【第323話:黒ショルダム vs インフェルナ…そして】
『妨害行動──排除』
無機質な声が、空間を震わせる。
(こいつ……!)
ロイは黒ショルダムの操縦桿を握りしめた。
「トービン、援護頼む!」
「任せろい!! ……ただし五十肩が……」
「黙ってろ!!」
横でショルダムアルファが武器を構える。
インフェルナが消えた。
「――ッ!?」
次の瞬間、黒ショルダムの視界いっぱいに白銀の刃が迫る。
「ロイっ! 右!!」
トービンの叫びで、ロイは本能的に操縦桿を叩く。
ギィンッ!
刃が黒ショルダムの頬装甲をかすめ、火花が散った。
(速ぇ……! マークツーより段違いに速ぇ!)
インフェルナの攻撃は、視認してからでは避けられない。
『人間の反応速度では──対応不能』
「やってみねぇとわかんねぇだろ!!」
黒ショルダムが拳を繰り出した。
が──
『遅い』
インフェルナは片手でその拳を受け止めた。
「なっ……!?」
瞬間、インフェルナの脚がロイの機体の胴にめり込む。
ドゴォッ!!
「ぐぁッ!!」
黒ショルダムの巨体が10メートルふっ飛ばされ、床を抉りながら滑る。
「ロイ!!」
(やっぱ……ヤベェ相手だな……!)
ロイの額から汗が流れた。
「トービン!! 行くぞ!!」
「おおらぁああ!!」
アルファが重火器を展開し、砲撃の雨を放つ。
空間が光の矢で満たされる。
だが──
インフェルナは滑るように空間を歪ませて消えた。
「っ!? どこ行った!!」
死角。
「トービン後ろ!!」
「え? あっ」
インフェルナの蹴りがアルファの肩に叩き込まれた。
バキィ!!
「うおッ!? 肩がッ!! 五十肩がッ!!」
「そこ五十肩関係ねぇだろ!!」
だがトービンの悲鳴が響いた瞬間──
ロイの肩にも疼痛が走った。
「……っ、痛ぇ……!?」
黒ショルダムの内部表示が波打つ。
【同調率…上昇】
「同調……? まさか、黒ショルダムは……!」
ロイの精神を侵食しようとする“何か”が、機体内部に流れ込んでくる。
思考が濁る。
視界が揺れる。
『……破壊……破壊……』
(ダメだ……這い寄ってくんじゃねぇ……!)
インフェルナはその隙を逃さない。
『優先排除』
白銀の刃が黒ショルダムへ突撃。
「ロイ!! 起きて!!」
ユナの声で、ロイの意識が一瞬戻る。
「クソっ……!」
腕が勝手に動く。
肩が悲鳴を上げる。
(操られ……そうになってる……! でも……!)
「四十肩……なめんなよ……!!」
ロイは痛みで逆に正気に戻った。
黒ショルダムの腕が再び動き、インフェルナの斬撃を受け止める。
ギィィィィン!!
『反応速度……異常上昇。理由不明』
「理由? こっちは痛ぇんだよ!!」
黒ショルダムが刃を弾き返し、反撃の拳を叩き込む。
ドガッ!!
インフェルナの腹部装甲が割れ、火花が飛び散った。
『……初めての損傷……記録』
「ロイ、同調率が上がってる! 今なら行ける!!」
「わかってる!!」
黒ショルダムが一気に加速。
操縦桿が勝手に震え、ロイの思考と機体の動きがほとんど一致していく。
「おおおおおおおお!!」
『来る……!』
インフェルナが両腕の刃を展開。
光がうねり、塔内部が真昼のように輝く。
乱撃。
回避。
反撃。
爆発。
すべてが高速で交錯する。
黒ショルダムの装甲は剥がれ、内部フレームが露出。
インフェルナも片翼のような補助装甲が吹き飛んでいる。
『……楽しい……戦闘……記録更新……』
「楽しんでんじゃねぇ!!」
最後の一撃をお互いに放つ。
「うおおおおっ!!」
『排除完了……ッ!!』
ドォォォォォン!!
光の爆風が塔を揺らす。
そして──
両機は、同時に崩れ落ちた。
黒ショルダムのコックピットが勝手に開いた。
「ロイ!!」
ユナの声が近づく。
崩れたインフェルナの外装からも、白い生体部品のようなものが歩み出た。
ロイは、ふらふらと立ち上がった。
「……生身で……終わらせる……」
肩は痛い。
全身が傷だらけ。
だが──
「四十肩に比べれば……こんなの……!!」
インフェルナも生身(のように見える)肢体を構える。
拳を握る。
互いに一歩踏み込む。
ドッ!!
拳が交差した。
ロイは膝をつき、それでも立ち上がり──
「……勝つのは……こっちだぁぁぁ!!」
最後の拳を、インフェルナの仮面へ叩き込む。
白い仮面が砕け散った。
インフェルナは崩れ落ち、光の粒となり消えていった。
「……っ……はぁ……はぁ……」
ロイの視界は揺れ、遠くでユナの泣き声が聞こえる。
「みんな……無事なら……それで……」
そのままロイは力尽きた。
ロイはそのまま、静かに意識を手放した。
「おい……ロイ……! 寝るな……! おい……!」
トービンが心配そうに覗き込みながらも、ホッとしたように笑った。
「……ほんっと……バカだな……」
塔の中枢での死闘は終わった。
長い戦いの果てに、ようやく訪れた静かな安堵だった。
⸻




