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フラマンタスの刃70

 マリアンヌ姫とアネーリオの助けに入り、三対一となった状況に、ベールの下にある頭には脳味噌もないというのに、目の前の黒の乗り手が焦る動きを見せた。分厚い刃を重い風の音と共に振り回した。

 三人は離れた。

「頭さえやれれば」

 フラマンタスが言うと、アネーリオがこちらをチラリと見て、興奮する敵へ視線を戻しつつ言った。

「頭をどうにかするなら、俺できるかも。フラ兄ちゃんの肩を借りることになるけど」

 いつになく自信ありげに答える小さな戦士に、フラマンタスは軽率な考えは止めるように言おうとしたが、黒の乗り手が馬を寄せて剣を滅法に振り回してきたので、再び距離を取る。敵は幸いにもフラマンタスを狙いとしたようだ。

 剣を避け続けようとしたが、このまま防戦に徹しても解決はしないと彼は思った。

 だが、どうする、また剣で打ち合い圧し折られるのか?

「フラマンタスさん屈んで!」

 マリアンヌ姫の声が木霊し、フラマンタスは思わずその通りにした。

 と、自分の右肩を蹴られた。

「くらえええっ!」

 蹴ったのはアネーリオで、彼は高く飛翔し、灰色の大きな馬に跨る黒の乗り手の顔面に襲い掛かっていた。突き出しているのは右ひざの太い針のような突起だ。

 黒の乗り手は剣が間に合わず、顔に跳び膝蹴りをまともに受けた。

「シュアーッ!」

 顔に跳び膝が突き刺さり、黒の乗り手は悲鳴を上げる。だが、幸いにしてそれが断末魔だったらしい。馬ごと霧のようにように消滅した。呪われた武器を残して。

「へへっ、やった!」

 小さな戦士はもはや小さくもない。その年齢を超越するほどの勇気と度胸がある。

「アネーリオ君、見事」

「すごいよ、アネーリオ君!」

 フラマンタスとマリアンヌ姫が言うと、アネーリオは頷いた。この薄闇では見えないが、彼は精神的に少年を脱し、次に小さな戦士も脱した。教会戦士団でいえば立派な兵卒あたりだろうか。これは将来が楽しみだ。

 ダニエルとギュネ、少し離れた位置でヒューが戦っている。コモドの方は馬を斃したらしく、地面に足を着いている黒の乗り手を翻弄していた。

 頭目を斃して一挙逆転を狙いたいところだが、確信が無い。頭目を斃せばこの場を制することができるという確信が。

「アネーリオ君と、マリアンヌ姫はギュネさんらの助勢を! 俺はコモドのところへ!」

「了解だよ、フラ兄ちゃん!」

 アネーリオは黒の乗り手をやれたことに自信がついたらしい。釘を刺しておくかと思ったところ、それはマリアンヌ姫が引き受けていた。

「アネーリオ君、敵を見くびっちゃ駄目よ。さっきのは本当にカッコよかったけどね」

「うん、分かった、マリアンヌお姉ちゃん」

 二人は駆けて行った。

 ヒューは未だに敵の頭目と互角に打ち合っている。水を差すわけにはいかぬだろう。

 フラマンタスは駆けてコモドと合流した。

 前後に敵に挟まれ、黒の乗り手も動揺しているようだ。忙しなくこちらを振り返り、剣を旋回させて薙いで寄せ付けない。

「黒の乗り手さん、アンタ、このままじゃ負けるよ。残った同僚は四人がかりで相手にされて、親分の方も助けに行けるほどの状況じゃない。俺っちとフラちゃんなら、確実にアンタをあの世へ送り届けることができるよ。降参したら?」

 コモドが言うと、降伏勧告が癪にさわったのか、黒の乗り手は剣を旋回させながらコモドへ斬りつけてきた。コモドは一回転して後ろに跳んで避けるや、すぐさま前に一回転した。

「よっと」

 コモドはその剣を足で上から押さえ込んだ。

 黒の乗り手は剣を取り戻そうと躍起になっていた。

「フラちゃん」

「おう!」

 フラマンタスは最大限の渾身の膂力を乗せて十字剣を薙ぎ払った。

 黒の乗り手の首が飛んだ。頭と身体は地面に落ちる前に消え去った。

「ありがとさん。無事に済んだよ」

 コモドが言った。その視線は闇の転がる呪われた剣に向けられていた。遠くの灯火の光りが僅かに切っ先に反射している。

「俺がいなくとも君ならやれたろうな」

 フラマンタスが率直に感想を述べるとコモドはかぶりを振った。

「ああやって、挑発できたのも二対一だったからだよ。心理作戦ってやつかな」

 フラマンタスが頷こうとした時だった。

 馬の嘶きが木霊した。

 振り返れば二騎の黒の乗り手が剣を手に現れていた。

「しまった、あれはそういうものだった!」

 フラマンタスが声を上げるとすぐに目の前の呪われた武器が浮き上がり、灰色の大きな馬に跨った黒の乗り手が剣を掴み、掲げて現れた。

「蘇ったのか、新たな増援なのか。ひとまず、ここはもう一度、俺っちに任せて!」

「分かった、コモド!」

 フラマンタスは駆けた。

 アネーリオとマリアンヌ姫、ダニエルが新たに現れた二騎をそれぞれ相手にした。

 ギュネが一人で敵と戦っている。

 フラマンタスは慌てて駆け出した。と、その横を並走する姿があった。

 何者だ?

「ヒヒーン!」

 ペケだった。この賢く体格に恵まれた馬はフラマンタスに乗れと促している。

「ペケ、お前も心強い仲間だったな」

「ヒン!」

 フラマンタスは巨体に巨体を預け、馬上の人となってギュネのもとへ疾駆した。

 ギュネは馬上から振り下ろされる剣を避け続け、森へと追い込まれていた。

「ギュネさん!」

 フラマンタスは咆哮を上げて黒の乗り手に斬りかかった。

 黒の乗り手は剣を薙いで応戦した。剣と剣がぶつかった。あまり剣に負担はかけられない。何でできているのかは知らないが、向こうの剣の方が強度が上だ。

「フラマンタス、これじゃあ、打つ手は無いわ! もうボスをやる以外に作戦は思い浮かばないもの!」

 ギュネが反対側から声を上げた。フラマンタスは逡巡した。

「早くボスを斃して! 避けるだけなら意地でも死なないから!」

 ギュネの必死な声にフラマンタスは頷いた。

「すぐに!」

 そして馬首を廻らせて、ヒューと戦っている王冠をかぶった敵の大将へのもとへと急いだ。

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