でっかいのがいらっしゃいますわ!
メイドに案内され、俺たちは馬屋からお城の方へ向かうことになった。
門をくぐり抜けると、大きな石造りの橋のような一本道が見えた。
そこには招待客と思わしき人々が列を作っていて、みんな王城に向かって歩いていた。
歩いている人は、みな、晴れやかな表情をしている。
招待客たちはいかにも上級国民って感じの人たちだった。
つやつや黒光った燕尾服を着た紳士がずらり。
老も若きもいろいろいる。
その腕には、綺麗な色とりどりのドレスを着た美女がくっついている。
これはみんな若い。
いや、羨ましい限りだね、まったく。
普段なら絶対に交わることのない人種の方たちなのだろうが……今日は違う。
今日は俺たちだって、正式な招待客なんだ。
そんなことを思っていたけども、足は竦んでいた。
そんな俺の心を知ることも無く、メイドは迷うことなくまっすぐにその中央の通路に向かって進んで行った。
俺も覚悟を決めて足を進める。
王城に来るのは……三度目だ。
ニンフモクに行く前、行った後、そして今日。
正面から堂々と入るのは今日が初めてだ。
あーなんか……緊張してきた。
まったく雰囲気が違うってのもあるけども……見た感じ、子供連れは俺だけだ。
それに明らかに俺がでかい。
目立つだろうなぁ……話しかけられたらどうしよう。
ごきげんよう……とかいうのか?
人生で一度も言ったことない。
どころか言おうなんて思ったこともない。
そんな人に話しかけられて……どうだ?
知らずのうちに、失礼な態度をとってしまったら……招待してくださった女王陛下の顔に泥を塗ることにならないだろうか?
と言っても……俺、何が失礼になるのかどうかも分からない。
補助魔術が強くて、荷物を誰よりも運べたらいい……わけじゃなかったんだな、世の中って……。
と、とにかく……無礼の無いように……。
俺はそのことだけを考えて、びしっと背筋を伸ばした。
そしてできるだけきりっとした……いわゆる大人、な顔をした。
たぶんだけども、かなり不自然で、引きつっていたと思う。
「おい……御淑やかだ。御淑やかだぞ……?分かったな?」
俺は固い表情のまま子供たちに向かってそう言った。
「はーい!」
子供たちは元気に返事をした。
その声がでかくて、道を歩く何人かがこっちを振り向いた。
振り向いた人は、俺たちの方を見て、きょとんと驚いた顔をしていた。
その人たちは立ち尽くす俺たちの姿を見ると、顔を見合わせて……みんな微笑みあっていた。
うっ……わ……笑われてる?
俺は思わず顔を引きつらせてしまった。
しかし、道を歩く紳士淑女の方々は、朗らかな顔でこちらに手を振り、ごきげんようと挨拶をしてくれた。
俺は頬を引きつらせながら、手を小さく振って、ご、ごきげんよう……と返事をした。
紳士淑女たちは、微笑んだまま道を進んで行く。
その横顔がまた、輝いて見えて……眩しくって直視できなかった。
「ふふふ……準備はよいですか?では、参りましょう!」
本通りの前に立って、メイドのフーブルさんはそう言った。
そして、フブールさんは眩しい世界に足を踏み込んだ。
俺は城に続く本通りの前で少しだけ躊躇してしまった。
躊躇したのはほんの1秒ほどだったと思うけども、イヅナが俺の腰を叩いた。
「なにビビってるんですか?!」
「うう……びびって……るよ。ああ、そうだよ」
「大丈夫ですよ!かましてやりましょう!」
「かますって……何をだよ……」
「全てです!魂ですよ!魂!」
「何言ってんだよお前は……」
俺はそう言って、ため息を吐いた。
でも、そうか……魂か。
なんかそういう抽象的なことを考えると……確かになんか大丈夫な気がする。
何にも根拠のない自信。
今の俺にはそれが必要だ。
てか、行かなきゃいけないんだ。
そうするしかないんだ。ここまで来たんだからな。
「魂ね……」
俺はそうつぶやくと一歩踏み出した。
「それなら一応持ってるよ」
金も、地位も、名誉も、学も、矜持も、常識も、甲斐性も、品も……。
俺には何にも無いけども……魂、それだけはある。
それだけ一つ握りしめてれば……まぁあそこに加わるくらいは許されるだろう。
だって、それくらい強くて……確かなものだから……。
俺はそう自分に言い聞かせて、輝く列に加わった。
覚悟は決まったわけだけども……こうして並んでいるとやっぱり浮くな。
キラキラま人たちに挟まれて……俺たちは入場待ちの列に並んだ。
俺はずっと硬い表情のまま、まっすぐに前だけ見ていたけども……イヅナたちはニコニコ他の人と話をしていた。
話をしていたというか、話しかけられていた。
「あら、なんて、かわいらしいのかしら」
そう言ったのは、後ろに並んでいた二人組のご婦人だった。
「ごきげんよう!」
三人が元気に挨拶を返すと、ご婦人方は微笑んでいた。
「ふふ……ごきげんよう。お嬢ちゃんたちはどこのかた?」
「わたしたちは冒険者のイナホと申します!」
「冒険者!あら、すごいのね!」
「ええ、すごいのです!こう見えて、Bランク1位にいます!」
イヅナがそう言うと、ご婦人方は目を丸くして驚いていた。
イヅナたちは自慢げにそう言って、胸を張っていた。
俺は頭を抱えてしまった。
後ろの御婦人方は双子らしい。
銀行員の夫がいたけども、二人とも数年前に亡くしてしまったらしい。
子供は都会に嫌気がさして、田舎に嫁いでいって帰って来ないらしい。
昔は正直でかわいらしい子たちだったらしいが、今は会えば喧嘩ばかりだそうだ。
ドクダミちゃんを見て、かわいかった小さい時にそっくりだと、きゃぴきゃぴと話をしていた。
そんな話をしているうちに列は進み、とうとう俺たちが列の先頭に立った。
列の先頭はでかい門の前だった。
大きな門の前に門兵が二人立ち、その真ん中に長机が一つ置かれている。
その長机には長い紙が置かれていて……一人の男がその紙に何かを記していた。
男は白髪交じりのオールバックで片眼鏡をつけている。
真っ白い上品な手袋をつけ、落ち着いた所作で仕事をしていた。
その男に向かって、案内人のフブールが挨拶をした。
「こんにちは!イナホの皆様をお連れしました!」
片眼鏡の男はフブールさんの言葉を聞いて、顔を上げた。
「こんにちは。フブールさん」
「こんにちは。コーチさん」
「イナホの皆様……ですね?」
「ええ、そうです!」
「では……」
「はい!」
フブールさんはそう言うと、俺の方を向いて言った。
「では、こちらのほうに招待状をお見せください」
「あ、はい……」
俺はそう言うと、片眼鏡の老紳士に招待状を手渡した。
老紳士はそれを見て、机の上に置いてある紙に何かを記した。
「ようこそおいでくださりました、モリー・コウタ様。主がお待ちです。どうぞ、お進みください」
老紳士はそう言って、お辞儀をした。
俺はお辞儀を返す。
で、どうしていいか分からずにいると、フブールさんがどうぞどうぞと門をくぐって奥に行けと体で教えてくれた。
俺は机の横を通り、門兵の間を通って、城内に足を踏み入れた。
門をくぐると堀を越える木製の橋が見えた。
ニスが塗られてまるで石のような光沢がある橋だった。
その先には輝く緑の芝生に囲まれて、真珠のように真っ白な道が伸びる広場が見えた。
その先には……見上げるほどでかい大きなお城の姿が見える。
ああ、こここそがこの国の中心。
クレッド国王城だ。
あそこで今日新しい王様が産まれる。
こうして……城の姿を、真正面から見るのは初めてだ。
珍しいことに、上から見たことはあるのだけども……。
だが、入るのはいつも横道とか裏口とかからだったから……なんていうか、ついにって感じがする。
今日は違うんだ。
それがどういうことなのか?こうして真正面から城を見て、それがやっと実感できた。
これは……なんだ?
この沸き上がる気持ちは……これはどういう気持ちなのだろうか?
言葉にするなら……身に余る光栄、というやつなのだろうか……。
ここにいれば自然と愛国心のようなものが湧いてくる気がする。
いままで微塵も……そんなこと考えたことも無いってのに……。
どこからわいてくるんだ?この気持ちは……。
なんか自分が……上出来な人間にでもなったかのような気持ちが……。
「うわぁー!大きい!」
なんて、考えてるとイヅナが、いつも通り能天気な声でそう叫んだ。
なんか、急に俺は冷めてしまった。
愛国心なんて無いだろ。
別に恨んでるとかそういうわけじゃないけども……。
急に湧いてくる気持ちなんてのは、ただの思い付きでしかないんだ。
「おい、声がでかい」
俺はため息を吐いてそう言った。
それには気持ちを正気に戻すっていう意味もあった。
「え~!でも!びっくりするくらい大きいですよ!このお城は!」
「そうだな」
「しかも、こんな真正面から見れるなんて!こんな形だったんですね!」
「それは……そうだな。案外なんか強そうな形してるよな」
「ですね!なんか近くで見ると山みたいですね」
「ああ、そうだな。俺たちなんて豆粒みたいだな」
「でも、気持ちはでかいですよ!私の方がね!」
「何わけわかんないこと言ってんだよ、馬鹿」
「馬鹿じゃありません!そして、気持ちは決して負けてません!」
「そうか……。ああ、うん。それはとても大切だな」
「そうですよ!とっても大切なんですから!」
イヅナはそう言って笑っていた。
「す……す……すごい……」
「おわー!やばー!」
ドクダミちゃんとレイシーも入って来て、そして同じようにお城を見て驚嘆していた。
「ほえ~こんなに大きかったんですねぇ……」
「ね!びっくりだよね!」
「す、すごい……ね……」
「ドクダミちゃんも初めて見たの?!」
「う、うん……いつもは横門からだから……正門は初めてだね……」
「そうなんだ!ね、すごいよね!」
「う、うん……す、すごい!」
三人はそう言って、お城を眺めていた。
「ふふふ!見入っておりますねぇ?!」
フブールさんが、微笑みながら、くるりと回って俺たちの前に躍り出た。
「どうです?素晴らしいでしょう?我がお城は!」
「え、ええ……すごいですね……」
俺は呆然としながらそう言った。
「すごいです!」
イヅナはずいっと前に出てそう言った。
「こんな大きくって、素晴らしい建物は初めて見ました!」
「そうでしょう?!私も初めてここに来たときは……感動して、この場所で小一時間立ち尽くしてしまいました!」
フブールさんは微笑みながらそう言った。
「ええ?そんなに……?」
俺がそう言うと、フブールさんは頷いていた。
「ええ!そうです!先輩に肩を叩かれて、正気に戻った時……私、顎が外れてしまっていましたからね!あはははは!」
フブールさんはそう言って大笑いした。
大笑いして……ひと段落つくと、フブールさんはきっと表情を正し、俺たちに向き直った。
そして、言った。
「改めまして!ようこそおいでくださいました!我れらが王城に!これより主の元まで皆様をご案内させていただきます!」
フブールさんはそう言って、深くお辞儀をした。
お城の中央広場を進んで行く。
真珠のように真っ白な道がでかい建物まで伸びている。
周囲は作り物みたいに美しい芝生が広がっていて、植え込みには美しい花が咲いていた。
なんていう現実感の無い場所だ。
まるで夢の中の景色を歩いるようだ。
その夢の終わりに、十字路があるのが見えた。
左右とまっすぐ道は続いていて、その先にはそれぞれでかい建物に続いていた。
俺たちは十字路をまっすぐ直進する。
その先には白い階段があり、その先には赤く重厚感のある扉が見えた。
その建物の後ろに大きな城が建っている。
俺たちはメイドさんが進むまま、その階段をのぼった。
これも真っ白で、月や太陽や星々が彫刻されていた。
まるで芸術品だ。
子供たちは物珍しそうに階段の隅々を眺めていた。
そこで俺はふと来た道を振り返ってみた。
少し後ろに、さきほどイヅナたちと話していた双子のおば様方が歩いているのが見えた。
おばさま方は案内人と共に十字路を右に曲がって行った。
来客によって向かう先が違うようだ。
と、いうことは……この扉の先に案内されるのは……。
赤い扉の前に立つ。
案内人のフブールさんは、俺たちがいるのを確認すると扉をノックした。
「フブール・カミューシュラー!ただいま、イナホの皆様をお連れいたしました!」
フブールさんは高らかに宣言するかのように、そう言うと、勢いよく扉を開いた。
「ようこそ!お待ちしておりました!」
扉の向こうから、美しく何重にも重なった声が聞こえた。
「うっ……おお……」
扉の向こう側を見て、俺は思わずたじろんだ。
扉の先には、真っ赤なカーペットが一直線に敷かれ、その両脇にはずらっと何十人かのメイドが並んでいた。
カーペットの先は大階段。
その階段の先にはでっかい家族の絵が飾られていた。
大階段はその絵の手前で左右に分かれている。
その階段の手前までメイドがずらりと並んでいる。
全員美人で……花のような匂いがする。
メイドたちは行儀よくお辞儀をして俺たちを迎える。
その景色を見て……俺はまるで好色家の王様にでもなったかのような気分だった。
フブールさんは扉を開けたまま、さぁさぁ中へどうぞと言ってくれたけども……流石に入るのを躊躇した。
「うわー!みんな綺麗!すごーい!」
棒立ちになって躊躇している俺を差し置いて、イヅナが扉の中へ入った。
イヅナは赤いカーペットの上をくるくる回りながら進んで行った。
「まるで王様になったみたい!すごーい!」
イヅナはそう言って、ぴょんぴょん跳ねまわった。
流石に調子乗りすぎだ!
「お……おい!イヅ……!」
俺はイヅナを止めようとして、扉の中に入った。
中に入った瞬間、俺は再び立ち止まってしまった。
な、なんだ……ここ……。
まるで、別世界だ。
下品な言い方になるけども……女の匂いがする。
だが、それは裏通りのそれとは違う。
もちろん、イヅナたちみたいなちんちくりんなものとも違う。
モフルさん……ああいう大人の女性の匂いだ。
嗅いでいると頭がムズムズする。
俺は鼻で呼吸するのを止めて、できるだけ匂いを嗅がないようにした。
「おい……はしゃぎすぎだ」
俺はそう言ってイヅナを捕まえた。
「だって、すごいじゃないですか!」
イヅナは目を輝かせながらそう言った。
「御淑やかだ……」
俺は顔を引きつらせながらそう言った。
「はぁい!」
イヅナがそう返事すると、カーペットの先に誰かが出て来た。
「ようこそ、おいでくださいました。モリー・コウタ様!イヅナ・ヴィクトーリア様!」
そう言ったのは、美人で背の高いメイドだった。
「はじめまして。私は侍女長のココア・ライダーと申します」
メイドはそう言ってお辞儀をした。
「侍女長?!マリアさんじゃないんですか!?」
イヅナがココアさんにそう言った。
「ふふふ……広いお城ですからね。侍女長は5人おるのです。4人がそれぞれ各仕事を分担しマリアさんが我々をまとめてくださっています!私はそのうちの1人!主に来客担当の侍女長にございます!」
「そうなんですね!突然、ぶしつけな質問をしてしまい申し訳ありません!」
「いいえ!なんでもお聞きください!お客様に対して礼の限りを尽くす!それが我々の使命!気になったことがあればなんなりとお聞きください!」
ココアさんは朗らかな声でそう言った。
まるで舞台の女優さんみたいな話し方だなって思った。
「ありがとうございます!それでは!ここからはココアさんが案内してくださるのですか?!」
「はい!わたくしめがご案内いたします!よろしくお願いいたします!」
「はい!よろしくお願いします!わたくしたちは冒険者PTのイナホです!本日はお招きいただきありがとうございます!」
イヅナがそう言って、ココアさんにお辞儀をした。
俺とレイシーとドクダミちゃんもイヅナに続いて、ココアさんにお辞儀をした。
「はい!よろしくお願いいたします!早速ですが、戴冠式までもう少々時間があります!皆様を待合室の方へご案内……したいのですが……」
ココアさんに歯切れが急に悪くなった。
顔を上げて見てみると、ココアさんがイヅナの顔を覗き込むようにして、じっと見つめていた。
「え?!あのぉ……何か?」
イヅナも自分が見つめられているのに気が付いたようだ。
「ふぅむ……少々お色直しが必要かと思いまして!」
ココアさんがそう言った。
確かに、言われてみれば……はしゃぎすぎたせいなのか、イヅナの服が少し寄れているように見えた。
髪も少し乱れてるし、髪飾りもずれている。
それはレイシーもそうだったし、ドクダミちゃんもそうだった。
まぁ、馬車であれだけはしゃいでいたんだから……当然か。
「あう……ちょっとはしゃぎすぎてしまいました……」
イヅナは恥ずかしそうにそう言った。
ココアさんはにっこりと微笑むと、手を叩いた。
「では、お三方様、お色直しですわ!世界で二番目にかわいくしたててあげておやりなさい!」
ココアさんが手を叩いて、そう宣言する。
すると……頭を下げていたメイドが一斉に顔を上げて返事をした。
「イエス!マスター!」
一糸乱れぬ返事だった。
「時間がありませんわ!特急ですわよ!」
「イエス!マスター!」
ココアさんが号令を出すと、メイドが一斉に動き出し、あれよあれよとイヅナたちをどこかへ連れ去って行った。
荒波のようにメイドたちが消えると、俺とココアさんだけがその場に残された。
「ああっと……」
「モリー・コウタ様!」
「は、はい!」
「わたくしは他の方たちの案内がございます!申し訳ございませんが、少々ここでお待ちください!」
「え?あ、は……はい。って、他の方たち?」
「はい!他の方もいらっしゃいっておりますので!」
「……それはもしかして冒険者ですか?」
「はい!左様にございます!この建物には冒険者様をご案内しております!」
「そうなんですね……それって誰が来てるんですか?」
俺はそう訊いて、あっと思った。
これだと少々乱暴か?
予想通り、ココアさんは少し困惑していた。
「えっと……知り合いが来てるかもなので……知っておきたいなって思って……」
俺がそうフォローを入れると、ココアさんは微笑んで頷いた。
「ああ、左様でございますか!来賓の方々の情報はしかと私の頭に入っておりますよ!どなた様をお探しですか?!」
「ああ、そうですね……あのそれじゃあ……コーマさんはいますか?」
「キョウガミ・コーマ様ですね!?すでにこちらに到着しております!」
「そうですか。じゃあ……アルガートン・コンカーは?」
「アルガートン様もおいでですよ!お呼びいたしますか?!」
「ああ、いえ!そこまではいいんです。いるっていうのが……それが分かれば大丈夫です。すみません、お忙しいのに引き留めてしまって……」
「いいえ!お役に立てたのならば何よりでございます!他に何か御用はありますでしょうか?!」
「あーいや、大丈夫です。ありがとうございます」
俺がそう言うと、ココアさんは承知しましたと言った。
そして、深くお辞儀をすると、失礼いたしますと言って、どこかへ行ってしまった。
俺はひとりエントランスに取り残されてしまった。
ふと、見てみると、ちょうどいいところに姿見があった。
何もせずにぼんやり待ってるのも……変だしな。
待ってる間、俺も自分の服装や髪を整えることにした。
ある程度、身だしなみを整えると、俺はぼんやりと階段の上の絵画を眺めた。
飾られているのは家族の絵だ。
王冠を被った背丈の大きい男性と、椅子に座る女性が描かれている。
それは恐らく王様なのだろうと思われた。
と、言うことは……これがダイプラン様。
アン・クリムの犠牲になった前王様。
こうしてお顔を拝見するのは初めてだ。
噂通り豪胆そうな見た目をしている。
背丈が高く、肩幅も広い。
胸板が厚く、まるで岩のようだ。
腕も俺より太い。
バニラボーンの男というのはここまで、でかくなるのだな……。
顔も自信に満ちている。
見ただけでわかる。
この人には、この国を引っ張って行くに、十分すぎるほどの力がある。
そう思わせるような、力強い顔だった。
意外にも長髪で、後ろで一つ括りにしている。
王様ならではの、豪奢な格好をしているが……そうでなければ修厳者のような見た目だと思った。
じっくり見てみたら……控えめに描かれているけども、その顔には確かに立派なそばかすがあった。
そうやってみれば……レイシーの面影がすこしある気がする。
どことなくシルアさんにも似ている。
あの二人は父親似なんだな……なんて、思った。
その前王様の横で椅子に座って微笑む女性がいる。
顔を見ただけで、良い人なんだろうなって思えるような明るい笑顔の女性だった。
きっと……この人がレイリシア様なのだろう。
同じ名前なのにレイシーには似ても似つかなかった。
こっちに似ればよかったのに……なんて、そんな不敬なこと口が裂けても言えないな。
そのレイリシア様の腕の中には一人の赤ん坊の姿が描かれていた。
この赤ん坊こそが、今日、この国に君臨する女王様。
ルーナ・ノヴァ様なのだろうと思われた。
ロイヤルファミリーとでもいうのだろうか。
三人が描かれているということは……女王様が産まれた時に記念で書かれた絵なのだろうか。
実に立派な絵だった。
その絵は素晴らしいものであるのだが……ひとつだけ気になるものがあった。
家族の後ろ、カーテンに近くに、二人の人物が描かれているのが見えた。
その二人は恐らく侍女だ。
メイド服を着ているからそうだと思われる。
ひとりは多分マリアさんだ。
年齢的にもそうだと思う。
でも、その横にもうひとりいる。
マリアさんよりも、若くて、カーテンの影に隠れるように立っている。
きっと、この絵を描くときに、実際後ろに二人が立っていたんだろうと思われる。
もう一人……あれがミヤビさんなのだろうか?
バレンタインさんの妹で、コーマさんの奥さん。
にしては……少し大人か?
女王様が産まれたばかりってことは……16年前?
コーマさんはその時……20前後か?
う~む、それくらいか?
じゃあ、あの人が……ミヤビさんなのか……。
でも……なんだろう……。
なんか……見覚えがあるような……。
俺は目を凝らして、絵を凝視した。
そして、何かを思い出せそうになった時……。
「あら?!なにか……でかいのがいらっしゃいますわー!」
しずかなエントランスに、いきなりやかましい声が響いた。




