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ビリンデッリの血〜東西大陸百年戦記〜  作者: エリカサファイア
episode3(vacation)

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episode3(vacation)Chapter11

その時だった。


「やん♡ もう、くすぐったい〜」


店の奥から、ヴァレンティーナの弾けるような笑い声が聞こえてきた。

見ると、すっかり打ち解けたエンツォとベルナルドが、ヴァレンティーナを相手に大騒ぎしている。

「いいじゃねぇか。減るもんじゃねえだろ」

エンツォが悪戯っぽく笑いながら身を乗り出す。


「もう少しで見えそう!!」

ベルナルドまで目を輝かせながら興奮していた。

もちろん、それは演技だった。

(これがサンシーロの男か……警戒心が薄い。実に扱いやすい)

心の中だけで冷たく笑う。


一方クリスティアンはというと。

「う、うわ……」

顔を真っ赤にし、思わず両手で顔を覆ってしまう。

視線のやり場に困り、耳まで赤く染まっていた。


セリーナが慌てて立ち上がる。

「もう二人とも」


止めに入ろうとした、その瞬間。

ケイスケが片手を上げた。


「……任せろ。」


先ほどまでの酔っ払いの顔とは違う。

歴戦の戦士らしい真剣な眼差しだった。


そして…


「オラァ!! クソガキ共!!」


店中に響く大声。


「……あんまり調子に乗るんじゃねぇ!!」


突然の怒号に。

エンツォもベルナルドも思わず固まる。


「…………」


一瞬、店内が静まり返った。

しかし。

ケイスケは数秒黙った後。

「……って、パオロやマウロなら言っただろうな。」

と戯けて見せ

「ガハハハハハ!!」

と腹を抱えて笑い出した。

「酒は綺麗に飲む方がモテるんだぜ、若いの。」

ジョッキを掲げる。

「これも勉強だ。」

ぐいっと一口。

「モテないはずの東洋人のジジィの俺が言うんだから間違いねぇ。」


「もう、ケイスケさんったら。」

セリーナが呆れたように笑う。


するとケイスケは当然のように彼女の細い腰へ腕を回した。

「こういう店でモテたいなら」

ニヤリと笑う。

「もっと俺様を観察するんだな。」

「ガハハハハ!!」


だが次の瞬間。


「痛っ!!」


セリーナが腰へ回された手を容赦なくつねり上げた。

「ケイスケさん。」

笑顔のまま。

しかし目だけは笑っていない。

「最近、お手つきが過ぎますよ。」


「いででででで!!」

ケイスケは涙目になる。

「ったく……」

頭を掻きながら苦笑した。

「セリーナには敵わねぇな。」

その様子に店中から笑いが起きる。


クリスティアンは呆然としていた。

「み、みんな……。」

頬を赤くしながら呟く。

「結構気軽に女の人に触れるんだな……。」


ケイスケが豪快に笑う。

「ガハハ!」

「サンシーロの正規の騎士団なんざ、お前の歳なら女の二人や三人いてもおかしくねぇぜ。」


エンツォも肩を竦める。

「向こうからいくらでも声かけてくるからな。」


ベルナルドも感心したように目を丸くした。

「うわぁ、凄い! 羨ましい!!」


ヴァレンティーナが興味津々でクリスティアンを見る。

「村にはそういう娘、いなかったの?」


「いや……。」

クリスティアンは苦笑する。

「村の女の子は、みんな小さい頃から一緒ですから。」


「なるほどねぇ。」

ヴァレンティーナは納得したように頷いた。


ケイスケはジョッキを揺らしながら笑う。

「まぁいいさ。」

「今からどんどん女を知ればいい。」

「たくさん女でいい思いして、たくさん失敗して、それを剣の糧にしろ。」

「人生も剣も経験値だ。」


その言葉に。セリーナがふっと微笑む。

「そうね……。」

クリスティアンの顎へ、人差し指をそっと添えた。

「なんなら、お姉さんが教えてあげようか?」

と妖艶な笑みを浮かべ揶揄う。


「……っ!?」

クリスティアンの顔が一気に真っ赤になる。

「い、いや、その……!!」

言葉にならない。


ケイスケが腹を抱えて笑った。

「ガハハハハ!!」

「この野郎、パオロの息子と知ったら現金な女だぜ!」


「もう。」

セリーナは照れ笑いを浮かべながらケイスケの腕を軽く叩く。


その横から。

「この野郎〜!」

エンツォがクリスティアンの頭を豪快にぐりぐりし始めた。

「訓練生のくせにモテモテじゃねぇか!」


「いでででで!!」

クリスティアンは頭を押さえながら必死に抵抗する。


店内には笑い声が絶えない。


東洋の居酒屋。

そしてラウンジ『ロマニスタ』。


戦争の時代とは思えないほど穏やかで賑やかな夜は、まだまだ続いていくのだった。

ヴァレンティーナはエンツォの隣で豪快に笑いながら酒を飲み、セリーナは静かにグラスを磨きつつクリスティアンへ優しい視線を向けている。


その様子を見たヴァレンティーナは、誰にも聞こえないよう心の中で呟いた。

(セリーナ姉さん……あの目……本気じゃん)


一方、少し離れた席ではケイスケもジョッキを傾けながら二人を横目で見ていた。

(セリーナの野郎……完全に小僧をパオロに重ねてやがる)

苦笑しながら肩を竦める。

(あ〜良血ってのはやっぱり得しやがるなぁ)


その時だった。


セリーナが新しいコースターを置くふりをして、そっと小さく折り畳まれた紙切れをクリスティアンの手元へ忍ばせる。

誰にも気付かれないほど自然な動きだった。

クリスティアン本人ですら気付いていない。


セリーナは柔らかく微笑みながら、胸の内でそっと呟く。

(ごめんね猫ちゃん……でもパオロ様の息子の初めては私が貰うわ)


その頃。


クリスティアンはエンツォに頭を小突かれながら苦笑していた。

「もうそんなんじゃねえよ。」

肩を竦める。

「揶揄われてるだけだって。」


するとベルナルドが勢いよく身を乗り出した。

「チャンスですよクリスティアンさん!」

満面の笑みで拳を握る。

だがその笑顔の裏では。

(そのまま女に溺れてくれたら戦わなくて済む)

と冷たい本心を隠していた。


セリーナは照れるクリスティアンを見つめ、くすりと笑う。

「もう……耳まで真っ赤にして可愛い。」


クリスティアンは困ったように笑った。

「ほらな。」


するとエンツォが酒を飲みながら笑う。

「まぁヴァレンティーナちゃんならともかく、セリーナさんみたいな大人が相手にするわけねえか。」


その言葉にヴァレンティーナが指を振った。

「残念でした〜!」

ニカッと笑う。

「私を口説いていいのはビアンコ・ネーロだけよ!」


「なにィ!」

エンツォは悔しそうに笑い返した。

「お高く止まりやがって〜!もっと飲め!」


「飲む飲む〜!」

二人は再び笑い合う。


そんな賑やかな空気の中。

店のママが伝票を片手にケイスケの席まで歩いてきた。

「ほらケイスケ。」

伝票を見せる。

「大丈夫なのかい?」


ケイスケは伝票を見る。

そして一瞬だけ真顔になった。


「小僧共。」

静かに立ち上がる。

「今日はお開きだ。」


「えぇっ!?」

エンツォが不満そうに叫ぶ。

「今からだろオッサン!」


ケイスケは豪快に笑った。

「続きは出世して自分で楽しむんだな。」

そう言ってジョッキを飲み干す。

そして少しだけ遠くを見るような目になった。

「さてと……。」

静かに息を吐く。

「俺も明日から激戦区に行かなきゃならねぇな……。」


その一言で場の空気が少しだけ落ち着く。


セリーナは優しく微笑んだ。

「ケイスケさん。」

「無理はしないでくださいね。」


ケイスケは照れ隠しのように鼻を鳴らした。

「なぁに。」

笑って親指を立てる。

「死ぬ時はセリーナの膝の上って決めてるからな。」


ニヤリと笑う。


「生きてまたくるぜ。」


セリーナは困ったように笑った。

「もう……。」


ケイスケは懐から金貨を一枚取り出す。

テーブルへ豪快に叩きつけた。

「釣りはいらねぇ!」

胸を張る。

「帰るぞ小僧共!」


ベルナルドは目を輝かせた。

「かっこいい〜!」

思わず拍手する。

「あんな支払いしてみたい!」


するとママは伝票と金貨を見比べ、

にっこり笑って告げた。

「釣りも何も…」

金貨をケイスケへ押し返す。

「五千ココ足りないよ。」


「…………。」


店内が静まり返る。


「え?」

ケイスケの笑顔が固まる。

次の瞬間。

「うおぉぉぉぉぉっ!!」

盛大にずっこけた。


店内は爆笑に包まれた。


「ギャハハハハ!!」

「ケイスケのおっさん最高!」

「格好つかねぇ〜!」

「だから飲みすぎなんだよオッサン!」


アウローラはいない。

それでも、その場にいた全員の笑い声は夜のラウンジ「ロマニスタ」にいつまでも響き続けていた。

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