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フラマンタスの刃56

 凶暴な声が木霊する。

 それだけで変化して間もないことを意味している。本当にこのまま進んで良いのか?

 フラマンタスらは辿り着いた村でゾンビ化した村人達と交戦していた。

 マグナスがアネーリオ少年を従えて奮戦しているのを見守る。場所は村の広場だ。まるで誘われる様にここへ来た。そして四方は瞬く間にゾンビ達に囲まれた。

 コモドがマリアンヌ姫の助勢をし、ギュネとダニエルが組んでいる。

 フラマンタスは一人、仲間のために生まれ変わった十字剣を振るった。教会戦士の証は、コモドが磨きに磨いた刃のおかげで抜群の切れ味だ。だが、ゾンビ達を見るとどうにも自分を責めてしまう。

「やはり街道を外れて森伝いに行った方が良かったのかもしれない」

 彼の独り言を仲間達は聴いている余裕は無かった。

 マリアンヌ姫の拳が炸裂し昏倒するゾンビにコモドが止めを刺す。アネーリオ少年のシールドバッシュに仰け反るゾンビにマグナスが同じく最後の一撃をくれる。ダニエルとギュネは共に時々戸惑いながら声を上げて敵を切り裂いていた。

 ヒューがいれば、戟で大薙ぎにして多数の首を瞬く間に取っただろう。しかし、彼はいないのだ。自分達で切り抜けるしかない。

 邪悪な咆哮を上げて掴みかかって来るゾンビを避け、すれ違いざまに剣を旋回させる。三つの首が飛んだ。

「きゃっ!?」

「ギュネさん!」

 ダニエルの声が続く。見ればギュネがゾンビに掴まれ肩口に食らいつかれる寸前だった。

 フラマンタスは声を上げそうになったが、ギュネはナイフを取り出し、ゾンビの顔面に突き刺して逃れた。

「大分慣れて来たわね」

 ギュネはよろめくゾンビの喉を短槍で貫いた。

「フラマンタス!」

 マグナスの声が轟いた。

「何ですか!?」

「ゾンビが向こう側に流れている! もしや生存者がいるのかもしれない! 道は私が作る! 行ってくれ!」

「了解!」

 マグナスがアネーリオ少年を下がらせ、悪鬼羅刹の如くコモドも顔負けな熟練した機敏な動きで次々ゾンビの首を刎ねて行く。

「行け!」

「はっ!」

 フラマンタスは既に隊長と認めている男の開いた道を進んだ。

 建物の裏側か!

 ゾンビ達はこちらに気付く様子もなく吸い寄せられるように建物の陰に消えた。

 フラマンタスは駆け、回り込む。

 そうしてゾンビに包囲されつつある一人の見覚えのある影を見付けた。

「あの時の!」

 そう、フラマンタスらに真紅の屍術師の居場所を告げた占い師だった。

 もうゾンビとの距離が無く、女性は抵抗する気配も無く身を固くしている。

 駆けねば!

 フラマンタスは吼えた。

 だが、ゾンビ達は振り返られない。

 と、女性が手近のゾンビを押した。

 押されたゾンビが他のゾンビにぶつかり僅かに間合いが広がる。それで十分だった。

 フラマンタスの魂の一撃がたちまちに六体のゾンビの首を刎ねた。その場はそこで終わった。

「御無事ですか? 噛まれてはいませんか? 噛まれていても治せます」

 フラマンタスは女性の目線に合わせて尋ねた。

 エメラルドのような緑の美しい瞳がフラマンタスの気遣う顔を反射している。

「私は大丈夫です」

 女性は言った。マリアンヌ姫より背は高くギュネよりは小さい。それにしてもこんなぶ厚い服を纏っていて、この高気温の中、汗も流れている気配がない。ミステリアスな女性だ。

 フラマンタスは彼女を避難させようかと思ったが、ゾンビが家屋に潜んでいることも考慮し、自分が守ることにした。

「歩けますか? 少し駆けますよ」

 フラマンタスは女性に手を差し出した。女性はしばし躊躇した様子を見せたが、握り返した。

 冷たい。まるで氷だ。

「生まれつき特異体質なんです。故郷では色々蔑まれました」

 悲観的な言葉だが無表情だった。フラマンタスはよほどひどい目にあったのだろうと感じた。

「それはお辛かったでしょう。ひとまずは私の仲間達と合流した方が安全です」

 フラマンタスは相手を思い、そう言った。

 だが、女性がゾンビが斬られる凄惨な場面に耐性があるかどうか。ならば、ここで終わるのを待つのが賢明なのかもしれない。

 その判断が正しかったようで、マグナスとマリアンヌ姫がこちらへ来た。

「その方は確か」

 二人は駆けて付けて合流し、マリアンヌ姫が言った。

「ええ、我々に奴の居場所を教えてくれた占い師の方です」

 と、フラマンタスはマグナスの顔色が優れないようにも見えた。

「隊長?」

「すまん、少々動きすぎたようだ。大丈夫だ。私はマグナスと申します。このフラマンタスと共に教会戦士団に所属している者です。そしてこちらは」

「姫、マリアンヌね」

 女性が言った。

「え、ええ、占いって凄いですね」

 マリアンヌ姫が驚いたように言った。

「フラマンタス、ここを任せて良いか? 私も他の皆と同じく死体を焼く作業に加わろうと思う」

 俺を信頼しているのか。姫を、見知らぬ女性とまだ完全な制圧の確認ができていない言わば戦場に置き去りにして。隊長らしくない。ましてや隊長はマリアンヌ姫に……。

「了解しました」

 フラマンタスが応じるとマグナスは背を向けて去って行った。

「手を放していただけますか?」

 女性の声がフラマンタスを気付かせる。

「失礼いたしました」

 フラマンタスは謝罪したが女性は何とも応じなかった。ただ前方を見詰めるのみ。

 少し変わった方なのかな。

 フラマンタスはそう考えた。聴き分けて引き返してくれれば良いが。

「暑いでしょうからこちらへ。お名前を教えていただいてもよろしいですか?」

 建物の陰に促しながらマリアンヌ姫が尋ねる。

「イシュタル。私の名前はイシュタル」

 女性はまるで自分自身で確認するかのようにそう言った。

「イシュタルさん。ここから先は危険です。あなたならお見通しなのかもしれませんが」

「私は幻の城に用があるの」

 イシュタルは独り言のように述べた。

「幻の城に? それじゃあ、あなたも真紅の屍術師を追っているのですか?」

 マリアンヌ姫が再び問うとイシュタルは頷きもせずに歩み出した。

「死者へ祈りを捧げなければなりません」

 フラマンタスはマリアンヌ姫と顔を見合わせた。

「そんな顔をしてはいけませんよ」

 彼女が変わり者だと訴えるような視線を送ってしまったらしい、マリアンヌ姫はそう注意した。そして二人はイシュタルの側へと駆けたのであった。

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