魔女の一張羅
昼時、人々で賑わう街を歩いていく。
うちの三人娘は仲良く腕を組んで、楽しそうに歌いながら先頭を歩いている。
イヅナの声が大きすぎて、すれ違う人がみんな振り返って見ていた。
笑顔の人もいれば、顔をしかめている人もいた。
だけど、三人は他人の目なんて全く気にすることなく、ずんずんと進んで行った。
まるで世界に自分たちしかいないみたいだ。
羨ましいくらいに若いって感じだな。
それはまぁいいけども……あいつら、前ちゃんと見て歩いてるんだろうな?
変な人にぶつかって喧嘩なんかにならないだろうな……。
なんて、少しばかり不安になった。
三人の後ろをポッポとサフィ君が談笑しながら歩いている。
きっと近況や仕事の話をしているのだろう。
先頭の三人とは打って変わって、雰囲気が落ち着いてみえた。
大人な二人の後ろに、ポールとルビィさんが腕を組んで歩いていた。
二人は物珍しそうに、きらきら輝く街を見ながら笑顔で会話していた。
ポールは見たことないほどやさしい顔をしていて、ルビィさんもほかの何も気にすることの無いような雰囲気だった。
とても、穏やかで幸せそうな姿だった。
街の人たちは……特にこの中央は他人を見ていない人が多い。
無関心って言うよりも、みんな自分の生活や人生に全力って感じだ。
みんな急いでいる。
だから、普通と少し違うくらいじゃ全く気にならない。
少なくとも、今、あの二人の周りには……偏見も差別もない。
たった、二人、この場所にいるだけ。
それは二人にとって、とても幸せなことのように見えた。
そんな幸福な雰囲気をした、みんなの後ろを、ステラが一人で歩いている。
後ろで手を組んで、商店に並んでいる商品を眺めている。
その数歩後ろに俺がいる。
これは……もしかして、あれなのかな?
俺は……ステラの隣に並ぶべきなのだろうか?
でも……そうだとしても……何を話せばいいんだ?
そんなことを考えていると、俺の横を二人組の女の子が通って行った。
その二人は何かすごいものを見た!って感じで後ろを振り返って、目を丸くしていた。
「え?あの人って……」
「え?本物?」
二人は、立ち止まって、こそこそと話していた。
なんか気になってちらっと見てみると……二人は制服姿をしていた。
ああ、あの子たちはシャリオン校の生徒なのだろうか。
どうやら、二人はステラの存在に気が付いたようだ。
ドクダミちゃんも言ってたけども、こいつは学校ではかなりの有名人らしいからな。
二人は立ち止まって、歩くステラの姿をうっとりとした表情で眺めていた。
これは……きっかけ、なのかな?
二人の助けにもなりそうだし……やってみるか?
俺は覚悟を決め、深呼吸すると、思い切ってステラに話しかけてみることにした。
「なぁ、あの二人さ……」
俺がそう言うと、ステラは眉をしかめた。
はぁ?いきなりなにこいつ?って感じだ。
やば、いきなりミスったか?
「いや、後ろのさ……あの子たち……なんだけども……」
俺は顔を引きつらせながら、そう言った。
ステラは怪訝そうな顔をしていたが……俺の言うとおりに後ろを振り返った。
ステラが振り返ると、立ち止まってこっちを見ていた二人組と目が合った。
二人組の女学生は、ステラに気が付かれて、嬉しそうにしていた。
ステラは二人を見ると、ステラは怪訝そうな顔のまま俺の方をちらりと見た。
「あの子たちですか?」
「ああ、そうだ。知ってるみたいだぜ?」
俺がそう言うと、ステラは俯いてため息を吐いた。
息を吐いて、顔を上げると、ステラはさっきとは違い、優しく柔らかい表情をしていた。
そして、にこりと微笑むと、二人に向かって手を振ってみせた。
二人は手を振られて、キャーと悲鳴を上げていた。
そして、必死になって手を振り返した。
あんまりぶんぶん手を振っているもんで、すぽんと抜けてどっかに飛んでいくんじゃないかと心配になった。
「人気だねぇ……」
手を振る二人を見て、俺はそうつぶやいた。
「ああやって、慕ってくださるのはありがたいのですがね……」
ステラは少し困ったようにそう言った。
「ん?嬉しくないのか?」
「両手放しで喜べる……とはいきませんね」
ステラはそう言った。
意外だね。
こいつはイヅナと似てるところがあると思っていた。
つまりは目立ちたがり屋ってことで……。
絶対、有名になって喜んでいるって思ってたけども、そうでもないようだ。
「へぇ……慕われるのは嬉しいもんだと思ってたよ」
「妙に期待されて……がっかりされると悲しいのですよ」
「へぇ……そうなのか……。俺はてっきりちやほやされて嬉しいのかと思ってた」
「そんな馬鹿な……私はあなたのように単純ではないのですよ」
「そっか……そんなもんか……。なぁ、街中で話しかけられることってよくある?」
「なんです?急に」
「いや、この間さ……新人の冒険者みたいな子たちに声をかけられてさ……」
「はぁ、そうですか……あなたがですか?」
「ああ、そうなんだ。で、まぁ他にもサインとか……頼まれたりとかもあてさ……」
「サイン?はぁ……まさか、したんですか?あなたが?」
「ん?いや、断るのもあれかなってさ……それにその子は同じ南部の子だったからさ……」
「はぁ……そうですか……ずいぶんですね」
「いやいや……え?ずいぶんって?」
「ずいぶんだなぁってことですよ」
「え?それって……?」
「まぁ、イナホは一時期、大変話題でしたからね」
「え?ん?ああ、そうなのか?」
なんか、話が流された気がするが……気のせいかな?
「ええ、新聞や雑誌や……何かしらの媒体で名前を見ない日はありませんでした。特にあなたはね」
「え?俺の名前がそんなに書かれていたのか?!」
「ええ、そうですよ。だって……あなたは一級手配犯ですからね」
「うっ……忘れてた」
「ふっ……でも、まぁそれもすべて戴冠式の話題で消え去りましたがね。もう誰も覚えてないでしょう」
「ああ、そりゃよかった。女王様は偉大だな」
「ええ、最高の権威者ですからね」
「そうか……それはいいけども、ステラはどうなんだ?」
「なんです?ああ、声をかけられるか?ですか?」
「ああ、そうそう。どうなの?」
「そうですね。ときどき……ありますがね。それより話の中で自分の名前を聞く方がおおいですかね。声をかけられるのは時々です」
「へぇ、そうなんだ……」
「ええ、そうです」
「なんでだろうな?噂するくらいならもっと声かけられそうだけど……」
「そりゃあ……顔が知られてませんからね。アルガートンは顔も売れていますが……私はまだそこまでではありませんので」
「あっ、そりゃそうね。顔知らなきゃ話もできないか」
「ええ、だから……顔を知ってくれている人にはときおり声をかけられますよ」
「なるほどねぇ……」
「ちなみに、ウーティさんもよく声をかけられるそうですよ。あの人は自分から名乗っているようですからね」
「ああ、それはあいつらしいな」
「それで……出会った人にいろんな仕事を貰っているそうですよ」
「はぁん……じゃあ、ドルビレイ先生のバイトもそうやって取って来たのかな?」
「……そうかもしれませんね」
「ふぅん……まぁ、あいつらしいね」
「ま、私としては、おかげ様で影に隠れられてよいのですがね」
「目立つ奴がいると……そうなるか」
「ええ。そういう観点で考えれば……あなたは有名になったら大変そうですね。良く目立ちますからね」
「確かにね。こう、でかいとなぁ……どうしても目立つか」
「そうですね……善きも悪きもよく目立つことでしょうね」
「……そういうのは生きにくいから嫌だな」
「そうですね。でも、あなたは少し自由すぎる気がしますよ?」
「え?そうかな?」
「そうですね。しかも……あなたはかなり厄介ですからね」
「ええ?なんで?」
「自由にさせたら碌なことをしないでしょう?」
「……なんか似たようなことをバレンタインさんに言われた気がする」
「誰ですか?それ」
「え?東部のお偉い軍人さんだよ」
「そんな人とどこで?」
「ん?あー、軍の施設の中で会ったんだ。ああっと……会った状況も特殊でさ。コーマさんに連れられて、夜中に軍施設に侵入したみたいな形みたいになってだな……」
「はぁ……なるほど……わかりました」
「え?分かったの?」
「ええ、やはりあなたは自由にさせていたら碌なことをしないということが分かりました」
「やっぱそうおもう?」
「はい。あなたを野放しにするのは危険なようですね……」
ステラはそう言って俺を睨みつけた。
その目はなんか殺意が籠っている気がした。
気のせいだと思いたい……。
なんて、話をしていると……いつのまにやら目的地に到着していた。
ステラが何を考えていたのかは、結局、怖くて聞けなかった。
アル・モーロに入ると、いつも通り店主が出て来た。
店主に9名だと伝えると少し慌てていた。
「すまない、突然……大人数で……」
「いえいえ!大丈夫です!」
店主はそう言うと、いそいそと席の準備をした。
そして、店先に出て「本日貸し切り」の看板を置いた。
俺がわざわざ、すまないというと、店主はニコニコしながら礼には及びませんと言ってくれた。
用意されたテーブルは二つで、俺たちは別れて座った。
イナホの四人とステラ、もう一つに大人たちが座った。
大人って言うが、サフィ君はまだ子供なんだけども……。
まぁ年齢的には……だけど……。
でも、あの子は大人よりも大人してる。
少なくとも俺よりもしっかりしている。
情けない限りだが……事実である以上受け入れざるを得ない。
とても……情けない話であるのだけど……。
そんなことを思っていたら、イヅナたちが楽しくおしゃべりを始めた。
……今は馬鹿なことを考えるのはやめておこう。
俺はそう思って、和やかに談笑しながら料理の到着を待った。
いきなり大人数で来たってのに、店主は料理をぽんぽんと作って運んできた。
ひとりでやってるとは思えない、見事な仕事っぷりだった。
料理はどれもおいしく、ルビィさんたちにも、気に入ってもらえたようだった。
で、最後にデザートとお茶が出てきて……俺たちはお茶をしながらゆったりとした時間を過ごした。
子供たちはずっとステラに質問攻めしていて、いろんなことを聞いていた。
ドクダミちゃんは特に魔法についていろいろ意見を聞いているようだった。
もちろん、俺の修業の話も聞かれた。
で、一通り話し終わって、俺は薬を飲んで、ぼんやりとしていると、突然ポッポが俺の肩を叩いた。
「モリーさん、すこしいいですか?」
「ん?なんだろうか?」
「この後……お時間ありますか?」
「この後?ああ、まぁ暇だけども?なんかあるのか?」
「ええ、実は……あるのです。と、いうことで!これをどうぞ!」
ポッポはそう言うと、机の上に例の袋を置いた。
先ほど、どこかで買って来たであろうでかい袋だ。
「え?これは?」
「ありていにいえば……プレゼントです」
「え?俺に?どうして?」
「ふふふ……必要かと思いまして……」
ポッポがそう言うとイヅナが身を乗り出した。
「ずるい!おじさん!私の分は無いんですか?!」
イヅナがまっすぐにおねだりをした。
「おい。意地汚いぞ」
俺は窘めるようにそう言ったのだが、イヅナは全く聞き耳を持たなかった。
「意地汚くてもいいです!モリー様だけなんて癪ですもの!」
なんだよ、それって思ったけども、ポッポは笑っていた。
「ふふふ……安心してください。イヅナさんの分も、ちゃんとありますよ!」
「ええ?!そうなんですか?!」
「ええ、ここにはありませんがね」
「え?!じゃあ、どこにあるんですか?!」
「ふふふ……それはこの後のお楽しみです」
ポッポはそう言うと不敵に笑っていた。
「なぁ……ちなみにこれって開けてもいいの?」
俺がそう訊ねるとポッポが頷き、ドクダミちゃんが言った。
「あ、あ、開けてみてください!」
「ん?もしかして、ドクダミちゃんも中身知ってるの?」
「え、ええ!もちろんです!」
「ふぅん……そうか……それは気になるね」
俺はそう言うと、気合を入れて袋を開いた。
何が入っているのかと思ったけども……袋の中には服が入っていた。
綺麗に折りたたまれた真っ黒な服だ。
「服?これ……服か?」
俺がそう言うと、ドクダミちゃんは頷いた。
「は、はい!お、おばあちゃんと一緒に作りました。戴冠式用の……正礼装一式です!」
「え?!一式?!いいのか?!」
俺が驚いていると、ポッポが言った。
「ええ、せっかく戴冠式に出席するのです。恐らく、一緒に一度の機会ですからね。しっかりした服装で参列なさるのが良いかと思いまして……」
「ああ、ありがとう……恩に着るよ」
俺はそう言って袋から服を取り出した。
袋の中に入っていたのは真っ黒で高級感ある質感の燕尾服だった。
まるで貴族が着るみたいな……そんな服だ。
「あら、いいじゃないですか」
ステラが服を見てそう言った。
「だな……でも、これ……似合うかな?」
「きっと似合いますよ」
ポッポがそう言うと、ステラがふぅむと首をかしげて言った。
「それにしても燕尾服なのですね?戴冠式はお昼なのでは?それは夜用の物に見えます」
「そうですね。ですが、女王様の戴冠式は新月の夜を想起させるような幻想的な式典となるそうですよ」
「あら、そうでしたか。で、あるならちょうどよいかもしれませんね」
「そうですね。きっと、ぴったりだと思います」
「ええ、ほんと……ちょうどですね」
ステラは言った。
「よかったじゃないですか。あなた、どうせ正礼装なんて持ってないでしょう?」
ステラは俺の方を見て、ため息交じりにそう言った。
まさに、おっしゃる通りだ。
「おっしゃる通りで……戴冠式に何を着ていくかとか……考えてなかった」
「そうでしょうね……そうでしょうとも……」
ステラはあきれ果てたようにそう言った。
「一応、一式でそろえてあります。サイズは……恐らく大丈夫かと思いますが……この後、試着がてらお店の方へ行こうかと思っていまして……」
「お店?それって……アッシュクラベルさんの?」
「ええ、そうです」
ポッポがそう言った。
なるほど。
そうであるなら、断る理由は無さそうだ。
「分かった。お願いするよ」
俺がそう言うとイヅナがさらに身を乗り出して言った。
「おじさん!お店には私の分もあるんですよね?!」
「ええ、もちろんありますよ!何と今回は……イナホのみなさん、全員分を用意してます!」
ポッポがそう言うと、レイシーが首を傾げた。
「ん?全員?」
「ん?そうですよ?」
「え?旦那さん……それってもしかして、私の分もある感じですか?」
「当然ですよ。あなたも戴冠式に行くのでしょう?」
「ええ?!聞いてへんけども?!」
「言ってないからね!」
ドクダミちゃんが言った。
「こっそり作ってたんだよ。レイシーちゃんの分もね」
「そうなん!?言うてよ!」
「びっくりさせたくて……」
「いや、ほんまなん?!ほんまに私の分もあるの?それならほんまびっくりやけども!?」
「あるよ!きっと気に入ってくれると思う!」
ドクダミちゃんは明るくそう言った。
イヅナはとても喜んでいた。
レイシーは気恥ずかしそうにしていた。
俺も……正直恥ずかしかったけども……それより嬉しかった。
なんだか分からないけども……なんか、すげー嬉しかった。
会計を済ませて店を出た。
全員分俺が払おうと思っていたら、いつのまにやらポッポが支払いを済ませていた。
なんとスマートな手際なのだろうか。
成人として、少しばかり憧れの念を抱いた。
「みんなの一張羅はみたいけども……私たちはそろそろいかないとね」
ルビィさんがそう言った。
ということで、サフィ君とルビィさんとポールとはここでお別れすることになった。
ルビィさんは最後、三人をハグして言った。
「またね。元気でね」
「はい!またいつか!」
「今度、みかん狩りに行きますわ!」
「ど、どうか……みなさんお元気で!」
三人がそう言うと、ルビィさんは最後に強く三人を抱きしめた。
「モリーさん……ルビィをありがとうございます」
ポールがそう言って俺に手を差し出した。
俺はポールの手を握って、握手をした。
「ああ、また会おう」
「ええ。このご恩は必ず返します」
「恩だなんて!恩を返すのは俺たちの方さ。いろいろ……世話になった」
「いえ、そんな……」
「向こうに戻っても元気で。今度は俺たちがスピネリにお邪魔するよ……またみんなで会おう」
「ええ」
「ああ、そうだ。カルモさんと……ディオゲネスにもよろしく言っといてくれ」
俺がそう言うと、ポールの表情が曇った。
「どうかしただろうか?」
「いえ……ええ、よろしく言っておきます」
「ああ、ディオゲネスにはお願い事もしてたんだ。その件で手紙を書くかもしれない」
「……その件なら、私から説明しますよ」
「え?何か聞いてるのか?」
「ええ、その話はまた後日」
ポールは真剣な表情でそう言った。
何か……込み入った事情がありそうだ。
俺はもろもろ察して、頼んだ、とだけ返事することにした。
ルビィさんたちは手を振って街の方へ歩いて行った。
その姿を見送ると、ステラが言った。
「では、私もここで……。本日はお誘いいただきありがとうございました」
ステラは深々とお辞儀をして、そう言った。
「楽しかったです。では、また……ごきげんよう」
ステラはそう言い残すと颯爽と去って行った。
残った俺たちは、去って行った人たちに向かって深くお辞儀をすると……アッシュクラベルさんのお店に向かうことにした。
アッシュクラベルさんのお店に入ると、店主であるおばあさんが椅子に腰かけて待っていた。
「おや、いらっしゃい……ようやっと来たかね」
古木のような匂いのする店内で、魔女のおばあちゃんがそう言った。
「お義母さん……ご無沙汰しております」
ポッポが店に入ってすぐに深くお辞儀をした。
「ふぅむ……ポットランジア……あんた寝不足だね?」
アッシュクラベルさんはポッポの顔を見てそう言った。
「え?!ど、どうしてそれを?!」
「顔を見ればわかるよ、青二才。自分の体調も管理できないなんて……不安だねぇ……」
「は……ははは……いえ!こう見えて私はしっかりしてますよ!なんてったって駅員は体が資本ですから!」
「そうかねぇ?あんたも、もう若くないだろう?無理はきかなくなってるんじゃないかね?え?そうだろ?万が一倒れでもしたら……その時は分かってるだろうね?」
「は、はい……子供たちには苦労は絶対かけないように……していますので……」
「言ったね?ポットランジア……分かったるだろうけども……魔女に嘘をついたら地獄を見るよ?」
「は、はい……肝に銘じておきます」
ポッポは冷や汗をかきながらそう言っていた。
アッシュクラベルさん……ポッポの妻のお母さんで、ドクダミちゃんのおばあちゃんにあたる人だ。
かつて、俺の服を作ってくれた魔女のおばあちゃん。
底の見えない不思議な人だ。
ドクダミちゃんたちがアッシュクラベルさんに挨拶すると、アッシュクラベルさんはニコニコと嬉しそうにしていた。
機嫌はどうやら良さそうだって思ったら、アッシュクラベルさんが俺の方を睨んでいた。
その目には魔力は宿っているかのようだった。
「モリー……言いたいことは山ほどあるが……良く帰って来たね」
「ご、ご心配をおかけしました……」
「あんたの心配なんてしてないさ」
「で、ですよね?」
「でも……よくやったじゃないか」
アッシュクラベルさんは固い表情を崩してそう言った。
俺はその顔を見て、心底安堵した。
怒られることはなさそうだ……。
俺がほっと息を吐くと、アッシュクラベルさんが手を叩いた。
「さぁ!ぼんやりしてないで……さっさと着替えてきな!」
魔女の一声に俺は、はい!と返事をし……怒られないようにきびきびと動いた。
用意してくれた服に着替える。
試着室で、姿見を前にして燕尾服に着替えてみると……おや、これは驚きだ。
服はほぼぴったりだった。
気になる点があるとするとズボンの裾がすごく余っているのと……俺には全然似合っていないってことだった。
「どうだい?!着替えれたかい?!」
「ああ、はい!」
「それじゃあ、さっさと出ておいで!」
アッシュクラベルさんにそう言われて、俺は慌てて試着室から飛び出した。
試着室を出ると、みんなが俺のことを見ていた。
みんな俺の姿を見て、おお~と声を上げていた。
なんか……むず痒い気分だ。
燕尾服を来た俺はどうすればいいか分からず困惑していた。
「背中を丸めない!しゃきっとお立ち!」
そんな俺に、アッシュクラベルさんの叱責が飛んできた。
はい!と返事して、俺は背筋を伸ばした。
アッシュクラベルさんは俺の全身をまじまじと観察すると……言った。
「おお、良いじゃないか。ぴったりだ」
アッシュクラベルさんがそう言うと、ドクダミちゃんが前のめりになって言った。
「ほんとう?おばあちゃん?!」
「うん。ドクダミの予想は完璧だったね」
アッシュクラベルさんの言葉を聞いて、ドクダミちゃんは飛び跳ねて喜んでいた。
そして、ドクダミちゃんはレイシーとハイタッチしていた。
「いやぁ……流石、冒険者だ。よくお似合いですよ」
ポッポがにっこり笑いながらそう言った。
「冒険者とか関係あるか?」
「立ち姿にオーラがあります!それに体系も引き締まっていますし……こうして見ると、とてもハンサムに見えますよ!」
「ははは……ハンサム、ねぇ……」
「もとより、モリーさんはしっかりしたらハンサムですよ」
「そっか……いや、嬉しいんだけども……死ぬほど恥ずかしい」
俺はそう言って、苦笑いした。




