表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

324/327

【第324話:花畑の川渡り事件】

――ふわり、と何か柔らかいものに包まれている。


 ロイはゆっくり目を開けた。

 視界いっぱいに広がるのは、花、花、花。

 甘い香り、柔らかな風、そしてすぐそこにはきらきら光るのどかな川。


「……俺、死んだ?」


 あまりに平和な光景に、ロイは半ば確信した。

 あの激戦のあと、力尽きたのかもしれない。

 これは天国というやつか。


「死んでないわよ?」


「うわっ!?」


 突然、肩越しにふわっと顔をのぞき込んできたのは、白いワンピース姿の少女だった。

 背中に羽が生えている。

 顔立ちは天使そのものだが、雰囲気はどこかふわふわしている。


「えっと……あなたは?」


「私? 天使ミリエルよ。あと、あなた死んでないわ。ただの時渡りの狭間に迷いこんでるだけ」


「そんなことある!?」


 死後の世界だと思っていたロイは、ずっこけそうになった。


「でね、あの川を渡ったら元の異世界に戻れるの。簡単でしょ?」


「その“戻る川”、普通にそこ流れてる川なの!?」


「そうよ? ああいうの、大体川でしょ?」


「聞いたことない!」


 しかし、この天使には迷いがない。

 つまり、たぶん何も考えていない。


「じゃ、行きましょ。ついてきて」


 そう言って、天使は川に入る。

 ざぶざぶと、靴のまま。


「なんかもう嫌な予感しかしないんだが……」


 ロイも覚悟を決め、ついていく。


 水はひんやりとして心地よい。

 美しい花畑が遠ざかり、向こう岸が近づいてきた。


 その瞬間――


空間が、ぐにゃり、とねじれ始めた。


「おっ、戻るんだな!」


「うん、そう……あれ?」


 天使がぴたりと止まる。


「ど、どうした?」


「……私まで異世界に行っちゃうじゃない!」


「いや、気づくの遅っ!!」


 天使は慌てて羽ばたいた。


「ちょ、ちょっと待って、私ここで働いてるのよ!? 勤務中に勝手に異世界ってまずいわ!」


「今さら!? もう空間ねじれてるって!」


「いったん戻らないと! 花畑に! 花畑が私の職場なの!」


「職場って言い方!」


 天使が必死に逆方向へ泳ぐ。

 しかし、渦のような時の流れがふたりを飲み込み始める。


「やだやだやだ! 異世界こわい! 虫多そう!」


「おまえ天使だろ!!」


「羽は飾りよ!!」


「そんな設定あるのかよ!!」


 ツッコミどころしかないまま、時空の渦は最高潮に達する。


 そして――


バシュゥゥン!!


 強烈な光が弾け、ロイと天使はまとめて異世界へ吸い込まれていった。


 残されたのは

 風に揺れる花畑と、川のせせらぎだけだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ