episode3(vacation)Chapter3
サンシーロ国立動植物園。
休暇中ということもあり、園内は家族連れや恋人同士、観光客で賑わっていた。
色鮮やかな花壇の間を石畳の道が伸び、その奥には世界各地から集められた動物や植物が並ぶ。
エンツォは両手を後頭部で組みながら胸を張った。
「どうだクリスティアン! でけえだろ」
クリスティアンは園内を見渡し、思わず息を呑む。
「すげぇ……デッレ・アルピの半分以上が入りそうだ」
「だろ? サンシーロ自慢の動植物園だからな」
その時だった。
檻の中を小さなネズミが駆け回る。
「……うにゃっ!!」
アウローラの耳がピンと立った。
「フゥゥゥゥッ!!」
全身の毛を逆立て、瞳が獲物を狙う猫そのものになる。
今にも飛びかかりそうな勢いだった。
エンツォは額を押さえた。
「おい……頼むから展示物に手を出すなよクソ猫」
「わ、分かってるって!」
口ではそう言うものの、尻尾だけは忙しなく左右へ揺れていた。
クリスティアンは思わず吹き出す。
「本当に猫なんだな」
「うるせえ!」
三人は笑いながら奥へ進む。
そこは巨大植物の展示区画だった。
熱帯植物や薬草、魔力を宿した花々が整然と並び、幻想的な光景が広がっている。
「村じゃ見たことねえ植物ばっかりだ……」
クリスティアンは興味津々で歩き回る。
そして、一際巨大な蕾のような植物の前で足を止めた。
「これ何だ?」
顔を近づけた瞬間…
ガバァッ!!
巨大な口が勢いよく開いた。
鋭い牙が何列も並び、唸るような音を立てる。
「ひぃぃぃっ!!」
クリスティアンは飛び退き、尻もちをつく。
エンツォは腹を抱えて笑った。
「ハハハハハ!! そいつはFランク植物系魔獣だ。」
「調教されてるから噛まれても職員が助けてくれるが、気をつけろよ」
クリスティアンは胸を押さえながら苦笑する。
「植物にも魔獣っているんだな……」
アウローラは腕を組み、小さく頷いた。
「あぁ。だから森を抜ける時は魔獣に一切気を抜けねえんだ。」
「獣だけ警戒してる奴から先に食われる。」
「なるほど……」
クリスティアンは真剣な表情で頷いた。
その時、一人の女性職員が花籠を抱えて歩いてきた。
「失礼します。」
「今日は女性のお客様限定で花冠をプレゼントしております。どうぞ。」
色とりどりの小花で編まれた花冠が、アウローラの頭へそっと乗せられる。
「……!」
アウローラは目を丸くした。
「綺麗〜!!」
思わず鏡代わりのガラスへ駆け寄る。
黄金色の髪と白い花々が朝日に照らされ、野生的な猫獣人とは思えないほど可憐な雰囲気を纏っていた。
少し照れくさそうに振り返る。
「なぁクソガキ……。似合ってるか?」
クリスティアンは少し目を見開いた。
「こうして見ると……アウローラもやっぱ女なんだな。」
「普段と全然印象が違う。」
エンツォも肩を震わせながら笑う。
「ガラにもねえ乙女な顔しやがって。」
「うにゃあああああ!!」
次の瞬間。
バシッ!!
ザシュッ!!
二人の顔面へ鋭い猫パンチと爪が飛んだ。
「いてぇ!!」
「何しやがる!」
アウローラは真っ赤になりながらぷいっと横を向く。
「ふん!どうせアタシには剣とダガーがお似合いだよ。」
花冠を指先で触りながら、小さく頬を膨らませる。
するとクリスティアンは真顔で首を振った。
「そんな事ねえよ。」
「花冠で見違えるんだから、もっと可愛い服とかアクセサリーも似合うと思うぜ。」
「絶対似合う!!」
その一言で、アウローラの耳がぴくりと震えた。
頬だけでなく耳の先まで真っ赤に染まる。
「お……。お前は……。」
「すぐ平気でそう言う事を言う……。」
視線を合わせられず、花冠を押さえたまま小さく俯く。
エンツォはそんな二人を見て肩をすくめた。
「全く……。天然ってのは罪だな。」
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続いてエンツォに案内され、三人はサンシーロを代表する巨大スタジアムへと足を踏み入れた。
石造りの外壁はまるで城塞のようにそびえ立ち、その周囲には色とりどりのユニフォームを身にまとったティフォージたちが溢れている。
試合開始を告げる鐘が鳴ると同時に、数万人もの歓声が空を震わせた。
「うおおおおおおっ!!」
「勝てぇぇぇぇ!!」
無数の旗が波打ち、太鼓が鳴り響く。
スタンド一面には巨大な横断幕が掲げられ、ティフォージとウルトラスの大合唱がまるで戦場の鬨の声のように響き渡った。
クリスティアンは思わず立ち尽くす。
「すげぇ……。」
「村の五部リーグクラブとは迫力が段違いだ……。」
目の前では世界最高峰の選手たちが、寸分の狂いもない連携でボールを繋いでいく。
歓声、怒号、拍手、口笛。
その全てが一つの熱狂となってスタジアムを包み込んでいた。
その隣では
「いけぇぇぇーー!!」
「やれぇぇぇ!!」
「殺せぇぇぇーー!!」
アウローラが拳を振り上げ、誰よりも大声で叫んでいた。
エンツォは苦笑いする。
「おい……それカルチョの応援かよ……。」
「細けぇこと気にすんな!」
アウローラは豪快に笑い、再び立ち上がる。
「そこだぁぁぁ!!」
試合は最後まで白熱し、終了の笛が鳴るとスタジアムは大きな拍手に包まれた。
観客たちは満足そうな表情で席を立っていく。
スタジアムを出たエンツォは、大きく伸びをした。
「あー面白かった〜。久々にスタジアムで見たぜ。」
アウローラも目を輝かせる。
「アタシは初めて見た!スゲェんだな!」
クリスティアンも何度も頷いた。
「あぁ。迫力が段違いだったな。」
「来てよかったぜ。」
歩きながらアウローラは腹を押さえた。
「あー応援したら腹減ってきた!」
エンツォは呆れたように笑う。
「お前食ってばかりだな……。」
アウローラはニヤリと笑うと、自分の胸を軽く叩いた。
「いいんだよ!」
「栄養は全部ここに行くんだからなぁ!」
その豊かな胸を得意げに張る。
クリスティアンとエンツォは思わず一瞬だけ目を丸くした。
その反応を見たアウローラは腹を抱えて笑う。
「にゃはははは!!」
「なんて顔してんだ童貞ども!」
エンツォは即座に反論した。
「俺は童貞じゃねえよ!!」
クリスティアンは顔を赤くし、視線を逸らす。
「俺は……その……。」
しどろもどろになる姿にエンツォは肩を組んだ。
「心配すんな。」
「クリスティアンならサンシーロにいたらすぐに見つかるって。」
その瞬間
ドゴッ!!
「ぐあっ!!」
アウローラが無言でエンツォの足を思い切り踏みつけた。
エンツォは片足で飛び跳ねる。
「いてぇ!!何すんだクソ猫!!」
アウローラは腕を組み、ぷいっと顔を背ける。
「フン!女のケツばっかり追ってるから弱いんだよ!」
「なんでそうなるんだよ!」
「事実だろ!」
「違ぇって!」
二人はまた子どものように言い合いを始める。
そんな二人のやり取りを見ながら、クリスティアンは小さく笑った。
「騎士も傭兵も……結局こういう時は普通の人なんだな。」
戦場では命を懸ける者たち。
だが休日には笑い、騒ぎ、くだらないことで言い争う。
その何気ない光景が、クリスティアンにはどこか新鮮で、少しだけ眩しく映っていた。
2026 7/31追記
当作品のキャラクター達の名前のモデルとなった偉大なるフットボーラーのフランコ・バレージ氏に深い哀悼の意を捧げます。突然の訃報に筆者もショックを受けております…




