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フラマンタスの刃71

 仲間達が疲労に疲労を重ねて改めて戦っている。この勝負を終わらせるのは、やはり王冠を頭に抱いた頭目を斃すほか道は残されていなかった。

 それでも駄目だったら? 永遠に命をつけ狙われたら? 考えたくもない。今はただ眼前の最善策を実行するまでだ!

「ヒュー!」

 フラマンタスが呼び掛けると戟を突き出し、薙ぎ払っていた影が応じた。

「フラマンタスか!?」

「交代だ、ヒュー!」

「ありがたい、老体にはなかなか厳しい相手だった。ぬかるなよ」

「分かっている」

 黒の乗り手が振り返る。

 フラマンタスはペケを寄せ、背後から斬り込んだが、敵も見事な手綱さばきで馬を返して剣で受け止めた。

 力比べが始まる。剣と剣、刃と刃が押し合っている。

「ギュネの応援に行く。負けるんじゃねぇぞ!」

 ヒューがフラマンタスの隣を駆けて行った。

 フラマンタスと敵の頭目は同時に剣を離した。

 鋭い突きが繰り出される。脚を狙ったそれをフラマンタスは剣で受け止める。

 鉄と異色の金属がぶつかり高らかに鳴り響いた。

 あまり打ち合ってはいけない。剣が圧し折られる。

 ペケと灰色の大きな馬も身体をぶつけ合い競り合っていた。距離はそれだけ近い。闇に染まった薄い外套とその下から伸びる骨の腕が見えた。

「シューッ!」

 ベールの下から声を上げ、上段から突き下ろしてきた。

「ぬぅん!」

 フラマンタスは声を上げ、側面から膂力全開で剣で剣を弾いた。

 打ち合うなという方が無理か。避ければペケに当たる可能性もある。黒の乗り手の頭目はフラマンタスより小柄だが馬が大きくそれで背丈が並んでいた。

「はあっ!」

 フラマンタスは声を上げて剣を突き出す。頭目は刃の平で受け止めた。火花が散り、切っ先が滑ったフラマンタスが相手側に倒れ込みそうになった。

「しまった!」

 フラマンタスは支えきれず、頭目の外套に飛びつき、そのまま地面を転がった。

 二人はもつれ合い、頭目が先に立ち上がり、フラマンタスを串刺しに縫いつけようと切っ先を振り下ろした。フラマンタスは転がれなかった。鎧にはゴブリンどもの矢が無数突き刺さっていたため、動きを阻害されたのだ。

 ちいっ!?

 切っ先が胸に振り下ろされる。

 剣を捨て両手で刃を挟んで受け止めた。

 黒の乗り手の頭目の膂力は凄まじいもので刃は押さえ切れず胸の鎧に突き立とうとしている。こいつは知っているんだ。この程度の鎧なら貫けるということを。

「タアッ!」

 不意に声が響いて黒の乗り手の頭目の横顔に蹴りがぶつかった。

 頭目は受け身を取り立ち上がった。

「フラマンタスさん、大丈夫ですか!?」

 窮地を救ってくれたのはマリアンヌ姫だった。

「敵はアネーリオ君だけで押さえ切れます。だから、私があなたに加勢します」

 姫は敵を睨みながら言った。そして小柄な身体であっという間に頭目の懐に飛び込み、掌底をぶつけた。

 ピシリ。

 確かに微かな音が聴こえた。

「手応えあり!」

 姫が声を上げた。

 黒の乗り手の頭目は胸を押さえていた。

 マリアンヌ姫はそんな敵に情けを掛けず剣閃を避け、腕を掴み取り、一本背負いにした。地面に倒され慌てて身を上げた頭目の顔面にマリアンヌ姫の気合の拳が炸裂した。鋼鉄の拳は敵の骨を砕けて拉げる音を上げ、頭目の頭を飛散させた。

 断末魔の声すら上げられなかった頭目に変わり、各地で四つの断末魔が轟いた。

「シュアーッ!」

 重たい音がし、おそらくあの呪われた武器が落ちる音がした。

 こちらも剣と、宙を舞っていた王冠が暗い地面に落ちた。

 フラマンタスは茫然としていた。

「やりました!」

 マリアンヌ姫が明るい声で振り返り、フラマンタスは我に返った。

「お、お見事です姫。いや、本当にすごい」

 フラマンタスはまさかの結末にそう言うのが精いっぱいだった。

「フラマンタスさん、しっかりして、あなたが指揮官ですよ」

 姫に諭され、フラマンタスはようやく現実を受け入れることができた。燃え盛る炎のような鍔をした呪われた分厚い剣と、王冠が目に入る。

「みんな、油断するな! この武器から転移してくるやもしれない!」

 フラマンタスは声を上げた。

 そして自分も姫と並んで地面の剣と王冠を見詰めていた。

 だが、十五分ほど過ぎても敵が現れる気配がなかった。

「フラマンタス! やっぱり敵のボスをやっつけたからそれで終わったんじゃない!?」

 ギュネの声が轟いた。

「そうかもしれないね」

 コモドの声が聴こえた。

 フラマンタスは姫と顔を見合わせた。

「ギュネさんの言う通りかもしれません」

 マリアンヌ姫が言った。

「そうだとして、この、掴んだ者の身を乗っ取る呪われた武器をそのままにはしておけません」

 経験者だから言える。フラマンタスはかつて呪いで全てを支配されそうになった。

「わ、私が!」

 ダニエルが声を上げた。

「どした、ダニーボーイ?」

 コモドが問う。

「私がこの剣を掴みます! 何かあったら斬り捨てていただいて結構ですので!」

 ダニエルの勇気ある申し出にフラマンタスの脳裏では悪魔の囁きがあった。ダニエルはこの一行の中では弱い部類だ。何かあっても排除するのは容易だ。しかし、という声もある。フラマンタスは躊躇した。

「分かった、若造! 何かあったら俺が対処してやる。場合によってはお前を殺してやるから安心しろ」

 ヒューが言った。

「ヒュー!」

 姫が驚き咎めるように声を上げた。

「姫様、この若者も自分の力量を判断して言ったのでしょう」

 ヒューの声が応じた。

「その通りです。私程度が呪いを受けても、この中のどなたでも対処できる力を持っています」

「ダニエル兄ちゃん!」

 アネーリオの悲壮な声が聴こえた。

「フラマンタス、指揮官はお前だ。お前が決めろ」

 ヒューの声が胸に突き刺さるように揺らめかせた。

 ダニエルの己を知っての勇敢な申し出を無下に断ることはできない。彼は命を懸けている。

 フラマンタスは頷き、ダニエルのいるであろう方角を振り返った。

「分かった、頼む、ダニエル」

「了解」

 ヒューの影が戟を振り上げている。その下でダニエルは屈み込み剣に手を伸ばしていた。

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