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フラマンタスの刃61

 男を捕縛したことで一件落着したかと思ったが、そうはいかなかった。

 バシャバシャと対岸からまたもや駆けてくる足音が聴こえる。

「フランツ!」

「フランツー!」

 その名前に捕縛した男が反応し、声を上げた。

「止せ! こいつらは手練れ集団だ!」

 捕縛した男がフラマンタスの腕の中で声を上げる。

 そうして驚いたことに、人々が姿を見せた。各々、短剣に斧に、槍に、武装もバラバラだが松明の灯りが映し出したのは老いも若きも男も女もいたということだった。

 ゾンビではない。しゃべっているし、しっかりしている。総勢三十名はいるだろうか。

「フランツさんを返せ!」

 アネーリオ少年よりも年下の男の子が斧を振り上げてコモドに襲い掛かって来た。

 コモドは斧を握った手を掴むとその腹に膝蹴りを入れた。

「ごぼっ!?」

 男の子はその場に仰向けに倒れ痙攣していた。

「悪いけど、手加減はできないよ。さもなきゃ、俺らが殺される」

 底冷えするような声でコモドは言った。いつもの陽気な彼はそこにいなかった。いるのは傭兵のコモドだった。

「何て非情なの!?」

 年増の女の声がした。

「みんな、来るな! 大人しく帰れ!」

 フランツが言ったが、人々は泡を吹いている少年と、トロルの亡骸を見て、色めき立った。

「テッドをやりやがったな!」

 一触即発の事態に、人数では劣るフラマンタスらはやるなら容赦なく迎撃するしかなかった。コモドが言った。さもなきゃ、俺達が殺される。

「落ち着いてください!」

 マリアンヌ姫が声を上げる。

「お姉ちゃん!」

 アネーリオ少年が姫の正面に飛び出し盾を構えた。そこには一本の矢がぶつかって落ちたのだった。

 それが合図だったように、老若男女が襲い掛かって来た。

「手を抜かずに始末しろ!」

 マグナスが声色鋭く言った。

「駄目よ、マグナス! 止めて!」

 姫が声を上げるが、先頭を切って敵とぶつかったマグナス隊長は剣を振るい、人々を次々血祭りにあげていた。

「ああ、なんてことを」

 姫が崩れ落ちる。

 もはやマグナスの独壇場だった。精鋭として戦士として戦闘と殺しのプロとして技量が違い過ぎた。阿鼻叫喚の世界となっていた。

「まだやるか!?」

 マグナスが生き残った五人のうち、若い女性の首元に切っ先を向けて鋭い声で尋ねた。

「ひいいっ!」

 女や生き残りは後退する。

「逃げろ!」

 フランツが叫ぶと、意識を取り戻したかのように五人は背を向け川を渡り始めた。

「テメェら、よくも、よくも、仲間をやってくれたな」

 フランツが憎悪の眼差しを向けて言った。そしてフラマンタスのあごに頭突きした。だが、その程度の力でフラマンタスの腕は開かなかった。捕縛されたフランツは涙を流し、声を上げた。

「神よ! 今こそ、俺に力を! この連中を殺せるほどの力を与えたまえ!」

 天を仰ぐフランツだったが、何も起きなかった。

「俺達はただの元罪人の集団だった。刑期を終えて復帰しようとしても、冷たく世間にあしらわれたアウトローだったんだ。ただ、それだけなのに……こんな、こんな……」

 フランツはガックリと地面に膝をついて俯いた。

 夜の静寂だけが周囲を包む。

「ウフフフ」

 突如、女の様な哄笑が聴こえた。

 この声を忘れるわけがない。

「真紅の屍術師!」

 フラマンタスは周囲を見回した。

「あそこだ!」

 ダニエルが指さしたのは小屋の屋根の上だった。

「御可哀想なフランツ。あなたの無念と憎しみが私にはよく分かりますよ」

 その姿は未だに夜が明けないため影として映った。

「貴様、降りて来い!」

 マグナスが怒りの声を上げていた。

「マグナス、多くの人々を殺しましたね。おお、怖い」

 そこへギュネが飛刀を投げつけたが、真紅の屍術師は手で打ち払った。

「この場に私は相応しくないようですね。ですが、フランツ、少し変わった形になりますが、あなたの願いを叶えて御覧にいれましょう。蘇りなさい、トロルのテッド!」

 すると、心臓を貫かれていたトロルの死体が立ち上がった。

「テッド!」

 フランツは狂喜したように叫び、油断したフラマンタスの手からすり抜けた。

「テッド! テッド! お前なんだな!? 良かった、俺と一緒にみんなの仇を」

 フランツは最後まで言い終えることはできなかった。トロルの右腕から生えた触手が彼に巻き付き持ち上げると、口を開いたのだった。

「お姉ちゃん、見ちゃ駄目だ!」

 アネーリオ少年がマリアンヌ姫に飛びついて顔の前に盾を掲げた。少年の予想通り、フランツはテッドに捕食された。フランツの悲鳴はすぐに聴こえなくなった。頭から食われたのだ。後は肉をクチャクチャ噛む音と、骨が砕ける音しか聴こえない。テッドはフランツの着ていた服をベッと吐き出した。

「おやおや、フランツ。大好きなテッドと一緒になれて良かったですね」

 真紅の屍術師は嘲笑った。

「この外道! アンタ、降りて来なさいよ! ここでアンタの喉を掻き切ってやるわ!」

 ギュネが吼えたが、相手は忍び笑うばかり。

 トロルは捕食を終えるとこちらに向かって歩み始めた。

「面白いものが見れて良かったです。さて、あなた方の勝ちは目に見えてますので、私はこの辺りで失礼しますよ。まさか負けたなんてことの無いように」

「待て!」

 フラマンタスが声を上げたが相手は霧のように散り消えてしまった。

 トロルの太い触手が振るわれる。鋭い音を立てて小屋を一薙ぎし、倒壊させた。

 未明の暗さが朝靄に包まれ始め、周囲の様子も見えている。誰も小屋にいなかったのは幸いだった。

「マリアンヌ姫様は下がって! ギュネさん、お願いできますね!?」

 マグナスが声を上げる。

「分かった。行こう、マリア」

 ギュネに手を引かれ、マリアンヌ姫は戦線を離脱したが、顔は俯いていた。

「ブオオオオッ!」

 そして、アンデットと化したトロルの怒り狂った咆哮が響き渡った。

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