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フラマンタスの刃64

 その町での状況は今までとは違っていた。

 生存者が逃げ回り、ゾンビが後を追うように闊歩する。そう、ゾンビの凶暴な声の中、確かに生存者達の声が聴こえたのだ。

 町に入ったフラマンタスは状況を把握するのに少しだけ手間取った。これまでは町にいるのは生存者か、ゾンビか、だけだった。

「フラマンタスさん、生き残っている方を助けましょう!」

 マリアンヌ姫が強く言い、フラマンタスはそれもそうだと戸惑いから解放された。

「隊を三つに分ける。ヒューとマリアンヌ姫、アネーリオ君の隊と、コモドとダニエルの隊、そして俺とギュネさんで行く」

 一同は頷いた。

「作戦開始!」

 フラマンタスが言うと、ヒューとコモドの隊は町の右と左の道へそれぞれ入った。

「フラマンタス」

「ええ、行きましょう、ギュネさん」

 正面にはゾンビ達が展開している。

 腕を振り上げ、ヨロヨロと襲い掛かって来る。

 ギュネが短い槍で身構えるが。フラマンタスは踏込み、一斉に薙いだ。首が四つ飛んだ。

「助けてくれー!」

 右手の大きな建物から声が聴こえた。

「突入します」

「分かった」

 フラマンタスは木製の扉を静かに開けて中に踏み込んだ。

 三体のゾンビが尻もちをついた男に迫っていた。

「タアッ!」

 フラマンタスは後方の安全をギュネに委ね、自分は躍り掛かった。

 ゾンビの首が飛ぶ。

「大丈夫ですか?」

 フラマンタスが問うと細面の若者は頷いた。

「この状況はいつから始まったのですか?」

「よく分からない。ただ、二日前には確実に町の連中は同じ町の連中を襲い始めていた」

「あなたは隠れていて下さい」

「わ、分かった!」

 男は頷くと二階の階段を駆け上がって行った。

 だが、二階から悲鳴が上がった。

「戦士さん、部屋の中に奴らがいる!」

 男は階段を下りて来て言った。

「ギュネさん、ここを任せます。俺は上へ」

「任せて」

 ギュネは少しだけ開いた扉から外を窺い槍を抱いていた。

 フラマンタスは階段を駆け上がった。

 すると、手前の扉が激しく内側から叩かれている。蝶番が軋み、もうもちそうもない。

 そして扉は破られ、ゾンビがゾロゾロと姿を見せた。

 フラマンタスは十字剣を薙いで、薙いで、薙いだ。首を失った胴体は二、三歩ほど歩いて自らの血の海に沈んだ。

 このフロアは制圧かと思ったが、階下でガラスの割れる音がした。

「フラマンタス!」

「ひいいいっ、奴らだ!」

 ギュネと男の声がし、フラマンタスは階段を駆け下りた。

 ここは宿らしい。建物が大きい。厨房から一体の男のゾンビが嫌な呻き声を上げてよろめいていた。濁った眼を向け手を振り上げてフラマンタスに組みつこうとしていた。

 フラマンタスは刃を振るい首を刎ねた。

 一息吐けるかと思ったが、今度はギュネが声を上げた。

「奴らが気付いたわ。十体」

「ここには入れないでくれ!」

 男が悲痛な声で訴え、フラマンタスは頷いた。

「あなたは隠れていて。外でケリを付けます」

 フラマンタスはギュネが開けた扉を潜り、咆哮を上げて亡者の真っ只中に飛び込み、剣を振るった。

「背後に二体。私が行くから!」

「分かりました」

 フラマンタスは幾重にも斬撃を見舞った。

 どこかで生存者の声がする。少し遠い。無事でいてくれ。

 すると背後でギュネが驚きの声を上げた。

「ギュネさん!?」

 振り返ると、ギュネの短槍は柄の半ばから圧し折れ、ゾンビの首を貫いていた。ゾンビが斃れる。

「折れちゃったか。まぁ、今までよくもった方よ。新しいのを探さなきゃ」

「おじいさんの形見なのでしょう?」

 フラマンタスが僅かな記憶を頼りに言うとギュネは応じた。

「思い出はちゃんと残ってるから。だから、新しい武器を調達しなきゃ」

「分かりました、しばらくはこれを」

 フラマンタスは十字短剣を渡した。アネーリオ少年に貸していたが長柄の得物の方が敵対するには有利だと思い、少年は今はダニエル同様に両手でも持てる長剣を武器にしている。

 生存者が目の前の路地を過ぎった。

 声を掛けようかと思ったが、後から五体ものゾンビが唸り声を上げて追っていた。

 フラマンタスは駆けて進路を遮った。

 ゾンビ達が彼を標的にする。その内一体がよろめいてフラマンタスの胸に掴みかかった。爪が金属の鎧をなぞり、敵は倒れた。そのまま匍匐前進し襲って来ようとする。

 フラマンタスは、後退し、ギュネと並んだ。

「這いずってるやつはアタシがやるから」

「頼みます!」

 フラマンタンスはゾンビ達の側面に素早く回り込み、一気に斬り込んだ。ギュネが屈んで這っているゾンビの首を力いっぱい貫いた。

 片付いたが、まだまだ町には逃げ回る人の声が聴こえる。全ての生存者を救えれば良いが。

 また悲鳴が聴こえた。

「急ごう、ワクチンはマリアしか持って無いから、噛まれていたら大変だわ」

「そうですね、急ぎましょう」

 フラマンタスとギュネは悲鳴と獰猛な声の響く町の中を駆けた。

 と、男が腕を押さえて歩んで来た。

「戦士さん、俺、噛まれちまった。助かるのかな」

 縋る様な目で見られ、フラマンタスは頷いた。そして指笛を吹く。

 程なくして上空から猛禽のクリス君が現れた。足にはワクチンの注射器が括りつけられている。

「少し痛いと思いますが薬を打ちます」

「あいつらに噛まれる方がよっぽど痛い」

「ですね」

 フラマンタスは男の左腕に注射針を刺した。

「ゾンビが来たわ。三体。距離は十メートル」

 ギュネの声が聴こえた。

 クリス君は飛び去って行った。

「この先の宿へ避難してください」

「分かった!」

 男は駆けて行く。

 その背を一瞥し、フラマンタスは血の滴る剣を振り払うと、後続の亡者達へと斬りかかった。

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