんはにやにやしながらそう言った。


そう言われて、コーマさんは不服そうな顔をしていた。


「ははは……ま、まぁ、話というのはですね……」


そして、俺はコーマさんに話をした。


あの軍の施設に忍び込んだ夜、バレンタインさんと話した内容を……。



「と、言うことなんですが……」


話を聞いてコーマさんはゆっくりとワインを飲んだ。


そして、グラスを置いて、深くため息を吐いた。


「モリー……お前……」


コーマさんが怖い顔で俺を睨んだ。


その威圧感に、思わず圧倒された。


「その話が本当なら……」


「え?は、はい……ほ、ほんとうなら……?」


「悪いが……ジョン・スミスは俺が殺すぜ」


静かに、コーマさんはそう言った。


しかし、その言葉の重み……まるで本当に抑えつけられてるかのようだった。


これがAランク冒険者の……凄みか……。


悪魔と並ぶくらいの圧だ。


「うっ……ど、どうしてです?きゅ、急に……」


「他人の家を勝手に使われたんだ。そういう無礼者は嫌いなんだよ」


「なるほど……。あの俺の分も……半分くらい残しといてくれませんか?」


俺がそう言うと、コーマさんは、ふっと笑って言った。


「2割だな」


「それで十分です」


俺はにやりと笑って、空いたコーマさんのグラスにワインを注いだ。


そして、俺たちは再び乾杯をした。



「ちなみに……そのハウンドの基地までの道はどうなってるんですか?」


「さぁな。追放されてから……あそこには行けてない」


コーマさんはそう言った。


「え?!そうなんですか?!て、いうか……コーマさんも追放されたんですか?!」


「お前と一緒にするな」


「え?というと?」


「……」


俺が訊ねると、コーマさんは不機嫌そうな顔をしていた。


「今日この場で、こういうことを言うのはどうかとは思うんだけどね」


むっとしているコーマさんを見かねて、バレンタインさんが言った。


「あの事件の後……こいつ、軍を抜けたっていたろ?実はねミハイルにクビにされたのさ」


「え?!ど、どうして?!」


「罪状は敵前逃亡。ハウンドの奴らがこいつと妹を助けたからね」


バレンタインさんがそう言うと、コーマさんの目つきが鋭くなった。


バレンタインさんは、深くため息を吐いた。


「ま、そういうことで、みんなで東部に引っ込んだのさ」


バレンタインさんがそう言うと、コーマさんは再びワインを飲んだ。


「でも……それでもハウンドの通路は国中に伸びているんですよね?それじゃあ……」


「確かに、テメェの言うとおりだ。俺も、東部に引っ込んでから何度か基地に行こうとした。だが、無理だった。基地に入る道はすべて潰されてたんだよ」


コーマさんがそう言った。


「潰されて……?!いったいどうして?」


「さぁな。あの事件の後、ご丁寧に全部、がれきで埋められてやがった」


「誰がそんなことを?」


「さぁな。だが、そんなことをできる奴は数えるほどしかいねぇ」


「なるほど。じゃあ……基地まで行くには、そのがれきをどかすしかないんですね?」


「それは不可能だ」


「え?じゃあ……基地まで行くのは無理ってことですか?」


「あるだろ。そのジョン・スミスとやらが入れるんだからな」


「ま、まぁ……確かに……」


「可能性があるとしたら……一か所だ」


「それはどこです?」


「……軍施設内さ」


バレンタインさんが言った。


「あんたらが侵入した中庭の奥。そこにかつてモグラの穴があったんだよ」


「モグラの穴……」


「ハウンドの玄関さ。暗い地下に通じる……ね」


「そこはまだ……あるんですか?」


「さぁねぇ……事件以来、あそこは封印されてるよ。厳重にね。扉を開けるには将校クラスの権限がいるね」


「そういうことですか……」


「そういうこと。ま、私は鍵を盗むまでしかしないからね?」


バレンタインさんがそう言った。


「おい。バレンタイン……あんた、分かってんのか?」


「ああ、分かってるよ。私も、この馬鹿の言うことが本当なら……許せないんでね」


「いいんだな?」


「ん?なんだい?今更……人並みに心配してくれるのかい?」


「……」


「怖いね。睨むんじゃないよ」


「で、どうなんだ?」


「いいよ。ま、最悪クビになったら庭師でもやるさ」


「そんな体で、できんのかよ?」


「舐めんじゃないよ?私も将校さ。伊達じゃないってんだよ」


バレンタインさんはそう言って、鍛えた力こぶを見せていた。


コーマさんは嬉しそうにニヤリと笑っていた。


「ただし……もしも与太話なら容赦しないからね?その時はたんまり貰うよ?」


「たんまり……」


「そうだよ。聞いたよ?あんたら貰ったんだろ?女王様からたんまり……さ」


「うっ……誰からそのことを?」


「軍将校を舐めるんじゃないよ」


「うっ……」


「危ない橋を渡るんだ。約束しな?」


「は……はい……約束します」


「言ったね?忘れんじゃないよ?」


「あっ、はい……」


俺が頷くと、バレンタインさんは今度はコーマさんの方を向いた。


「他人事みたいに聞いてんじゃないよ?あんたも……きっちり払ってもらうからね?」


バレンタインさんがそう念押しすると、コーマさんは頷いた。


「ああ、分かった」


「反故にすんじゃないよ?こっちは全部失うかもしれないんだ。何でも言うこと聞いてもらうよ?」


「ああ、その時はそれでいい」


「そうかい。じゃあ……やるよ」


「恩に着る」


「たく……あんたらは気楽でいいね。失うものが無くてさ……」


バレンタインさんは深くため息を吐いた。


「軍の椅子がそんなに惜しいか?」


「当然だろ?ただ……まともなら……の話だがね」


「ふ……じゃ、いいんじゃないか?あんたも……待ってたんだろ?」


「あ?何をだい?」


「ミハイルのくずに一発くれてやれる機会さ……」


「はっ!本当に……期待していいんだろうね?」


「どうだかな?おい、どうなんだ?モリー」


コーマさんはそう言って、俺の方を見た。


「大丈夫です。必ず……イヅナのお母さんを、あいつらから助け出して見せます」


俺がそう言うと、バレンタインさんは深くため息を吐いた。


「まったく……どこからこんな奴を見つけて来たんだか……」


バレンタインさんは言った。


「本当に厄介な弟だよ……」



「明日から祭りが始まる。兵士たちが浮かれ始めるのは三日目くらいからだ」


「じゃあ、そこがねらい目ですね?」


「ああ、決行は三日目の夜だ」


「分かりました……では、その日に……」


コーマさんと約束を交わし、俺はテーブルを離れた。


コーマさんは、ふっと笑って酒をグラスに注いでいた。


バレンタインさんは、最後まで心配そうな顔をしていた。


その顔は……やんちゃな弟を心配する姉の顔そのものだった。


二人と別れて……俺はとりあえず三人を探した。


三人の姿は……見えなかった。


あれ?と思って、周囲を見たが……やはりいない。


しかし、気のせいか……料理がだいぶ減っている気がする……。


気のせいかな?


もしかして、あらかた料理を食い荒らして、向こうに行ったのだろうか?


ちょっと……向こうに行ってみるか。


その前に……少し俺も料理をつまんでおこうかな?


そう思って、俺はテーブルの端っこに並べられている皿を手にして、これまた端っこにある料理に手を伸ばした。


その時……背後に人の気配を感じた。


何か……でかい気配がする。


俺は気配を感じて……後ろを振りかえる。


そこにいたのは……。



「ごきげんよう、モリー・コウタさん。夢で逢って以来ですわね」


背の高い……妖艶な女性が……微笑みを浮かべて立っていた。

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