表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/83

フラマンタスの刃68

 ただ無我夢中だった。

 森の中で追跡していた小柄な背を見失い、右往左往し、周囲の殺気に気付いたときは遅かった。矢が幾重にも放たれた。弾き返そうにも全てをそうすることはかなわない、咄嗟に顔を両手で覆った。

 矢による攻撃が止んだ。

 フラマンタスは腕を広げるや、咆哮とともに膂力を注ぎ込み力の限り剣を一回りさせた。

 無数の声と血肉が森の中に落ち茂みに隠れた。

 矢は幸い籠手や胴など鎧に集中していたため、難を逃れることができた。このハリネズミを見ても、テリトリー内でのゴブリン達は殺気立ち、得物を持ち上げ次々躍り掛かって来る。

 フラマンタスは次々、切り裂き、死体の山を築いた。

 さて、大分深いところまで入り込んでしまった。増援を断つことはできたが、これでは指揮官失格だな。

 フラマンタスは一息吐いた。

 空を見上げる。木々の間から夕暮れが見えた。

 フラマンタスは孤高を貫きながらも、こういう訓練がからっきしであった。自分が来た方角が分からない。

 すると、側の茂みが揺れた。揺れて揺れてゆっくりこちらに近づいてくる。

 虚ろな声が聴こえた瞬間、フラマンタスは足元のそれを剣で縫い留めた。

 上半身だけのゴブリンは首を分断され動かなくなった。そうしているうちに、呪いや怨嗟のような声を上げて、茂みを鳴らし、次々影が立ち上がった。

 真紅の屍術師が動いた。ゴブリンがゾンビとなったのだ。

「どのような姿になろうとも斬り捨てるのみ」

 よろめいて牙で噛みつこうするアンデットどもの首を刎ねるべくフラマンタスはこちらから斬り込んだ。

 ゴブリンだろうがトロルだろうが、家族や仲間はいる。今の俺のように。だが、お互い干渉しあっては生きてゆけない定めなのだ。フラマンタスは己を奮い立たせ、咆哮に次ぐ咆哮、斬撃に次ぐ斬撃で次々、動きの緩慢なゴブリンの動く死体達を切り裂き、あの世へ解き放つ。

 せめてもの手向けだ。

 最後の一体を斃した時には、さすがに息も乱れ、夜も暗くなっていた。

 月も見えない。

 このまま動かない方が賢明なのだろう。臓物と血のにおいが蔓延る、秋の夜に相応しくない場所で、佇むか。座ればゴブリンの死体を尻に敷く羽目になるだろう。

 それでも手近の樹へ歩み寄り、背を預けた。

 そのまま息を吐く。肩の緊張が揺るんだ。十字剣を地面に突き立てる。

 他の皆もアンデットとやりあったのだろうか。

 不意に頭の中が揺らぎ、フラマンタスはまどろみの中へと落ちていった。



 2



 呼び止めたがフラマンタスは行ってしまう。

 今の彼が何を考えているかが手に取るようにギュネには分かる気がした。きっと、ゴブリンの援軍を阻止すために行ったのよ。これ以上、不利にならないように、アタシ達のことを思ってくれて。

 だが、追おうとするギュネをゴブリンが阻む。

「さかしいのよ!」

 ギュネは声を上げ胴から槍を突き出した。槍先がゴブリンの胸板を貫いた。全力を出さねば骨に阻まれる。そんな戦いを何度も経験し、ギュネは自分でも逞しくなったと思った。

 ダニエルが隣で同じく勇敢に剣を両手で持ち、ゴブリンの攻撃を捌いて斬り捨てた。

 ゴブリン達は怯む様子を見せたが、どこかは分からないが一体の頭目クラスと思わる者の咆哮で気を取り戻したようだ。獰猛に吼え、躍り掛かって来る。

 ギュネも負けじと気合の声を轟かせ空中に跳んだ相手を槍で貫いた。赤い血が顔に降り注いだ。死体を薙ぎ払って捨てた。

「ギュネさん!」

 ダニエルが駆け寄って来た。

「平気よ、ダニエル。アンタもひどい顔ね」

 実直な若者の顔も返り血に塗れていた。

「よーし、平定だ!」

 背中からヒューの声が上がった。

「皆さん、ご苦労様でした」

 マリアンヌ姫とヒューが馬のペケを迂回して歩んできた。

「フラマンタスは?」

 ヒューが問う。

 ギュネが応える前に声が上がった。

「伝令を仕留めに駆けて行ったみたいだね。この中を」

 コモドが森の入り口に立ってフラマンタスの足で折れた草を指しながら言った。

「あいつ、普段は冷静なくせにどうしたんだ」

 ヒューが言うがすぐに応じる者はいなかった。おそらくは誰しもマグナスの幻影を浮かべただろう。フラマンタス自身がマグナスのような指揮官になるべく、頑張りすぎている。いや、責任にがんじがらめになっているのだと。それもあるかもしれない。ギュネは頷いた。

「あまり深く入って無ければ良いですが」

 ダニエルが言い淀む。そろそろ夕暮れも近い。

「姫、フラマンタスを迎えに行く必要がありそうです」

 ヒューが片膝をついて進言した。

「ペケちゃんを森の中に連れて行くのは困難でしょうし……」

 姫も言い淀む。

「俺っちが行くよ」

 コモドが名乗り出た。

「コモド兄ちゃんが?」

 こちら側へ来たアネーリオが訝しげに尋ねた。

「そよん。俺っち、追跡得意だから。そんじゃ、行ってくるわ」

 コモドは得意げに言うと森の中へ駆け込んで行った。

「本当に大丈夫なのか?」

「さ、さぁ」

 ヒューのぼやきにダニエルが不安げに答える。

「とりあえず、コモドさんに任せるしかありませんね。私達は野営の準備をします」

 マリアンヌ姫が言った時だった。

「動いた!」

 アネーリオが叫んだ。

 何だと思った瞬間には足元の魔物の死体という死体が気味の悪い呻き声を上げてゆらりと起き上がった。足の無い者は地面を這っている。

「ゾンビ化したんだよ! みんな、動いて!」

 アネーリオが一番冷静だったらしい、大人たちは慌てて対処に動いた。

 ペケが嘶く。そして後ろ足でゾンビを蹴飛ばした。

 ようやく目が覚めた。まだ戦いは終わってない。

 よろめくゾンビの壁目掛けて、ギュネは槍を薙ぎ払った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ