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ビリンデッリの血〜東西大陸百年戦記〜  作者: エリカサファイア
episode5(adventurer)

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episode5(adventurer)Chapter2

酒と煙草と汗の匂い。

依頼書が貼られた巨大な掲示板。

昼間から酒を飲む冒険者たち。


獣人。

魔術師。

大男。

様々な種族が一斉に視線を向けた。


「ほう……。」

数名の古株が面白そうに笑う。


一方で。


「あ?」

「新入りかぁ?」

「坊ちゃんが迷い込んだか?」


荒っぽい笑い声が響く。


クリスティアンは一切気にしない。

真っ直ぐ受付へ歩いていく。


「登録してくれ。」


受付の男は書類を書く手を止めた。

クリスティアンを頭から足先まで眺める。


「いいのか?」

ニヤリと笑う。

「お前、騎士団の養成育ちだろ?」

机へ肘をつく。

「酒と女とギャンブルで借金でもしたか?」


下品な笑い声が広がる。

クリスティアンも口元を歪めた。

「まぁそんな所だ。」

妖しく笑う。

「一秒でも早く短期の高額クエストに行きてぇ。」


受付は鼻で笑った。

「ケッ。」

書類を投げる。

「テメェはFランクからだ。」

「すぐに高額クエストになんかありつけると思うなよ。」


その瞬間。酒場中が笑いに包まれた。


「野郎!」

「初日から短期で高額だってよ!」

「おいガキ!」

「調子乗んな!!」


椅子が引かれる音。

酒瓶が置かれる音。

何人もの冒険者が立ち上がった。


クリスティアンはゆっくりと振り返る。そして。


スゥ……


レジスタを鞘から引き抜いた。

白銀の刀身が酒場の灯りを反射する。


「なら。」

静かに言う。

「高ランクを目の前で倒せばいいんだろ。」

刀身を肩へ担ぐ。

「いいぜ。」

挑発するように笑った。

「まとめてかかってこい。」


「ぶっ殺せぇぇ!!」

十人近い冒険者が一斉に突っ込む。


最初の男が大斧を振り下ろす。


ガァン!!


クリスティアンは刃を滑らせ、大斧の軌道を逸らす。

勢いのまま男の腹へ蹴りを叩き込む。


「がはっ!」


巨体が吹き飛ぶ。

その背後から槍。

クリスティアンは半身になって躱し、柄を掴む。

そのまま引き寄せる。


肘打ち。


男は鼻血を撒き散らし昏倒した。

右から拳。

左からナイフ。


クリスティアンは舞うように身体を捌く。


拳を受け流し。

柄頭で鳩尾を突き。

足払い。


次々と床へ転がっていく。


「ぐあっ!」

「速ぇ!」

「何だコイツ!」


酒場が一瞬で乱戦になった。


それでも。

クリスティアンの動きだけは淀まない。


必要以上に斬らない。

必要以上に傷つけない。

だが確実に戦闘不能へ追い込む。


一人。

また一人。

床へ沈んでいく。


そして最後の一人を柄で気絶させると。

酒場は静まり返った。


クリスティアンはレジスタを軽く払う。

血は一滴も付いていない。


心の中で、小さく呟く。

(これだ……。)

静かに息を吐く。

(俺が経験したかったのは。)

倒れた冒険者たちを見渡す。

(この、本気の命のやり取りだ。)


その瞳には、久しく感じていなかった熱が宿っていた。

酒場は静まり返り、先ほどまで威勢よく絡んできた冒険者たちは、床へ転がり呻いている。

クリスティアンは静かにレジスタを鞘へ納めた。

その時だった。


「へぇ。」

艶のある女の声が背後から聞こえる。

「やるじゃないか。」

振り向くより先に、しなやかな腕がクリスティアンの肩へ回された。


ふわり。


甘い花の香りが鼻をくすぐる。

狐耳を揺らした女だった。

彼女はクリスティアンの首筋へ顔を近付ける。


「ん〜……。」

くん。

くん。

獣のように身体中の匂いを嗅ぐ。


「ふふっ。」

妖しく笑う。

「獣人の女にも抵抗なさそうだねぇ。」


クリスティアンは肩を竦めた。

「別に。人も獣人も変わらねぇよ。」


シャキーラは嬉しそうに目を細める。

「気に入った。」

投げキッスを飛ばした。

「アタシはシャキーラってんだ。」

腰へ手を当て、妖艶に微笑む。

「どうだい?組まないかい?」

「悪いようにはしないよ。」


クリスティアンは苦笑した。

「悪い。」

頭を掻く。

「あと三日でまた訓練が始まるんだ。」

「短期以外はお断り中で……」


「期限二日。」

低く太い声が割って入る。

「Bランククエスト……どうだ?」


クリスティアンが振り向く。

「え……?」


そこには金色の短髪をした筋骨隆々の男が立っていた。


日に焼けた肌。

歴戦の傷。

立っているだけで周囲の空気が変わる。


男はシャキーラの肩へ腕を回し、苦笑した。

「悪ぃ。そいつは俺の女でな。」


シャキーラは悪びれもせず男の胸へ寄り掛かる。


男はクリスティアンを真っ直ぐ見据えた。

「えらくテメェが気に入ったみてぇだ。」

ニヤリと笑う。

「俺の名前はユルゲン・マテウス。」

親指で自分を指す。


「さっきの小競り合いも見てたが。」

クリスティアンを上から下まで見る。

「腕も悪くねぇ。」

顎で外を指した。

「ちょっと手伝えや。」


クリスティアンは頷く。

「強敵と戦えるなら何でもいいぜ。」

軽く笑う。

「俺の名は――」


「クリスティアン・ビリンデッリだろ。」

ユルゲンが途中で言った。

「ちゃんと冒険者やってる奴なら知ってるぜ。」


クリスティアンは目を丸くする。

「そうなのか?」


ユルゲンは呆れたように笑った。


「パオロ・ビリンデッリの息子。」

指を一本立てる。


「マウロ・コッツァの紹介。」

二本目。


「ネラッズーロのアウローラに勝った。」

三本目。


「ロマニスタのスタッフのオキニ。」

四本目を立てる。


「訓練生のくせに、そこそこ有名だぜお前。」


クリスティアンは思わず苦笑した。

「なら話が早い。」

「俺の目的もわかってもらえそうだ。」


ユルゲンは鼻で笑った。

「たまにいるんだよ。」

腕を組む。

「金じゃなくて、強い魔獣や暴漢とただ戦いてぇってだけの騎士団の奴がな。」


シャキーラがクリスティアンの頬へ細い指を滑らせる。

「へぇ〜。」

狐耳を揺らす。

「稼ぐより腕試しか。」

くすりと笑う。

「たまにいるけど、物好きだねぇ騎士団の奴らは。」


クリスティアンはその手を払わず、静かに見返した。


その様子を見てユルゲンは深いため息をつく。

「ったく……。」

頭を掻く。

「いい男が来たらすぐこれだ。」


シャキーラは悪戯っぽく笑った。

「だって面白そうなんだもん。」

狐の尻尾をゆらゆら揺らしながら、再びクリスティアンへ意味深な視線を送る。


一方、ユルゲンはその視線など気にも留めず、口元を吊り上げた。

「さて。Bランクの魔獣退治だ。」

「騎士団の坊ちゃんが、本当に口ほどにもねぇか。」

「それとも期待以上か。」

試すような笑みを浮かべた。


クリスティアンもまた、不敵に笑う。

「試してみろ。すぐ分かる。」


その言葉に、ユルゲンは豪快に笑った。

「気に入った。行くぞ、新入り。」


こうしてクリスティアンは、冒険者グループ《インテリスタ》との最初の依頼へ向かうことになった。

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