↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビリンデッリの血〜東西大陸百年戦記〜  作者: エリカサファイア
episode4(ambush)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/124

episode4(ambush)Chapter9

村の外れ。

麦畑の先に広がる林は、異様な唸り声に包まれていた。


「ギィィィィッ!!」

「ギャアアアア!!」


翼を持つ魔獣ラピュータが、群れとなって空を埋め尽くしている。

一体、二体ではない。

二十体を優に超える群れだった。

その威圧感だけで、普通の村人なら戦意を失う。


その中心でディメトリオは杖を握ったまま膝を震わせていた。

「だ……だめだぁぁぁ……!」

声まで震える。

目には涙が溜まっていた。

「だめだぁぁもうおしまいだぁぁぁ!!」

完全に腰が引けている。

これまで治癒魔術を学び、人を救うことばかり考えてきた彼にとって、本物の魔獣の大群は悪夢そのものだった。


その前へ出るのはダミアーノ神官。

「フレアスト。」

杖の先から中位炎魔術が放たれる。


轟っ!!


灼熱の炎弾が一直線に飛び、ラピュータを包み込んだ。

「ギャアアアッ!」


一体。

さらにもう一発。

二体目。

続けざまに三発目。

三体目が炎に包まれて地面へ落ちる。


しかし。残りはまだ二十体以上。

空を覆う影はほとんど減っていなかった。


ダミアーノ神官は肩で大きく息をする。

「はぁ……はぁ……。」

額から汗が流れ落ちる。

「困りましたね……。」

苦笑するしかない。

「まだ二十体は優に超えています。」

高齢の身には、中位魔術の連発は大きな負担だった。


「ぼ、僕もぉぉぉ!!」

ディメトリオが半泣きで杖を構える。

「フ、フレイムゾーン!!」


炎の渦が広がる。

だが。

ラピュータたちは翼で風を巻き起こし、炎を散らしながら突っ切ってくる。

火傷こそ負わせたものの、ほとんど勢いは衰えない。


「なっ……!?」

ディメトリオの顔から血の気が引く。

「炎が弱点だろ!!」

声が裏返る。

「なんで効かねえんだよ!!」

完全にパニックだった。


その隙だった。

一体のラピュータが急降下する。

鋭い鉤爪がディメトリオの身体を掴み上げた。


「ぎゃあああああ!!」


杖が手から離れる。

空中へ持ち上げられ、締め上げられる。

骨が軋む。


「た、助け……!」


ラピュータはそのまま首を噛み砕こうと大口を開いた。


「ジェンティーレくん!!」


ダミアーノ神官が叫ぶ。

しかし距離が遠い。

魔術も間に合わない。

「……くっ。」

神官は歯を食いしばった。

間に合わない。

そう覚悟した、その瞬間。


「うにゃああああああああ!!」


黒い影が地面を蹴った。

猫獣人特有の爆発的な脚力。

一瞬でラピュータの高度まで跳び上がる。


ドゴォォンッ!!


鋭い回し蹴りがラピュータの横顔へ炸裂した。

魔獣は悲鳴を上げながら吹き飛び、ディメトリオを放して地面へ激突する。


「ギャアアアッ!!」


土煙の中へ軽やかに着地した猫耳の少女。

逆立った尻尾。

傷だらけの身体。

腰には一本のダガーだけ。


アウローラだった。


ダミアーノ神官は目を見開く。

「君は……。」


アウローラは振り返りもしない。

鋭い目でラピュータの群れを睨みつけながら叫ぶ。

「どっちでもいい!」

片手を後ろへ伸ばす。

「杖をよこせ!!」


ダミアーノ神官は一瞬だけ驚いたが、すぐに頷いた。

「ジェンティーレくん!」

厳しい声が飛ぶ。

「あの子に杖を渡しなさい!」


ディメトリオはまだ腰を抜かしたまま震えていた。

「ひいいいいいいいっ!!」

半泣きになりながら杖を掴むと、

「う、受け取ってぇぇぇぇ!!」

叫びながらアウローラへ向かって思い切り投げた。


宙を舞う杖。

アウローラは振り向きもせず、右手を伸ばした。


パシッ。


まるで最初からそこにあると分かっていたかのように、見事に受け止める。

くるりと一回転させ、重さや重心を確かめる。

「……ふん。」

柄を握り直しながら眉をひそめた。

「ちぇっ。」

口を尖らせる。

「飾りばかりカッコつけやがって……。」


金細工の施された杖を眺める。

宝石が埋め込まれ、磨き上げられた木肌は芸術品のようだった。


しかし。アウローラは鼻を鳴らす。

「実戦向けの装飾が何もねえな!」

完全に戦士目線の評価だった。


後ろではディメトリオが涙目になる。

「そ、それ神官学校を首席で卒業した記念の杖なんだけどぉ……。」


「知るか!」

アウローラは一蹴する。

杖を肩へ担ぎながら叫んだ。

「高そうな杖だけど壊しても文句言うなよ!!」


「えええええっ!?」

ディメトリオが情けない悲鳴を上げる。


ラピュータの群れが一斉に襲い掛かる。


「ギャアアアアッ!」

「ギィィィッ!」


アウローラは腰を落とした。


猫耳がぴんと立つ。

尻尾が大きく膨らむ。


「フゥゥゥゥ……」


獣のような低い唸り声。

そして。


「うにゃぁぁあああああ!!」


地面を蹴る。

その姿が掻き消えた。


ドゴォン!!


最初の一体へ、杖を横薙ぎに叩き込む。

鈍い衝撃音と共にラピュータが吹き飛び、地面を何度も転がる。


返す動きで二体目。


ガァン!!


脳天へ叩き落とす。

さらに身体を捻りながら三体目へ。


バギィッ!!


杖の石突きが顎を打ち抜き、魔獣が宙へ舞う。


「ギャアアアアッ!」

「遅ぇ!」


アウローラは止まらない。

杖をまるで棍棒のように振り回し、飛び込んでくるラピュータを次々と叩き落としていく。


ドゴッ!

ガンッ!

バキィッ!


華麗な杖術ではない。

獣人の脚力と反射神経を活かした、豪快で荒々しい打撃戦だった。


後方でディメトリオは呆然と口を開ける。

「ぼ、僕の杖……。」


ダミアーノ神官は苦笑しながら肩をすくめた。

「……本来の使い方ではありませんが。」

吹き飛ばされていくラピュータを見つめる。

「存外、あの娘にはその方が合っているようですね。」


アウローラは杖を軽く振って感触を確かめた。

そのたびに柄から嫌な軋み音が響く。

「ちぇっ。」

顔をしかめる。

杖の中央には大きなひびが入り、先端の装飾も砕けかけていた。

「もうあと二、三発で折れるな。」

不満そうに悪態をつく。


その言葉にディメトリオの顔が青ざめた。

「ぁぁぁぁぁ……。」

膝から崩れ落ちる。

「あぁ……僕の記念品がぁぁぁぁ!!」

情けない悲鳴が辺りに響いた。

両手で頭を抱えながら項垂れる。

「あれを見せるだけで女の子から注目されるのにぃ……。」

完全に戦場とは思えない嘆きだった。


アウローラの額に青筋が浮かぶ。

「うるせえ!!」

振り返りざまに怒鳴る。

「死んじまったら女もクソもねぇだろうが!!」


その一喝にディメトリオは、

「ひぃっ!」

と肩を震わせて縮こまった。


ダミアーノ神官は思わず苦笑する。

「確かに……今は命が最優先ですね。」


その時だった。

空に残ったラピュータたちが一斉に高度を上げる。


「ギィィィィッ!!」


羽を大きく羽ばたかせた。


ブワァァァッ!!


何枚もの翼が巻き起こす風が渦を作る。

その風は次第に鋭さを増し


ヒュガガガガッ!!


無数の風の刃。

カマイタチとなってアウローラへ降り注いだ。


「にゃあああああ!!」


避けきれない。


肩。

腕。

背中。

脇腹。

脚。


鋭い風刃が次々と身体を切り裂いていく。


ビシッ!

ビシィッ!

ズバッ!


先日の激戦で塞がりかけていた傷口が次々と裂けた。

包帯が赤く染まる。

血飛沫が宙を舞った。

アウローラは歯を食いしばりながらなお立っていたが、その身体は痛みに震えていた。


ダミアーノ神官が血相を変える。

「いけない!!」

一歩踏み出して叫ぶ。

「まだ身体は完治してません!」


その声が響く中でも、アウローラは杖を握る手を離さなかった。

猫耳を伏せ、鋭い瞳でなおラピュータの群れを睨みつける。

「こんな程度で……。」

口元から血を拭う。

「寝てられるかよ……。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。