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元カレ御曹司に愛人扱いされた夜、冷徹副社長に契約結婚を申し込まれました 〜一年だけの妻のはずが、本気で溺愛されています〜  作者: ちょこまろ


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7/10

第7話 好きになってはいけない契約妻

元カレとの決着を終え、自分の価値を取り戻した花音。


けれど今度は、もっと難しい気持ちと向き合わなければなりません。


朝、怜士の疲れた顔が気になる。

夜、帰宅した足音を聞くと安心する。

何でもない日常を、ずっと隣で過ごしたいと思ってしまう。


花音はようやく、自分が契約上の夫を好きになっていると気づきます。


しかし、二人の結婚は一年だけ。


契約終了まで、あと二ヶ月です。

 花音は、怜士を好きになっている。


 その事実に気づいたのは、特別な瞬間ではなかった。


 朝、怜士が少し疲れた顔で紅茶を飲んでいるのを見て、心配になったとき。


 夜、帰宅した足音にほっとしたとき。


 温室で花の葉に触れる彼の横顔を見て、ずっと見ていたいと思ったとき。


 仕事中に、怜士からの短いメッセージを待ってしまったとき。


 好きだ。


 そう認めた瞬間、花音は怖くなった。


 契約結婚は一年だけ。

 怜士は優しい。

 だから、花音が好きだと言えば、きっと困る。


 彼は責任感で応えようとするかもしれない。

 それだけは嫌だった。


 怜士の優しさに甘えて、彼の人生を縛りたくなかった。


 そんなある日、怜士は花音を温室へ誘った。


 くちなしが咲いていた。


 白い花びらが、静かに開いている。

 甘く澄んだ香りが、温室の中に満ちていた。


「咲きましたね」


 花音は思わず微笑んだ。


「はい」


 怜士は花を見つめる花音を見ていた。


「何ですか」


「あなたに見せたかったので」


「花を?」


「はい」


 花音は花にそっと触れた。


「最初は、枯らすかもって思っていました」


「咲きました」


「怜士さんが手伝ってくれたから」


「花音さんが、諦めなかったからです」


 その言葉に、胸が温かくなる。


 花も、心も。

 急かさず、大切にすれば咲くのかもしれない。


「怜士さん」


「はい」


「私、昔より少し強くなれましたか」


「少しではありません」


「そうですか?」


「かなりです」


 花音は笑った。


 怜士は、その笑顔を静かに見つめていた。


「花音さん」


「はい」


「契約の期限まで、あと二ヶ月です」


 胸がきゅっと痛んだ。


 わかっていた。

 でも、怜士の口から聞くと、急に現実になる。


「そうですね」


「あなたの意思を、最優先します」


「はい」


「離婚を望むなら、私は約束を守ります」


 約束を守る。


 怜士らしい言葉だった。


 けれど、花音には刃のように聞こえた。


「怜士さんは、それでいいんですか」


 思わず聞いてしまった。


 怜士は少し黙った。


「あなたが望むなら」


「私は、怜士さんの気持ちを聞いています」


 怜士の目が揺れる。


 けれど彼は答えなかった。


「私の感情は、あなたの自由を縛る理由にはなりません」


 花音は唇を噛んだ。


 まただ。


 彼はいつも、花音を優先する。

 自分の気持ちを後回しにする。


 それが優しさだとわかっている。

 でも、今は少しだけ寂しかった。


「怜士さんは、ずるいです」


「すみません」


「謝ってほしいわけじゃありません」


 花音は俯いた。


「私だけが、好きになってしまったみたいで」


 言った瞬間、温室の空気が止まった。


 花音は自分の言葉に驚いた。


「今のは」


 忘れてください。


 そう言おうとした。


 しかし怜士が一歩近づいた。


「花音さん」


 声が、かすかに震えていた。


「今の言葉を、忘れることはできません」


「でも」


「ですが、今すぐ答えを求めません」


 怜士は、苦しそうに微笑んだ。


「あなたが迷っているなら、迷っていい。怖いなら、怖いままでいい」


「怜士さんは」


「私は、待てます」


 花音の胸が痛んだ。


「どうして、そんなに待てるんですか」


「待つことしか、できなかったので」


 五年前から。

 きっと彼は、ずっとそうしてきた。


 花音は、涙が出そうになった。


「私、怜士さんを困らせたくないんです」


「困っていません」


「でも」


「嬉しかった」


 怜士の言葉に、花音は顔を上げた。


 彼の目は、いつもよりずっと柔らかかった。


「ただ、あなたが後悔しない形で、気持ちを選んでほしい」


「選ぶ?」


「私への感謝や安心ではなく、あなた自身の気持ちとして」


 花音は何も言えなかった。


 この人は、最後まで自分を自由にしてくれる。

 好きだと言ったあとでさえ、逃げ道を残してくれる。


 その優しさが、たまらなく好きだった。


 その夜、花音は眠れなかった。


 好き。

 でも怖い。

 怜士の隣にいたい。

 でも、契約が終われば彼を自由にしなければいけないのではないか。


 気持ちは、出口のない迷路の中にあった。

第7話をお読みいただき、ありがとうございます。


特別な出来事ではなく、毎日の小さな積み重ねの中で、花音は怜士への想いに気づきました。


けれど、怜士の優しさに甘えて、彼の人生を縛りたくない。


そう思っていた花音の口から、思わず本心がこぼれます。


「私だけが、好きになってしまったみたいで」


怜士は、その言葉を拒みませんでした。


それでもすぐに答えを求めず、感謝や安心感ではなく、花音自身の気持ちとして選んでほしいと伝えます。


好きだと告げられたあとでさえ、花音の自由を守り、逃げ道を残してくれる怜士。


その優しさが、花音にはますます愛しく感じられました。


けれど、好きだからこそ怖い。


怜士の隣にいたい。

それでも、契約が終われば彼を自由にするべきなのではないか。


二人の契約終了まで、残された時間はわずかです。


次話、花音は一年後の約束どおり、怜士へ離婚を切り出そうとします。


本当は、離れたくなどないのに――。

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