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フラマンタスの刃66

 未明に一同は集結し、制圧の完了を確認した。

 だが、胴と首が繋がっていない、未だぬめっている血の中に沈む遺体を町の人々に見せるのはどうかと話し合った。

 逃れられ立て篭もっていた人々に素直に打ち明けると、多くの者が渋々賛成した。つまり埋葬を手伝うというのだ。見知った顔もいるのに彼らは埋葬作業に移った。

 幾つもの荷車に胴と首を置き、墓地まで引っ張ってゆく。今回は首から分断しているため、再度脅威になることは無いとして、大きな穴を掘り、そこに埋めることになった。

 荷車の指揮はマリアンヌ姫とアネーリオに任せ、フラマンタスら、他は穴を掘ることを急いだ。

「え? イシュタルさんが居たんですか?」

 ダニエルが軽く驚きの声を上げて続けた。

「あの方、お綺麗ですが、どこか近寄りがたい雰囲気があったので心配してました」

「厳かな雰囲気あるよね、ギュネっちと違って」

「威厳がなくて悪かったわね」

「イシュタルさんには凄腕の戦士がついている。ウルフという人だ。だから道中の心配はないだろう。イシュタルさんが言った幻の城ではどうかは分からないが」

 フラマンタスはそう言った。

「ウルフね……。聴いたことは無いが偽名かもしれねぇな」

 ヒューがつぶやいた。そして一同はどんどん墓を掘り進めて行った。遺体を満載にした荷車が次々到着する。祈りを口ずさむ声が時折聴こえた。

 早朝から総出で掘り進めた穴は夕暮れ時になって完成した。犠牲となった死者達が次々と穴に放り込まれる。夜の空気は冷える。この死者達に比べて圧倒的に少ない人々は身を寄せ合い、祈りを捧げ、遺体に土がかけられるのを見ていた。

 その後、フラマンタスらは先ほどの組で分かれ、生き残った住人達を警護し、家まで送り届けた。



 2



 油断していたのかもしれない。以前もこのようなことがあった。

 フラマンタスら一行は東通りの宿を借りていたが、施錠した外への扉と、各部屋が乱雑に叩かれる音で目を覚ました。

 入口の扉は軋んでいた。

 フラマンタスはそこをマリアンヌ姫とコモドらに任せ、ギュネとアネーリオとともに一階の部屋の一室へ踏み入った。

 ガラス張りの窓の外は今にも割れるのではと思われるほど、叩かれ、外からはゾンビの凶暴な声が聞こえていた。

「何てことを……」

 ギュネが怒りに言葉を失った様子で燭台の照らす外のゾンビ達を見ていた。

「フラ兄ちゃん、どうするの?」

「まずは正面は長物を持っているヒューで大丈夫だろう。アネーリオ君はヒューにそのことを知らせて、そのまま彼の援護に入って欲しい」

「分かった」

 アネーリオが駆け出た頃合いを見計らってなのか、ガラスが心臓に悪い音を上げて割れた。男のゾンビが身を乗り出して窓枠を潜ろうとする。

 フラマンタスは駆け、立ち上がったゾンビの首を刎ねた。

「ギュネさん、ここは私一人で大丈夫です。コモドの指示に従って他の場所の防衛を頼みます」

「で、でも」

「大丈夫です。さぁ、行って」

 窓枠を潜り抜けようとするゾンビ達をフラマンタスは斬り殺した。



 2



 一緒に墓を掘り、一緒に死者を弔った。そんな人達が敵になるなんて。

 ギュネは奥歯を噛み締め廊下に出る。ヒューの咆哮を背に、マリアンヌ姫と、コモドらが駆けてくる。

「コモド、アンタの指示に従えって、フラマンタスが」

「分かったよん。部屋は四部屋、厨房にも窓はあったからそこは俺っちが引き受ける。フラちゃんが四番目で頑張ってるから、ギュネっちは三番目の部屋、マリちーは二番目の部屋、ダニーボーイは一番目の部屋をよろしくねん」

「ちょっと、マリアを一人にする気!?」

 ギュネが抗議するとマリアンヌ姫がかぶりを振った。

「私だって、教会戦士の見習いです。体術ではゾンビは斃せませんが、時間は稼げます。他力本願ですが、その間に皆さんが敵を殲滅してくれればと思ってます」

 マリアンヌ姫の強い言葉にギュネは頷くしかなかった。彼女のためにも自分達が頑張らなくては!

 サーベルを抜いて指定された部屋の扉を開ける。

 こちらも恐怖感を煽る音と唸り声が外から聴こえてきた。

 大丈夫、やれるわ。

 ギュネは燭台に火打石で炎を灯した。部屋が明るくなり、窓の向こうのゾンビの顔が見えた。おそらく濁っているであろう、大きく目を見開き、踊り狂ったように窓を叩いている。

 どこかで窓の割れる音がした。ここももうもたない。

 覚悟はしていたが、実際に窓が割れ、遮蔽物が無くなり、一対多でゾンビと対面すると、恐怖を感じた。

 窓に亀裂が入った。

 今、私にできることはこのあわれなる亡者達を眠らせ、天に送り届けることだけだ。神は何故、真紅の屍術師にこのような恩恵を授けるのだろうか。

 音を立てて窓が割れた。

 女のゾンビが窓枠を跨ごうとする。ギュネは夢中になり声を上げて、乗り越えられる前に、両手で握ったサーベルを振り下ろし、ゾンビの首を刎ねた。一体斃れればまた続々とゾンビは続こうとする。

 マリアのためにも、私が!

 ギュネは辛抱強く、首を刎ね続けた。血糊が刀身を重く染める。

 善良な人達だった! それを! それを! 神様、何故なの!?

 不意にゾンビの向きが変わった。窓枠から離れ、隣の部屋へと移動している。

 外からフラマンタスの声が聴こえた。

 窓枠から顔を出すと、闇の中、孤軍奮闘する影が見えた。

「フラマンタス!」

「ギュネさん出ちゃ駄目だ!」

 ダニエルの声がした。

「今は、視界が悪い。フラマンタスさんを見捨てるようですけれど、彼に悠々と戦わせましょう」

「おそらく、フラマンタスさん自身もそれを望んでいるでしょう」

 マリアンヌが割れた隣室の窓から顔を出して言った。

 確かに、こんな闇の中、味方だって気付けるほど、人の目は便利にできてはいない。

 三十体ほどのゾンビが次々フラマンタスの餌食になる。

「おう、流れが変わったと思ったらフラマンタスか」

 外からヒューが歩んできた。

「フラマンタス! 代わりが欲しかったらいつでも言え!」

 ヒューが声を上げる。

「分かった!」

 フラマンタスの声が応じる。ゾンビ達は凶悪な声を上げて次々と闇夜をフラマンタスへと向かう。そして散る。

 今のフラマンタスはまた自己犠牲に捕らわれている。自分の腕を過信し、いや、自信を持ち、充分対抗できるとして外へ飛び出したのだ。未熟な私達が安全であるように願っての行動だろう。

 ギュネには叱れなかった。そうなるためには自分がもっと強くならなければならない。

「槍があれば」

 彼女は感触の合わないサーベルを眺めてそう呟いた。

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