特等席のモリー
イヅナたちが、友人席とやらに案内されて行って……しばらく経った。
迎えが来るといっていたけども、その気配は今のところない。
俺はひとり、エントランスで絵を眺めたり、体操したりして待っているのだが……。
こりゃいったいどういうことなのかな?
なんて思いながらもぼんやり絵を眺めて待った。
やがて、絵も見飽きたくらいで、ふとした疑問が頭をよぎった。
あの……イヅナたちがお色直しに入って行った部屋……。
俺は入らなかったから分からないんだけども……あそこから、タイターンの人たちや、イカレお嬢様が出て来たってことは……だ。
あの人たちも、お色直し……してたってことだよな?
男も女も関係なしで……。
イヅナたちだけ連れてかれたから、女性だけかと思っていたがそうではないってことだよな?
そういうことだよなぁ……それじゃあ……。
それじゃあ……俺は?
俺はいいのか?何にも無しで……。
姿見で自分の姿を見ても……そうとは思えない。
自分で言うのもなんだけども……馬車の中でいろいろあったから……俺にもお色直しが必要だと思うのだけど……。
客観的に自分を見るってのはあんまり苦手な訳なのだけども……こうして、姿を直接見ると流石に分かる。
俺にもお色直しとやらが必要なはずだ。
なのに、俺だけ……ここにある鏡を見て、髪型直しとけ、とだけ言われたけども……。
それでいいのか?俺だけ?
そんなわけないよなぁ……。
なんか……嫌な予感がする。
もしかして……俺だけ、のけ者にされてたりしない……よな?
もうすでに戴冠式は始まっていて……俺だけ呼ばれてない……とか?
流石にここまで来てそれはないよな?
霊薬は間違いなく届けたし……ここの関係者とも結構交流があるし……。
ヘィルメースとか、ミョルニィールとかさ。
けっこう仲良くなったじゃん?
向こうはそうは思ってないかもだが……。
だけども……流石に命がけで……。
まぁ、ここの人からしたら俺の命なんて紙みたいに軽いものだろうけども……。
でも、命がけで冒険をしてきたんだ。
女王様の命令でな。
それを……まぁ身分とかはあれだけども……にしてもそういう扱いはあんまりじゃないかな?
流石にないよなぁ……。
じゃあ、単純に忘れられてるとか?
「ははは……!そんなわけないよな!」
俺はひとりでそう言ってみた。
けど、もちろん誰も聞いていないし、何の返事も無かった。
柱時計がぽーんと鳴る。
なんだか……俺だけがこの空間に取り残されているかのようだった。
いや、まぁ……取り残されてるんだけども……。
かといって……ここから勝手に動くわけにもいかないしなぁ……。
ううむ……誰か呼んでみようかな?
みんな忙しいかな?
暇なメイドとか……いないかな?
いるわけないか。
こりゃ、まいったな……。
階段の手すりにもたれかかりながら、俺は頭を抱えた。
その時、手すりが微かに振動しているのに気が付いた。
俺は手すりに頬を寄せてみる。
手すりを伝って、何者かの足音が聞こえてくる。
その足音はどんどんと大きくなっているのを感じた。
近づいてきている……それもひとりじゃだけじゃない。
複数人の足音だ。
その足音がぴたりと止まると……突然、声が響いた。
「それではー!会場まで!ご案内いたしまーす!」
快活な声と共に、勢いよく、階段上の扉が開いた。
そして向こう側からメイドが飛び出してきた。
飛び出してきたあの人には……見覚えがある。
以前一度、家に荷物を届けに来た人だ。
たしか、アローナさんだったかな。
相変わらず愉快な人のようだ。
アローナさんは扉からぴょんと飛び出すと、右手を高らかに上げた。
「は~い!それではみなさん!先ほどの注意点を思い出して~仲良く私について来てくださーい!」
アローナさんは言った。
「仲・良・く!ですよー!分かりましたねー!」
返事は聞こえない。
しかし、アローナさんはひとりで納得したように頷くと、つかつかと歩き始めた。
そのアローナさんに続いて……扉の向こうから一人の男が姿を現した。
「ああ!」
その人の姿を見て、俺は思わず声が出てしまった。
男は俺の声に気が付いて、ちらりとこちらを見た。
あの顔は……間違いない。
最強の冒険者……アーロン・ジャックスだ。
アーロンはこっちを一瞬だけ見ると、その一瞬で俺に興味を失ったようだ。
アーロンは、ふいっと顔を背けると、そのまま歩いて行ってしまった。
文字通り、眼中にないって感じだ。
その後ろからは長い髪をポニーテールのように縛った長身の色男が出て来た。
ポケットに手を突っ込んで詰まんなさそうな顔で歩いている。
その後ろからぞろぞろと強そうなやつらが続いて出て来た。
坊主頭で顔面に大きな一文字の傷がある男。
美しい金髪で背筋が伸びた気品のある美人。
もしかして……この四人がクレセント?
Aランク1位……最強の冒険者たち……。
てことは……。
その後ろから出て来たのは、クールな感じの男女ペアが二組。
それに続いて……コーマさんが出て来た。
コーマさんは俺に気が付くと、小さく手を上げた。
「よぉ」
「コーマさん……あの、後でお話が!」
俺がそう言うと、コーマさんはこくりと頷いて歩いて行った。
コーマさんの後ろから出て来たのは、ドレッドヘアで浅黒い肌の男だった。
あの人も見たことがある。
フェリーナ・ラランド・ラーだ。
最強の人といい勝負してた、超ベテラン冒険者。
その後ろに続くのはタイプの違う三人の美女だった。
妖艶なお姉さんと、インテリって感じの女性、そしてまだ幼さの残る生意気そうな女性。
それぞれ違って、みんな胸がでかかった。
ステラ曰く、あの三人はフェリーナに心酔する従者らしい。
……羨ましいね、全く。
その後ろからは変な機械メガネみたいなのを付けた変なやつらが続いた。
その後ろから金ぴかでド派手なお嬢様が姿を現した。
さっきのイカレ女だ。
マシューもいる。
そして、その後ろに、これも先ほど会ったタイターンの四人が続いた。
ラルク、ハキーム、アイリス……そして、最後にジーナスさん。
それを見て俺は思った。
おや?確かタイターンはAランクの10位なはず……。
出てきた順番から察するにランク順に並んでいるのだろう。
つまり、これでAランク冒険者は最後ってことだ。
なんか、人数が少ないような?
そんなことを思っていたら、ジーナスさんの後ろにまだ人がいるのが見えた。
おや?まだいたのか。
ランク順かと思ったら、順不同だったのだろうか?
と、思ったら……最後に出て来たのは、かなり見覚えがありすぎる奴だった。
息をのんだ。
いるって、知ってた。
けども、こう……いきなり目の前に来ると……。
言葉が出ない。
俺は……絞り出すように……そいつの名前を呼んだ。
「……アルガートン」
俺が名前を呟くと、奴の方も俺に気が付いたようだった。
「ん?モリー?!」
「よぉ……久しぶり」
俺が挨拶をすると、アルガートンは嬉しそうな顔をしていた。
「モリー!モリーじゃないか!まさかこんなところで会えるなんて!会えてうれしいよ!君には聞きたいことがいっぱいあるんだ!」
「あー……そう?」
俺が苦笑いしながらそう言うと、アルガートンの後ろからウーティが飛び出してきた。
「おい、大将!何を立ち止まってんのよ!ていうか、今、モリーって言った?!」
「ああ、言ったよ!ほらそこ!」
アルガートンが俺を指さした。
「おおう!マジじゃん!お~い、旦那!久しぶり!」
ウーティが俺を見つけるなり、大きく手を振った。
「よぉ……久しぶり……」
俺は苦笑いしながら手を振り返した。
「おい!旦那!あんた、あのニンフモクに行ったってマジ?!つーか、あの手配書、何?!ていうか!俺たちより先に昇格するとかよ!どういうことだよ!おい!旦那ー!」
「ははは……はは……」
相変わらず騒がしい奴だ。
俺が苦笑いしていると、誰かが咳ばらいをした。
アルガートンと、ウーティは二人して咳払いが聞こえた方を見た。
「無駄話していないで早く行ってください」
うっすらと声が聞こえた。
その声を聞いて、アルガートンたちはいきなり静かになった。
俺からは誰がいるのか……姿は全く見えなかったけども、そこにステラがいることは明白だった。
「ああ~そうだね!確かに!今じゃないかもしれないね!」
「そうだよ!なぁ、マジでやべぇぞ、大将!おいてかれてるって俺たち!」
「ああ、確かに、これはちょっとまずいかもね」
「ちょっとじゃないって!遅れたら処刑とかあるんじゃねーの?!」
「ははは!流石にそこまでは無いだろうね!だけども……もしかしたらクビはあるかもね!」
「クビ?!」
「ギルド長も来てるはずだからね。粗相があったら大事になるかもしれない」
「まずいじゃん!」
「そうだね。これはちょっとまずいかもね……」
「カモもハトもないって!早く先に行って?!リーダーが先頭だって言われたじゃん!」
「ああ、そうだった!」
「そう!そういうルールだって言ってたろ?!お作法崩したら怒られる感じだったじゃん!」
「うん。そうだね。その通りだ」
「だから、早く行けって!」
「ああ、そうしよう!」
アルガートンはそう言うと、俺に言った。
「モリー!言いたいことはいっぱいあるが……とにかく、また、会おう!」
アルガートンはそう言うと、いそいそと廊下の先に進んで行った。
「旦那!おい!ぜってー後で全部説明しろよ!逃げるなよ!じゃあな!」
ウーティはそう言うと、せっせとアルガートンの背中を追って走って行った。
その後ろからステラが出て来た。
ステラは、美しいうすい水色の……まるで氷のようなドレスを着ていた。
そして、これまた氷のようなハイヒールを履いていた。
キラキラした金髪を美しくまとめ、まるでどこかの国のお姫様のようだった。
先日怖い顔で授業していた人とは思えない、まるで別人みたいだったのだけども……。
だが、その肩にはいつも通り、魔法学校のマントを付けていた。
なんていうかドレスには合ってないよ。
なんて……声をかける隙も無く、ステラは早足でつかつかと歩いて行った。
俺のほうなんて一顧だにしない。
我が覇道を進む。
まぁ……そんな感じだった。
相変わらず……力強いね。
流石はステラ先生だ。
そのぶれない姿勢は尊敬するよ。
ステラがいなくなると、一拍ほど置いて、扉の向こうから老紳士が出て来た。
執事服を着た老紳士は、ぱたんと扉を閉めると、階段を降りて来た。
「ごきげんよう、モリー・コウタ様」
「あっ……ご、ごきげんよう……」
「大変お待たせしました。モリー様のお席にご案内いたします」
「ああ、どうも……俺の席って?」
「特別席をご用意しております」
老紳士はそう言って、お辞儀をした。
「はぁ……特別……」
「ええ、説明はお席の方でいたします。どうぞ、こちらへ」
老紳士はそう言うと、階段を上って行った。
俺は老紳士について行くことにした。
老紳士は階段を上り、扉の先に進む。
そこは先ほど冒険者たちが出て来た方の扉だった。
扉の先には、長い廊下が続いていて、花のような香りが広がっていた。
老紳士はその先に進む。
途中に、でっかい両開きの扉があった。
扉は大きく開け放たれていたから、前を通るついでに中を見てみてみた。
そこには長いテーブルがあり、椅子がずらりと並べられていた。
たぶん、ここが彼らの控室だったのだろう。
机の上には紅茶とうまそうな茶菓子が積まれていた。
一見優雅だが……ここにあの曲者どもが集っていたかと思うと……。
いったいどんな会話がされてたんだろうか?
想像すらできない。
いや、もしかしたら会話なんて無かったかもしれない。
それはそれで空気が重そうだ。
ウーティは居心地悪そうにしていただろうな。
アルガートンは何を考えてるのか分からないけども、楽しそうにニコニコしていたに違いない。
で、ステラは全く何も我関せずで優雅にお茶していたのだろうな。
もしも……ここに俺たちも一緒だったら、と思うと……戦慄する。
そんな空間にイヅナを突っ込んだら終わりだったろうな。
想像するだけで、おぞましい。
そうならなかったことを幸運だったと思おう。
俺たちは部屋の前を通過し、老紳士とさらに先に進んで行った。
廊下の突き当りまでくると、通路はさらに左右に分岐していた。
右は薄暗く、左は対照的に陽が差し込む明るい廊下だ。
俺は左に進んでくれと願った。
だが、老紳士は迷わず右に曲がって進んで行った。
まぁ……そうだよね。
俺は諦めたようにため息を吐くと、廊下を曲がった。
廊下の先には、また階段があった。
俺たちは階段を上っていく。
その先は……なんだか全体的に薄暗い空間になっていた。
老紳士はさらに進む。
一言も……言葉を話さない。
こっちを見る気配もない。
ずっと同じテンポで歩き、まっすぐに目的地まで進む。
歩調も歩幅も全くぶれない。
なんだか……だんだん人の形をした機械のように見えて来た。
俺はきょろきょろとよそ見をしながら、悠々歩いた。
老紳士は足早に歩いていたが、俺には案外余裕があった。
老紳士が小柄なのと、年齢のせいもあってか、歩幅の差が大きかったからだ。
あと……暗いところを歩くのは、もう慣れっこだ。
これくらいなら、俺にとっては太陽の下と同じだ。
「なんだか、埃臭いですな」
俺はぽつりとそう言ってみた。
「お恥ずかしながら、最近は多忙故……手入れが行き届いておらず、申し訳ございません。ここは普段あまり使っておりませんので……」
「使ってない?ここはどういう場所なのです?」
「ここは普段、閉ざされております」
「何故?」
「用事が無いからです。ここを使うのは掃除の時くらいですかね」
「掃除……?」
そんな話をしていると、薄暗い廊下の突き当りに到着した。
そこには小さな扉が一つあった。
なんというか……今まで見て来たものとは違う雰囲気の扉だ。
言うなら……事務用って感じ?
「どうぞ……こちらです」
老紳士はそう言うと、その小さな扉を開いた。
扉は、俺が通るには……かなりギリギリだ。
「そちらですか……?」
「はい。こちらになります」
「その先が俺の席?」
「ええ、そうなります」
老紳士はそう言った。
「そう……ですか……そりゃどうも」
俺はそう言って、できるだけ体を縮めて扉をくぐった。
その先は……。
「な……なにここ?」
扉の先は木製の通路だった。
手を伸ばせば、部屋の天井に手が届くくらいの高所。
通路から見て、右横には真っ黒なステンドグラスの窓が見える。
で、左は石膏で出来た……柱?っていうのか?
建築用の飾りみたいな感じになっている。
その柱の隙間から、部屋の様子が若干見える。
覗いてみると、下は王座の間のようだ。
ぞろぞろいろんな人が立っているのが見える。
ここは……どうみても……いわゆるキャットウォークってやつだ。
天井照明の取り換えとか、工事とか、そういう……作業用の通路だ。
「あの……ここ?」
俺は扉の方を向いて、老紳士にそう訊ねた。
「お気持ちは重々……しかし、ご理解いただきたい」
「ご理解……て……。ちなみに、一応聞いてもいいですか?どうして俺だけここに?」
「はい。あなた様は一級手配されました。もちろんそれは我々の手違いです。しかし……陛下は完璧を求めるお方です。手違いとはいえ、一級手配されたお方をこの場に置くのは……ふさわしくないと判断いたしました」
「はぁ……それで悪いうわさが立ってはいけないってことですか?」
「左様でございます。もう一つ、ここにはギルド長もおられます。あなたは……理由はどうあれライセンスを剥奪されております」
「なるほどね。そんな無法者を招いているとわかったら大ごとだ……」
「ご理解いただき、ありがとうございます。大変、無礼なこととは思いますが……それでもあなた様の参加を認めたのは陛下のご意思です。その点だけはご理解ください」
「はい。ありがたき……幸せです」
「モリー様……敷物をご用意しております。お使いください」
老紳士はそう言うと、平たいクッションをひとつ俺に手渡した。
俺はそれを冷たい通路に置いて座った。
「なかなか居心地がよさそうだ」
「お気に召したようでしたら……大変光栄でございます。モリー様」
「ああ、住みたいくらいだ」
「左様でございますか。しかし、そうならないように願います」
「え?」
「騒がれたり……暴れたり……なさらぬようお願いいたします。お声もできるだけ出さないでください。下の方々に見つかるようなことは避けてください」
「もしも見つかったり、俺が騒いだりしたら?」
「ここが終の棲家となるかと思います」
老紳士はそう言って、俺を睨んだ。
その目線は鋭く……そして、殺気が籠っていた。
この爺さん……ただ者じゃない。
手練れだ……俺にはわかる。
王城には……暗殺部隊があった。
コーマさんが所属していたハウンド……みたいな……そんな組織があったんだ。
この爺さんがやり手の殺し屋だったとしても不思議じゃない。
まぁ、今の俺を殺すのに……そんなたいそうな奴は必要もないだろうけども……。
「はは……肝に銘じます」
俺がそう言うと、老紳士は深くお辞儀をした。
そして、ゆっくりと……扉を閉めた。
扉が閉められる。
俺はぽつんとその場に取り残され……ため息を吐いた。
はぁ……まさか通路とはね。
目の前にはなんか天使を模った真っ白な柱。
神聖なる、新王の戴冠の瞬間。
それをまさかこの隙間から……覗き見ることになるとはね。
まぁ仕方ないか……前向きに考えよう。
ここには俺しかいない。
ルールはあるけども、作法は無い。
まぁ……なんだ……考えようによっては……ここが一番気楽に見れる席かもしれない。
見られてたとして……蜘蛛かネズミくらいなもんだ。
そんな奴らに礼儀は必要ないだろう。
俺にとってはそれが一番いいことだ。
お色直しも、肩ひじ張る必要も、ここにはない。
いいじゃないか。
ちょうどいい。
まさに俺専用の特等席だ。
お行儀よく……歴史的な瞬間を……覗き見ようか。
俺はそう思って、柱の間から下の様子を覗いてみた。
王座の間に入る大きな扉。
そこからまっすぐに赤いカーペットが王座への階段前まで続いている。
その王座に続く階段の前には、祭壇が置かれていた。
赤いカーペットの両脇には、人一人分のスペースを開けて、来客用の席が設置されていた。
来客席は壁際まで続いている。
階段状に段々になっていて、最上の席から手を伸ばせば……俺のいる特等席に手が届くくらいだ。
俺から見えるのは片側だけだけども……形から見るに俺のケツの下にも席があるってことだろう。
真下に誰がいるかは知らないけども……頭の上で胡坐をかいてるのは、少しばかり申し訳ない気持ちになった。
なにせ、ここにいるってことは……相応のお偉いさんなんだろうからな。
柱の隙間から、バレないように客席を見てみる。
王座の間は照明が少なく薄暗い。
なんか新月の夜を模してるとかなんとか聞いたからそういうことだろう。
招待客たちはその薄暗い空間でぼんやりと灯る小さなランタンを持って、立っていた。
席に座っている者はひとりもいなかった。
立っている人の顔を見てみると、見知った顔がぽつぽつあることに気が付いた。
まず、門の近くに立っているのは駅の関係者だ。
バシッと制服を着て並んでいる。
一番王座に近い場所に、立派な髭を蓄えたごつい人が立っていた。
あの人……見たことがある。
あれは確か……駅のお祝いの時だ。
創立何十年か、何百年か忘れたけども、なんか大きな節目の時で駅長の交代式も行われていた。
ちょうど、俺がこっちに来てすぐくらいのころだ。
俺はタダ飯を食えるって聞いて、物見遊山で式典に参加した。
その時に見た人だ。
つまり、あの人が……現駅長ってことだろう。
その3、4人ほど左の方にポッポが立っているのが見えた。
位置的に見て……やっぱり、あいつけっこうお偉いさんなんだな。
その横の端っこの方にはアッコもいた。
駅での横柄な態度とは打って変わって、あのアプリコット様もこの場所では緊張気味のようだ。
借りて来た猫みたいな顔でランタンを持って立っている。
写真機があったなら撮ってやりたいな。
何年も使える弱みになったろうに。
あの小うるさい女を黙らせられたいい機会だったのにな、残念だ。
駅員一団の横の方にはイヅナたちがいた。
三人は通路に一番近い席にいた。
特等席だな、ありゃあ。
まぁ子供だろうから前の方に席を用意されたんだろう。
心配してたけども、三人は大人しくしているようだった。
イヅナは微笑みながらお行儀よく立っていたけども、顔を見て緊張しているのが分かった。
レイシーは固い表情で立っていた。
こいつも緊張してるな。
レイシーは時折、ちらちらと横を見ていた。
その視線の先には……ポッポがいた。
心配なんだな、あいつ。
そう見るとなんだかかわいく見えた。
その横にドクダミちゃんが恥ずかしそうに立っていた。
でも、一番落ち着いているように見えた。
流石、こういう場所は初めてじゃないって感じだ。
まぁ……あの感じなら三人とも大丈夫そうだ。
俺は一安心した。
イヅナたちのいる場所の横には、金持ちそうな格好の人たちがいっぱいいいた。
これもまた最前列に見知った顔がいた。
あれはアンドリューだ。
俺たちが冒険した南部魔界の現炭鉱主。
ペトリファイド鉄鋼の社長様である、アンドリュー・ペトリファイドだ。
その妻のナンシーもいた。
妻のナンシーのお腹が少し膨らんでいるように見えるのは……気のせいだろうか。
もしも、そうであるなら……おめでたいことだな。
なんにせよ、ふたりとも元気そうでよかった。
あそこはこの国の企業だったり、お偉いさんがいるってことだ。
そのお偉いさん一団の横には冒険者たちが立っていた。
1位のクレセントの四人が最前列に構え……その後ろにコーマさんも立っていた。
さっきほど見た連中もいた。
その他にも、いろんな人がいた。
その中には死神みたいな顔をした男がいるのが見えた。
あの人も知っている。
ギルドのシンドマ課長だ。
北部魔界の報酬を貰いに行った時に、あの人が対応してくれたんだ。
と、言うことは……あそこにはギルドの職員と冒険者がいるようだ。
他と比べて……なんか浮いている気がするのは気のせいじゃないだろう。
あそこだけなんか雰囲気が違う気がする。
なんかひとりだけ金ぴかのやつもいるし……。
なんにせよ、あそこにまぜられるのは勘弁だったな。
その一団の隣の一団は……軍人だな。
軍服を着ているし、最前列にふくよかな女性が立っている。
あれはバレンタインさんだ。
コーマさんの義姉で、16年前の騒動の時にルーナ様をその渦中から救った英雄だ。
最前にいるのは納得だ。
客席はそこで終わっている。
あの双子のおばあ様方はきっと、俺の下の席にいるのだろうと思われた。
客席と中央の通路の間には、ポールが置かれその間を紐でつないで区切っていた。
そこは誰も越えられない一線となっているのだろう。
しかし、王座の前に……その一線を越え、カーペットを挟んで並び、立っている者たちがいた。
王座へ続く階段の前。
そこに置かれた祭壇の近くに、中央通路を挟んで向かい合って立つ、6人の男女がいた。
あれこそが女王を守る七星だ。
通路の右側、玉座に一番近い位置に立っているのは我らが冒険者ギルド長だ。
ガビラス・グレイプルシャーマン。
仰々しい名前とは裏腹に、どうみても小物そうなおっさんだ。
今日も相変わらずさえない顔をしている。
その横に立つのは最速の男ヘィルメース。
そして、その相棒であるミョルニィールが並んで立っている。
その三人の反対側にも人が立っていた。
玉座に一番近い位置にいるのはミハイルだ。
軍人の一番のお偉いさん。
勲章がじゃらじゃらついた軍服を着てビシッと立っている。
その横には……見たことない男が立っていた。
どう見ても、良い奴には見えない。
だが、あそこに立ってるってことはただ者ではないはずだ。
それこそこの国を支える力を持つ一人に違いない。
だが……全く見覚えがない。
その知らない人の横に立っているのは……校長先生だ。
オーロレリア・ホウル・ハーティスさん。
夢で見た通りの人だ。
つばの大きなウィッチハットを被って、まさに魔女って佇まいをしていた。
勢ぞろいって感じだ……。
まさに、この国中のすべての要人が揃っている。
賊が入り込んだら大変じゃないかって思ったけども……まぁ、大丈夫か。
少なくとも……ウーティがいる。
あいつに勝てる賊はいないだろう。
それを凌駕する奴らが雁首揃えているんだ。
ここに乗り込むなんてのは自殺行為だな。
俺はそんなことを考えながら、下の光景を眺めていた。
その時……誰かが扉をノックした。




