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ユリネとマシュー

「なんか、でっかいのがいらっしゃいますわ~!」


静かだったエントランスにでかい声が響いた。


何事だよ?って思って振り返ってみると、そこには派手な服を着た女がいた。


「お~ほほほ!おお~ほっほほほほ!」


馬鹿みたいにわざとらしい笑い声をあげて、かつかつ足音をならしながら、女が近づいてきた。


女は一目見ただけで、ただ者じゃないとわかる格好をしていた。


高いハイヒールを履き、髪の毛もドレスも、上から下まで全身が金ピカ。


髪は、嵐の海のように巻きこみ、頭の上にはこれまた金色の髪飾りを付けている。


見てるだけで、めまいがしそうなくらいぴかぴかだ。


そんな……どうみても普通じゃない、けったいな格好した女がいた。



「ごきげんよう!近くで見たら余計でっかいですわね!」


金ぴか女は得意げな顔で俺に話しかけて来た。


「は……はぁ……ど、どうも……」


「いいですわね!でかいの!わたくし、好きですのよ?!あなたのようにでかいお方は!でかいのはいいですわ!とってもよいのですわ~!」


「はぁ……どうも……」


「ああら!ごめんあそばせ!でかいのが好きだなんて!わたくしったら駄目ですわ!だって、そうでしょう?!男の方におサ~イズのお話をするだなんて!淑女として決してよろしくありませんわー!しかし!ああた様!勘違いしないでくださいまし!わたくしそんな下品で、破廉恥な女ではございませんことよ~!」


「え……ああ……そう……」


「わたくしが好きなのは力なのです!大きさには力がありますわ!あなたのでかさ!力強くってよいですわ!あなたの体からとても強い力を感じますわよ!それがよいのですわ!強い力!それがと~っても、とっても!好きなのですわ~!ねぇ?!あなたもそう思いますでしょう?!だって、ここにいらっしゃるということはあなたも冒険者なのでございましょうからね?!」


「え?じゃあ……あな……」


「そう!わたくしも冒険者ですわ~!お~ほほほ……おほ!」


女は高らかに笑ったが、途中で器官に入ってしまったのか、激しく咳き込んでいた。


女は喉を抑えて苦しそうに咳き込んでいる。


その姿を見て……俺は思った。


こいつ……さては、お嬢様じゃないな?


かなりお嬢様っぽい振る舞いをしてるけども、お嬢様ってなんか……イメージだけど……もっとこう御淑やかな感じなんだよな。


それこそルビィさんとか、ドクダミちゃんみたいに、なんかこう、ひけらかさないというか……育ちの良さや金持ち感を表には出さない、奥ゆかしさがあるというか……。


なんにせよ、こんなぴかぴかした、自己主張の塊みたいな格好はしないはずだ。


こんな……わざとらしいお嬢様みたいな恰好する奴ってのは……だいたいが偽物だ。



「うっ……うう……」


激しくむせていたが、女の容態が落ち着いたようだ。


しかし、どうもまだ苦しそうな顔をしている。


女は、やっと顔を上げたかと思ったら、じとっとした目で、息を切らし、ぜーはーぜーは、いいながら俺の方を睨んでいた。


その口元には涎が垂れているのが見えた。


どうみても無理している。


なんて思っていたら、女の背後から急に男が出て来た。


「お嬢様……こちらをお使いください」


男はそう言って、お嬢様にハンカチを差し出した。


突然現れた男を見て、俺は驚いた。


人がいる気配が全く無かった……。


初めからいたのか?それか影の薄い奴なのか?


それともコーマさんみたいに影に紛れる技をもってるのか?


なんて、思ったけども……たぶん違うな。


お嬢様の存在感がうるさすぎて気が付かなかっただけだな、これは。


なぜなら……この男も普通じゃない。


だいぶとけったいだ。


髪は油でつやつやのオールバック。


中性的な顔で、肌は白く、絵画のような美形。


なのに何故か、顔の半分に涙を流したピエロの描かれた仮面をつけている。


素顔の方がいいと思うのだけども……。


服装は、お手本のような執事服を着ていて、真っ白い滑らかな手袋をつけている。


そして、お嬢様にすっとシルクのハンカチを差し出すその所作!


動きも全部含めて……絵に描いたエリート執事って感じだ。



お嬢様に、おつきの執事……?


まぁ、典型的なコンビって感じだけども……。


にしても、今まで気配を消していたのは、主人を立ててのことなのだろうか。


だとしたら、ずいぶんとできた従者だなって思った。



「ええ……ありがとう」


お嬢様はハンカチを受け取ると口元を拭った。


そして、ふぅと呼吸を整え、ハンカチを執事に渡し、姿勢を正した。



「わたくしとしたことが……お見苦しいところをお見せしましたわ。たいへん、失礼いたしました」


お嬢様はそう言うと、何事も無かったかのようにぺこりと会釈をした。


「ああ、いえ……」


「ふぅ!さて……気を取り直しまして!ああた!なかなか見どころがありますことよ!ですので……特別に……」


「失礼ながら……お嬢様……?」


執事が主人の話を遮った。


「ん?なにかしら?」


「差し出がましいことを申しますが、こちらの名も名乗らずに話を進めるのは……少々エレガントさを欠いておるかと……」


執事がそう言うと、お嬢様は、はっとした顔をした。


「あら!わたくしったら!ま~たやってしまいましたわ!名前もなのらずに自分の事ばかりお話しするだなんて!なんて無礼な!ああた様!ごめんあそばし!おしゃべりを始めてしまうと、楽しくなってしまって、わたくし……我を忘れてしまいますの!悪い癖ですわよね?!」


「ああ、いえ……」


「あ~ら!勘違いしないでくださいましね?!誰にでもこう、ということではないのですわよ!あなた様がとてもお話やすく、そしてたくま……」


「お嬢様?」


またおしゃべりが始まりそうな雰囲気が出たところで、執事が釘を刺した。


お嬢様はぴたりと動きを止めて、咳払いすると、ぺこりとお辞儀をした。


「申し訳ございません。名乗らせていただきます。わたくしの名はユリネ。ユリネ・タカマガハラ!」


お嬢様は胸を張って、自信満々の顔で言った。


「Aランク8位!プレイン・ディアナのリーダー!ご存じ!毒滅姫のユリネとは……何を隠そうわたくしのことですわー!」


お嬢様はそう言って、高らかに笑った。



「ど……どくめっき……?」


なんだ?その物騒な二つ名は……。


そんなの聞いたことない……と、いいたいところだけども……。


流石にそうはいかないか。


プレイン・ディアナ……その名前を知らぬ冒険者はいないだろう。


一年半ほど前に彗星のように現れス-パールーキーだ。


驚異的な速度でランクを上げていき、当時最速でBランクに上がった冒険者だ。


Aランクに上がるのもそうとう早かったはず……。


当時はよく名前を聞いた。


掲示板にランクが張り出される度に……昇り竜のようにランクを上げていく彼らに、冒険者はみな注目していた。


その噂の冒険者様が……まさかこんなイカれた女だったとは……。


「そして、こちらは執事のシュトロハイゼンですわ!」


お嬢様がそう言うと、後ろに控えていた執事が深くお辞儀をした。


「どうぞ、お見知りおきを!」


「あっ……これはご丁寧にどうも……。俺はモリー・コウタっていいます」


俺も名を名乗ると、お嬢様はにっこりと微笑んだ。


「モリー!良いお名前ですわね!わたくし、気に入りましたわ!」


「はぁ……ありがとうございます……」


「モリー……コウタ?あらぁ……?そのお名前……どこかで……」


お嬢様はそう言って首を傾げて、執事の方に目をやった。


「モリー・コウタ……イナホの補助魔術師です」


執事は、即座にお嬢様にそう耳打ちした。


「イナホ……?」


俺たちの名前を聞いたお嬢様の表情が曇った。


「イナホのモリー?ということは……まさか?」

 

「ええ、彼は……かつてはリカオンに……」


「リカオンんんん?!」


お嬢様が急に表情を変え、悲鳴をあげるかのように叫んだ。


先ほどまでのお上品な表情はどこへやら、お嬢様は怒りの表情を浮かべて、頬を引きつらせていた。



リカオンの名前を聞いて急変した女を見て、俺は嫌な予感がした。


「そうですか……あなたが、あの……」


急に態度が変わったお嬢様を見て、俺は危機を感じた。


「えっと……なにか?」


「失礼!ああ……しかし、あなたがあの……モリーとは……」


「俺の事……」


「ええ、存じ上げておりますわ。そう……わたくしの記憶が確かなら……たしか、あなた……一級手配もされておりましたわよね?」


「え?ええ、まぁ……はい。そうですが……あれは間違いで……」


「らしいですわね。でもね……そ~んなのはどうでもいいのよ!」


お嬢様はそう言うと、怒りの表情のまま、ずいっと距離を詰めて来た。


「な、ななな……なんでしょうか?!」


「あなたねぇ……!いい度胸ですわよね!?ええ?!そうでしょう?!わたくしを差し置いて!あんなに!国中に!目立ちまくりまくっておりましたわよねぇ!」


お嬢様は聞いたことのない怒りの言葉を吐いて、俺の顔を指さした。


「許せませんわ!あなた!これはわたくしへの宣戦布告と取ります!」


「せ……宣戦布告?!」


「そうです!冒険者たるもの宿命を背負っているのです!高ランクになればなおさら!そうでございましょう?!」


「え?あっ……は、はぁ……?」


「つまり……あなたはここで出会うべくして、わたくしと出会ったのです!これは神の思し召し!と、くれば……ここであったが百年目!やるべきことは一つ!」


「や……やるべきこと?!」


「もちろん宣戦布告ですわ!今日!この時この場所で!わたくしはあなたを倒すべきライバルとして認定いたしますわ!」


「ラ、ライバル?!俺が?どうして?!」


「そうなる運命なのよ!あなたは!」


「いや、そんなこと急に言われても……訳が……」


「訳?!あなたは私の人生に現れた目の上のたんこぶ!邪魔な存在なのです!例えるなら道に転がる石っころですわ!必ず取り除かねばならないのです!」


「ええ?!俺……何かやっちゃいました?!」


「とぼけないでいただけるかしら?!」


「いや、そう言われても……」


な、なんで俺は急に責められているんだ?


何かの勘違いか?と思ったけども……お嬢様の鬼気迫るこの勢い……本物だ。


どこかで恨みを買ってしまったのか?


でも……どこで?まったく覚えがない。


ていうか、こいつとは初めて会ったんだからあるはずがない。


俺は困惑して、後ろに控えるシュトロハイゼンに目を向けた。


シュトロハイゼンは助けを乞う視線に気が付いたようで、コホンと咳払いをした。


「お嬢様……きちんと説明なされた方が良いかと……」


「ええ?!なんですの?!」


「モリー様が困惑しております。きちんと、正式に、ライバルとして認定されるためには……説明は必要かと存じます」


シュトロハイゼンがそう言うと、お嬢様は思案した。


「……なるほど。一理ありますわ!」


お嬢様はそう言うと、毅然とした顔でこっちに向き直った。


「よろしい!説明いたしましょう!かつて、わたくしは一番でした!一番目立っていて、実際いろんな実績が一番でした!」


「はぁ……」


「例えば!あなた!ご存じかしら?!実はわたくしたち、最近、前人未到の大記録を打ち立てましたのよ?!」


「はぁ……記録……ですか?」


「そうよ?ご存じ?」


「ああ、すみません……最近いろいろあったので……時事には疎くって……」


「ふふふふふふ……そうでしょうね。あなたは知らないでしょうね……」


お嬢様は含みのある笑みを浮かべた。


実に不気味だった。


「わたくしね?冒険成功100回を記録しましたの。もちろん、成功とはそれ相応の収穫を持って帰ったという意味ですわ」


「それはすごい!」


「そうでしょう?!なんと!100というのは長いギルドの歴史の中で初の記録なのですわ!」


「へぇ……そうなん……」


「そうなの!ギルドからも表彰されましたし、勲章も頂きましたのよ!もちろん!ギルドの広報誌および新聞社からも取材を受けましたし!翌日に発行されるギルドの広報誌と新聞の一面に大々的に掲載される予定でしたのよ!も~ちろん!そうなれば中央広場の掲示板にも一番大きく掲載されますわ!わたくしたちの偉業が!中央全部!ひいてはこの国全土に広がる予定でしたのよ!」


「予定……だった?」


「そう!無くなったの!なんでか分かるかしら?!」


「いえ……けんとうも……」


「あなたが一級手配されたからよーーーー!」


イカれお嬢様は絶叫した。


「ぜんぶ!号外も!全部全部!あなたの顔に塗りつぶされたの!そのおかげで!わたくしの記事は!全部すみっこに追いやられましたのよ!」


「ええ?!そ、それは……俺も被害者って言うか……!」


「そのようですわね。あなたも冤罪だったようですし?その後は王城の謝罪文が乗りましたから……まぁ、わたくしも陛下を敬愛する一市民。この件はタイミングが悪かった……と、そう思うことにしましたわ。まぁ……記録が無くなるわけでもありませんからね」


「そ、そうですよね……あなたはすごい記録を持ってる」


「あら?あなたご存じで?」


「ええ、もちろん!それは存じております……一年前くらいはあなたたちの名前を見ない日は無かった」


「そうでしょう?!そうですわよね!私たちは冒険者デビューしてから最速でランクを駆けあがり!その活躍は彗星のごとくと称されたほどでしたわ!」


「ええ!そうですよ!あれはすごか……」


「ですがね!わたくしより目立った奴らが出てきましたのよ!それも同じルーキーでね!そこまで言えばも~う分かりますでしょう?!」


「えっと……もしかしてそれって……リカ……」


「そう!リカオン!あの忌々しきアルガートン・コンカー!あのクソヤロウが現れるまで!わたくしたちがルーキーで一番!注目の的!国中の視線がわたくしたちに!なのに、なに?!あいつは!いきなりしゃしゃり出てきたかと思ったら、わたくしたちよりも目立ちまくって!人気も話題も全部かっさらっていって!ゆ、ゆ、ゆ……許せませんわ!」


「そ……それはお気の毒……」


「それでも!わたくしはまだ立っていました!何故ならばわたくしたちには揺るがないものがあったからです!それこそが!冒険者ギルドに刻まれし輝かしき記録!100回の冒険の成功と……もうひとつ!リカオンには決して破れない偉大な記録があるのです!」


「それ……」


「そう!それはもちろん!Bランク最速昇格記録ですわ!デビューから半年!それがわたくしたちの!不動の記録!リカオンの勢いは目を見張るものがありました!が!冒険の失敗で活動停止!それで半年はとうに過ぎました!あのリカオンですら、わたしたちの記録を覆すことは無理だった!わたくしたちの記録は……これで向こう100年は覆されない!そう言われていたのです!そしてそれは間違いなく、間違いようのない事実……のはずだったのです……」


お嬢様はそう言って、下唇を噛んだ。


俺は頬をひきつらせた。


「もう……おわかりますわよねぇ?!ええ、そうよ。100年経たずにそれを覆した……忌々しき輩が出て来たのです。その方々のお名前は……言わずともわかりますわよねぇ?!!!!」


「そ……それは……もしかして……」


「そう!イナホよ!出てきて数カ月!しかも、Bランク1位!あのランクを見た時!わたくし!発狂しましてよ!」


「そ、そうですか……」


「全部!あなた!あなたなの!あなたがいるのよ!わたくしの!輝かしき栄光を潰した!原因に!あなたが!必ず!」


「そ……それは……偶然というか……」


「偶然が重なれば、それはもう運命!わたくしがこの国で一番目立つためには!あなたを越えるしかないのですわ!とにかく目立ってちやほやされたい!それがわたくしの背負った宿命!だから!」


お嬢様は拳を天に突き出して、宣言した。


「わたくしはあなたを!すべてを越えて!この国の一番になるのですわーーーー!」



お嬢様の宣言を聞いて、俺は引いていた。


なんという、いちゃもん……。


恐ろしき逆恨み。


それで……急にライバルだなんだといわれても……ついていけない……。


て、いうか……残念ながら……俺にはもうそんな価値も無いんだけども……。


だって、もう……冒険者でもないし……。


なんて、思って、はっとした。


ていうか、弁明をするならば……今しかないんじゃないか?


このイカれお嬢様に会う機会なんてこの先ないだろうし……。


今、やらないと……大変なことになりそうだ。


俺はそう思って、さっそく事実を伝えることにした。


「あの……そのライバルという……」


「お黙りなさい!ああたに!拒否権は無くってよ!」


「いや、そうじゃなくって……」


「そうなのよ!あなたのせいなのよ!全部!全部よ!それはもう事実!揺るぎようがない事実!なので、あなたを倒します!」


「いやぁ……倒すって……そうじゃ……」


「お言葉は不要!これ、この時、この瞬間より……わたくしとあなたの間にあるのは……勝負!それだけですわ!」


「いや!そうじゃなくて!聞いてください!」


「お言葉は不要と申しました!申し訳ありませんが、わたくし、敵の言葉に傾けるお耳は持ち合わせていなくってよ!」


イカれお嬢様はそう言うと、くるりと階段のほうを向いた。


「それではごきげんよう!次にお会いする時までに……せいぜいお首を綺麗にしておくことね!お~ほっほっほっほ!」


イカれお嬢様はそう言い残すと、そのまま俺の声を無視して、高らかに笑いながら階段をこつこつと登り始めた。


俺はお嬢様に真実を伝えようとしたのだが、お嬢様の笑い声がでかすぎて、俺の声は全く聞こえていないようだった。


お嬢様が去ったので、執事のシュトロハイゼンもそれに続く。


寡黙な執事はこつこつと階段を数段登ると、すっとこちらを振り向いた。


ちょうど、俺と目線が合う高さだった。


執事は振り向くと、顔につけていた仮面をすっと取った。


仮面を取った執事のシュトロハイゼンは俺の方を見ると、にへらと笑った。


その顔を見て、俺は……シュトロハイゼンが女の子であることに気が付いた。



「あのぉ~……すみません。姉が大変失礼なことを……」


シュトロハイゼンはそう言って、ぺこぺことお辞儀をした。


その所作は、ほんわかした女の子って感じで……さっきまでとは……まるで別人だった。


それを察したのか、シュトロハイゼンは苦笑いしながら言った。


「ああ~、驚きましたよねぇ?そうなんです~普段、わたし、こんな感じなんです~」


「そ、そうなのか?」


「そうなんです~。この格好は姉の趣味でして~。姉はご覧の通りの人でしてねぇ~。わたしには拒否権がないんです~。姉の趣味に付き合うしかなくてですね~。あ、ちなみにわたし、本名はマシューって言います~」


「そ、そうか……マシュー……お互い大変だな……」


「あはは!そうですねぇ~!もう大変でぇ!ほんと、姉は厄介なんですよ~!」


そんな話をしていると、階上からお嬢様の怒号が響いた。


「ちょっと!シュトロハイゼン!なにをしておりますの?!行きますわよ!」


「あっ!はぁ~い!今行きます~!」


「ちょっと!お言葉が乱れていらしてよ?!」


「ああ~……は!ただいま参ります!お嬢様!」


「それでよろしい!無駄話はおやめになることよ!」


イカれお嬢様はそう言うと、コツコツ足音を立てて、左の通路に入って行った。


「ほんと……大変だね」


「へへへ~もう慣れっこですけどねぇ~」


「すごいね。ちなみにさ……」


「あっ!全然違いますよ!家は普通の一般家庭です~!」


「そうだよな。なんか……言葉も変だしな」


「ですね~。でも、姉は姉なりに頑張っているので……馬鹿にはしないでくださいね?」


「ああ、もちろんさ。俺にはマネできないよ。その心意気には敬意を表するよ」


「んふふ~ありがとうございます~。あ、ちなみにですねぇ……」


マシューはそう前置きすると、俺にこそっと耳打ちした。


「実は、わたしたちもビーガー出身なんです」


「え?そうなの?」


「はい。ちなみに……昔からモリー様のことは存じ上げておりましたよ!姉のライバル心にはそういうところもあるのです」


「そ、そうなのか?!」


「ええ!アカデミーでも有名人でしたから~!」


「え?それって……どういう?」



「シューーートロハイゼーーーーン!」


さらに激しい怒号が響いた。


「あっ、やば……あれは折檻一歩手前の声だ~!」


「あはは……それじゃあ、早く戻るべきだな。ありがとう。いろいろ話聞かせてくれて……」


「いえいえ!あの、ああいう人ですけども……人を傷つけるようなことはしませんから!ご安心を~!」


「ああ、ありがとう。安心したよ」


「へへへ~。それでは……また、ご縁がありましたら~」


マシューはそういうと、顔に仮面をつけた。


仮面をつけると、マシューの表情が急に変わった。



「では、ごきげんよう。モリー様」


シュトロハイゼンはそう言うと、ぺこりとお辞儀をして、去って行った。



あれが……プレイン・ディアナ……。


ユリネとマシュー。


奇妙な姉妹だった。


あれに加えて、他に仲間が二人いるってことだよな?


どんな奴らなんだ?あれについていけるなんて……。


流石はAランク……一筋縄ではいかないってことか。


あれで……8位か……。


10組中の8番目で……あれか。


そう考えると、3位のコーマさんはやっぱ化け物なんだな。


あの水のラランドラーで5位だもんな……。


それに勝った1位の人は……あれはどっちかって言うと魔物寄りだったしな……。


人間じゃないよ、マジで。


そんな奴らが……いるんだな、今ここに。


そう考えると、背筋に悪寒が走った。


今のは……武者震い……か?


俺の中にもまだあるんだな……冒険者への憧れっていうのが……。


残り火のように……残って……。



「うお?!おい!見ろよ!なんかでっかいのがいるぜー!?」


ぼんやりとしていたら、しずかなエントランスに再びでかい声が響いた。

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