【第326話:まさかの介護】
ギルドのカウンターに書類を提出したロイとミリエル。
受付嬢が真顔で内容を確認すると、ふっと微妙な表情になった。
「なるほど……四十肩と……天使……ですね……?」
「そこを読み上げる必要ある!?」
ロイが叫ぶ。
「いえ、確認です。では、お二人にぴったりのお仕事があります」
「お? 魔物退治か、人助けか……?」
「介護です」
「なんでだよ!!!」
「天使さんは癒やし系のステータスがありますし、四十肩さんは……あの……落ち着いた年齢層というか……」
「職業が関係してるのかそれ!?」
「はい。適正バッチリです!」
こうして二人は半ば強制的に、老人施設へ派遣されることになった。
◆
施設の名前は 《陽だまりシルバーケア》。
中に入ると、職員らしき人が慌てて駆け寄る。
「助かりました! 介護士が足りなくて困ってたんです!」
「いや、俺たち戦闘で稼ぎたいんだけど……」
「戦闘? 何言ってるんですか。ほら、あちらに利用者さんが」
案内された先には、車椅子の老人たちがのんびりと日向ぼっこしていた。
ミリエルは目を輝かせて走っていく。
「わぁぁ! かわいいおじいちゃんおばあちゃんがいっぱい!!」
「“かわいい”か……?」
「天使さん、まずは声をかけてみてください」
と職員が言った。
ミリエルは老人にしゃがみこみ、満面の笑みで言った。
「こんにちは! お年寄りさん!」
「呼び方が雑!!」
案の定、おじいちゃんがムッとする。
「わしは“おじいちゃん”ではなく名前で呼んでくれんか」
「名前? ……じゃあ“おじいちゃん”ね!」
「話聞いとらん!!」
横でロイがツッコむ。
◆
ロイはロイで、重い荷物を持つ役目を頼まれた。
「ロイさん、この荷物を二階まで運んでください」
「任せろ! ……うぐっ!?」
肩がビキッと悲鳴をあげた。
「あ、四十肩の方でしたね。じゃあ軽い荷物で」
「いや軽いのって……この枕一つか!?」
「はい。無理は禁物です」
「俺の職業、本当に邪魔してくるな……!」
◆
しかし、意外にも老人にはミリエルが大人気だった。
「天使さん、わしの肩をさすってくれ」
「はい! こうかな?」
ミリエルの手が光を帯びる。
「おお……痛みが消えた。さすが天使……!」
「すごいじゃないかミリエル!」
ロイが感心して言う。
「うん! 私、光のステータスだけは得意だから!」
「“だけ”って言うな!」
老人たちはもうミリエルに夢中だ。
「天使さん、こっちも頼む」
「天使さん、わしも!」
「天使さん、腰が痛い!」
ミリエルは嬉しそうにあちこち走り回り、光をふりまく。
ロイはロイで、スタッフに言われた。
「ロイさんは……その……話し相手でもしていただければ」
「肩がひどいからって理由雑じゃね!?」
しかし、話し相手を始めてみると――
「若いの、あんた四十肩なんじゃろ? わしと同じや」
「いや、あの……職業でして……」
「職業で四十肩!? そりゃわしよりひどいわ!」
「慰められてる!?」
なぜか老人たちと妙に意気投合するロイ。
◆
休憩時間になると、ミリエルが汗だくで戻ってきた。
「ロイ、すっごく大変ね……天使って、こんなに重労働なの?」
「いや、たぶんお前が勝手に癒やしすぎてるだけだと思うぞ」
「そうなの? なんか、頼まれると断れなくて……」
「それな、“知が弱い”ってステータスのせいじゃね?」
「そこ言わないで……」
ロイはため息をつきながらも、少しだけ笑った。
「まあ……助けられるんなら悪くはねぇか」
「うん! ロイ、今日のお仕事、楽しいわ!」
「……俺は肩痛えけどな!」
こうして、
四十肩のロイと
知が弱いけど光MAXのミリエルの
異世界ほのぼの介護初任務は、
なぜか施設中を大喜びさせて幕を閉じた。
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