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才色兼備の多彩で最強のカッコイイ保科さんは、どうにも僕にだけは可愛い一面を見せてくれるらしい。  作者: 沢田美


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3/12

また触れた!

 翌日、僕は一時間目からずっと落ち着かなかった。


 昨夜は布団に入ってからも、何度も夕暮れの中庭を思い出してしまったせいで、寝つきがひどく悪かった。猫を前にした保科の、あのあからさまに緩んだ表情。慎重すぎる手つき。撫でることができた瞬間、子どもみたいに目を輝かせていた横顔。


 どれもこれも、昼休みに不良を一蹴したあの彼女と、どうしても同一人物だと思えなかった。


 だというのに、現実の保科翼は今朝もいつも通りだった。


 ホームルームの前、廊下ですれ違った彼女は、やはり誰よりも目を引いた。窓から差し込む朝の光を受けて、銀色の髪がひどく映える。背筋は真っ直ぐで、足取りにも迷いがない。挨拶をしてきた女子には淡く頷き、騒がしい男子の声にも煩わしそうな顔ひとつ見せず、ただ必要な距離を保ったまま教室へ入っていく。


 完璧だった。


 少なくとも、他の人間から見れば。


 けれど僕だけは知ってしまっている。あの完璧さの裏に、猫一匹を前にするだけで史上最弱になってしまう一面があることを。


 その秘密を知っているのが自分だけだと思うと、妙な優越感より先に、むしろ落ち着かなさのほうが勝った。保科が前の席の女子にノートを渡しているだけで、昨日のことを思い出してしまう。窓際で頬杖をついている横顔ひとつでさえ、もう以前みたいにただ「カッコいい」で済ませられない。


 どうしてくれるんだ、本当に。


 そんなふうに内心で頭を抱えているうちに、昼休みになった。


 弁当を食べ終え、購買で飲み物でも買おうかと席を立ったところで、教室の外が少しだけざわついているのに気づく。


「また工藤が停学くらうらしいって」


「昨日の件で? 自業自得じゃん」


「でも保科さん、ほんと容赦なかったよね」


 どうやら昨日の一件は、予想以上の速度で校内に広まっているらしい。もっとも、あれだけ人目のある場所で起きたのだから当然かもしれない。名前の上がった保科本人はというと、そんな噂などまるで聞こえていないように、机の上で静かに文庫本を開いていた。


 涼しい横顔。揺るがない指先。誰にも入り込ませない静かな空気。


 昨日の中庭を知らなければ、きっと僕も他の生徒と同じように、ただ遠巻きに見ているだけだっただろう。


 教室を出て自販機へ向かう途中、僕はなんとなく中庭のほうへ目をやった。昨日と同じ時間帯、同じ渡り廊下。別に深い意味があったわけじゃない。ただ、無意識のうちに確かめてしまっただけだ。


 そして、その視線の先に、見覚えのある三毛の背中を見つけた。


 花壇の縁で丸くなっている。


 昨日のあの猫だった。


 僕は足を止めた。


 脳裏に蘇るのは、準備室の前で保科が見せた、わずかなためらいを含んだ表情と、静かな声だ。


 ――もし見かけたら……教えて。できれば、他の人じゃなくて、あなたが。


 言葉だけなら、それほど重い頼みじゃない。なのに、いざ本当にその場面になると、心臓が変にうるさくなる。


 いや、でも、見かけたら教えてって言われたわけだし。

 むしろここで黙っていたら約束を破ることになるのでは。

 いや約束ってほどでもないけど。

 でもあれだけ真剣な顔で言われたし。


 頭の中で言い訳とも理屈ともつかないものを並べながら、気づけば僕は教室の前まで戻っていた。


 保科はまだ本を読んでいる。


 声をかけるべきか、やめるべきか。昨日の一件があったとはいえ、普段の僕と保科の距離を考えれば、昼休みにいきなり話しかけるなんてかなり目立つ行為だ。しかも相手は校内でも有名な美少女。教室には当然クラスメイトがいる。視線だって集まる。


 でも。


 僕は小さく息を吸った。


「……保科さん」


 自分でも驚くほど声が上ずった。


 教室の空気が、ほんのわずかに揺れる。数人の視線がこちらへ向いたのがわかった。終わった。もう遅い。今さら引き返せない。


 保科は文庫本から目を上げ、僕を見た。表情は変わらない。ただ、その視線の奥に、一瞬だけ認識の色が灯る。昨日の僕だとわかったらしい。


「何?」


 いつもの、簡潔で無駄のない声音だった。


 周囲にはその一言だけで十分だったらしく、近くの席の連中がさりげなく耳をそばだてている気配がする。やめてくれ。こっちは今すぐ床に消えたい。


 僕はできる限り平静を装いながら、保科の机のそばまで歩み寄った。


「その……昨日の」


 そこまで言ったところで、保科の眉がぴくりと動いた。


 昨日の、という言葉だけで通じたらしい。


 そして次の瞬間、彼女は驚くほど素早く本を閉じた。


「ちょっと来て」


「えっ」


 反論する暇もなく、保科は席を立った。教室の空気が目に見えてざわめく。才色兼備の保科翼が、クラスでも特に目立たない僕に、自分から声をかけて連れ出したのだ。注目されないわけがない。


 僕は背中に突き刺さる視線から逃げるように、保科のあとを追った。


 連れていかれたのは人気の少ない東階段の踊り場だった。昼休みはあまり使われない場所らしく、下の階から部活勧誘の声がかすかに聞こえるだけで、この辺りは妙に静かだった。


 保科は踊り場の窓際まで行くと、ようやく振り返る。そこで初めて、いつもの無表情の下にわずかな緊張があることに気づいた。


「……それで」


 努めて平静を装った声。


「昨日の、何?」


 わかっていて聞いているのが丸わかりだった。


 僕は少しだけ可笑しくなりながら、なるべく小さな声で答えた。


「中庭に、あの猫がいる」


 たったそれだけの一言で、保科の表情がはっきり変わった。


 正確には、大きく変わったわけではない。目を見開くでもなく、口元を緩めるでもなく、他人が見たら気づかない程度の変化だ。


 けれど僕にはわかった。彼女の瞳の奥に、あからさまな動揺と期待が一気に流れ込んだことが。


「……本当に?」


「う、うん。昨日の三毛だと思う」


「逃げてない?」


「今は花壇のところで丸くなってた」


 そこまで聞くと、保科は視線を逸らして、わずかに唇を引き結んだ。たぶん必死に平静を保とうとしている。だが、その努力は残念ながらあまり成功していない。耳のあたりがほんのり赤くなっているし、呼吸もさっきよりわずかに浅い。


 数秒の沈黙のあと、保科は咳払いをひとつした。


「そう。教えてくれて、ありがとう」


 言葉は落ち着いている。落ち着いているのだが、最後の「ありがとう」が少しだけ早口だった。


「……行くの?」


 思わずそう聞くと、保科はすぐには答えなかった。窓の外へ一瞬だけ目をやり、それから視線を戻す。


「行くわ」


 その返答には妙な覚悟があった。


「でも、一人だと警戒されるかもしれないから」


 そこで言葉が切れる。保科らしくない、わかりやすい躊躇い方だった。


「……あなたも来て」


 僕は一拍遅れて、自分が今とんでもないことを言われたのだと理解した。


「僕も?」


「昨日、あの子はあなたには近づいたでしょう」


「それは、たまたまじゃ……」


「たまたまでも、近づいたことに変わりはないわ」


 妙に理詰めだった。たぶん本気で言っている。


 保科は僕の返事を待つ間も、無意識に指先を合わせたり離したりしていた。あの昼休み、工藤相手に一歩も引かなかった人と同じとは思えない落ち着きのなさだ。


 断れる空気ではなかったし、そもそも断る理由もなかった。


「……わかった」


 僕が頷くと、保科は露骨に安堵した顔をした。ほんの一瞬で取り繕われたけれど、もう遅い。見えてしまったものは見えてしまう。


 僕らは人目を避けるようにして中庭へ向かった。もっとも、避けているつもりでも、保科と並んで歩いている時点で十分目立っていたと思う。廊下ですれ違った女子が二度見していたし、向こうから来た男子の一人など、あからさまに「なんで?」という顔をしていた。


 僕が聞きたい。


 中庭に着くと、三毛猫はまだ花壇の縁にいた。春先のやわらかい陽射しの中、前足を揃えて座っている姿はやけにのどかで、昨日の騒がしさとはまるで別世界みたいだった。


 その猫を見つけた瞬間、保科の足取りが目に見えて慎重になる。


「……いた」


 ささやくような声だった。


「いたね」


「ほんとにいた……」


 確認するみたいに繰り返しているあたり、かなり嬉しいらしい。


 昨日と同じように保科はしゃがみ込んだが、今日は一歩だけ後ろに僕がいる。その立ち位置が正しいのかどうかもわからないまま、僕は猫の様子を見守った。


 保科は猫へ向かって口を開きかけて、やめた。たぶん昨日の独り言めいた交渉を僕の前で再現する勇気はないのだろう。代わりに、ちらりとこちらを見た。


「……あなた」


「え、僕?」


「昨日みたいに、その子を呼べない?」


 無茶を言うなと思った。


「僕、別に猫を呼べるわけじゃないよ」


「でも昨日」


「昨日は本当に偶然だから」


「偶然でもいいから」


 保科の目は真剣だった。真剣すぎて、かえって少しおかしい。


 僕は困りながらも、猫に向かって小さくしゃがみ込む。


「えっと……おいで?」


 ひどい。自分で言っていてひどいと思う。語彙がなさすぎる。猫に対する熱意でも保科に完敗している自覚がある。


 だが、そのひどく頼りない呼びかけに、猫はちらりとこちらを見た。そして数秒後、のそのそと歩き出し、やはり僕のほうへ寄ってくる。


「どうして……?」


 背後で、保科の掠れた声がした。


 責めるような響きすら混じっていて、僕としては理不尽極まりない。


 猫は僕の膝のそばまで来ると、すり、と足に体をこすりつける。そこで保科が一歩前へ出ると、猫は逃げはしないものの、やはり少しだけ様子を窺うような素振りを見せた。


 保科の肩が、目に見えて落ちる。


「……嫌われてるのかな」


 その一言があまりにも弱々しくて、僕は思わず振り返った。


 保科翼が、そんな顔をするなんて。


 誰よりも強くて、何でもできて、何も失敗しないみたいに見える彼女が、たかが猫一匹に怯んで、自信をなくしている。


 それが滑稽だとは思わなかった。むしろ妙に胸の奥がざわついた。たぶん昨日よりずっと近い距離で、その弱さを見せられたからだ。


「嫌ってるわけじゃないと思う」


「でも、あなたには近づく」


「僕のほうが警戒されにくいだけじゃないかな。保科さん、ちょっと気合いが入りすぎてるし」


 言った瞬間、しまったと思った。


 さすがに失礼だったかもしれない。


 けれど保科は怒るどころか、ぐっと言葉に詰まった。


「……気合い、入ってるように見える?」


「うん。かなり」


「…………そう」


 短い沈黙。保科は猫ではなく、なぜか地面を見つめていた。白い頬がじわじわと赤くなっていく。図星だったらしい。


「じゃあ、どうすればいいの」


 ほとんど拗ねたみたいな口調だった。


 僕は少し考えてから、自分でも信じられない提案をした。


「その……無理に撫でようとしないで、ただ近くにいるだけのほうがいいかも」


「近くにいるだけ?」


「うん。あと、目を合わせすぎないとか」


 保科は真面目な顔で聞いていた。たぶん授業より真剣だ。


「……やってみる」


 そう言うと、彼女は一度深呼吸をして、昨日より少し離れた位置にしゃがみ直した。そして猫を見つめるのではなく、花壇の縁へそっと視線を落とす。


 なるほど、と僕は思った。


 こうして黙っていれば、やはり保科は絵になる。風に揺れる銀髪も、伸びた睫毛も、陽射しを受ける横顔も、どこを切り取っても綺麗だった。こんな距離で見ていい相手じゃない気がするのに、目が離せない。


 猫はしばらく僕の膝に頭を預けるようにしていたが、やがて気が変わったのか、ふらりと向きを変えた。数歩、保科のほうへ近づく。


 保科の肩がぴくりと揺れた。


 けれど彼女は僕の言った通り、すぐには手を伸ばさない。ただじっと待つ。いや、じっとしているように見えて、たぶん内心ではすごい勢いで葛藤している。膝の上で握られた手がわずかに震えていた。


 猫はそのまま保科のスカートの裾をくん、と嗅いだ。逃げない。


 次いで、そっと、その足元に体を寄せた。


「……っ」


 保科が息を呑む音が聞こえた。


 目を向けると、彼女は今にも泣きそうなほど感動した顔をしていた。たかが足元に寄られただけでここまで喜べるのかと思うくらい、表情がわかりやすい。いつもの冷静さは完全に蒸発している。


「今だよ」


 小声でそう促すと、保科はこくりと頷いた。こっくりと、という表現が似合いそうなほど素直な動きだった。


 白い指先が、今度は昨日よりも自然に伸びる。毛並みに触れた瞬間、猫は一度だけ耳を動かしたが、そのまま大人しく撫でられた。


 保科の唇が、ふるふると震える。


「……撫でられた」


 報告みたいに呟く声が、ひどく小さい。


「うん」


「今日も、撫でられた」


 その言い方があまりにも嬉しそうで、僕はつい笑ってしまった。


 保科ははっとしてこちらを見る。


「……今、笑った?」


「少しだけ」


「どうして」


「いや、その……嬉しそうだったから」


「悪い?」


「悪くない。むしろ、すごく」


 そこで言葉が止まった。


 危なかった。続きを口にしていたら、たぶん取り返しがつかなかった。


 けれど保科は、僕の言いよどみをそのままにしてくれなかった。


「……すごく、何」


 猫を撫でたまま、少しだけ上目遣いで聞いてくる。


 昨日から思っていたけれど、この人は自分の破壊力に無自覚すぎる。


「……可愛い、と思った」


 言ってしまった直後、猛烈に後悔した。


 何を言っているんだ僕は。


 相手は保科翼だぞ。校内でも最上位の美少女で、どう考えても僕なんかが軽々しくそんなことを言っていい相手じゃない。しかも本人を前にして。


 今すぐ消えたい気持ちでいっぱいになった僕とは対照的に、保科は完全に固まっていた。


 猫を撫でる手が止まっている。


 数秒後、彼女はすっと顔を逸らした。


 耳まで真っ赤だった。


「……っ」


 何か言おうとして、言葉にならないらしい。昼間なら絶対に見られないほど、見事な動揺だった。


 やばい。本当にまずい。絶対に怒らせた。そう思って慌てて弁明しようとした、その時だった。


「保科さん?」


 不意に、背後から女子の声が飛んできた。


 僕も保科も、同時に振り向く。


 中庭の入口には、クラスの女子が二人、買いに行ったらしいパンの袋を手にしたまま立ち尽くしていた。視線はまず保科に向き、次に僕に向き、それから僕らの足元でくつろぐ三毛猫へと移る。


 場が静まり返る。


 あ、終わった、と思った。


 だが、その一瞬のうちに、保科は立て直した。


 さっきまでの動揺が嘘みたいに、彼女はすっと立ち上がる。頬に残っていた熱の色すら、見事に押し隠していた。背筋を伸ばし、視線をまっすぐ相手へ向ける。その横顔は、もうほとんどいつもの保科翼だった。


「何か用?」


 あまりに自然な声音で、女子二人は明らかに気圧された。


「えっ、いや、その……中庭に保科さんがいるの珍しいなって……」


「そう」


 それだけ返す。余計な説明はない。近寄りがたい、でも整いすぎた美しさ。まさしくいつもの彼女だ。


 女子たちはそれ以上踏み込めなかったらしく、曖昧に笑ってそのまま去っていった。中庭に静けさが戻る。


 僕は半ば呆然と保科を見上げていた。


 切り替えが速すぎる。さっきまで耳まで赤くしていた人と同じとは到底思えない。


 保科はその視線に気づいたのか、小さくため息をついた。


「……今のは忘れて」


「どっちの?」


「両方」


 即答だった。


 でも、その声にはいつもの鋭さが少し足りない。僕にだけ聞こえる程度に、わずかに照れが混じっている。


 猫はそんな人間たちのやりとりなど興味がないのか、のんびりと欠伸をした。


 僕は膝をつき、その頭を軽く撫でる。


「秘密にするよ」


「……昨日もそう言っていたわね」


「今回も同じ」


「信用していいの?」


 試すような言い方だった。けれど、その目は本気で疑っているようには見えない。


「いいと思う」


 そう答えると、保科は少しだけ黙った。春の風が吹き抜け、銀髪をさらりと揺らす。


「……名前」


「え?」


「まだ聞いてない」


 僕は慌てて名乗った。保科は一度だけ頷き、僕の名前を小さく繰り返す。自分の名前が、あの保科翼の口から出てくる。その事実だけで、妙な実感が胸に落ちた。


「覚えた」


 そう言ってから、彼女は猫へと視線を戻す。


「……じゃあ、これからも見かけたら教えて」


 さらりとした口調だったが、それが実質的な継続依頼であることくらい、僕にもわかった。


「了解」


「あと」


 保科がそこで少しだけ言い淀む。


「さっきの……可愛いとか、そういうのは」


 やっぱり怒られるのかと身構えた僕に、彼女は視線を合わせないまま続けた。


「他の人には、絶対に言わないで」


 僕は数秒遅れて、その意味を理解した。


 否定されなかった。


 否定されなかったどころか、口外禁止の条件つきで受理されたみたいな形になっている。


 心臓がどくんと鳴る。


 保科はそんな僕の反応を見て、しまったという顔をした。たぶん自分でも言ってから気づいたのだろう。けれど、今さら撤回するには遅すぎる。


 僕が何も言えずにいると、保科は猫をごまかすみたいにもう一度撫でた。


「……昼休み、終わるわよ」


 それだけ言って立ち上がる。けれど数歩進んだところで足を止め、振り返らないまま続けた。


「でも」


 風に紛れそうなほど小さな声だった。


「あなたが思うのは……別に、構わないから」


 そう言い残して歩き出した彼女の横顔は見えなかった。けれど、耳がまた赤くなっていたのだけは、離れた位置からでもはっきりわかった。


 僕はその場に取り残されたまま、しばらく動けなかった。


 花壇の縁では、三毛猫がのんびりとしっぽを揺らしている。まるで、全部わかっていて傍観しているみたいな顔だった。


 たぶんこの日、僕はようやく本当に理解したのだと思う。


 校内で最強と呼ばれている保科翼は、誰の前でも崩れないわけじゃない。


 少なくとも、猫の前では簡単に崩れる。

 そして、どういうわけか僕の前では、その崩れた姿を隠しきれなくなるらしい。


 ――それが、たまらなく嬉しいと思ってしまった時点で、もう手遅れだった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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